朱華の異変
「ただいまー」
ガチャッと玄関が開く音がする。
どうやら朱華が帰ってきたようだ。
スマホをソファーに置いたまま立ち上がり、緩慢な動作でリビングの扉を開ける。
「おかえり〜・・・・・って何でそんなに濡れてんの!?」
玄関で折りたたみ傘を傘立てに置いていた朱華は、全身びしょ濡れで下着まで透けてしまっていた。
足元に滴り落ちた水滴で水たまりができるほど。
何をどうしたらこうなるん!?
あぁ、カバンまでびしょびしょに・・・・・・・それスマホとか教科書は無事なの?
「早くお風呂入ってきなよ、荷物は俺が何とかしとくからさ」
「ん、ありがとう!はいじゃあこれよろしく〜」
俺が持ってきたタオルで身体を拭いていた朱華が、傍らに置いてあるバックを持ち上げる。
差し出された手に持つタイプのスクールバッグを受け取ろうとするが、その時に誤って俺の手が朱華の手に被さるようになってしまった。
「あっ・・・・・・・」
小さく声を上げた朱華の手から、ドサリとカバンが落ちる。
あっ、こら、水たまりの上に!
それなりの高さから落ちたので、着地した時の水しぶきが辺りに広がり、玄関が悲しいことになってしまった。
あちゃー、なんてこったい。
・・・・・・まあ、俺が突然触っちゃったのが悪いんだけどね。
でも今更この程度のスキンシップで、動揺するような間柄じゃないとも思いはするが。
もしかして思春期ですかな?
「・・・・・・・・・・」
当の本人は、呆然と自分の手を眺めているかと思ったら、今度は不思議そうに首を傾げている。
一体どうしたんだろうか。
「ううん、なんでも・・・・・・。すぐにこれ片付けるね」
「いや、これも俺がやっとくよ。朱華はお風呂で温まって、ゆっくりしてなさいな〜」
びしょ濡れのままじゃ風邪引いちゃうぞー、ここは暇人に任せておけい。
バックを拾って広げたタオルの上に置き、靴には丸めた新聞紙を詰め込む。
「そっか。じゃあ、ありがたくのんびりしてこようかな〜」
「制服も朱華さえ良ければやっておくけど、どうする?」
「おねが〜い・・・・・・あ、あとこれも頼んでいい?」
お風呂場に行こうとしていた朱華に手渡されたのは一枚のパーカー。
え、これどうしたの?
「優しいお姉さんに貰った」
「それ危ないやつじゃないでしょうね、お母さん心配だわ!?」
「大丈夫だってお母さん。ほんとに良い人だから」
むむぅ、朱華がそう言うなら大丈夫なのかもしんないけど・・・・・・。
まあとりあえず分かったから、お風呂入ってらっしゃい。
「はーい。あ、脱いだ制服は洗面台の上に置いとくね」
「りょーかい」
そう言い残していそいそと風呂場に入っていく。
俺はそれを背に、恐る恐る濡れたカバンの中身をチェックして行くのだった。
〜そして日は経ち〜
・・・・・・・・・・・最近、朱華の様子がおかしい。
たしか、朱華がずぶ濡れになって帰ってきた日からだったかな。
段々と前のようなスキンシップが無くなり、ここ数日はどこか避けられているような気さえもする。
かと言って友達と上手くいっていない訳ではないらしく、先日いつものグループと楽しそうにおしゃべりしながら帰るのを見かけた。
ああいう態度をとるのは、どうやら俺だけらしい。
思春期の女の子ってこんなものなんすかね。
「んー、何か繊細な問題だったら、そんなに踏み込まない方が良いだろうし・・・・・・。でもかと言って放置するのもなぁ・・・・・・・」
やっぱりこういう時はお母さんに相談するか?
同じ女性のお母さんなら、デリケートな問題も何とかしてくれるだろうし。
兄の俺が出しゃばるより遥かに効果的なはずだ。
「帰ってきたら頼んでみよ、っと」
自室のベットでそんなことを考えながらゴロゴロする。
この話は一旦置いておいて、ゲームでもやろうかと頭上に置いたスマホを手に取ると、同じタイミングで外から門扉が開く音がした。
時計を見ると、ちょうど部活がない時に朱華が帰ってくる時間帯らへん。
おっと、うわさの朱華さんのお帰りかな?
玄関に入り階段を登ってくるこの足音は、朱華で間違いないだろう。
「・・・・・・・なんか、足取りが重いな」
いつものペースに比べて結構ゆっくり上がってきている。
気になった俺はドアを開いて、階段を上がりきった朱華に声をかけた。
「おかえりさん」
「あっ・・・・・・・た、ただいま、お兄ちゃん」
「朱華、つかぬ事を聞きますが、具合悪かったりする?」
「う、ううん、そんな事ないよ・・・・・・」
そういう割には歯切れが悪い。
そしてなぜ視線を逸らすのかな?
俺が部屋から出ようとすると、急いで自分の部屋に逃げ込もうとしたが、途中でよろけて壁に肩をついてしまう。
「お、おい、大丈夫か!?」
慌てて朱華に駆け寄って肩を支える。
「んんっ・・・・・・!!」
途端にブルリと身を震わせて高い声が漏れた。
ちょ、ほんとに大丈夫?
不安になって俯いた朱華を覗くと、赤みを帯びて火照った顔で荒い息を吐いていた。
「熱があるでしょ絶対・・・・・・。ちょいと失礼して」
俯く朱華の前髪を持ち上げて、俺のおでこにピタリとくっつける。
あれ、全然熱くない。
至って平常な体温ですな。
熱なんてなかったのか・・・・・・?
「〜〜〜〜〜っ!?・・・・・・・ご、ごめんお兄ちゃん。わ、私、やる事・・・あるから・・・・・・」
消え入りそうな声でそう言うと、足早に部屋に入っていってしまった。
うーん、やっぱりなんかおかしいよなぁ。
追いかけることも考えたが、俺が話しかけても逆効果ぽかったのでとりあえず部屋の中に戻る。
さてさてさーて、どうしたもんかねぇ〜。
ぽふっとベットに倒れ込んで顔をうずくめ、解決の糸口が見えない問題に頭を悩ますのだった。
◇◆◇◆◇◆
最初に身体がおかしいと感じたのは、サキさんに会った後、家に帰ってきてお兄ちゃんに手を触れられた時だった。
今まで感じたことの無い感覚に襲われて、思わず持っていたカバンを落としてしまった。
その時はうっすらと感じただけだったから気のせいだと思ってたけど、日に日にそれは大きくなっていく。
幸いなこと・・・・・かどうか分からないけれど、それはお兄ちゃん相手にしか起こらなかったから、日常生活にほぼ問題はなかった。
"最初は"、なんだけどね・・・・・・・・。
最近はお兄ちゃんの事を考えるだけで、変な気持ちになったり身体が疼いたりで困惑してばっかり。
お兄ちゃんに触れられるともっとそれが酷くなって、いつかは自分じゃ抑えきれなくなっちゃいそう。
なるべく避けるようにしてるのもお兄ちゃんにはバレてるだろうから、もしかしたら嫌われちゃったかな・・・・・・・・。
「せっかくサキさんに励ましてもらったのに」
この身体の異変が治まるまで、お兄ちゃんから離れようと決めた。
その間に、誰がお兄ちゃんと結ばれてしまうかもしれない。
そんなの嫌だ。
でも、私は身体に走るこの感覚には勝てっこなかった。
もう一押しされれば、歯止めが聞かなくなるのが自分でも分かる。
だからお兄ちゃん。
お願いだから、私を放っておいて・・・・・・・。
─────────それなのに。
心配性なお兄ちゃんは、私のことを気にかけてくれた。
それ自体は嬉しかったし、おでこをコツンてされたのは普段だったら歓喜していたこと間違いない。
でも、今それはダメだよ・・・・・・。
「・・・・・・ご、ごめんお兄ちゃん。わ、私、やる事・・・あるから・・・・・・」
何とかそう言い残して、私は逃げるように自分の部屋に入った。
震える手で荷物を机に置き、ベットに倒れ込んで丸くした身体を抱き抱える。
も、もうダメぇ、抑えられない・・・・・・・。
疼きは止まることを知らず、身体の一部が火傷しそうなくらい熱い。
熱を帯びた荒い息を吐きながら、私は自分の秘部へと指を持っていく。
「んぁっ!?」
秘部に触れた瞬間に身体中を走った快楽に、思わず甘い声が漏れる。
だめ、お兄ちゃんに聞こえちゃう・・・・・・!
口元を抑えながら、逆の手であそこをかき回す。
「んぅ・・・・ん、あふぅ・・・・・ぁんっ・・・・・・!」
静かな部屋にクチュクチュと水音が響く。
「お兄ちゃん・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・んんっ〜〜!?」
一際大きな快感にビクンと身体を震わせ、その余韻に浸る。
あそこから引き抜いた指にはヌメヌメした液体が付いていて、それを見ているともっとエッチな気分になってきた。
「どうしよう、足りないよ。こんなのじゃ、全然足りない・・・・・・」
私、こんなにエッチな子じゃなかったのに。
お兄ちゃんに知られたら幻滅されちゃうよ・・・・・・。
それを分かっているはずなのに、どうしようもなく身体が疼く。
再び秘部に手を伸ばそうとしていると、どこからか幼い女の子の声が聞こえてきた。
『おねーさん、辛そうね』
「ふぇ・・・・・・?」
普通は突然聞こえてきた声に驚くべきなのだろうけど、熱に浮かされた私はそう反応するのでやっとだった。
『さっきみたいに自分でやるだけじゃ、ずっと辛いままよ?』
「でも、それ以外にする方法ないし・・・・・」
『お兄ちゃんに手伝ってもらおうよ!』
「っ!」
私は心臓が飛び出るかと思った。
たしかにそれは良いかもしれないけど、お兄ちゃんにこんなエッチな子だって知られたくない。
それに、相手してくれるかも分からないもん・・・・・・。
だけど、少女と話しているとエッチな気分がどんどん加速して、ついに限界に到達してしまった。
『お兄ちゃんの、欲しいでしょう?』
理性というストッパーが外れた瞬間だった。
「・・・・・・・うん、もう我慢できないのぉ。お兄ちゃんのがぁ、欲しい・・・・!」
これを最後に、少女の声は聞こえなくなった。
私はベットから起き上がると、自分でも分かるくらい蕩けきった顔で部屋を後にするのだった。




