戦いの後で
お久しぶりです!
「んぅ・・・・・」
重たい瞼を開くと、そこには見慣れた天井があった。
あれ・・・・何してたんだっけ・・・・?
ぼんやりと天井を眺めながら朧気な記憶を探る。
リリスと戦って、謎の力に目覚めて・・・・・・・・・・っ!
そうだ、俺は気絶しちゃったんだ!
「朱華っ、どこにむあっ!?」
急いで起き上がろうと手をついた途端、全身に結構な痛みが走った。
筋肉痛がすごく重症化したような感じの痛み方だ。
あまりの痛みにぽふっと枕の上に倒れ込み、顔を埋めて悶えまくってしまう。
いっ、いったぁ、なにこれ!?
ほとんど動けないんですけど。
これでは今何がどうなっているのかも、確かめることが出来ないじゃないか。
て言うか、なんで俺は自分のベットに寝かされていたのかな。
あそこで連れ去らなかったのだとしたら疑問だし、朱華がどうなったかも分からない。
今すぐ起き上がりたいけれど身体は言うことを聞かず、陸に打ち上げられて少しした魚のように弱々しくビクンビクンとするだけである。
いや、別に遊んでるわけじゃないんだよ?
実は頭も痛くて熱っぽいしかなり具合が悪い。
その上この筋肉痛と来たら、そりゃビクンビクンなっても仕方ないでしょうが。
だけど、まずは無理してでも朱華の安否を確認する事が先決だ。
極力負担の無いようにゆっくり這って移動し、芋虫のようにモゾモゾとベットから下り───────。
「へぶしっ!?」
敷いていた掛け布団に手を取られベットから転げ落ちた。
ゴッ!と大きな音を立てて頭が地面に衝突し、非情な追撃となって俺を襲う。
しかし身体の痛みのせいで転げ回ることも出来ず、ただ布団に埋もれて波が引くのを待つしかなかった。
「・・・・・・・お兄ちゃん、何してるの?」
やっとこさ痛みが収まって動こうとしていると、布団越しに聞き覚えのある声が聞こえてくる。
その呆れたような声を聞いた瞬間、俺は安堵とともに身体の力が抜けてしまい、へなへなとその場に座り込んだ。
「よかった、朱華も無事だったんだね」
「お兄ちゃんに守られてたおかげだよ。で、これどーゆう状況?」
頭に被っていた部分を取られたことで、急に光が入り込んでくる。
うわっ、まぶしっ!?
「影・・・・暗いところ・・・・」
あまりの明るさに耐えきれずに、暗闇を探してモゾモゾ布団に潜り込もうとするが、朱華に足首を掴まれて強制的に引きずり出されてしまった。
「あぅ・・・・・」
「はいはい、とりあえずベットの上に戻りましょうね〜」
「なんか扱い雑じゃない?」
「お兄ちゃんは人を心配させまくった罰を受けるべきだと思う」
「はい、すみませんでした!」
そりゃあ、目の前で人が気絶したらビックリするよ。
ただでさえよく分からない状況だったはずなのに、より朱華に負担をかけてしまっただろう。
肩を貸してもらいながらベットに戻り、朱華が制服を着替えるのを待つ。
あ、どうして制服なんだろうって思ったら、今日は平日だったのね・・・・・・。
ちらりとスマホを見ると、画面には火曜日と表示されていた。
えっと・・・・リリスと戦ったのがたしか木曜日くらいだったから・・・・・・・ほぼ五日間も寝てたってこと!?
うそでしょ!?
やっぱり、身に余る力は自分をも滅ぼすってのはその通りだったみたいだ。
だけどリリスみたいな強敵を相手するには、あの力は必要不可欠・・・・・・・・が、時間制限+気絶という、デメリットを抱えたまま勝てるなんて到底ありえない。
なんとかしてあの力を自由に操れるぐらいには強くなる必要があるねー。
「・・・・・って簡単に言うなし。それが楽に出来れば苦労しないよ・・・・・・。そもそもあれって何の力だったの?魔力じゃないみたいだったけど、なんか感じたことのあるものだった気がする」
もう一回見てみればわかるかな。
力を使っていた時の感覚を思い出しながら魔力を抑えて右手をグッと握る。
「あれ、出てこない」
込める力が足りなかった、それともイメージの問題か?
ひとまずもう一度。
「ふぬぬっ・・・・ぬあぁぁっーーーーー!」
思いっきり力を込めたり、上下にぶんぶん振り回したりして色々試して見たが、あの時の輝く力は一切出てこなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・・・ぬぅ、ただでさえ痛かったのに・・・・さらに痛みが増しただけ・・・・・・」
うーん、発動には何か条件がいるとか?
肩で息をしながらあれこれ考えていると、やっとラフな部屋着に着替えた朱華が部屋に戻ってきた。
「んじゃ、お兄ちゃんが気絶してから何があったのか話すね?」
「うん、よろしく」
と言うわけで、一旦あの力について考えるのは終わり。
なんでリリスが俺を見逃したのか、そもそも朱華はどこまで知っているのか。
聞きたい事はいっぱいあるからね。
俺が使った力については今度、花恋に聞いてみようと思う。
花恋なら何か知っているかもしれない。
◇◆◇◆◇◆
「そっかぁ・・・・・だいたいの事は花恋から聞いたんだね」
「ん、お兄ちゃんが気絶してリリスさんが帰った後、すぐに・・・・・"領域"だっけ、を破って、花恋さんと皐月さんが来たの。治療は皐月さんがやってくれてたから、今度会ったらお礼言っておきなよ?」
「りょーかいでっす」
朱華から聞かされた話によると、リリスは目的を果たしたと行って帰ってしまったらしい。
単純に俺の覚醒・・・・・あの力の発現が目的だったのか?
器になるための条件として必要みたいな理由で。
そうだとしても、何でだろうね。
リリスほどの強さがあれば俺をさらうなんて造作もないだろうし、さっさとルクス・テネディスに連れて行って、向こうで覚醒させるなりすれば良いのに。
わざわざこっちで覚醒させて放置する意味が分からん。
「まさかこんなファンタジーな出来事に巻き込まれるなんて、思ってもみなかったよー」
「まあそりゃそうだよねー。俺も最初はそう思った」
魔法や魔物、異世界のことについても、花恋から知識としては聞いているそうだ。
あそこまでハッキリ魔法を使ってるのを見られたら、もう隠す意味なんてないもんね。
俺が気絶している間に"夜桜"に通って、異世界についてかなり勉強したと自慢していた。
朱華を危険な目に遭わせたくなかったけど、これは致し方ない。
この状況の上でさて、これからどうしたものかと、再び物思いにふけりかけていると。
「それでね。私、花恋さんに聞いちゃったんだ」
「・・・・・・そっか、聞いちゃったかぁ・・・・・・・」
悲しそうな朱華の瞳を見て、すぐに何のことか分かってしまった。
「お兄ちゃんと私は血が繋がってない、義兄妹だってこと。お兄ちゃんは知ってたんだよね?」
「・・・・・・うん、知ってた。黙っててごめんね?朱華を傷つけたくなくってさ。余計な気遣いだったかな」
「ううん、そんな事ないよ。リリスさんに会う前に知ってたら、気持ちを抑えられなくなっちゃうところだったから」
「ならよかった」
初めに聞いた時は信じたくない、嘘であって欲しいとかなりのショックを受けてしまったらしく、少しの間は微塵も動けなかった、と苦笑いしている。
「でもそのすぐ後にね、花恋さんが"とあること"を誘ってくれてね、それで何とか立ち直れたの」
花恋さんナイスリカバリー!
うちの妹が大変お世話になったようで。
今度会ったら皐月と一緒にお礼を言っておかなければ。
「へぇ、花恋には感謝しないとね。俺の代わりに朱華を元気付けてくれたんだ」
「そうだね、花恋さんには感謝してもしきれないよー」
「誘ってもらったって言ってたけど、何に誘ってもえたの?もちろん言いにくかったら言わなくて良いけど・・・・・・・」
「えっ!?あ、えっと・・・・・そ、そうだよね、いつかお兄ちゃんにも言わないといけないんだし・・・・・!」
最後の方はごにょごにょして聞き取れなかったが、どうやら少し恥ずかしいことらしいのはなんとなく分かった。
避けていた掛け布団で口元を隠してるくらいだからね、よっぽど恥ずかしいんだろうか。
「その・・・・"朱華ちゃんも一緒に咲夜のお嫁さんにならない?"、って言われたの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇ?」
ビシッと石のように固まった。
え〜・・・・・・あ、そうか、俺の聞き間違いか!
そうだよね、朱華がお嫁さんになりたいだなんて言うわけないもん。
やだなぁ、最近耳が遠くなってきてるし、おじいちゃん化してんのかなぁ・・・・・・・。
「ううん、聞き間違いじゃないよ。私ね、お兄ちゃんのお嫁さんにならないかって誘われて、すっごく嬉しかったんだー!」
「いや、それまた何で・・・・・・・」
「お兄ちゃんは鈍感だから分からなかっただろうけど、私、ずっとお兄ちゃんのこと好きだったんだよ?」
「・・・・・・・・・・・またなの?また俺が鈍感なせいで気づけなかったの?うそでしょ?」
いや、でも今回はしょうがなくない?
だって妹よ?
逆に気づけたヤツいるなら連れてきてよ!
「だからね、聞かれた瞬間に"もちろんです!"って即答したの」
「あ、そっすか・・・・・・・」
俺のいない所で随分話が進んでるじゃないっすか。
あれですか、俺には拒否権ないやつですかこれ。
まあ断る理由もないけどさ。
兄妹として過ごしてきたから若干の抵抗はあるけど、実際は血が繋がっている訳では無いから合法だし、朱華かわいいし。
でもねぇ・・・・・・四人目かぁ。
「と言うわけでお兄ちゃん!私をお嫁さんにしてくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・朱華は後悔しな」
「しないよ、絶対に!」
おおぅ、めっちゃ食い気味に答えるね。
身を乗り出して間近に迫った朱華のほおは薄く朱に染まっている。
むぅ、かわいい。
「そっか。俺も朱華にそう思って貰えるなんて嬉しいよ」
「じゃあ・・・・・!」
「朱華、こんな頼りない兄ちゃんだけど、俺のお嫁さんになってくれますか?」
「────────っ!はい、もちろん!」
朱華が見せてくれたのは、今まで見てきた朱華のどんな笑顔よりも明るく輝く、満開の笑顔だった。




