私の友達
朱華視点のお話です!
「てな感じで、うちのお兄ちゃんときたらもう・・・・・・・」
ガヤガヤと騒がしい昼休みの教室にて、私はお弁当を食べながら朝の出来事を友だちに話していた。
私の机を中心に集まった三人は、私の気持ちを知ってもなお応援してくれている、親友と言っても過言じゃない子たち。
時々、こうやって愚痴を聞いてもらってたりする。
「相変わらずだねー、さっくんは。ここまでやって気付かないとか、さすがに鈍感すぎっしょ!」
近くに寄せた机に座る金髪の女の子が、パンを片手にケラケラ笑う。
二年三組のムードメーカーこと、朝雛 青來ちゃんだ。
ワイシャツをスカートにしまっていなかったり、自慢の金髪だったりと、いかにも校則に引っかかってそうでいつも心配になるんだよね。
スカートも結構危ないラインを攻めてる気がするし。
「それぐらいじゃ、さくにぃは動じない。もっと凄いのをやるべき」
その横でちびちび卵焼きを食べていた小柄な少女が、一旦手を止めてアドバイスをくれた。
その愛くるしい外見と、少し口下手な感じが人気を呼ぶ学年一のマスコット、伊吹 舞衣ちゃん。
ただ単純にかわゆす。
頭なでなでしてあげるぅ〜!
「むぅ。なんだか子供扱いされた気がする」
「そんなこと言ってぇ、舞衣も満更でもなさそうじゃない?」
「・・・・・・・気のせい」
「おっと、今の間は何だろうねぇ」
「・・・・話題が逸れてる。今話すべきは、さくにぃをどうやって堕とすか」
顔を赤らめながら目をそらす舞衣ちゃんが可愛くて、またなでなでしそうになるが、これ以上したらまた怒りだしそうなので止めておいた。
その代わりに舞衣ちゃんの話の流れに乗っかる。
「堕とすって言ってもねぇ・・・・・。女の子として見られてない以上、どうしようもないって言うか」
「難解不落・・・・?」
「てかさっくんさ、こんな可愛い子に誘惑されてんのに無反応とか、鈍感通り越してボケてんじゃないの?」
「激しく同意。朱華に誘惑されて堕ちない男は居ないはず。これだからオトコの娘は」
「あんたら、おにーさんのことなんだと思ってるのさ・・・・・・・」
ポニーテールを揺らして身を乗り出した琴葉が、野菜ジュースに差さったストローを咥えながら苦笑いする。
初音 琴葉ちゃん。
クラス委員を務め、先生と生徒のどちらからの信頼も厚い超優等生。
本人曰く柄じゃないらしいのだが、昔から頼まれたら断れない性格が災いして、いつの間にかこんな事になっていたんだという。
いつも何だかんだ言って、最終的には手伝ってくれるもんねー。
「でも琴葉もそう思わない!?」
「まあ、たしかにそうだけど・・・・・・・もしかしたらおにーさんも、心の中ではめっちゃ動揺してるのかもよ?」
「そうだと嬉しいんだけどね。ま、引き続き気長に頑張るしかないかなぁー」
食べ終わったお弁当を片付けて伸びをしていると、ふとワイシャツの袖がクイクイッと引っ張られた。
ん?舞衣ちゃん、どうしたの?
袖を引く舞衣が指さした先には、十二時五十五分を指す黒板の上の時計が。
「もうすぐ昼休み終わる。次は移動教室」
「あ、ほんとだ。準備しなきゃ」
「やべ。琴葉ぁ、今日提出のプリント写させてくんね?」
「何でやってないの・・・・・。ほら、先生に見つかる前にパパっと写しちゃいな」
「サンキュー琴葉、愛してるぅ!」
「はいはい」
プリントを受け取ってお礼を言うと、すごいスピードで琴葉の答えを写していく青來。
そんな彼女が終わるのを待ってから、みんなで次の授業の教室に移動した。
時間は過ぎて放課後。
「あっつ・・・・・・・。なんなのこの気温、地球温暖化仕事しすぎでしょ!」
クーラーの効いた学校から出た瞬間、肌を刺すような日差しが容赦なく私たちを襲う。
一応日焼け止め塗ってきたけど、汗で全部落ちちゃいそうだなぁ・・・・・・。
歩き出して五分もしていないが、既に汗だくになっている。
「これは、引きこもりにはキツい・・・・・・。灰になる」
「舞衣、それはアンデットとかヴァンパイアだけだよ・・・・・・・」
あまりの暑さに琴葉のツッコミのキレも衰えている。
舞衣なんて、今にも溶けてしまいそうなくらいグデーッとしていた。
「朱華って帰りにスーパー寄るんだっけ」
「うん。お兄ちゃんに頼まれたからね」
「私もついて行こうかな・・・・・・。家より近いし、涼みたい」
いつもハイテンションな青來さえもこの始末。
「いつもなら、さくにぃが買い物行く。今日は帰るの遅い?」
「んー、そういう訳じゃなくて、今日はたまたま私の下校時間が早かったからだと思うよ」
「ならさくにぃの予定空いてる?」
「たぶんね。またゲームで対戦するの?」
「ん。今日こそ決着をつける・・・・・・!」
ふんすっ、と鼻息を漏らした舞衣が、拳を天に突き出しながらそう息巻く。
舞衣はこう見えて重度のゲーマーで、度々お兄ちゃんと勝負しては自分の技術を研いているらしい。
戦績は若干お兄ちゃんに傾いているとかいないとか。
なんか話しているうちに意気投合したらしく、三人の中で一番お兄ちゃんに懐いているのだ。
閑話休題。
結局、琴葉と舞衣も賛成してみんなで駅前のスーパーに寄ることになった。
極力日陰に入りながら移動しよう、日向行ったら蒸発しちゃう。
茹だるような猛暑の中、立ちはだかる人波をなんとか乗り越えて、やっとの思いでスーパーへ逃げ込むことが出来た。
「マジ天国ぅ〜・・・・・・」
「生きかえる・・・・・・!」
「朱華、今日買うものってどんなの?多いんだったらみんなで手分けして探すけど・・・・・」
「ありがとー。でもそんな大したものじゃなくて、卵とお茶っ葉だけだから。みんなはそこで休憩してていーよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えて」
「一緒に行く。罰ゲーム用のお菓子買う」
「わかった、じゃあ行こっか」
琴葉と青來はベンチで休憩、舞衣は私と一緒に買い物へ。
まず入口の近くにあった卵を一パックと、舞衣が取ってきてくれたお茶っ葉の袋をカゴに入れる。
次にお菓子コーナーへ行き、舞衣が選んだいくつかの駄菓子を手にお会計を済ませた。
・・・・・・"日本一の辛さを誇る、ハバネロ味のポテトチップスです!あまりの辛さに失神しないよう、お気おつけください"・・・・・・・。
なにこれ怖っ!
他にも激辛のお菓子や超酸っぱいガムが。
・・・・・・・これ、ほんとに食べるの?
「ん。さくにぃの反応が面白い」
たしかに、お兄ちゃんは良い反応しそうだなぁ。
それらをエコバッグに詰めて休憩中の二人の元に戻り、嫌々ながら炎天下の外に出る。
「ん?・・・・・・・あ、朱華ぁ。なんかうちの親が家を留守にするらしいからさ、朱華ん家遊びに行ってもいい?」
歩き出して直ぐに青來のスマホに連絡が入った。
どうやら青來のお母さんが急に仕事関係の用事が出来てしまったらしい。
「私は全然オッケーだよ!琴葉はどうする?」
「じゃ、私もおじゃましようかな」
という訳で、みんなでうちの家で遊ぶことになりました。
色々話しながら繁華街を出て、来た道を戻り家へ向かう。
「でさぁ、その時にね?お兄ちゃんが"ふっ、甘いな!"って・・・・・・・きゃ!」
「あらら・・・・・」
よそ見をしていたせいか、横から歩いてきた人とぶつかってしまった。
その拍子に相手の持っていたバックが落ちてしまう。
「す、すいません!」
「私こそごめんなさいね〜、ちょっと考え事をしていて不注意だったわぁ〜」
急いでバックを拾って手渡すと、逆にぶつかってしまったお姉さんから謝られてしまった。
私が悪いのに、申し訳ないです・・・・・・。
平謝りしていると、お姉さんが優しく笑いながら「じゃあお互い様ね」と言ってくれた。
この人、すごい優しいなぁ。
て言うか、よく見たらめっちゃ美人!
黒いニットのノンスリーブに蝶のシルエットが描かれているロングスカートを着た、麦わら帽子の大人お姉さん。
色気がすごいです、はい・・・・・・・。
「ね、あれさっくんじゃない?」
「あれは間違いなくさくにぃ」
二人の視線の先には、グデーッとした表情で歩くお兄ちゃんがいた。
「あの子は・・・・・・・!」
「?どうかしました?」
みんなが走っていく先を目で追ったお姉さんが、一瞬だけ息を飲んだように硬直したような気がした。
気のせい・・・・・かな。
「ううん、なんでもないわぁ〜。ちょっと知り合いに似ていたらか、びっくりしたのよぉ」
「そうなんですね」
「じゃあそろそろ、私は行くとしましょうかねぇ〜」
駅の方へ歩いていくお姉さんの背中を見送り、私もお兄ちゃんの元に走っていった。




