VSリバイアサン
『グオオォォォォォッ!』
劈くような激しい雄叫びがビリビリと大気を揺るがした。
リバイアサンの周りを衛星のごとく回るいくつもの水の塊から、一斉に圧縮された水が一筋のレーザーのように放たれる。
「咲夜さん受けちゃダメです、避けて!」
反射的に剣で受け流そうとしていると、横から皐月の切羽詰まった声が聞こえてきた。
素直にそれに従って躱すと、レーザーはそのまま大地を斬り裂いて遥か彼方の海へと消えていく。
驚くべきはレーザーによってできた断面に、全くヒビが入っていないということ。
滑らかに斬られた断面が、肉眼では見渡せないほど深くまで続いている。
うわぁ・・・・・・・・。
最初からこんなの使ってくるの?
今のを受けてたらちょっとやばかったかもね。
壊れることはなかっただろうけど、剣に悪いことに変わりはない。
俺もまだまだだなぁ、やっぱり。
ただがむしゃらに全部斬って受けるんじゃなくて、その技を見極めてどうすればいいのか、ちゃんと判断できるようにならないと。
「皐月、ありがと!」
「どういたしましてです!でも、これから余裕がなくなってくと思うので、次は何かあっても助けられませんからね?」
「うん。いつまでも皐月に甘えてる訳にも行かないからね。戦いの中で成長してみせる!」
「期待してますよ〜!」
「任せといて!」
思いっきり地面を蹴って距離を詰め、リバイアサンのお腹(胴体が長すぎてそれで合っているか分からないが)を斬り上げる。
ガギィンッという硬い音がしたと共に衝撃が腕に走り、思わず顔を顰めてしまう。
くぅ・・・・・かたぁっ・・・・!?
この鱗、普通の攻撃じゃビクともしないな。
「【サンダーショット】!」
水属性の弱点である雷属性の魔法で攻撃してみたが、これも全く効かなかった。
む、魔法も効果があんまり期待できないとすると、あとは・・・・・・・。
「"蒼天・天之河"!」
『・・・・・ふん、小賢しい』
輝く蒼剣がリバイアサンの首に命中し、その巨体を僅かに揺さぶる。
魔力で強化した技だけど、リバイアサンの様子を見る限りそんなに効いていないみたいだ。
皐月の技ですらこうだなんて、一体どんだけ硬いんだよ・・・・・・・。
『【氷結の弾丸】』
上空に浮上した水の塊が一瞬で凍りつき、砕けたそれは細かな散弾となって無差別に降り注ぐ。
一つ一つが細く尖っている上に強度もそれなりにあるため、受けるのだけで一苦労だ。
チラッと花恋と美雨さんの方を見たけど、二人とも結界に守られてなんともない様子。
氷結の弾丸とやらの攻撃範囲がかなり広く、大陸部分を全て飲み込んだだけでは飽き足らず、その周りにある海さえも巻き込んでいる。
氷の弾丸は海面に当たると同時にジュワッと溶けるような音がして、次の瞬間にはそこが凍ってしまっていた。
うえぇ、なにそれそんなことある!?
次々と海は凍り、技が終わる頃には大陸は氷で囲まれてしまっていた。
心なしか体感温度が下がっているような。
だけどちょうど良かった、海に足場ができたのは大きい。
「"紫電一閃"」
視認すらままならない速度で氷の上を駆け、紫色の雷が尾を引く斬撃をお見舞する。
接触部から感電した雷が全身に流れて、たまらずリバイアサンが長い胴体をのけぞらせ絶叫した。
よし、少しはダメージ入っただろ!
『グガァアァァァァァァァッッ!?くっ、小癪なぁ・・・・・・・!』
「うわっ!?」
空中で身動きが取れないタイミングを狙って翼が打ち付けられる。
あまりの衝撃に海面に張られた氷を突き破って海に沈んでしまった。
がぼっ、い、息が・・・・・・・!
氷に叩きつけられた衝撃で肺の空気を出しきってしまい、もう息を止めてるのが限界に達しそうだ。
海水で滲む視界の中、ふと何かが光ったような気がした。
・・・・・・なんだあれ・・・・・?
よく目を凝らしてみると、それは鈍い光を放つ鱗が集まったシッポだった。
やばいと思った時にはもう時は既に遅し。
水中でより加速したシッポが俺のお腹に突き刺さり、勢いでまた氷を砕きながら空中に投げ出される。
「ぐふっ・・・・・」
『どうした、そんなものかぁ!?【インフェルノ・ブレス】!』
思わず苦悶の声を漏らした俺に、容赦なく追い討ちの火炎放射が迫り来る。
歯を食いしばって剣を引き絞り、それを向かい打つ。
「あんまり・・・・なめんなよぉ・・・・・!」
斜め一線に振られた黒剣はいとも容易く煉獄の炎を斬り裂き、その剣筋から放たれた黒いオーラの斬撃がリバイアサンに衝突する。
・・・・・・やっぱり効いてないか。
「咲夜さん、大丈夫ですか?」
「ん、背中とお腹がじんじんするけど・・・・・まあ、大丈夫だと思うよ」
二回も背中で氷を削ったし、容赦ないシッポの突きで腹筋がシャレにならないレベルで痛い。
ほんの一瞬魔力で防御するのが遅かったら、身体を貫通させられてたかもしれないなぁ、っと。
大きく口を開けたリバイアサンが俺たちを捕食しようと迫ってくる。
左右に躱して回転を加えた一撃を顔面に喰らわせるが、やはり鱗は斬れず鬱陶しそうに振り払われてしまった。
『"破壊の渦"!』
「わっ!」
「ぬぅーー!?」
海から飛び出した二つの渦潮が俺と皐月を捕え、ものすごい回転を加えながら倒壊していた建物に叩きつけられた。
ズドドンッ!と衝撃音が走って、かろうじで残っていた建物の部分も崩れ落ち、瓦礫の山となって俺たちに降り注ぐ。
盛大な土煙が収まり、そこには無惨な状態の元建物だった破片が散らばっていた。
「ん〜〜〜、よいしょっ!・・・・・・あー、危なかったです」
大きな壁を軽々と横に投げ捨てて、びしょ濡れの皐月が溜息をついて出てきた。
瓦礫の上で髪や服から滴り落ちる水滴を絞りながら、皐月は自分の左側を見つめる。
「いつまで埋まってるつもりですか、咲夜さん!これでやられるほどヤワじゃないでしょうに!」
「・・・・・・・む、無茶言わないでよ〜。俺は元一般人だよ?こんなのまともに喰らって無事なわけぇっ、あるかーい!」
上に乗っかっていた瓦礫を吹き飛ばして、何とか皐月の横まで這い上がる。
あぁ、きもちわりゅい。
せっかく服直したのに海水でびしょ濡れだし。
「ってちょっと皐月さん、服、服が!」
「え?服がなん・・・・・・あ、そういう事ですかぁ」
目を逸らした俺を首を傾げて不思議そうに見た後、自分の服を見て納得したように頷いている。
海水で濡れた服が肌に密着して、下着がハッキリ見えてしまっていたのだ。
・・・・・・・・なのに何でそんなに落ち着いてるんですかね。
「まあなんて言うか、咲夜さんなら良いかなぁって」
「なぜに!?」
もしかして俺のこと、そう言うのを見ても恥ずかしくて何も出来ないチキンだと思ってます?
まぁ、ぐうの音も出ないほどその通りなんですけどね!
「でも良い年頃の乙女がそんな事しないの!ほら、早く隠すなりしてぇ!」
「言ってることがお母さん!しょうがないですねぇ、初心な咲夜さんのためにササッと乾かしちゃいますか」
無属性の魔法が発動し、皐月の服が一瞬で乾いた。
・・・・・・・無属性魔法ってほんと何でも出来るね。
「咲夜さんのもついでに乾かしときますね!」
「お、ありがとー」
魔法で乾いた服は、まるで干したてのような感触がした。
「さて、まずはあの硬い鱗を突破しないとですねぇ!咲夜さんは何かいい方法あります?」
「うーん・・・・・・・・」
ゲーム、アニメ、ラノベやマンガでは硬い敵を相手にする時どうしてた?
高火力でゴリ押し・・・・・・は、魔力が回復しずらいこの世界ではあまり効果的じゃあない。
さてさてさーて、どうしたものか・・・・・・・・・。
ん?そう言えば、つい最近似たようなものを見た気がする。
たしか、硬い表面じゃなくて内部を攻撃するんだっけ。
よし、これで行ってみよう。
とは言え、そう上手くいくかなぁ。
リバイアサンが易々とやられるわけなさそうだし・・・・・・・。
でも今はこれしか思いつかないから、やるしかないよね。
あっ、あとは逆鱗か。
"竜の逆鱗"を見つければ、大ダメージを与えられるかもしれないな。
まあ場所が分かればの話なんだけど。
こっちは戦いの中で見つけるしかない。
とりあえず、試せる方からやっていこう!
この考えを皐月に話して作戦をすぐに決め、俺たちはリバイアサンへと向きなおった。




