ゲーム対決
あっさり終わらせようと思ってたんですけど、気づいたらこんなことに・・・・・・・。
『【エクスプロージョン】・・・・・』
舞衣ちゃんがコントローラーに打ち込むと、フィールドに爆発のエフェクトが現れ五人のアバターが消し飛んだ。
くっ、やっぱり遠距離攻撃はキツイな。
難なくそれを躱した俺は、もろに魔法が当たらないように走り回りながら、近くのアバターを斬り伏せていく。
家に着き一段落した俺と舞衣ちゃんは、予定通りゲーム勝負を始めていた。
俺たちがプレイしているのは、最近有名なとある対戦ゲームだ。
このゲームの特徴は、ガチャによるキャラ排出が無く、自身のアバターを作ってその外見や役職、装備などを自由にカスタムできるところにある。
最高レアリティの装備の排出率が少し低い気がするけど、割と運営が神だからそれほど気にならないしな。
色々とモードもあるのだが、今回やっているのは百人のプレイヤーが同じフィールドに入り、最後の一人になるまで戦い続けるという至ってシンプルなモード。
普通は白熱した試合が繰り広げられるのだが、何故か今回はランクの低い部屋に入ってしまい、俺と舞衣ちゃんの独壇場となっていた。
『"真空斬り"!』
俺のアバターが振るった剣から飛ぶ斬撃が放たれて、迫っていた前方のプレイヤーを倒す。
ちなみに俺の役職は剣士の上位互換である剣聖で、舞衣ちゃんは魔法使いの上位の魔女だ。
剣聖は物理、剣技系のスキルの威力がかさましされ、専用スキルや特殊バフのある役職。
魔女は魔法全般の発動速度アップ+威力上昇、専用スキルとオリジナルスキル【死者蘇生】が使える。
まあこのモードで【死者蘇生】はあんまり意味が無いのだが、ギルド戦で使われると厄介なことこの上ない。
倒しても倒してもMP(魔力みたいなもの)が尽きない限り、永遠に復活してくるからね。
「邪魔・・・・・」
『【ロックブラスト】・・・・!』
一斉に襲いかかってきたプレイヤーたちを六個の岩石が蹴散らし、消えゆくアバターの光の粒子が舞い上がる。
っ、今だ!
スキル【瞬動】によって一気に舞衣ちゃんのアバターとの距離を詰め、剣技スキル"スライト"で緑色のエフェクトを纏いながら斜め上に剣を振るう。
しかし、当たる直前で紫色の障壁に阻まれて緑の光は霧散してしまった。
"盾の神"イージスの初クリア(全プレイヤー中一番最初の)報酬にして、世界で舞衣ちゃんしか保有していない特殊スキル【物理攻撃無効】・・・・・・!
「さくにぃ、覚悟」
舞衣ちゃんのアバターが俺に向けた杖に白い光が集まる。
ちょ、早ない!?
魔法を撃つと、次の魔法を撃てるまで少しインターバルがあるのだが、明らかにそれよりも早い段階だ。
「あっ、チャージタイプの魔法かよっ!」
発動に時間がかかるけど、一度貯まれば温存しておける上位魔法。
スキル使用後のスタン状態の俺は格好の獲物だろう。
『【レールガン】・・・・・!』
音速の三倍の速度のレーザーがアバターを貫通して、その後ろのプレイヤーたち諸共大ダメージを与える。
そこそこHPが減っていた俺からすれば、オーバーキルにも程があるくらいだ。
だが・・・・・・!
「甘いよっ!」
特殊スキル【英雄の復活】発動、死亡時に一度だけHP二十%回復!
消えかけていたアバターが逆再生のように復活し、スタンが解けた状態で地面に着地する。
『"天聖夢想"!』
剣聖専用スキルが発動し、光のエフェクトに包まれた剣が舞衣ちゃんを捉える。
魔法と物理を兼ね備えた一撃ではそれほどHPを削れないが、このスキルは十六連撃。
「"まいまい"よ、ゲーム中屈指の連続攻撃を喰らえ〜!」
「その呼び方、しないで・・・・・・・!」
"まいまい"とは、このゲームでの舞衣ちゃんのニックネームである。
聞いたところによると青來ちゃんが付けたニックネームらしい。
自身のアバターのHPを削られながらもむくれているけど、そんなにこのニックネームは嫌だったんだろうか。
「さっくん酷い!女の子を滅多斬りするなんて!」
「おにーさんはそれでも男なの!?」
「舞衣が可哀想じゃん、やめたげなよお兄ちゃん!」
「ええぃ、外野はだまらっしゃい!これは尋常な勝負なんですぅ!」
そして、勝利を確信した最後の一撃へ。
一際眩く輝いた剣がアバターを斬り裂き、残りわずかだったHPバーがゼロになる・・・・・・・・・・・・・寸前。
舞衣ちゃんが装備していたペンダントが砕け散り、ほんの一ドット分だけ残してHPの減少が止まってしまった。
「は!?なにそれ!?」
「さくにぃ、おしかった、ね」
表示されたテロップによると、あれは"深淵の宝玉"と言うアイテムらしい。
見たことも聞いたことも無いアイテムなんですが!?
大技を繰り出した影響で、通常より微妙に長いスタンに陥っている俺から離れ、上に掲げた杖をクルクル回す。
バチバチとしたエフェクトを纏い始めた杖を俺に向け、決めゼリフと共に魔法が放たれた。
「ラ〇ュタの雷を喰らうがいい・・・・・!」
『【死の稲妻】・・・・・!』
『あばばばばばっっ!?』
残り全てのMPと引き換えに殲滅魔法が放たれ、俺を含む残っていた全てのプレイヤーが稲妻を喰らって消滅した。
《"まいまい" WIN!!》
画面いっぱいに表示されたその文字を見て、俺は膝から崩れ落ちる。
そ、そんなバナナ・・・・・。
「さっすが、まいまい!さっくんを掌の上で転がしての勝利!」
「カッコイイよ、まいまい!」
「まいまい、なでなでさせてー!」
「むふーっ、今はその呼び方ゆるす」
くそぅ、あっちは盛り上がってるなぁ。
ドヤ顔で鼻息を漏らす舞衣ちゃんがみんなにチヤホヤされている。
「なあ舞衣ちゃん、最後に発動したアイテムってなんなの?」
「最新ステージのボスが、超稀にドロップするアイテム。ステージが解禁してからあまり経っていないのもあるけど、ドロップの確率が低すぎて存在自体が幻と化してる」
それを持っている舞衣ちゃんは、一体どんだけ周回したんすか・・・・・・・。
"深淵の宝玉" : HPがゼロになる攻撃を受けても、一度だけ残りHP1で耐える。
こんなアイテムがあるなんて知らんかった。
「さて、さくにぃ覚悟はできた?」
「うぅ、負けたからにはやりますよそりゃあ」
机の上に置いてあった袋から適当に一つのお菓子を取り出す。
パッケージには"激辛ポテトチップス"の文字が。
・・・・・・・まーまーまー、激辛って言ってもお菓子ですからね。
案外なんとかなるでしょ、たぶん。
普通のポテトチップスより小さな袋を開け、中から赤黒い一枚を摘み上げる。
うわぁ、食べたくねぇ〜・・・・・・。
ゴクリと生唾を飲み込み、みんなが見守る中それを口に入れて咀嚼した。
「ふぐっ・・・・・・・・!?!!?」
口の中に広がる形容し難い辛さに思わず悶絶する。
かっ、からっ・・・・・・いや、むしろ痛い!?
舌を刺激する辛味とその痛さで涙目になり、クッションに埋まりながらビクンビクンと痙攣する。
「あはははっ、さっくん良いよぉその反応!こっち向いてよこっち!」
「うわぁ・・・・・おにーさん、大丈夫?」
唯一琴葉ちゃんが心配そうにしてくれているのが心に染みる。
なんとか痛みが引いてきた俺は、涙を流しながらクッションからチラリと少しだけ顔を離した。
「ひうぅ、からいよぉ〜・・・・・ぐへっ!?」
「きゃーーーーーっ!お兄ちゃんかわいーよぉ!」
その姿を見た朱華が俺を抱きしめてなでなでし、みんなも幸せそうな表情で胸を抑えている。
どうやら涙目+この体勢がクリーンヒットしたらしい。
何にとは言わないが。
みんなに励まされ撫でられ、写真を撮られながら、たっぷり時間をかけてなんとかポテトを完食し、俺はソファーに倒れ込む。
もー、無理。
口の中痛すぎてやばい、水飲んでもちっとも治らないし。
くぅ、次こそは勝ってやるぅ!
とりあえず"深淵の宝玉"ドロップまで周回することを決意し、次は負けないと意気込むのであった。




