バレーと猫化
「みなさんみなさん、一緒にビーチバレーやりましょうよ!」
颯馬たちと再び合流して浅瀬で遊んでいると、パシャパシャと水音を立てながら、ビーチボールを持った皐月と花恋がやってきた。
お、いいねバレー。
ずっと水に浸かってると疲れちゃうから、次は浜辺で遊ぼうか。
たしか江ノ水(江ノ島水族館)側にビーチバレー用のネットが張られていて、許可を取ればそこを借りれるはずだ。
濡れた身体を拭いてから行くと、ちょうど前の人たちが抜け次の予約もなかったので、そのまま使わせてもらえることになった。
広さ的に三人より二人の方が良さそうだったので、早速二人ペアに別れてグッとっパーの末トーナメント形式に割り振る。
よし、二対二のガチンコ勝負の幕開けじゃぁ!
初戦、咲夜&楓ペアVS颯馬&皐月ペア
「よっこいせー」
身体を慣らすために少しの間練習してから、俺の緩いサーブで試合がスタート。
普段はやらない動きに苦戦しながらも、今のところは何とかボールを繋げることが出来ている。
まあ最初の試合だしね、のんびり和やかに行こうじゃないの。
「さて、身体も温まってきたしぼちぼち本気を出していこうか」
「がってんです!」
・・・・・・・・・二人の目がガチなんですが。
あの、何で段々ボール打つの速くしてるの?
もっと緩く行こうよ、緩く。
しかし、皐月と颯馬の繰り出すボールはいっそう速くなるばかりである。
「くそぅ、二人とも聞く耳すら持ってないよ!」
「レシーブ役は任せるね咲夜。私は打つのに専念するから」
「えっ、ちょ、待たれい!さりげなく逃げようとしないの!」
「私じゃそれ受け止めきれないからね!?か弱い女の子じゃなくて、こう言うのは男子が身体張ってやるもんでしょ!」
「自分で自分のことか弱いとか言う・・・・・・?てかこのバカみたいに強いボールを一人で受け続けろと!?」
たしかにこんなボールを女の子に取らせる訳には行かないけども!
下手するとこのまま右腕が持ってかれるぞ、物理的に。
勢いを増すシュートに腰が引けてしまうが、俺が取らないと負けてしまうので取らざるを得なくなり、腕にどんどんダメージが蓄積していく。
「いったぁ!?ちょっと早く決めてぇ、俺の腕がもたん!」
「い、いや結構頑張ってるんだよ?でも皐月が俊敏すぎるんだって・・・・・!」
決して楓が弱い訳では無いのだが、キツいコースに打っても必ずと言って良いほど皐月にレシーブされてしまっている。
「咲夜、へばってきたんじゃないか!?もっと動かないと俺のボールは取れないぞ?」
「無茶ゆーなよ!こちとら泳いだ時の疲れが取れてないん、っとあぶなっ!?」
フェイントをかけて前に落とされたボールを、ギリギリのところで滑り込んで真上に蹴り上げる。
ふっ、ボールを蹴っちゃダメなんてルールないもんね!
でもとりあえず防いだは良いけど、無理にやったせいで高く上がりすぎてしまった。
これ行けるか・・・・・!?
ちょうどこの角度だと太陽と重なって見にくい。
「咲夜そのまま踏ん張って!」
「いや待ってそれは─────────だあぁもうしょうがないなぁ!」
楓ってば何気に負けず嫌いだからな。
さっき泳ぎで負けたから、こっちでは勝ちたいんだろうね。
素早く姿勢を立て直して肩膝立ちになり、立てた右脚と肩が微動だにしないくらい力を込める。
楓は軽やかなステップで膝に片足を着地させると、体重を感じさせない動きで肩を踏み台にして大きく飛び上がった。
落下するボールとドンピシャの位置に手を届かせ、思いっきり打ったボールは見事にコートの端に入り初めての得点となる。
「着地っ!」
綺麗に着地した楓がドヤ顔のピースを送ってくる。
ったく、無茶すんなぁ。
俺だったから良いものの普通の人だったら肩を痛めちゃうだろうし、ジャンプする楓の方もそこそこ危なそうだった。
良い子は真似しちゃダメだよ!
え、ルール違反じゃないかって?知らん知らん。
ともかく点を先に取れたのはひじょーにデカい。
このまま時間切れまで逃げるか、あと二点取れば(三点先取のゲームだから)俺と楓の勝ちだ。
「この勢いで行くよ!」
「へいへい。まあどうせなら勝ちたいし、ちょっくら頑張りますか〜」
◇◆◇◆◇◆
「・・・・・・咲夜、海が綺麗だね」
「・・・・・・だな」
あの時から約十五分後、俺と楓は死んだ目で現実逃避をしながら打ちひしがれていた。
どうなったのって、圧倒的敗北ですが?
「皐月と颯馬には勝てたのにね・・・・・」
「あれはしょうがないって。勝てる人そうそう居ないよ・・・・・・」
そう、皐月&颯馬ペアには勝てたのだ。
あの後一点取られてしまったが、俺たちもちゃんと一点取り返して二対一で勝利した。
この調子で行けば花恋&朱華ペアにも勝てるのではないか、と淡い期待も持っていたのだけれど・・・・・・問題はここから。
開始早々点を取られてしまい、そこからは二人の攻撃を防ぐのに必死で俺たちから攻めることが出来ず、なんやかんやあって三体ゼロのコールド負け。
さすがは手でのボールの扱いに慣れてるバスケ部の朱華と、動体視力、共に運動神経抜群な花恋だよ。
「むふ、私たちに勝とうなんて百年早かったね、お兄ちゃん!」
満面の笑みで俺のほおをぷにぷに突っついてくる。
くそぅ、負けた手前何も言い返せない。
「いいもん、絶対にリベンジしてやるもん・・・・・!」
「私も諦めないよ!咲夜、頑張ろうね!」
颯馬に泣きついていた楓も拳を掲げてそう宣言した。
夏休みはまだまだ長いからね、特訓して下克上じゃあ!
───────────それから何ゲームか緩く遊んでいると借りられる時間が終わってしまい、次の人と入れ替わりに元いた砂浜に戻ってきた。
楓と颯馬、朱華はまだ元気が有り余っているようで海の方へ、花恋は桃花を手伝いにバーベキューコンロの方へ行った。
俺はというと泳ぎとバレーで疲れてしまったので、休憩がてら荷物番をしてくれている美海のところに来ている。
テントの前に敷かれたシートの上にはパラソルが差されていて、休憩するにはちょうど良い日陰となっていた。
そこで美海はみんなの荷物が取られないように見守っていてくれているのだ。
「せっかく海に来たんだから、美海もみんなと遊べば良いのに。荷物番なら俺が代わるからさ」
「ううん、大丈夫だよー。一応この中で一番年上だからね、保護者的なことはしないといけないの。それに咲夜君の水着姿は十分に堪能できたし、午後は花恋たちが代わる代わるやってくれるって言うから、そしたら一緒に遊ぼうねー!」
「ちょ、美海ってば恥ずかしいって・・・・・!」
思いっきりギューッと抱きしめながら頭を撫でられ、俺の羞恥心はオーバーヒートしてしまう。
まったく、俺は子供じゃないんだよ?
そんなことされても嬉しくな・・・・・・むぅ、何でそんなにニコニコしながら撫でてくるのかな?
「やばいよぉ、可愛すぎて尊死しそうぅ・・・・・!」
「・・・・・・男として喜んで良いかとっても迷うよ・・・・・・・」
ぷんすか怒っても美海を喜ばせるだけだったので、さすがに周りの目が気になりはじめたこともあり、ささっと放してもらった。
「うぅ、咲夜君のいけずぅ〜」
「時と場合を考えてね・・・・・?」
ところ構わずあんなことされると、俺の理性君と羞恥心が持ちません。
「でも咲夜君は荷物番をしている私に、何かご褒美をあげるべきだと思うよー!」
「えー、嫌な予感しかしないけど一応聞いておこうか。何をして欲しいの?」
「ん」
「え?いや何を・・・・・まさか、そこに寝ろって?」
美海がポンポンと軽く叩いていたのは、女の子座りした自分の太もも。
これはあれですか、膝枕というやつですか。
男なら誰しもが憧れるシチュエーションに抗えるはずもなく、速やかにお邪魔することにした。
美海に促されて海の方を向きながらゆっくりと頭を乗せると、フニッとした柔らかい感触が返ってくる。
ふおぉっ、なにこれやばい!
どんな極上の枕よりも安眠効果が期待できそうな、かつてないほどの柔らかさと心地良さ。
さっきも思ったけど、美海ってすごい良い匂いする・・・・・。
「よしよ〜し。咲夜君は今日も可愛いねぇ〜」
優しく頭や喉元を撫でられ、あまりの気持ちよさ故にゴロゴロ鳴きながら甘えるようにほおずりする。
「かわっ、可愛いぃ・・・・!やだもうおねーさんを殺す気かな!?写真撮って永久保存ものだよぉ!」
そっとスマホを取りだし、喉を撫でられて気持ちよさそうにしている俺をパシャパシャ写真に収めていく。
そんなことも気にせず膝枕を堪能していると、ふと近くを通りかかった三十路すぎくらいの夫婦さんが微笑ましそうな眼差しで。
「あらあら、随分と可愛い子ねぇ。あの子の彼氏さんかしら」
「今どきの子はすごいなぁ。どれ、俺も昔を思い出して膝枕してもらおうかな」
「うふふ、あなたったら・・・・・」
仲の良い夫婦さんだなぁ・・・・・・。
思考能力が低下しているのか、夫婦さんたちが言っていたことを理解するまでに数秒かかった。
それにしても気持ちいい・・・・・・・・・・っていや何やってんの俺!?
はっと我に返った。
どうやらあまりの気持ちよさにトリップしていたらしい。
頭とか喉元を撫でられて甘えるとか、俺は猫か!
「写真バッチリ取れたよ!ホーム画面にしていいよね!?ね!?」
興奮した様子で撮った写真を見せてくる美海。
もうやめて、咲夜のライフはとっくにゼロよ!
どこかに埋まりたい・・・・・・。
改めて好きな人に膝枕されていると考えると、ほおが熱くなるのを感じる。
・・・・・・・・・・・・・もうこうなったら、思う存分膝枕を堪能してやるぅ!
美海に写真を撮られてしまった以上、俺にはどうしようもない。
ならせめて膝枕だけでも・・・・・!
それから俺が満足するまで、美海に膝枕してもらうのであった。
ライフはとっくにゼロよ!
・遊戯王より




