いざ神殿へ!
「ふぅ、ここら辺かな」
あれから花恋と皐月に声をかけ、三人で砂浜からそれなりに離れた場所まで泳いできた。
たぶんここら辺の下に、例の神殿みたいな建物があると思うんだけど・・・・・・・。
「あったあった。にしても、近くで見るとすごいなこりゃあ」
大きさもそうだが何よりもこの異質な雰囲気。
さっきまで気がつけなかった自分が信じられないほどの存在感を放っている。
隠しダンジョン出現、ってか?
「あれ、なんかあの神殿見覚えがあるような・・・・・。なんだっけ」
水面に顔をつけて神殿を覗いた花恋が、何かを思い出そうと首をかしげながら唸っている。
花恋が見覚えがあるってことは、また異世界の事情が絡んでるってこと?
せっかくの夏休みに勘弁してよ・・・・・・。
「あの、ちょっと良いですか?」
「はい皐月。どうしたの?」
「お二人が話している神殿なのですが、皐月だけそれが見えないんです!」
「・・・・・・・・・・・マジで?」
「マジです」
クラスのみんなは当然のこと、魔力の存在を知っている美海も感知できず、さらには皐月でさえ視認できないときた。
今ここであの神殿を見れているのは俺と花恋だけってことか。
朱華は気配を感じるだけって言ってたしね。
これじゃあますます、何で朱華が最初に気配を感じ取ることが出来たのか不思議になってしまう。
もしかしたら朱華には探知系の魔法に強い適性があるのかも・・・・・・。
「こうなったら、私と咲夜で潜るしかないね。皐月は万が一のためにみんなの近くにいてくれる?」
「お役に立てず、すみません・・・・・」
「そんなにしょんぼりしないの。みんなを守るのだって十分大切な役目なんだからさ。皐月がいるおかげで、俺たちは心置き無く戦える。あとは頼んだよ?」
「はいっ・・・・了解しました!お二人共お気をつけて!」
笑いかけながら頭を撫でてあげると、即効元気を取り戻してくれたようで、にへりと笑みを浮かべてみんなの方へ戻っていった。
さてさてさーて、そんじゃこっちも始めますか。
とりあえず俺が下見にと、めいいっぱい息を吸って潜る。
このくらいの深さならギリギリ入口まで行けるはず・・・・・・・・・・・・ごめん、やっぱ無理だわ!
だんだん苦しくなってきたので、一旦海面に上がる。
「ぷはっ、はぁ・・・・はぁ・・・・なんだこれ、潜っても潜っても全然距離が縮まらないぞ・・・・・・」
「見た目以上の距離感・・・・・。たぶん魔法で空間を収縮させて、ここだけ本来ではありえないほど深い海域にしてるんじゃないかな」
「なるほど、普通に行くのは不可能と。こういう時に便利な魔法って何かある?」
例えば海の中でも息ができる魔法とか。
どれだけ長くても、体力の持つ限り泳ぎ続ければいつかたどり着くはずだし、呼吸さえ出来ればどうとでもなる。
「ん〜、あったようななかったような・・・・・。ごめん、かなりマイナーな魔法だから覚えてなかったみたい」
「ありゃ残念。となると他の方法を試すしかないね」
「魔力で身体の周りを膜みたいに覆って空気を閉じ込めれば、時間制限は有るけど魔法と同じ効果を発揮できるはずだよー」
精密な魔力操作が必要だけどね、とつけ足すと、実際に自身の身体に魔力を纏わせてお手本を見せてくれる。
えーっと、こんな感じかな・・・・・・・むぅ、意外と難しい。
少し苦戦したものの数回やるうちにだんだん慣れてきて、なんとか潜っても大丈夫なレベルまで精度を上げることが出来た。
そんじゃあ今度こそレッツゴー!
同時に潜ると、本気の泳ぎでどんどん海面から離れていく。
今度は息ができるから気兼ねなく人外の速さを出して泳げるね。
・・・・・・・・・・それにしても、まだ続くの?
見かければ思わずマグロかとツッコミたくなるような速度で結構泳いできたが、未だに神殿に着く気配すらしない。
一体どんだけの距離を収縮したんだか。
まあでも、さすがにもうすぐ着くでしょ・・・・・・と言うか着いてくださいお願いします、脚が持ちません!
〜五分後〜
まあまあ、さすがにまだね。
もう少しかな・・・・・・・。
〜十分後〜
・・・・・・・・・・まあまあまあ、こういう事もあるよね!
忍耐力が大事よ。
〜二十分後〜
いや長いわ!
どんだけ続くんだよこれ、もしかして無限とか言わないだろうね。
そろそろ着いてもらわないと俺の脚がお亡くなりになっちゃうよ!?
ってやったぁ、やっと距離が縮まってきた。
とうとう収縮された範囲を抜け出せたようで、見る見るうちに神殿の入口に到着した。
巨大な門で閉じられたそこには、謎の言語で何かが書かれている。
「どれどれ・・・・・・・・うむ、当たり前のように読めないわ。少なくともこの世界の言語じゃないだろこれ」
英語などの有名な言語から楔形文字などの古代のものとも照らし合わせてみたが、俺が知っている中で一致するものはなかった。
まあ地球には八千種類以上の言語があるって言うしね。
どこかの部族の言葉か、単純に俺が知らない言語だったりする可能性もある・・・・・・・・・が、これはそうじゃなくて、異世界の言語なんじゃないかと俺は思う。
何でって、直感ですよ直感。
パッと見た時に何となく以前自分が使っていたような気がしたのと、同時にフラッシュバックした断片的な記憶。
例の夢に出てきた草原で、少女と一緒にこの言語で書かれている絵本を読んでいた─────────。
「うん、咲夜の言う通りこれは異世界の言語だよー。それもかなり限られた場所でしか使われてないものだね」
「やっぱりか。でも何でそんなのがここに彫られてるんだろう」
「たぶんこれが門を開く暗号になるんだと思う。この神殿の製作者は随分と意地悪だね、こんなの解ける人はほぼ居ないのに・・・・・・うぅん、案外それが目的なのかも」
「ふるいをかけてるってこと?」
「そう。本来ならこれが読める人は地上に存在しない。それなのにここに書かれてるっていうのは、彼女の同類じゃないとこの試練を受ける資格はないってことだろうねー」
「うわぁ、いかにもって思ってたけど、やっぱりそういう所だったんだ」
こういう所に突如出現した建物とか、絶対試練やらなんやらがあるのが定番だもんね!
距離の収縮という、あれほどの妨害を設置していたのだから、よほど高難易度なんじゃないだろうか。
「咲夜が最近練習してた力の特訓になるはずだよー」
「え、待って、あれ使うの?まだ実践で使えるレベルじゃ────────」
「じゃ頑張ろうねー!『■■■■■■■■、■■■、■■■■!』」
止めようとしたが一足遅く、高らかに唱えられた呪文によって門が光り輝き、徐々にその光に飲み込まれていくのだった。
◇◆◇◆◇◆
「まぶしっ!?」
やっと光が収まって目を開けようとすると、急に辺りに明かりがついてたまた眩しくなる。
それに慣らしてから恐る恐る目を開くと、そこは石でできた簡素な部屋の真ん中だった。
「あれ、花恋が居ない・・・・・」
さっきまで隣にいたはずの花恋が忽然と消えている。
花恋が俺を置いていくってのは考え難いし、別の場所に転送されたのかな。
どこにいるのか分からないけど、とりあえず一番奥まで行けば合流できるだろう。
「・・・・・・この部屋から出た瞬間に襲われるとかありませんよーに・・・・・!」
足音を殺しながらこの部屋唯一の通路に行き、顔を覗かせてキョロキョロ辺りを見たが、今のところ敵は居ないようだ。
よし、今のうち!
左の通路を選び注意しながら歩いていく。
しっかしどこ行けば良いのかね〜、かなり複雑な構造してたら確実に迷子になるよ?
「さっきから生物の気配が全くしない・・・・・。まさかもぬけの殻とか言わないよあだっ!?」
角を曲がった瞬間、何かにぶつかって尻もちを着いてしまう。
いったぁ、鼻打った!
ったく、何で曲がった先に壁があるのさ、これもトラップの一種なの!?
『ゴオオォォ・・・・・』
「え?ま、まさか・・・・・!」
ほおを引き攣らせながら顔を上げると、黄色の光のような無機質な目が俺を見下ろしていた。
ご、ゴーレム!?
急いでその場から飛び退くと、次の瞬間さっきまでいた場所に岩の鉄拳が振り下ろされる。
「一撃で床にクレーターできてんじゃん・・・・・・。当たったらやばそうだな」
ゴーレムなら斬撃より打撃の方が効くよね。
素早く懐に飛び込んで放った拳がゴーレムの肩を抉り、落下中の回し蹴りで突き当たりの壁まで蹴り飛ばす。
「げ、再生するのか・・・・」
のっそりと立ち上がったゴーレムの腕がすぐさま再生してしまった。
魔力の続く限り無限に再生するっぽい。
「なら核を破壊する作戦に変えよう」
ゴーレムの核は人間で言う心臓の位置のはずだ。
ちょうど通路の幅を埋め尽くす大きさの火球を放って視界を遮りり、魔法を耐えたゴーレムの心臓を腕で貫く。
「ふぅ、いっちょ上が──────────くっ!?」
止まるはずのゴーレムの動きが止まらず、至近距離で殴り飛ばされてしまった。
いててっ、魔力でガードしてなかったら腕の骨粉砕されてたな・・・・・・っと。
振り下ろされる拳を回避して股下をくぐり抜け距離をとる。
「まさか核のないゴーレムが存在するなんてね」
オマケに壊しても再生するときた。
・・・・・・・・・・・倒すの不可能じゃね?
会ったらすぐ逃げなきゃダメなやつなのか、はたまた何か条件があるのか・・・・・・・って、そう言えば花恋言ってたな。
"あの力の特訓になるはずだよー"って。
完全にパニクって忘れてたわ、お恥ずかしい。
【ストレージ】から黒剣を取り出し、例の神秘的な光を纏わせる。
花恋と共に練習していたおかげで、少しづつではあるが扱えるようになってきたのだ。
強さはまだリリス戦より下だし、拙さも残ってるけどね。
「ふっ!」
踏み込んで一閃すると、いとも簡単にゴーレムは真っ二つになった。
そろりと近寄ってつんつんしてみたが再生する気配もない。
どうやらこの神殿の中では、こうやって敵を倒さないといけないようだ。




