咲夜、ついに人気アイドルに・・・・・!?
【神気を纏った攻撃で敵を十体倒せ】
部屋に入った途端、前後の出入口が閉ざされてこんなテロップが空中に表示される。
その数秒後に正面に十個の光が灯ったかと思うと、それは徐々に形を変えてオオカミ型の魔物となった。
条件の出し方と言い出現の仕方と言い・・・・・ここはゲーム内のダンジョンかて。
「つか神気って何よ、そんなの知らないんだけど!」
バックステップでオオカミたちの攻撃を躱し、追いかけてきた一匹の顎を蹴りあげる。
が、当たる直前に障壁のようなもので防がれてしまい、衝撃で少し動きを鈍らせる程度にしかならなかった。
なるほどね、神気とやらで攻撃しないと全てこうなると。
・・・・・・神気・・・・神気ねぇ・・・・・・。
「まあ分からんけど、たぶんこれでしょ!」
ゴーレムを倒した時と同じように白色の光を纏わせてかかと落としを喰らわせると、今度は障壁が発動することなく、オオカミは頭を地面にめり込ませて動かなくなった。
それと同時に視界の右斜め上辺りにピロンッと十分の一と表示され、オオカミは光の粒子となって空気に溶ける。
ほんとにゲームみたいだな・・・・・。
内心で苦笑しながら残りの九体も倒し、開いた通路をまっすぐ進んでいく。
まさかこんな場所で俺の力の名称を聞くことになるなんてなぁ。
花恋が何か知ってる風な雰囲気だったんだけど、結局渋って教えて貰えなかったんだよね。
神気──────神の気ってことはもしかして俺って・・・・・・・・いやまあ、そんなわけ無いか!
変なこと考えてないでここの攻略に集中しなきゃ。
「むぅ、この道は一直線っぽいな。突き当たりの部屋に入るしかないか」
さっきの部屋に着くまでに何回か別れ道があったのに、過ぎてからはずっとまっすぐの道となると、思わず何かあるのではないかと疑ってしまう。
いきなりボス戦とかになりませんよーに!
この部屋にはドアがなかったため、入口の端っこからそろ〜っと顔だけ覗かせてみる。
すると予想外なことに部屋には誰もおらず、向こう側の壁にパネルと文字が貼り付けてあるだけだった。
魔物は居ない・・・・・いや
さっきみたいに急にポップする可能性がある。
警戒しながら中に入ると、中央に着いた途端案の定入口が緑の光で封鎖された。
はぁ、やっぱりそういう展開ですかー。
【問題を解いて答えを魔法石に入力しろ】
「え?あれ、戦闘じゃないの?」
目の前に表示されたウィンドウに思わず聞き返してしまう。
なんだ、それなら良かったぁ〜。
抜こうとしていた黒剣を鞘に戻し、反対側の出入口の横に描かれている図形を見に行く。
えーっとなになに・・・・・?
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【左の図形が何を表しているか答えろ】
※回答は図の横にある四角の枠に神気で書き込むこと。
失敗した場合はペナルティがあります。
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◢◣ 〇〇〇〇 ◢◣
◢◣ 〇〇〇〇 ◢◣
◢◣■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■
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あ、これ知ってるわ。
なんか前にテレビでなぞなぞ大会やってて、それの中で出題されていた気がする。
一見何が何だかよく分からない図形だけど、問題文をちゃんと読めば答えがわかるはずだ。
ヒントは、上にあるまんまで壁に描かれていること。
・・・・・・・・・・・そんじゃ、答え合わせとしましょうかー。
神気を指に灯して枠の中に俺が思う答えを書き記すと、ピンポーンと赤い丸が付けられ、隣の出入口が開放された。
見た限り、どうやら次の部屋に直接繋がっているらしい。
既に敵は出現していて、部屋の奥に堂々と鎮座しているのからすると、ヤツは一体目のボスの可能性が高いだろう。
魔力もさっきまでの魔物とは比較にならないくらいデカいね。
一度部屋に入れば倒すまで出られないと思うので、先にしっかりと準備してから挑むとしようじゃないか。
・・・・・・・・にしても、この神殿の製作者って結構お茶目なのかな・・・・・・。
準備の隙にふとそんなことが頭に浮かんだ。
魔物と戦うのは分かるんだけど、さっきの問題とか何のためにあったのか、よく分かんないんだよな。
せめて正解が神気に関係ある事だったらまだ良いんだけど、あの図形自体には何の意味もない。
【左の図形が何を表しているか答えろ】という問題と矛盾しているように感じるが、実はそうでも無いのだ。
正解は"左に図形なんて無い"。
言われてみればその通りなのだが・・・・・・。
「まあ、製作者の遊び心って事にしとくか」
若干製作者の童心が垣間見えた気がした。
またああいうのが紛れ込んでるかもしれないから要注意だね、地味にペナルティが痛いタイプのやつっぽいから。
っと、準備も完了した事だし早速挑戦してみますか!
準備と称して神気を練っていた俺は部屋に入った途端にそれを纏わせ、水色と金色の軌跡を描いた黒剣が吸い込まれるようにミノタウロスの肩にくい込み、そのまま腕を断ち斬る。
ふむ、試しに神気と水属性の魔力を合わせて使ってみたけど、それでも効果があるようだ。
上乗せした魔力の分もちゃんと威力が上がっているし、これは実戦でも使えそうだな。
もうちょっと魔力を多く込めたらどうなるのかな?
使う総量を大きくしつつ、神気七、魔力三にしていたのを神気六、魔力四にしてみる。
「うおぅ、水のエフェクトみたいなのが出るのか。これは【魔法剣】のスキルと同じ見た目だね」
神気を上乗せした分、【魔法剣】の上位互換みたいな感じになったってことかな?
試したいことも終わったのでサクッとミノタウロスを倒し、奥に現れた緩い螺旋状の階段を上がって次の階層へと進んでいく。
最初に入った部屋でいきなりゴブリンの群れに襲われたが、とりあえず蹴散らしといた。
中々良い作戦だったけど、相手が悪かったね・・・・・・・あれ、何かドロップしてる。
ゴブリンが消滅した跡に謎のボロい宝箱が。
・・・・・・・・ミミックだったりしないだろうな。
つんつんと突いてからそっと開けると、中には丸められた羊皮紙が一つ入っていた。
「ふむふむふーむ?・・・・・"この神殿は全六階層あり、最奥に居るラスボスを倒せばクリアです。また様々な試練(上位階層へ行くほど難易度が上昇)が用意されており、失敗するとペナルティが課せられるので、死ぬ気で頑張ってください。さあ、あなたの神気を駆使してまだ見ぬ冒険へ出かけよう!"」
いや雑なゲームの説明書か。
頭の中でそうツッコミつつ不意打ちの攻撃を躱す。
上に行けば行くほど敵が強くなって試練も難しくなる、か。
たしかにさっきから、これを読みながら戦ってる魔物たちは一層のより格段に強いな。
どうやら試練は終わっていなかったようで、オークやらゴブリンロードやらが次々と襲ってくる。
【敵を殲滅しろ】
右横にテロップが表示された。
なるほど、分かりやすくて良いね!
「【神紅】!」
神気で生成された炎が部屋全体を燃やし尽くし敵を一網打尽にした。
新しくポップしてくるのは・・・・・・いないか。
テロップが消えて扉が開かれる。
よし、探索開始だー!
意気揚々と部屋を出て魔物を倒しながらあちらこちら歩き回り、やがて試練を八個クリアした頃。
いかにもボス部屋っぽい所にたどり着いた。
重々しい扉に手が触れると、一人でにギギギッと音を立てながら開いていく。
中は真っ暗だ。
「っ!?」
しかし一歩足を踏み入れた途端、あたりの景色がポリゴンと化して部屋が改変され、気づいた時には全く別の場所になっていた。
えっ、ちょ、ここどこ!?
「いい、咲夜。あなたなら行けるわ、自分を信じてね!」
「ふぇっ!?いや誰・・・・・!?」
これまたいつの間にか目の前にいたスーツ姿の女性が俺の肩に手を置いて励ましてくれている。
これどういう状況?
混乱しながら辺りを見回すとちょうど後ろ側に幕があり、その隙間から熱狂する人々の声援と煌びやかなステージが覗いていた。
嫌な予感がして自分を見ると、全体的にふりふりしたデザインの衣装を着ている・・・・・・・。
改めて聞くけど、これどういう状況?
えぇそうですね、明らかにアイドルのライブですね!
「あの、実は人違いでして・・・・・・」
「何言ってるの、もう咲夜の出番よ。全部出し切って楽しんできなさい!」
司会らしき人が何かを叫ぶと、観客の声援が最高潮まで高まる。
おおいちょっと待ってくれ、いきなりすぎて展開についていけない!
あっ、すいません背中押さないでもらえます!?
「続いては皆さんお待ちかね!咲夜さんの登場でぇ〜す!!」
「「「「「「うぉぉぉーーーーっ!!!」」」」」」
ひぅっ、何よこの異様な盛り上がり方は!?
熱烈な声援に気圧されながらステージの中央に行くと、目の前にピロンッとテロップが表示される。
【ステージを最高に盛り上げろ+???】
???って何やねん。
二つ同時とは、今までにない形式の試練だね。
とりあえず"ステージを最高に盛り上げ"れば、もう一つの試練が何か分かるのかな。
って言っても、最近のアイドルの歌なんて分かんないよ?
全く知らない曲だったら即効終わりなんだが。
どうか知ってる曲でありますように、と願い果たして流れてきた曲は──────────。
「俺の推しの歌い手さんの曲じゃんか!?」
イントロ聞いてビックリよもう。
たしかに衣装も何か見たことあるなーって思ってたけどさ・・・・・・・。
ほら、なんて言えば分かるかな、"大統領になったら浮気男を捕まえる"歌・・・・・。
これで伝わる人おる?
まあ伝わるか伝わらないかは置いておいて、この歌なら行けるぞ。
人前で歌うのは恥ずかしいけどやってやるぅ!
セットされていたマイクを手に取ると、ウィンドウが現れた。
【一定量の神気を流し込まないと機能しません。また神気が乱れると音響も乱れるのでご注意ください】
なんて高難易度な事を要求してくるんだこのマイクは。
歌いながら常に一定の神気を保てだって?
たしかに良い特訓にはなるだろうけど・・・・・・・・ええぃ、くよくよしてたってしょうがない、最後までやり遂げてみせようじゃないか!
お知らせ。
・少し前に投稿した"VSリリス 咲夜編(3)"なのですが、投稿当時に不具合を起こしていたようで、ルビが本文に割り込んだ、「異世界いせかい」のようになってしまっていたため、それを修正しました。
読みにくいままにして申し訳ありません!m(_ _)m
私も今日の朝に気づいてめちゃくちゃ萎えてました(笑)
咲夜編(2)は今修正中です




