ちょっと待ったぁ!
" ──────私は初めて会った時からずっと、ずぅ〜〜と君のことが、だぁ〜〜〜〜〜い好きなんだぁ!"
美雨さんの突然の告白に動揺を隠せない。
微笑む美雨さんを直視できなくて思わず視線を逸らす。
・・・・・・・・きっと今の俺はさぞ真っ赤になってるんだろうなぁ。
「あの、初めて会った時ってやっぱり、ここで迷子になってた・・・・・・」
「うん、迷子になってた"みうちゃん"とは私の事よ!あの時は"さくやちゃん"のこと女の子だと思ってたからさ、こんなにドキドキしてるの何でだろうってすごく困惑したんだぁ」
「・・・・・・・俺も女の子に間違われることが多すぎて、もういっか、ってあの時は苦笑いだけでしたもんね」
「あー、たしかにそうだったねぇ。咲夜くんが初めてバイトに来た時はすっごい驚いたんだよ?あの子と瓜二つの男の子で、名前まで一緒だったんだから。でも、話してる内に君があの"さくやちゃん"だって分かって、そしたらこのドキドキは恋なんだって思ったの」
はにかんだ美雨さんが俺の手を取り、胸の前で大切そうにぎゅっと握る。
柔らかな手のひらから伝わる体温に思わずドギマギしてしまう。
「咲夜くんに褒めてもらいたくてオシャレしたり、振り向いて欲しくてアピールしたりもしたなぁ。君は全然気づいてくれなかったけどねー」
茶化すような視線に少し・・・・いやかなり罪悪感が湧いてきた。
今思い返してみれば、あんなに分かりやすく"好きだよ!"って言ってるようなものだったのに。
それに気が付かないどころか「からかいですよね?」なんて言っちゃってましたわ、俺。
・・・・・・・・・自分の鈍感さが恨めしい。
自己嫌悪で死にそうぅ・・・・・・・・・・・!
「私的にはあんな関係も好きだったから、ゆっくり時間をかけて私の気持ちを知ってもらえれば良い、って考えてた。でも、そういう訳にも行かなくなっちゃったからさ」
「? 何かあったんですか?」
「今もなお咲夜くんの鈍感さは健在かい、このにぶちんめ!花恋ちゃんと皐月ちゃんだっけ。あの子たちも君のこと好きに決まってるじゃないか!」
「ええぇ!?そ、それはさすがに・・・・・・。俺がそんなモテるわけないですよぉ」
人差し指で頬をかきながら苦笑いする。
・・・・・・とは言え、心当たりがない訳でもない。
特に皐月。
疲労で倒れた後らへんから、俺に対して少し積極的になっていたような・・・・・・・。
花恋は何かあった訳でもないけど、最初からあんな感じだったもんね。
まさか、ここでも俺は存分に鈍感さを発揮していたのか?
・・・・・・・・・なんだか無性にベットの上でゴロゴロ悶えたくなってきたなぁ。
色々思い当たる節があって遠い目をしていると、美雨さんが握った俺の手で遊びながら残念そうな顔をする。
「本当は同じ人を好きな同士で仲良くしたいんだけど、咲夜くんと結婚できるのは一人だけ。日本が一夫多妻制だったら良かったのにね」
「・・・・・・・明治時代までは、日本も一夫多妻制だったらしいですよ?」
「へぇ、そうなんだ。何で変えちゃったんだろ」
「何ででしょうねぇ」
たぶんもう一生使うことの無いマメ知識。
そもそも何で俺はこんなの知ってるんだろうか。
「ま、それはともかく。選ばれるのが一人だけなら、今までみたいにのんびりしてる訳にも行かないのさ。他の二人に先を越されちゃう」
もう一度俺の手を優しく包み込んだ美雨さんが、グイッとお互いの吐息がかかる距離まで詰めてきた。
至近距離の美雨さんの瞳から目が離せない。
クスリと笑った彼女は、頬を朱に染めて少し恥ずかしそうに口を開く。
「だからね、咲夜くん。君のことが好きです。私と付き合って────────」
「はわぁっ!?」
「うきゅぅっ!?」
「「え!?」」
美雨さんの最後の言葉に被さるように、二人の少女が折り重なった状態で転移してきた。
どうやら転移する場所をミスったらしく、地面より少し上に現れて二人して転んでしまっている。
・・・・・・・・・・花恋と皐月じゃん。
奇跡的に周りに人が居なくて助かったけど、美雨さんにはバッチリ転移を見られちゃったかな。
と言うか、何で俺がここにいるって知ってるんですかね・・・・・・・?
「もう、皐月は慌てすぎだよぉ!」
「うぅ・・・・・すいません。ちょっと落ち着いてきました」
何故か起き上がるや否や、皐月が正座して怒られている。
えぇ、これどんな状況・・・・・・・・?
隣の美雨さんも呆気に取られて呆然としていた。
やがて短い説教が終わると、服に着いた汚れを落として二人がこっちにやって来る。
「あ、初めまして。咲夜の同級生の輝夜 花恋です、どうぞよろしく」
「同じく白川 皐月です!」
「あはい、どうも・・・・・・・・・・・・・・・・って、そうじゃなくないかな!?えっ、ちょっと待って、今どこから来たの!?」
まぁ当然そうなりますよねー。
この二人ならイタズラに魔法を一般人に見せるなんてことないと思うから、美雨さんに見せたのは何か魂胆があったのだろうか。
「ん?まーそりゃ、あったっちゃあったけど、一番は咲夜が告白されてるって聞いたからだよ?」
「んん、それ誰から聞いたの!?情報がリアルタイム過ぎない!?」
「アリスさん・・・・・咲夜さんのほんとのお母さんですよ〜!」
「あ、そうなんだぁ〜て何だって?今すごく大事なこと・・・・・・・・・・」
「それはまた後でね。それで美雨さん、私たちはあなたにいくつか見て欲しいものと、提案があるんです」
「え、えぇ・・・・・・?よ、よく分からないけど、花恋ちゃんと皐月ちゃんがそう言うってことは、咲夜くん関連なんだよね?」
「そういうことですねぇー」
「なら聞くしかないよー。私たちの今後にも関わるからね!」
「あらら、意外とあっさり」
「ありがとうございます!では皐月たちに着いてきてください!」
意外そうな顔をする花恋と対象的な様子の皐月を先頭に、コスモワールドを出て海岸へ向かっていく。
俺も美雨さんが転移についてもっとツッコむと思ってたから、あのまま流したのは少し意外だった。
まあ俺は皐月が言ってたことが一番気になってるんだけどね!?
俺の本当のお母さんの名前は"アリス"と言うらしい。
この名前を聞いた瞬間、頭にノイズが走ったような気がしたけど、特に記憶が戻るようなこともなかった。
でも"アリス"という名前を聞くだけで、どこか懐かしいような、安心できるような感覚がする。
本当のお母さんかぁ・・・・・・・・いつか会ってみたいな。
「着きました、ここです!」
コスモワールドから出て数分後、皐月が目的地と言ったのは何を隠そう俺がスライムと戦った場所だったのだ。
そして今、魔眼で見てわかったけどなんかヤバそうなのがいる。
俺たちが立っている場所から数メートル先を境に、視認できない違う空間が構築されていて、そのバカでかい空間の中に恐ろしい魔力を秘めた魔物らしき気配が一つ。
その圧に当てられた美雨さんの顔色が悪くなり身体も震えている。
「・・・・・・・・・スライムと一緒に来たのかな」
「たぶんそうじゃない?正直こいつ、やばいよ。最強の種族と呼ばれた竜種だと思う」
「ファンタジーにありがちな設定だなぁ。じゃあ前に花恋と皐月が戦ってた、ヴラフォスドラゴンもそうだってこと?」
「あれは下級竜。この先にいるのは上級竜だから、ケタ違いに強いはずだよー」
「まさか、美雨さんも連れてくの?」
それはあまり気が進まない。
あの空間に入るだけで一般人は死にに行くようなものだ。
「それは安心して、私が責任もって守るから。その代わり上級竜の相手は二人に任せちゃうけど」
「お任せ下さい!これは私たちのためでもありますからね!張り切ってやっちゃいますよぉ!」
「まあ花恋が守ってくれるなら安心だけど・・・・・・・・・」
俺たち二人で上級竜に勝てと?
あ、無理っす、俺が足でまといになる未来しか見えない。
ふんすっ、と息巻いてやる気十分な皐月が居れば、何とかなりそうな気がしないでもないが。
一応花恋も遠距離魔法で援護してくれるらしいし。
「じゃあ美雨さん。信じられないかもしれないですが、これから見るものは幻でも夢でも何でもなく現実です」
「うん、覚悟は出来てるよ!」
「そうみたいですね。まあ安心してください。さっき言ったように私が守るので、絶対死ぬようなことはないですよ」
俺と皐月が同時に魔力を纏わせた手を空間の切れ目に当てると、ズブズブと沼のような感触とともに俺たちの身体を引き込んでいく。
それに全員が入りきると、次の瞬間、視界が真っ白に染め上げられた。




