プロポーズ
「【ブレッシングレイン】」
私が発生させた雲から恵みの雨が降り注ぎ、島中に広がっていた炎が徐々に鎮火していく。
あ、やば、咲夜と皐月にもかかっちゃったかも。
・・・・・・遠くで悲鳴が聞こえるから、きっとびしょ濡れなんだろうなぁ。
うん、ごめん。
さ、さて、気を取り直してっと。
「えっと、美海さん。魔法とか見て驚いてるとこ悪いんですけど、ちょっといいですか?」
「う、うん。でも、咲夜くんと皐月ちゃんの治療を先にした方が良くないかな・・・・・・?」
「あの二人なら大丈夫ですよー。それほどヤワじゃないんで」
少なくとも自力でここまで戻ってくるくらいの元気はあるんじゃないかな。
それまで少し時間がかかるだろうから、先に聞いておこうかなと。
「私と咲夜はこの世界の住人じゃないんです。諸事情でさっきみたいな戦いが起こって、美海さんは危ない目に会うかもしれません。それでも・・・・・・・」
「大丈夫、覚悟は出来てるよ。たしかに危ないかもしれないけど、好きになっちゃったからさぁー。私は咲夜くんが好きだから、一緒にいるためだったらたとえ火の中水の中、どこにだって行くよ」
「むぅ。妬けちゃうな、咲夜めぇ。こんな一途な人に告白されるだなんて」
「そんなこと言ってぇ、花恋ちゃんも同じくらい咲夜くんのこと好きでしょ?」
「あ、バレちゃいました?」
ちょっと心配してたけど、そんなの必要なかったみたいだね。
「やっぱりそうなると、一人しか咲夜くんと結婚できないっていうのが、もっと辛く感じちゃうねぇ」
「それなんですけど、さっき私と咲夜が異世界出身って言いましたよね」
「うん、言ってたね。それがどうかしたの?」
「私たちの故郷・・・・ルクス・テネディスって名前なんですけど、そこって一夫多妻制なんですよ」
「ほほぅ?つまり、みんなお嫁さんになれると?」
「そのとーりです。皐月はそれが良いって言ってましたけど、美海さんはどうですか?」
「私もみんなが幸せになれる方法があるなら、それが良いなぁ」
美海さんならそう言ってくれると思ってましたよー。
てことで咲夜のお嫁さん三人目けってぇ〜い!
・・・・・・咲夜に告白もしてないのにお嫁さんとはこれ如何に、なんて質問は受け付けません。
「あとはあの超鈍感チキンな咲夜くんに、どう気づかせて結婚まで進めるかだよね。二人の気持ちに気づいてなかったみたいだし」
「それなんですよねー。どうしましょう・・・・・」
「か〜れんさ〜ん!びしょびしょですぅ、助けてくださぁ〜い!」
「ついでに回復魔法もお願いしまぁ〜す」
服や髪から水を滴らせながら件の二人が帰ってきた。
や、ほんとすんません。
魔力の尽きた二人の服を乾かし、回復魔法をかける。
・・・・・・あれ、傷が治らない。
ふむぅ、残ったリバイアサンの魔力に邪魔されて、上手く発動してないのか。
ブレスを喰らった時に染み付いちゃったのかな。
こりゃ自然に治るのを待つしかないねー。
「うそん。俺、肋骨逝ってるのに?」
「まーすぐ治りますって!」
「とりあえず"夜桜"に戻って治療しよっか」
「私も手伝うよー!」
リバイアサンが倒れたことによって崩壊し始めた世界で、賑やかな会話が広がっていく。
このまま崩壊すれば、放り出されて元いた海岸に戻れる・・・・・・はず。たぶん。
「花恋さん花恋さん」
「ほいほい、どうしたの?」
「美海さんに聞けました?」
「うん、オッケーだって」
「じゃ、みんなで改めてしちゃいましょう!」
「えっ、皐月ちゃん、しちゃうってまさか・・・・・・・」
「はい、その通りです!ほらほら、やりますよ〜」
「あっちょっと・・・・・!」
「美海さん、諦めてください。こうなったら皐月は止まりませんから」
近寄ってコソコソ話している私たちを気にせず、ポケ〜っと崩壊する世界を眺めている咲夜。
堂々としている皐月、苦笑いする私にモジモジする美海さん。
それぞれの想いを胸に彼の元へ向かう。
「咲夜」「咲夜さん」「咲夜くん」
「はいはい何かな?」
「「「大好きだよ(です)!私(皐月)たちと結婚してください!」」」
「・・・・・・・・・はい?」
私たちの告白に、咲夜は時が止まったかのように停止してしまった。
◇◆◇◆◇◆
・・・・・・結婚してください・・・・・・・・?
えっと、聞き間違いかな?
聞き間違いじゃなかったら"私たちと"って言ってた?
てことは花恋と皐月も、俺のことを好き・・・・・?
あ、"大好きです"とも言ってたね。
・・・・・・・いやいや、結婚してくださいって、いくらなんでもさすがにねぇ。
「咲夜さん停止しちゃいましたよ?」
「やっぱり突然すぎたんじゃないかな」
再び集まって何やらごにょごにょ話した三人が戻ってくる。
どうやら皐月から説明があるらしい。
「"皐月と花恋さん"、"咲夜さんのこと"、"大好き!"、"美海さんと同じくらい"、"結婚して!"」
「いやなんでカタコト?」
「あ、咲夜が戻ってきた」
「さすが皐月ちゃんだね」
手まで使ってカタコトな説明をする皐月に思わずツッコむ。
おかげで我に返ったけどさ。
「あ、あのさ、花恋と皐月が俺のこと好きってどういう・・・・・・・・」
「言葉通りの意味だよ?」
「なんなら咲夜さんの好きなところ、一つずつ言っていきましょうか?」
「すいません、勘弁してください。羞恥心で死にます」
「ね、合ってたでしょ?この二人も咲夜くんのこと好きだって」
むぅ、たしかに。
これで俺が鈍感だと言い逃れできなくなってしまった。
でもなぜいきなり結婚に?
「みんなが幸せになるにはどうしたらいいかなぁー、って考えた時に、花恋ちゃんと咲夜くんの故郷が一夫多妻制だって聞いたんだー」
「まだ咲夜さんを好きな人は増えるでしょうし、どうせなら向こうでしようかと」
「やー、ルクス・テネディスは一夫多妻制って言っても、それって結婚する時だけだから、何人も同時に付き合うってあんまりなくてさー。だからみんな一斉にってなると、結婚しかないんだよね」
なるほどねぇ・・・・・・・・・。
妬み合うんじゃなくて仲が良いのは嬉しいんだが、いきなり結婚かぁ。
しかも三人と。
皐月が言うには今後も増えるらしい。
「咲夜さんは、皐月たちと結婚するのは嫌ですか?」
「い、嫌じゃないよ!むしろ嬉しい。でもなんて言うか、重いって言うか。まだ俺は三人の人生を預かれるほど大人じゃないから・・・・・・・」
「そんなに難しく考えなくていいのにー」
「咲夜さんは"ハーレム作るぜー!"みたいなノリで行けば良いんですよ」
「私たちがやりたくてやるんだから、咲夜くんはそういう風に考えなくて良いんだよ?」
三人共に気にし過ぎと言われてしまった。
ハーレム・・・・・ハーレムねぇ。
男なら誰しもが憧れるハーレムになれる。
そんな不純な動機で結婚していいものか・・・・・・。
考え方が硬いかもって自覚はあるし、もちろんみんなのことは好きだから結婚したいんだけど・・・・・・。
「まあ実際に結婚するの花嫁が全員揃ってからですけどね」
「そうだね、細々に式を挙げるより、揃えた方が楽だもん」
「今は婚約者みたいな感じかな」
「ちょっと待って、お嫁さん最終的に何人になるか知ってるの?」
「はい、教えてもらいましたから」
教えてもらった!?
さてはまた母さんだな。
未来視もできんのか、一体何者だよマイマザー。
「で、咲夜は結局どうするの?」
「・・・・・・みんなは、後悔しない?」
「うん、もちろん!」
「当たり前です!」
「する訳ないよぉ!」
そっかぁ・・・・・・・・。
みんなにここまで言わせておいて、保留にしたら男としてとか以前にあれだよなぁ。
「よし・・・・・・。花恋、皐月、美海さん。こんなチキンで鈍感な俺だけど、よろしくね!」
崩壊し光の粒子が視界を埋める世界で、俺は満開の笑顔を咲かすみんなの手をとった。




