罰ゲームとご褒美
「こら颯馬、運動部が大人気ないぞ!?」
「そうは言っても、勝負は勝負だからな!」
口よりも手と足を動かせ、と言い残してどんどん遠くへ泳いで行ってしまう。
くそぅ、このままだと俺が罰ゲームになっちゃうよぉ。
現在俺と颯馬は泳ぎ対決をしていて、勝った人にはご褒美が、負けた人には罰ゲームが待っているのだ。
負けられない戦いがここにある・・・・・と言いたいところだが、もう決着が着いてしまいそうなのだけれども。
「はい颯馬ゴール!」
「よっしゃ、俺の勝ち!」
この勝負は予想通り颯馬が勝った。
それはもう圧倒的な差を付けてね。
こんな貧弱な俺が相手なんだから、もう少し手加減してくれても良くない?
「ぜー・・・ぜー・・・・やば、こりゃ明日は筋肉痛だわ」
肩で息をしながらなんとか砂浜に戻り、テントのそばに敷いておいたシートの上に倒れ込む。
一回泳いだだけなのに、もう足がガックガクよ・・・・・・。
「それじゃあまずは、罰ゲームタァーイ厶!」
テンション高く腕を振り上げた楓が、俺を指さしてニヤリと悪い笑みを浮かべる。
あらあら楓さんや、この上なく嬉しそうじゃないですか。
そんなに俺に罰ゲームやらせたいのかな?かな?
「咲夜が受ける罰ゲームはなんと・・・・・・"文化祭で絶対にウエイトレスをやる"、です!」
「・・・・・・・・・はい?」
何の脈絡もない罰ゲームに思わずキョトンとしてしまう。
えっと、こんどやる文化祭でウエイトレス、つまり接客係が確定ってことだよね・・・・・。
まあたしかに受付とかの接客系は率先してやろうとする人が少ないから、人を確保しておこうとするのは分かるけどさ。
あのテンションだったから、てっきりもっとやばい罰ゲームが来ると思ってた。
て言うかそもそも何をやるかすら決まってないんだから、まずそれを決めないとどうしようもないのだが。
「あ、このまま行けばたぶんメイド喫茶になるよ。咲夜は美少女メイドとして頑張ってね〜」
「・・・・・・・ちなみにお断りすることは ───────」
「拒否権はありませ〜ん!」
なんてこったい、緩いかと思いきや十分酷い罰ゲームでしたっと。
ルールに賛成した手前、罰ゲームを無かったことにするなんて出来ないが・・・・・・しかしだからと言ってこのまま受け入れるのは無理な話だ。
だって文化祭でメイド服着て接客とか黒歴史確定じゃん!
あははぁ、まさか桃花が言っていたことが本当に現実になるなんてねぇ。
「みんなに笑われる未来しか見えない」
「いやむしろ逆に、咲夜がメイド服着たらみんな歓喜するよ?」
「いくらそんな風に言われようとも、俺に女装癖はないからね?」
今後の学校生活に大きく影響を与える事のため必死に抵抗してみるが、楓はもうこれは決定!と、取り付く島もないご様子。
「さて、駄々こねてる咲夜は無視して次の勝負行こう!朱華ちゃん、負けないよ?」
「臨むところ!」
気合十分な朱華が髪をポニーテールに束ねて、楓と共に準備体操している横で、颯馬は先にゴール地点に泳いで行き、目印としてプカプカ浮かびながら二人のスタートを待っている。
はあ、いつまでもカッコ悪くごねてないで、男らしく覚悟を決めるか・・・・・・・。
それにまだ、メイド喫茶と決まったわけではないもんね!
全然執事喫茶その他諸々になる可能性だってあるんだし、諦めるのは早急のはずだ。
そんなことを考えながら、スタート地点にたった二人の横で手を振り上げる。
「よ〜〜いっ・・・・・・・スタート!」
◇◆◇◆◇◆
「ちょ、朱華ちゃん速すぎ・・・・・・!」
「ふっふ〜ん!やったよお兄ちゃん、勝ったぁ!」
鼻歌交じりに帰ってきた朱華が心底嬉しそうに勝利のVサインを掲げる。
さすがは現役バスケ部、見事に俺の仇を取ってくれた!
「これで楓は罰ゲームだね!ふふふ、メイド喫茶の恨み、晴らさでおくべきか」
「お、お手柔らかにね・・・・・・?」
まあ俺も鬼畜じゃないから、そんなに酷いことはしないって。
無難に腕立て二十回とかで良いんじゃないの?
「あれ、案外普通の罰ゲームなんだね」
「パッと思いついたのがこれだったからって言うのもあるけど、朱華がご褒美はよ、って圧放ってたからさ」
「なるほど、ラブラブで羨ましいねぇ。じゃあ俺も楓からご褒美貰ってこよ〜っと」
端っこでのコソコソ話を終わらせると、机に置いておいたペットボトルを持って罰ゲーム中の楓の元に戻っていく。
そんじゃ俺も、っと。
袖を引っ張る上機嫌な朱華に連れてこられたのは、テントの裏に敷かれた人一人分のシートの前だった。
「それで朱華はどんなご褒美にするの?」
「ん〜とね・・・・・お兄ちゃんにこれ塗ってもらおうかな!」
そう言って朱華が取り出したのは、最近家電量販店で買った市販の日焼け止め。
・・・・・・・・え、俺にそれを塗れと?
「そ。ご褒美なんだから、私が満足するようにしっかり塗ってね?」
そういうや否やシートの上に寝っ転がると、なんの躊躇いもなくビキニの紐をほどいてしまうしまう。
ぬぅ、これは俺がやるまで意地でも動かない気だな。
恥ずかしいけどやるしかないか。
このままの状態でいる方がよっぽど恥ずかしいだろうしね。
「よ、よし、いくぞ〜」
朱華には申し訳ないが、サラッと終わらせてしまおう。
手を受け皿に日焼け止めを溜め、朱華の白い背筋にそっと垂らす。
「ひゃうっ・・・・!?」
途端にビクンッと朱華の身体が震え、思わず動きを止めてしまう。
なんっ、今の声なに・・・・・!?
「だ、大丈夫、ちょっとビックリしただけだから。気にせず続けて良いよ」
「う、うん、分かった」
若干顔が赤い気がする朱華に促され、垂らした日焼け止めを背中に広げていく。
最初はくすぐったそうにしていた朱華だったが、途中から様子がおかしくなり、遂には熱い吐息を漏らすようにまでなってしまった。
「ふあっ、ん・・・・んふっ、んんぅっ、ぁん・・・!」
うぅ、なんで女子の身体って、こんなにスベスベしてるんだろうね・・・・・!
手のひらが吸い付くほどハリのある肌に触れ、朱華の嬌声が響く度、自分の理性君がボロボロ崩壊し顔が熱を帯びるのを感じる。
「朱華、声何とかならないの・・・・!?こんなの人に見られたらどうなる事やら」
「んくっ、うぅ・・・・し、心配いらないよ、後ろは木で遮られてるし、テントの後ろだからそれ程声を出さなかったらバレないよ・・・・・んぁっ」
・・・・・・・これ、本当に続けていて大丈夫なんだろうか。
朱華の吐息と身体は火傷するくらいに熱を帯び、触れる度にビクンと反応してしまっている。
日焼け止めを塗るという、やってる事自体は卑猥じゃないのに、傍から見れば一発アウトな光景しかしていない。
「お兄ちゃん、このまま脚もやって・・・・・?」
「あいよ、了か──────え?」
いやあの・・・・・・え?
朱華は顔を伏せるようにして口元を抑えながら、瞳をこちらに向けて急かしてくる。
ぬぅ、やるしかないのか・・・・・・・!?
やましい考えを追い出して、鋼の精神で無心を貫くんだ。
俺は恐る恐る朱華の太ももに両手を触れさせた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
ゾクゾクゾクッ、と今までに無いほど背筋を震わせ、声にならない嬌声が口から漏れ出す。
やっぱ無理だわ誰かヘルプミー!
理性君は速攻で音を上げ、鋼の精神なんぞは探さないでください、と置き手紙を残してどこかへ旅立ってしまった。
素早さ・・・・素早さが命だ!
これ以上何か起きる前に問答無用で終わらせる。
なるべく朱華を刺激しないようにしながら何とか脚を塗り終わり、続いてやっとの思いで腕や背中も無事に乗り切ることが出来た。
「はぁ、日焼け止め塗っただけなのにありえないくらい疲れた・・・・・・」
泳いだ時並に疲れたんじゃないだろうか。
達成感がすごいわもう。
「まだ終わりじゃないよ」
「・・・・・・っ!?」
耳元で熱い吐息を吹きかけられると共にそう呟かれ、ビクンッと肩を揺らして動かなくなってしまう。
布越しに背中に押し付けられてる、二つの柔らかいものの存在感が凄いのですが・・・・・・!
「前もやってくれるよね・・・・・・?」
「ややややっ、やるわけにゃいよ!そうやって頼めばお兄ちゃんが何でもやってくれると思うにゃ!」
やべ、めっちゃ噛んだ。
「むぅ、お兄ちゃんの鶏さん」
「いや、これはしょうがなくない!?」
「まあ私も前をやってもらうのは、さすがに恥ずかしいからね。今日はこのくらいで許してあげるよ」
「ありがとうございます・・・・・・」
朱華が残りの場所を塗るのを待ち、そろってテントの影から抜け出した。




