チャイナ服
文化祭に行っていたので、前回の投稿はお休みさせてもらいました。
やー、思ってた以上に大変でしたー・・・・・。
「──────────みんなありがとー!」
「「「「「うおぉぉぉーーーっ!」」」」」
歌い終えて決めポーズをすると、一斉に歓声の嵐が吹き荒れる。
アイドルのライブとか行ったこと無いから分からないが、かなりの盛り上がりなんじゃないだろうか。
こりゃ頑張った甲斐があったね・・・・・。
歌いながら踊るのがこんなに大変だとは思ってなかったよー。
たぶん下手に運動するよりもよっぽど体力が持ってかれる。
未だに熱の冷めやらぬ観客に手を振りながらステージ裏に下がると、待っていた女性がタオルと水を手渡してくれた。
「よく頑張ったわね、咲夜!これでイベントは大成功間違いなしよ!」
【試練①が達成されました。カウントが終了次第、試練②が開始されます】
女性が俺の手を取って喜ぶと共に、そんなウィンドウと5:00と表示されたタイマーが現れた。
ふむ、ここはいくつか特殊な試練が続く感じか。
条件を達したならあの"???"の部分も、見られるようになっていてもおかしくないんだけど・・・・・・・まだ見れないっぽいな。
【解放条件: 竞技场に転送】
いや、何語よこれ。
中国語か韓国語かな・・・・・?
当然のごとく俺が読めるはずもなく、しかもここじゃスマホ使えないみたいだから翻訳出来ないときた。
まあ時間までもうすぐなんだし、大人しく転送されるのを待つしかないかぁ。
近くにあった椅子に座って火照った身体を休めていると、はたと今の自分の格好を思い出してしまい嫌な汗が流れてくる。
ちょ・・・・・・っと待って、まさかこのままの格好で放り出されないだろうね?
なんせ今はフリフリのアイドル衣装だから、場所によっては大惨事になりかねない。
って言っても俺にはどうしようもないんだけどさ!
辺りに服は見当たらないし、そもそもこんな所で着替えるわけにもいかないし。
「はぁ、転移まで後30秒か・・・・・・」
あたふたしている間に、無慈悲に時間は進んでいく。
頼む、どうか道のど真ん中に転移だけはやめてくれぇ!
周りからドン引かれるの確定だから!
せめて秋葉原にしてくれ・・・・・・と祈っていると、ついに辺りの景色がポリゴンと化して行き、徐々に全身が光に包まれだす。
バシュッという音とともに弾けた光が拡散し、視界を染め上げるほどの閃光に思わず目を瞑ってしまった。
そして光が収まって顕になったのは──────────。
「「「「「─────────っっ!!!」」」」」
「ひぅっ!?」
突然響き渡った空気を振動させる人々の叫び声に肩をびくりと震わせる。
びっくりしたぁ、マジで鼓膜破れたかと思ったよ・・・・・・・。
まったく、一体何事なんすかね。
差し込む光を慣らしながらゆっくり瞼を開けると、まず目に入ったのは今時分が立っている柵で囲まれた五角形のリンク。
土を固めてその上に艶やかな石を敷き詰めたようや作りだ。
さらに間を10メートル程開けて五段の観客席が設けられていて、そこには人が満員近くまで詰まっている。
所々の赤い提灯とか飾り付けとかは、中国の繁華街をイメージさせるデザインだな。
奥には雷門に似た大きい赤い門があり、よく見えないが向こう側は明かりが灯って何やら盛り上がっているようだった。
【闘技場に転移が完了しました。条件を達成したことによって、次の試練の内容が読めます】
毎度毎度、ご親切にどうもです。
もはや慣れてしまったウィンドウの出現に苦笑いしながら、さっきまで"???"と表示されていた所を見てみる。
【闘技場で五連勝しろ。※戦闘方法は素手のみ】
「なーるほど、それでチャイナ服ってわけね」
そう、なんと今度はチャイナ服を着せられていたのだ。
しかもそうとう際どいのを。
これちょっと足を上げたら、なんの需要もない俺のパンツが大衆に晒されるくない?
【そんなことはないと思われます】
うおぅ、急に出てきたな。
・・・・・・・君って会話出来たの?
【製作者様から擬似的な人格を与えられていますので、ある程度は】
あ、そうっすか・・・・・。
"擬似的な人格"って簡単に言ってるけど、もしそれがプログラムみたいなものじゃないんだったら、その製作者とやらは只者じゃない。
現代のAIがまだ不完全であるように、魔法でも人格の再現は困難を極めるはずだ。
と言うか不可能に近いとすら言われている。
「会話できるなら話が早いね。この服変えてくれないかな、たぶん戦ってる内に見たくないものが見えちゃいそうだからさ」
男のパンチラ見たいやつなんておらんだろうし、普通に恥ずかしいのでチェンジでお願いします!
【・・・・・・・?少なくとも男性の方々はお喜びになると思うのですが・・・・・】
え、嘘でしょ?
男の人達って顔さえ良ければ後はなんでも良いのかよ・・・・・・・。
知りたくなかった新事実(?)に驚愕していると、心做しか不思議がるような雰囲気の文が送られてきた。
【女性の方々もお喜びになるはずですよ?】
いや、そんな風に言われましても・・・・・・。
最近の人達って皆そうなのかな、おじさん話に着いていけない!
「・・・・・・・・・?」
【・・・・・・・・・?】
お互い首を傾げてしまう。
なんか・・・・・話が上手く噛み合っていないような。
【あ、そう言えば咲夜様には申し上げていませんでしたね。製作者様のご要望により、咲夜様の性別は見た目通りになっております】
・・・・・・・・・・・・・・・・無言で胸と下半身に手を触れさせる。
ある・・・・・ない・・・・・ん〜、もしかして俺の気のせいかな。
いつも有るはずのものが無くて、無いはずのものが有るんだが。
【まあ違和感ないから良いじゃないですか。可愛いですよ?】
「やかましいわ!くっそ、製作者め許さん!」
自分が女の子になっていると考えると、よりこの格好が恥ずかしくなってきた。
袖はノンスリーブ、裾は太もものギリギリまでしかなくて際どいし、胸元は三角形に穴が空いて見せたくもないモノが見えてる。
「こういうのはもっと早く教えて欲しかったよ・・・・・・・」
【すいません。アイドルの時はあんなにノリノリだったので、てっきり受け入れていたのかと】
だだだ誰がノリノリだったじゃ!?
俺は試練だから仕方なく歌ってただけで───────。
【対戦相手が現れたようですので、この話は終わりにしましょう。ご健闘を】
あ、逃げられた。
ウィンドウが消えると共に正面に光の柱が立ち上がり、それが霧散するとチャイナ服の一人の少女が立っていた。
うむ、やっぱりチャイナ服着るなら生粋の女の子に限るよね!
眼福眼福ぅ〜。
『それでは両者揃ったようなので、試合を始めさせていただきまぁーす!皆さん心の準備はよろしいですか!?せーの、レディ・・・・ファイトッ!!』
司会と観客の声が合わさって闘いの幕が切って落とされた。
「"空烈拳"!」
少女が突き出した拳から真空の衝撃波が放たれる。
難なくそれを躱して距離を詰めようとするが、そうはさせまいと連続で繰り出される衝撃波が中々前に進ませてくれない。
しかも威力がエグイな。
このフィールドには観客に攻撃が当たらないようにそれなりに強い結界が張られているようだけど、衝撃波が当たる度に軋む音がここまで届いてくる。
地面の抉れ方も凄いしね。
「"天龍焔閃脚"」
「おぅわっ!?」
いつの間にか接近してきた少女の炎を纏わせた蹴り上げが鼻先を掠める。
・・・・・・・これは不可抗力だと思いますありがとうございます!
「ふむ、ピンク色か・・・・。たしかにそのチャイナ服ならその色があぶぅっ!?」
呑気に眺めていたせいで、思いっきりかかと落としをくらって地面にめり込んでしまう。
くっ、なんて巧妙な罠なんだ・・・・・・!
まさか俺がこんな二つの意味で見え見えな罠に引っかかってしまうだなんて。
気を引き締めないとな。
倒れたまま身体を回転させて足を引っかけ、少女を転ばせる。
「はわわっ!?」
なんとか受け身を取る少女だったが、その隙に起き上がって拳を突きつける。
「ま、まいりました」
『第一試合、咲夜選手の勝利でぇ〜す!』
「「「「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
ふぅ、ひとまず勝てたね。
これが何試合あるか分からないけど、このレベルの子が一回戦から出てくるなら決勝戦は凄いのがきそうだ。
【第一試合、凛風に勝利しました。第二試合の相手は蘭玲です】
シュワッと光が弾ける音がして、今度は魅惑のおねーさんがリンクに入ってきた。
ちょ、これ大丈夫なのか法的に。
真面目な試合のはずなのに、あの女性を見ていると何かイケないことをしているような感じがしてしまう。
もっとこう・・・・刺激の少ない服ってないんですかね。
観客の人達も鼻血出してたり直視出来なかったりで大変そうなのですが。
『そっ、それでは第二試合、始めー!』
・・・・・・・司会の人、プロだなぁ。
目を逸らしたいだろうに仕事を放棄せずちゃんとこなしてる。
うーん、俺も楽しみたいけどこれは早く終わらせた方が良いな。
俺も観客も司会も被害がデカすぎる。
◇◆◇◆◇◆
『ついに来ました決・勝・せぇ〜〜ん!今回チャンピオンへの挑戦権を掴んだのは、みんなのアイドル咲夜ちゃん!絶対王者飛龍にどう立ち向かうのかぁ〜!?』
誰がみんなのアイドルじゃこら。
司会の紹介に若干ジト目になるが、正面に光の柱が現れたことで意識を切り替える。
なんでも今から戦う飛龍は、もう七年間王者の座を誰にも譲っていないらしい。
あくまでもそういう設定ってだけなんだけど、準決勝で戦った相手が言うには化け物みたいな強さで、奇妙な遠距離技も使うとのこと。
自分は足元にも及ばないとも言ってたな。
そもそもこの大会では優勝することが誇りではなく、飛龍と戦うこと自体が誉れであるそうだ。
それ程までに圧倒的な強さを誇る相手となると、ただ神気を衝撃波として飛ばすだけの"空烈拳"とかは通用しないだろうね。
「さてさてさーて、一体どんな人なんだろうな〜」
一際輝いていた光の柱が霧散し、観客から最大級の歓声が上がる。
光が晴れたそこには────────────俺と同じくらいの身長の少女がいた。
漆黒のビキニアーマーとマントを羽織った、君はミ〇厶かとツッコミたくなるような少女。
腰まで伸びた白髪と翠色の目は美しく、頭の上には予想通りアホ毛があった。
まあミ〇厶とは違って前に垂れてるけどね。
て言うか飛龍って女の子だったのね、名前からして男だと思ってた。
ほら、世紀末に居てもおかしくないようなゴリマッチョをイメージしてたよー。
「ふふふっ、今回の相手はお前か!全力をもってして精一杯私を楽しませるのだ!」
俺を指さしながら笑う飛龍から膨大な神気が立ちのぼる。
げ、こりゃあ見た目で強さを判断しちゃいけない、ってやつのこれ以上ない見本じゃん・・・・・・。
視認できる神気だけでも凄いのに、内に秘めたものは途方もないくらいに大きい。
「やれやれ、痛いのは嫌なんだけどなぁ」
ため息をつきながら一歩前に踏み込んで俺も神気を解放すると、白と翠の神気がぶつかり合い、リンクと結界に亀裂が入る。
結界で遮られているのに、観客の中には気を失ってしまった者も居るようだ。
『な、なんという強烈な力のぶつかり合い!これは目が離せない闘いになりそうです!それではお二人共、準備はよろしいでしょうか!?』
「バッチしおっけー」
「問題ないのだ!」
『それでは決勝戦、スタァトォーーーッ!!』




