VSリバイアサン(3)
俺たちが狙ったのは、人間で言う鳩尾部分。
自分の硬さに自信があるのか、他の攻撃は全てノーガードで受けたのに、ここを攻撃した時だけ避けていた。
怪しいなぁと思っていたんだけどご明察、鳩尾の近くに一箇所だけ逆向きの小さい鱗を発見した。
「せい・・・・・りゃあぁぁぁっ!」
「やあ・・・・・あぁぁぁっ!」
息を合わせた一撃は見事に竜の逆鱗に命中し、黒と蒼が入り交じった魔力が四方に渦巻いていく。
さすが竜の逆鱗と言うべきか、リバイアサンの身体には相当の痛みが走っているらしい。
『グオォッ・・・・・・!!オ、オノレェ!』
苦痛に歪んだ顔をしながら、俺たちを退け|るべく魔力の壁を作ろうとしているが、あまりの痛みに魔力が上手く練れていないのか中途半端なものしか出来ていない。
もちろんそんなものでは俺と皐月を止めることはできず、あっさり粉砕して無防備な鱗にヒビを入れる。
『ガフッ、バ、バカなぁっ!我が彼奴以外に負けるだと!!?あってはならぬ!!』
血反吐を吐きながら狙いも定めず、めちゃくちゃに魔法を乱射していく。
当然のごとくそんな悪あがきのような魔法は、全て明後日の方向に飛んでいき虚しく消えてしまったが。
「往生際が、悪いっ!」
「そうっ、ですよ!いい加減、倒れてください!」
あともう一押しというところで、ありったけの魔力を一気に込め、勢いが増した二つの剣が竜の逆鱗を粉々に打ち砕く。
『グオオォォアァァァァアァァァッッ!!?』
凄まじいエネルギーの本流が爆ぜ、リバイアサンの断末魔が辺りに響き渡る。
白い閃光が収まると、リバイアサンが白目を向いてゆっくりと力なく崩れ落ちていった。
ふぅ、やっと倒せたかな・・・・・・・・。
地面に着地した俺と皐月は拳を合わせて苦笑いする。
あー、今回はほんっっっとーに大変だったぁ。
俺なんか肋骨折れてるし、過去最大の大怪我だよー。
「花恋さんに回復魔法かけてもらいましょぉ・・・・・・。皐月はもう、さすがに魔法使う気力ありません〜」
「そりゃそうだよ、こんだけの戦いの後だもん」
現在進行形で落下中のリバイアサンに背を向けて、花恋と美海さんの待つ大陸へと歩きだそうとする。
しかし、誰もがこれで戦いは終わりと思いかけた次の瞬間。
『ギャアァァァァオオォォアァァァァッッ!!!!』
落下中のリバイアサンの目がギョロりと鋭くなり、耳を劈くような咆哮を上げた。
大気がビリビリと震えるほどの圧力に思わず硬直してしまう。
なんっ・・・・・倒しきれてなかったの!?
ガパッと開いた口から少し離れたところに、赤い血のような色の巨大な魔法陣が描かれる。
収束する莫大な魔力ではっと我に返り、瞬時にしまおうとしていた剣を再び抜いて正面に構えた。
またあのブレス!
最初と同じ威力が出るなら、ちょっとやばくない!?
魔力をかなり使ってしまったこの状態では、一発ならまだしも何発も打たれると、受けきれなくなってしまいそうだ。
冷や汗がほおを伝って地面に落ちた瞬間、魔法陣が一際輝く。
「っ・・・・・・・!?」
「なっ・・・・・・!?」
ゴバッと放たれた炎のブレスは、あっという間に皐月を飲み込んで神殿にぶつかった。
爆ぜてあちこちに散らばったその炎は、消えることなく大陸を燃やし始め島中に広がっていく。
うっそぉ、最初のより全然速いし、威力も化け物じゃないですか・・・・・・・。
こんなのを喰らって皐月は無事なのだろうか。
予想外の攻撃力にほおが引き攣る。
すると、再びリバイアサンの口に魔法陣が展開されていく。
「あれが連発可能って、チートかよっ!」
ブレスが放たれる直前に、魔力を纏わせた右足でリバイアサンの顔面を横蹴りし、何とか軌道をそらす。
逸れて放たれたブレスは島の端っこを横切り、海に一直線の炎の道を作った。
・・・・・・海が燃えるってどんな熱さ・・・・・・?
「やあぁっ!」
そのまま高速の斬撃を繰り出し、リバイアサンの身体を後退させる。
くっそ、相変わらず硬いなぁもお!
残された僅かな魔力であの鱗を貫通させ、ダメージを与えるのは至難の業。
決め手が無く苦戦していると、滑らかな動きで攻撃を躱したリバイアサンがその大きな口で俺に食らいつき、海の中に引きずり込まれてしまった。
なんとか剣で牙を抑えて踏みとどまれているけど、結構つらいなこれ・・・・・・・!
俺を咥えたまま自由自在に泳ぎ回ると、今度は海から飛び出して空を駆ける。
そして、かなり上空で突然空中に投げ飛ばされた。
「んわぁ、たかっ!?」
頑張ってじたばたしてみたが、マンガみたいに少しだけ空中を泳ぐこともなく、当たり前のように落下する。
さらに追い討ちのようにリバイアサンの口元に魔法陣が描かれ、放たれた炎のブレスが俺に直撃した。
「っ・・・・・・・・・!」
海岸付近に命中した爆炎は地面を抉りながら神殿を通り越し、島に真一文字の傷を刻む。
ブレスが通った跡はブスブスと炭化していて、中には跡形もなく消し飛んでしまったものもあった。
燃え広がる炎の熱と焦げ臭い匂いを感じながら、俺は片腕を抑えて立ち上がる。
「うへぇ、あっつ・・・・・・・・」
あまりの熱量に汗が止まることなくダラダラと垂れてくる。
他にも気にすべきことはあるだろうが、何よりもまず熱い!
焼ける・・・・・蒸し焼きになる・・・・・・。
コンロかここわぁ!
もう熱すぎて、怪我した左腕の痛みすら薄く感じるんですが。
抑えていた右手を離すと、その掌は血で真っ赤に染まっていた。
うわっ、これやばくね?
全身にも結構傷があるし、口の中も切れて血の味がする。
ん、頭からも出血してるみたい。
とりあえず回復魔法で応急処置っと・・・・・・・あれ、上手く発動しない?
「【ヒール】!【ヒール】!・・・・・・・ふぅ、やっと傷口は塞がったかな」
さてさてーて、こっからどうしようかねぇ。
正気を保っていなさそうなギョロリとした目で俺を睥睨するリバイアサン。
完全に暴走してるよな。
「はぁ、いたたっ・・・・・。まったく、やってくれましたねぇ」
頭を悩ませていると、珍しくそれなりの怪我を負った皐月がため息をつきながらこちらにやって来た。
ちょ、頭から結構血が出てるけど大丈夫なの?
「一応、傷は塞いだので問題ないです!それよりも今は、あれをどうにかしないと」
「意識を失ってもなお、何かを代償にしてリミッターを解除した、ってところかな」
「大方そんな感じでしょうねー。執念が怖いです!」
「勝てる見込みは?」
「ないです」
「だよねー」
ほおの血を拭い、悲鳴をあげる全身を叱咤して剣を構える。
はぁ、見逃してくれたりしないかなぁ。
「この空間から出る方法は、リバイアサンを倒すしかないと思いますよー!」
「・・・・・・・マジっすか?」
「マジです」
はいオワター。
あとは全部、花恋に丸投げしちゃダメだろうか。
「そうしたら、美海さんが危険になりますよ?」
「あー、それはダメだよなぁ・・・・・・・ってやべ、早速ブレス撃とうとしてるじゃん!」
「リバイアサンの消耗を待つ、って言うのは現実的じゃないですよねぇー」
「たぶん俺たちが先に潰れるね」
残存魔力を全て剣に纏わせる。
「でもこんなとこで死ぬのはごめんだし、やれるだけやってみますか〜」
「皐月、これが終わったら結婚するんだ、です」
「死亡フラグやめい。シャレにならないよぉ!」
「フラグはへし折るものです!」
なんて脳筋な・・・・・・・。
決戦前の会話がこんなコントみたいなのとは、締まらないなぁ。
一度顔を向けて笑い合うとさっと気を引き締めて、今にもブレスを放ちそうなリバイアサンを見つめ直す。
『ギャアァァァァオオォォアァァァァッッ!!!』
最大級の咆哮で空間を軋ませ、リバイアサンがブレスを放つ体勢になる。
それに合わせて俺と皐月もそれぞれ技を繰り出す構えをする。
両者の魔力が吹き荒れ、赤と黒、蒼のオーラが揺らめく。
「そこまでにして。見苦しいよ、リバイアサン」
『ギャ・・・・・ォ・・・・・・・・?』
突如、ザンッという斬撃の音とともにリバイアサンの太い首が飛んだ。
出鼻をくじかれた俺と皐月は思わず魔力を解除してしまう。
「・・・・・・あの断面、凹凸が一切ないね」
「硬い鱗をあっさり斬ってますよ?」
警戒をしながらリバイアサンの上空に浮かぶ人物を見上げる。
黒いローブで全身を隠した怪しい男・・・・・いや、女?
声も身長も男女どちらか判断がつけられない。
「そんなに警戒しなくても良いよぉ、君たちに危害を加えるつもりはないからさ」
首の断面に降り立った謎の人物が気さくに話しかけてくる。
リバイアサンに変わる敵キャラかと思ったんだけど、違ったのかな。
「ボクはリバイアサンに、処分を言い渡しに来ただけなんだ。それが終わったらすぐ帰るよー」
黒ローブがトンっと足を鳴らすと、リバイアサンの胴体が黒い炎に包まれて灰となっていく。
首から上も黒ローブが投げた炎で焼かれて燃え尽きた。
「じゃ、ボク帰るねぇ」
はやっ!?
本当にすぐ帰るんだね・・・・・・。
俺たち向けてシュピッと腕を立てると、背後に紫色の穴を作ってそこをくぐろうとしていたが、片足を突っ込んだ辺りであっ、と声を漏らして立ち止まった。
「危ない危ない、忘れるとこだった。魔神王様からサクヤくんに伝言ね?」
「あっはい・・・・・・今なんて?」
普通に返事しちゃったけど、魔神王からの伝言って言った?
「"いつか必ず、キミを私のモノにしてみせる。まっててね"だってさ。じゃ今度こそバイバーイ」
それだけ言い残すと、黒ローブは紫色の穴をくぐりどこかへ消えてしまった。




