VSリリス 咲夜編(2)
これは昨日投稿したのをとある理由で消して、もう一度改めて投稿したものです。
昨日読んでくださった方々、これは新話ではありませんのでご注意を!
「やあぁぁっ!」
「ぐっ・・・・・!?」
鍔迫つばぜり合いに押し負けてしまい、いくつもの岩山を突き破り勢いよく吹き飛ばされる。
ジンジンする背中の痛みを、歯を食いしばって我慢しながら急いでその場から逃げると、次の瞬間にさっきまで俺がいた位置にレイピアが突き刺さった。
魔力全開で荒野を縫うように飛んで逃げ回るが、すぐにリリスに追いつかれてしまう。
上に逃れるようなホバリングをして背後に回りこみ、振り向きざまのリリスに高速の剣撃を喰らわせる。
「んなっ!?」
くっ、まさか全部捌『さば』かれてしまうとはね・・・・・・・!
空中を舞いながら幾度となく衝突し、鍔迫り合いを繰り返す。
それにしても、やっぱり剣術もハンパない強さだ。
これで"七つの大罪"の下の方なら、上の奴らにはどんだけの剣の達人がいるんだか。
考えるだけでも頭が痛くなるよ・・・・・・・。
紫色の魔力を纏った左手を俺に向けたかと思うと、辺りに転がっていた瓦礫にも同じ色の光が灯り宙に浮かび上がる。
手が握られると、一斉にそれが俺の元に殺到してきた。
ぬぅ、念力まで使えんの!?
迫りくる岩を蹴ったり斬ったりして対抗するが、如何数が多すぎて徐々《じょじょ》に命中するものがでてくる。
地味に痛いし!
このままじゃ滅多打ちになっちゃう。
いくら痛さがそれほどでもないにしても、そう何度も何度もやられれば、ダメージは蓄積していくからね。
目の前の岩石を蹴りあげて砕くと、紫色の光がフッと消える。
よし、この調子でやってけば・・・・・・・・・いやいや、嘘でしょ?
俺の視線の先では、砕けた破片それぞれに紫色の光が灯っていた。
こんな細部まで操れるのか!?
呆気に取られている隙にいくつもの瓦礫が俺にまとわりつき、上手く身体が動かせなくなってくる。
しまった、これはやばい。
「むわー!埋まる埋まる!こ、こうなったら・・・・・・へぶぅ!?」
魔法で一気にぶっ飛ばそうとした瞬間、拳くらいの岩が思いっきり眉間にあたり、それどころではなくなってしまう。
あれぇ、目の前でお星様がチカチカしてるぅ。
なんでだろ〜ねぇ・・・・・・・。
クラクラしているうちに残りの瓦礫が集まり、あっという間に生き埋め状態になってしまった。
「ふぅ。これであとは連れてくだけで終わり・・・・・・・とは行かないかぁ〜」
「あったりまえよ、こんなんで終わってたまるかぁ!」
全身から魔力を放出して瓦礫を吹き飛ばしリリスに突撃する。
「"黒聖一閃・焔《ほむら』"!」
空中で急激に加速し、力強く斬りつける。
振り返りながら剣を振り上げて魔法を防ぎ、その勢いのまま身体をひねって渾身の蹴りを喰らわせた。
もう魔力が心許なくなってきている。
これで倒せないとあとはジリ貧で、そう時間はかからずやられてしまうだろうな。
スピードを上げてぶっ飛ぶリリスに追いつき、炎を纏わせた怒涛の剣撃を浴びせまくる。
反撃の隙は一切与えない!
残存魔力の全てを一滴残らず絞り尽くせ!
時折受けられたりはしているが、着実にダメージは与えられているようだ。
「あらぁ、これはなかなか」
好戦的な笑みを浮かべるリリスによる反撃が結構効くが、このまま行けば押し切れるはず。
手を休めるな、攻め続けろ。
今止めたらもう勝機はないぞ!
ひたすら自分を叱咤、剣を振り続ける。
そこでふと、なにか思い浮かんだかのようにリリスが悪い顔をした。
「朱華ちゃん、あなたのお兄ちゃんは随分《ずいぶん』と妹想いなのねぇ〜」
突然、遠くで俺たちを見守る朱華に話しかける。
それも今の状況に合わない緩い話題で。
そんでもって朱華よ、何故ほおを赤く染めてモジモジしてる?
「でも私には、咲夜クンがここまで頑張る理由がよく分からないの。だってあなたたちは──────」
「やめろっ!!」
気づけば、そう大声で叫んでいた。
横目に朱華がビクッと肩を揺らしたのが見える。
申し訳ないと思いつつも、これ以上のことをリリスにしゃべせれば、朱華がショックを受けてしまうのは目に見えている。
その前に止めなければならなかったのだ。
なんでこんなに離れているのに声が聞こえているかとか、そんなの考えている暇はない。
また喋りだす前に黙らせなければ。
一瞬で閃光のような斬撃を繰り出し隙を作る。
今だっ、今なら行ける!トドメを刺せ!
「────────っ」
リリスを倒せる絶好のチャンス。
それなのに、俺の切っ先は鈍ってしまった。
「やっぱり、君には無理なようねぇ〜」
それは、ほんの一瞬の隙。
しかしリリスという名の強者にとっては、その一瞬で十分だった。
漆黒のレイピアが閃き、振り下ろしかけの剣が真上にパリィされてしまう。
「【色欲の大悪魔】!」
黒とピンクの混じり合う魔力を纏ったレイピアが、単四角六角形、通称"アスモデウスの角"の形を穿つ。
ドドドンッッ!!と、かつて受けたことの無い衝撃と痛みが俺を襲い、気づいた時には朱華の近くに大きなクレーターを作って地面に伏していた。
「げふっ・・・・・・・・!!?」
何が起こったのか、最初は分からなかった。
しかし段々と痛みが込み上げてくるにつれ、なんとか現状を理解することが出来た。
う・・・・ぐっ、あれが本気の攻撃かよ・・・・・・。
全然見えなかった。
今までは全く本気じゃなかったって訳か。
六箇所に走る激痛に顔をゆがめながらもなんとか立ち上がる。
「うふふ〜。ここにきて、この平和な世界で育った代償が現れたわねぇ〜」
「・・・・・・・さあ、なんの事かな?」
「しらばっくれても意味はないわよ〜?君、人を殺せないのでしょう?」
「・・・・・・・・・」
「今まで君が殺してきたのはあくまで魔物達。だからと言って嫌悪感がなかったわけではないだろうけど、日常の食事で命を食べるように、仕方がないと思えた。襲ってきたのは向こうだしね〜。でも相手が人となるとどうかしら」
鋭い双眸が俺を見定めるかのように射抜く。
「ついさっきまで話していた相手を殺せる?いえ、殺せないでしょうね〜。今までほのぼの暮らしてきた君には、他人の命を奪う覚悟なんて無いもの」
図星すぎて言葉が出ない。
人を殺すこと。
それをすれば、今までの日常からかけ離れてしまう気がして。
なにより、そんなことしたくなくて。
考えないようにしていた。
いつかはこういう日が来るかもしれなかったのに。
覚悟の一つもしてなかった。
その結果がこのザマだ。
「そう、君には覚悟が足りなかった。そのせいで、君は大切なものを失うのよ〜」
リリスが、視線を外してチラリと朱華を見る。
「ちょっと待て、何するつもりだ!」
「朱華ちゃん、さっきの話の続きをしましょう〜。私は咲夜クンがこうまでして、朱華ちゃんを守る理由が分からないの」
「・・・・・・"家族だから"、じゃダメなんですか?」
俺が傷つけられたことでリリスに警戒心を抱いた朱華が、厳しい目をしながらそう返す。
それを聞いた途端、リリスが悪魔のように悪い笑みを浮かべた。
「家族、ねぇ〜。そう、朱華ちゃん知らないのね。それならせっかくだから教えてあげるわ〜。あなたたち───────」
「リリスっ!」
痛む身体を叱咤して飛びだし、リリスに斬りかかる。
だがそんな攻撃は、当たり前のようにあっさりと躱《かわ』されてしまう。
「君も大人しく聞いてなさいな〜」
「っ!?・・・・・・・がふっ・・・・・」
脇腹にレイピアが突き刺さる。
レイピアが引き抜かれると、飛行力《ひこうりょく』を失った俺は重力に引かれ落下して行った。
「リリスやめてくれ、それ以上は言うな!朱華も聞くんじゃない、リリスが────────」
脇腹を押さえながら震える足で立ち上がり、それでもなおリリスを止めようとする。
しかし、そんな抵抗は無意味だった。
「あなた達は血が繋がっていない・・・・・・本当の兄弟じゃないの〜」
◇◆◇◆◇◆
リリスさんが放った、衝撃の一言。
それを聞いた私の心には、色々な感情が渦巻いていた。
悲しみだったり絶望だったり、言葉に出来ないくらい私を支配する。
正直、嘘だと思いたかったけど、お兄ちゃんの反応を見て本当のことだと悟った。
頭が真っ白になって、その場から動けなくなってしまう。
震える足では立っているのがやっとで、今にも泣いてしまいそうなくらい心が折れかけていた。
でも、そんな私を支えてくれているものが一つだけある。
不謹慎かもしれないけど唯一、お兄ちゃんと血が繋がっていないと聞いて嬉しかったこと。
血が繋がっていなければ、大好きなお兄ちゃんとあんなことやこんなことだって、結婚だってできる。
それにたとえ血が繋がってなくても、私たちは仲良しな兄妹。
そうだよね、お兄ちゃん?
◇◆◇◆◇◆
っ、言いやがった・・・・・!
ついに朱華に俺たちが本当の兄妹ではないと知られてしまった。
朱華の呆然とした表情に、申し訳なさが湧き出てくる。
俺が不甲斐ないばかりに朱華にまで悲しい思いをさせてしまうだなんて、お兄ちゃん失格だ。
「うふふ、かなりショックのようねぇ〜。大丈夫、お姉さんがすぐにその悲しみから解放してあげるわ〜」
リリスの掌が朱華に向けられる。
・・・・・・・止めろ・・・・・・ダメだ、そんなことさせない・・・・・・・!
艶かな唇が呟くと、朱華向けて一つの火球が放たれる。
「っ、う・・・・・おおぉぉっ!!」
最後の力を振り絞り、朱華と火球の間に割って入った。
もう剣を振る体力もないが、この身で防げばいいだけの事だ。
「お兄ちゃん・・・・・!?」
朱華が俺に向かって手を伸ばすのを横目に見ながら、とてつもない火力を誇る火球に飲み込まれた。
バシュッと何かが弾ける音と共に、火球が破裂して大気を振動させる。
俺が庇うのを読んでいたのだろう、一般人に対しては過剰なほどの火力が俺の身を焼く。
ここが踏ん張りどころだ、最後の力で押さえ込め・・・・・・!
───────やがて巻き起こった爆煙が晴れ、徐々に俺の姿が露になって行く。
よかった、朱華は無事みたいだね・・・・・・。
「お兄・・・・ちゃん・・・・・・?」
呆然とした朱華の声が遠くから聞こえた気がした。
でもそれに反応することは出来ない。
全てを出し切り虚ろな目をした俺は、ふらりと揺れてそのまま落下していくのだった。




