VSリバイアサン(2)
「竜の逆鱗、心当たりあります?」
「まあ若干ね。確証はないけど」
土埃をはらって瓦礫から飛び降りると、海で俺たちを睨んでいるリバイアサンの周りに魔法陣が展開されていく。
剣を一緒に錬成していた柄に収めて腰につけ、両拳に魔力を纏わせる。
「手っ取り早く出来る内部攻撃で、カタがつけば楽なんだけどなぁ」
「どうですかねぇ。こういうのって、そう簡単に決着がつかないのが定石ですから」
リバイアサンの咆哮と共にうねる水流が飛び出し、俺たちに襲いかかってきた。
避けても避けても次々と新しい水流が生成されていて、絶え間ない攻撃が繰り返されている。
『キュアアァァァァンッ!キュアアァァァァンッッ!!』
空間に響くような今までとは違う鳴き声がすると、次第に辺りに暗雲が立ち込め天候が荒れ始めた。
海が荒れて波は高くなり、大粒の雨が風に煽られて肌を打つ。
うわっ、雷まで鳴り始めたじゃん!
雨のせいで地面がぬかるんで踏ん張りにくい・・・・・・・。
迫り来る水流と魔力弾を一箇所に誘導し、まとめて殴り飛ばす。
何とか懐に入り込んで一発かましたいんだけど、さっきから遠距離攻撃の嵐で全然近づけないなぁ。
これじゃあ竜の逆鱗についても探れない。
「"花流の舞"!」
踊るような皐月の剣技で周辺の魔法が一斉に両断され、少しの間だけだが弾幕のような魔法の嵐が途切れる。
この隙に残りの魔法を避けながら間合いを詰め、やっと凍っている海岸までたどり着いた。
のだが、その瞬間、足元から俺を閉じ込めるように竜巻が発生し、同時に皐月の下に氷山が現れ、彼女を勢いよく突き上げる。
『【雷帝】』
さらに特大の雷が竜巻の中に落ちて風の中をスパークし、再生した水流や魔法が氷山の上に殺到していく。
ぬあぁっ、しびれる〜・・・・・・・!
「んのぉっ・・・・・・りゃあぁぁぁっ!!」
全身から魔力をオーラのように放出したことで竜巻と雷がかき消されると同時に、氷山全体にビシッと亀裂が入り、水流もろとも粉々に砕け散った。
キラキラと輝いて落ちる氷片を背後に皐月が綺麗な着地を見せる。
あんな高いとこから落ちて、よくそんなに上手く着地できるね・・・・・・・。
俺だったらビビりまくって無理ですわ。
「"黒聖一閃・焔"!」
皐月に破壊されたため薄くなった魔法攻撃をくぐり抜け、避けようとしたリバイアサンのどてっ腹に炎を纏わせた拳を叩き込む。
狙った場所は外れたが、渾身の力を込めた拳はあの硬い鱗にヒビを入れ、炎の衝撃波が身体を貫通して後ろから吹き出した。
『オオォ・・・・・・!!?』
リバイアサンが激しく吐血する。
よし、ちゃんと効いてるみたいだね!
突然の痛みに悶えている隙に俺と入れ替わった皐月も技を繰り出す。
「"明鏡止水・波紋"!」
澄み切った蒼剣の一撃がヒビの入った鱗に当たると、静かにたたえた水面に波紋が広がるように、魔力が全身に響いていく。
『ぐふっ・・・・・ちょこざいな・・・・・・!』
またもや吐血するリバイアサン。
顔を顰めてうめいているから、相当ダメージは入ってるはずだ。
んじゃあこのまま畳み掛けようじゃないの!
リバイアサンもタダではやられまいと激しい抵抗を見せるが、それを縦横無尽に避けて、焔の拳と蒼剣を連続で喰らわせ続ける。
腕をかすめる水の槍を躱して回し蹴りを繰り出すと、リバイアサンの身体が大きく"く"の字に折れ曲がった。
されるがままに倒れ込んでいるから、もう抵抗する気力はないのかな?
『フン、貴様らはこの程度か』
とどめを刺そうとした瞬間、リバイアサンの魔力がとてつもなく膨張し、放射状に放たれた圧によって吹き飛ばされてしまう。
うわぁ・・・・・・・・リバイアサンのやつ、まだこんなに魔力を隠してたのか。
立ち上るオーラが尋常じゃない。
『貴様らの攻撃では、我を殺すことはできん。この程度のダメージなんぞすぐに回復できるのだ。【アクアリング】』
海からリバイアサンを囲むような水のリングが作られる。
そのリングが輝くと、みるみるうちに鱗のヒビや吐血の跡が消えてしまった。
げぇ、回復もできるのかー。
この強さで回復もかなりするとか、ゲームだったらクレームが殺到しそうな敵キャラだこと。
『受けてみよ、我の本気の一撃を』
背をのけぞらせたリバイアサンの口に魔力が集中し、怪しい光を見せる。
ゴパッと凶悪な音と共に放たれのは、炎を凝縮したような極太のブレス。
はやっ・・・・・・・!?
避けるまもなく俺たちの目の前まで迫ってきている。
明らかに威力がおかしそうなのに、さらにこの速さは反則だろ!
内心で悲鳴をあげながら一瞬で抜剣し、黒いオーラを纏う黒剣で紅のブレスに対抗する。
「んにぃ、おっもぉ・・・・・・・!」
「咲夜さん、上に逸らしますよ!」
「りょーかい!」
地面に足が陥没するほど踏み込んで少しずつ軌道を上に逸らしていく。
ビキビキと腕や足に痛みが走るが、そんなのお構い無しにもっと力を込めて、やっとの思いでブレスを受け流した。
「やっ・・・・・・たぁ!?」
ブレスが彼方に消えた瞬間、四方から水の槍が降り注いできた。
あっぶないなぁ!
逃げるのがちょっと遅れてたら串刺しになってたよ!?
増加した魔力量に比例して魔法の総量や質も上がっているため、最初より避けるのすらも楽じゃない。
これじゃあ近づけないどころか、気を抜いたら一瞬で全滅するぞ・・・・・・・!
ふと、俺の周辺だけ影が差した。
マズいと思った時にはもう遅く、巨大なシッポが真上から叩けつけられた。
うつ伏せのままさらに力を込められ、全身からメキメキと嫌な音が鳴る。
唇の端から血がこぼれ落ち、口の中に鉄の味が広がる。
「そう簡単にやられて、たまるかぁ・・・・・・・!!」
気合いで四つん這いまで体勢を上げ、なんとかそこから脱出した。
いってぇー、これ肋骨数本逝ったんじゃないの?
「きゃっ、ちょ、それはきついですよぉ!」
俺がシッポに押しつぶされている間に、魔法の集中砲火を受けた皐月も所々から血が流れている。
やべ、完全に押されてる。
すると今度は俺に魔法が殺到し、皐月の方にすごい勢いでシッポが振られていく。
過剰なほどの魔法が俺に降り注ぎ、圧倒的な火力で辺りを破壊し尽くして氷片の煙を巻き上げる。
皐月の方でも同じように、シッポの一撃で氷片の煙が上がっていた。
『あっけないものだ。ここまで早く終わってしまうとは・・・・・・・・・』
見下したような視線で、煙の上がる俺たちの場所を眺めている。
だがその顔は次の瞬間、驚愕に変わった。
「まだ終わりじゃないさ、俺たちは倒れてないよ」
「さすがに皐月たちを舐めすぎです!」
煙から飛び出した俺と皐月は、リバイアサンに反撃の隙を与えず懐に潜り込む。
内部攻撃が効かないとなると、残るは竜の逆鱗のみ!
こいつは伝説上の竜と違ってあごに逆鱗がない。
伝説上の竜は八十一枚の鱗の中で唯一、あごの下の一枚だけが逆さに生えているとされていて、それが逆鱗になっている。
マジレスするようだけど、でもリバイアサン、明らかに八十一枚以上の鱗あるじゃん?
皐月が最初に首を攻撃した時にちらっと見たけど、それっぽいものはなかったらしいし。
だけどそれ以外の場所となると、この巨体をくまなく探すのはさすがに骨が折れる。
駄菓子菓子、安心したまえ心当たりはある。
リバイアサンが無意識の内に守っていた場所。
それは─────────────。




