マイマザーってばもう・・・・・!
辺りを染めあげた光が収まると、そこは人の気配が全くないどこかの建物の中だった。
柱に挟まれた道が光の漏れる出口まで続き、奥の一段高くなったところにはシンプルなデザインの玉座が設置されている。
俺たちはその玉座の前に立っていた。
あら、入ってすぐに魔物がいるとも思ってたんだけど、どうやら違うみたいだね。
「あはは・・・・・地球にもこんなファンタジーなことってあるんだねぇ〜」
初めての転移にびっくりしている美雨さんが落ち着くまで、少しの間この部屋を探索することにした。
見た限りでは神殿のような作りをしていて、天井から地面まで至るところに幾何学模様(?)と魔法陣が混ざったようなものが刻み込まれている。
なのに柱だけはまさに"The・神殿の柱"みたいなシンプルなもので、一切の装飾がされていない。
おかげで柱だけがやけに目立って見えるなぁ。
近くにあった柱に触れてみると、ヒンヤリとした石のような感触がした。
素材は普通の石っぽいし、何か魔法が込められてる訳でもなさそう。
同じく床の模様にも触れてみたけど、こっちも何かが仕掛けられているような気配はさっぱり無かった。
・・・・・・・にしてもこれ、なんて書いてあるんだろうね。
大事な術式なのか、はたまた意味なんてないのか。
わざわざ柱だけに書いてないんだから、何かしら意味はありそうだけど、花恋さえもお手上げな代物らしいので、今はどうすることも出来ない。
気を取り直して他のものを観察しよう。
次に気になったのは、玉座の後ろとその横の壁に描かれた計五枚の壁画だ。
玉座の後ろにはヒレに似た翼を生やした蛇のような竜と人間の戦いが描かれた大きな壁画が一枚。
右の壁には宙に浮かぶ紫色の球体とその下で雄叫びをあげる竜の壁画と、燃える街と津波から逃げ惑う人々が描かれたものの二枚。
そして左の壁には、人々が跪き崇めている純白の翼が生えた白髪の人(?)と、竜の頭に乗り漆黒の翼を生やした黒髪の人(?)が対比されるように描かれたもの。
最後の一枚では両者が激しくぶつかり合うところで終わっていた。
どうやら五枚一セットで物語になっているらしい。
肝心の結末は描かれていないが。
この後どうなったんだろうね。
人々に崇められているのは|見た目的に天使で、こっちの黒い翼の方は堕天使・・・・・・なのかな?
「咲夜ぁー、美雨さん大丈夫みたいだからそろそろ行くよー!」
「あいよー」
「皐月と咲夜さんが前を行くので、美雨さんと花恋さんは後ろから着いてきてくださいね」
二人がコクリと頷いたのを確認して、俺と皐月を先頭に警戒を怠らないようにしながら外に出た。
そして最初に視界に飛び込んできたのは、どんよりとした暗い色の雲と高く波打つ荒れ気味の海。
大陸部分は神殿を中心に半径二十メートルほどの円形になっているようで、他は見渡す限りの大海であった。
大地にある木や花などの植物は全て涸れ、少数しかない建物も残らず崩壊している。
当然だがここでも人の気配は微塵もしない。
しかし、先程とは違い海の方からはとてつもない大きさの魔力を感じる。
すると件の海が急に荒れ狂いだし、大小の激しい渦潮が俺たちの正面に出来上がっていく。
「・・・・・・・花恋と美雨さんは少し下がってて。俺たちの近くにいると危なそうだから」
「花恋さん、美雨さんのことよろしくです!」
「ふ、二人とも気をつけてね!」
美雨さんが顔を青くしながらも俺と皐月を気遣ってくれた。
サムズアップでそれに応え、未だに激しさと大きさの増す渦潮に向きなおる。
「咲夜さん、武器って持ってますか?」
「今日スライムと戦った時に一応作りはしたけど、あれじゃちょっと心もとないかなぁ」
「・・・・・・・・でしたら、これをどうぞ」
皐月が蒼剣とともに【ストレージ】から取り出したのは、黄緑色をした巨大な何かの木の枝先だった。
「これ、なに?」
「内緒です!素材としての優秀さは保証しますから、それでちゃちゃっと武器作っちゃってください!」
「りょ、了解!」
渦潮を見るとどうやら時間もほとんど無さそうだし、これが何か気にしてる場合じゃないか。
錬成魔法を使うと枝先が虹の光を帯び、ありえない速度で、しかも正確に錬成が終わり、俺の記憶と比べても大差ない黒の片手剣が出来上がった。
魔力の流れがえらくスムーズ・・・・・・・・・。
ちゃっかり色も変わってるし、どんだけ質の良い素材なんだか。
俺の錬成が終わって間もなく、海から渦潮を割るように巨大な蛇のような竜がゆるりと姿を現した。
ヒレが進化したと思われる翼を持ち、頑丈そうに蒼く輝く鱗、口からは凶悪な鋭い歯が覗き、二本の太いツノが頭に生えている。
『我は封印から覚めし古の幻獣、リバイアサンなり。我の領域に入りし下賤の者たちよ、今すぐここから立ち去れ』
おおぅ、開口一番に下賤の者って口悪すぎない?
俺たちを見る視線からも見下していることがよく分かる。
『我はこれより、魔神王様に謁見するため世界を渡る。貴様らの相手をしている暇はないのだ』
魔力が込められた声で威圧され、抵抗力のある俺たちは無事だったものの、美雨さんは顔を真っ青にして手足を震えさせた。
すぐさま花恋が結界を張ったことで大事には至らなかったが、あのまま浴びていたらどうなったことやら。
ちなみに俺もちょっとキツい。
けど、こんな状況でビビる訳には行かないでしょ!
「"魔神王への謁見"・・・・・・スライムと同時に来たのなら、何故このタイミングで・・・・・・?リバイアサン。あなたは封印されていたそうですけど、それはこっちの世界でなんですか?」
『・・・・・・・貴様らには関係あるまい』
「いやぁ、関係大ありですよ?こんなのが魔神王の元へ行こうとしているのに、止めない理由がありません!」
最初から全力で剣に魔力を纏わせ、いつでも動けるように構えをとる。
この黒剣、魔力の浸透性が異常に高いんだけど・・・・・・・・。
いつものようにやったはずなのに、その二倍は性能が上がっている。
効率良く魔力が使われている証拠だ。
『フン、貴様らでは我を止めることなんぞ出来まい。それに先程言ったであろう、相手をしている暇は・・・・・・・・・・まて、この忌々しい気配・・・・・・・!』
器用に鬱陶しそうな顔をした直後、俺から溢れる魔力を見たリバイアサンが驚愕に目を見開いた。
黙り込んだ古竜の瞳が蒼い光を帯び、その何もかも見透かすような眼差しが俺を射抜く。
『やはり貴様・・・・・隠しているあの力、そして質まで奴と酷似している・・・・・・・・・!なるほど、貴様を下賤の者と言ったのは撤回しよう』
「・・・・・・・どういう風の吹き回しかな?」
「たぶん、咲夜さんの本来の力に気づいたんだと思いますよ」
「えぇ〜何それ、本来の力があるとか初耳なんですけど」
記憶を失くしたのと一緒に、力まで失ってたってこと?
リバイアサンですらこんな反応する力って・・・・・・・・。
『フ、フハハハハッ!!まさか、このような事になろうとは!よかろう、貴様らの相手をしてやる。今ここで積年の怨み、屈辱を晴らすこととしようではないか!!!』
憎悪に歪んだ表情のリバイアサンから魔力が吹き出し、次第に天候や海の荒れが酷くなっていく。
ちょ、何でこんなに怨まれてんの!?
身に覚えが無いんですが。
「・・・・・・・・またかぁ。これ絶対またアリス伯母さん絡みでしょー?あの人ったらもう・・・・・・・・・」
後ろにいた花恋がそう呟きながら頭を抱えている。
彼女はオロオロする美雨さんに「うぅ、大丈夫ですぅ」と顔を上げて言うと、視線だけ皐月に向けた。
アイコンタクトを受けた皐月もこの苦笑い。
二人がこんな反応をするとは・・・・・・・・・まだ見ぬマイマザーよ、あんた一体なにしでかしたんだ。
『一瞬で終わらせてはつまらぬ!じわじわと追い詰めなぶり殺しにしてやる・・・・・・・・・!!』
リバイアサンもひどくない!?
怨むなら俺じゃなくてお母さんの方を・・・・・・・・いや、それもどうかと思うけども!
筋違いな怨みで際限なく膨らんでいく魔力を前に、涙目になりそうな俺であった。
◇◆◇◆◇◆
目の前で繰り広げられそうになっている戦いを、結界の中から見守る二人の少女。
その片方である花恋が、一歩前に出て【ストレージ】からレイピアを引き抜く。
「この中は安全ですし、万が一の場合も私が守るので、美雨さんは二人の戦いをしっかり見ててください」
「うん・・・・・・・ごめんね、私なんかのために。私がいなかったら、花恋ちゃんも戦いに参加できて、咲夜くんや皐月ちゃんにも迷惑をかけなくて済んだのに」
「良いんですよー。あの二人なら大丈夫ですし、美雨さんが本気で咲夜のお嫁さんになりたいって思ってるなら、遅かれ早かれ同じようなことはしますから」
「・・・・・・・・花恋ちゃんは反対しないの?君もその、咲夜くんのこと好きでしょ?」
「あーっと、それなんですけど、美雨さんが良ければ一つ提案があるんですよねぇ。ですけど、それはひとまず後で。今は戦いを見ることに集中してください」
「そうだね、みんながわざわざ頑張ってくれてるんだ。私も頑張らなきゃね」
ひとつ頷いた美雨はしっかりとした眼差しで、目の前で始まりだした戦いを見つめるのであった。
〜そう言えばしてなかった切実なお願い〜
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物語の大筋は変えられませんが、できる限りそれを参考により良いものを書ければいいな、と思っています!
最近、増えてなくてちょっと落ち込んでるんです(泣)。
なんでもするので本当にお願いしますぅ!




