VSリリス(2)
「"天晶閃牙"!」
「"蒼天・天之河"!」
すれ違う魔力弾や槍を斬りながらリリスに接近し、光り輝くレイピアで連続突きをお見舞すると一撃ごとに障壁にヒビが入り、三連撃目で粉々に砕け散った。
リリスは翼をはためかせて距離を取ろうとするが、すかさずワンテンポ遅れて技を繰り出した皐月が追撃する。
しかしそれも、あっという間に張られたもう一枚の障壁によって防がれてしまう。
「くぅ、今のでもダメですか」
「ちょっと危なかったけどね〜。【カマイタチ】」
大きく開かれた翼から放たれる、見えない風の刃を至近距離で受けたことで弾き飛ばされ、強制的に距離を取られてしまった。
んー、この距離を保たれると剣での攻撃が当たんないし、リリスの魔法を捌くのにリソースを割いちゃって正直きついなぁ。
「うふふ、やっぱりこのぐらいじゃ、ちっとも倒されてくれないわねぇ〜。それじゃあ〜、少し違う手で行ってみましょうかぁ〜」
リリスがパチンと指を鳴らすと彼女の背後の魔法陣やそこから放たれていた魔力弾や槍、弓矢などの弾幕が次々と消え失せていく。
「【土人形創造】、【召喚】」
変わりに地面に複数の大きな魔法陣が描かれて、中心からは巨大な角張ったゴーレムが四体、その他からは無数の下級魔物や数体の上級魔物が召喚されていく。
うわー、これはこれで面倒だねぇ・・・・・・・・。
私と皐月が上空に逃れてすぐに足元は魔物で埋め尽くされ、召喚が終わる頃には辺り一帯魔物だらけになってしまった。
「あわわ・・・・・・・これ、全部で何体いるんですかぁ・・・・・・?」
「ざっと千体以上は居そうだよ・・・・・・・」
隣でその光景を眺めている皐月が、驚きを隠せないといった様子で呟く。
たしかにこれだけの数の魔物と契約している上に、それを常駐させても魔力が枯渇しないだけの量( 召喚魔法で召喚した魔物を現世に留まらせるには魔力が必要 )が、【ゲート】の向こうから贈られてると考えると頭が痛くなるね。
魔物がいくらいても負ける気はしないけど、多勢に無勢とも言うし、数で押されると分が悪いように感じる。
まあでも・・・・・・・・・。
リリスの命令が響き、遠隔攻撃のできる魔物が放つ魔法が嵐のように乱舞して私たちに襲いかかってくる。
「【フレイム・テンペスト】!」
「【フリーズ・コフィン】!」
しかし、背中合わせになった私と皐月が発動させた、全てを焼き尽くす業火の嵐と全てを凍りつかせる氷結の氷柱が、迫り来る魔法をものともせずかき消して魔物たちを蹂躙し始めた。
「あいにく殲滅級の魔法は大得意だよぉ!」
「花恋さん、そんな使いどころが難しい系統の魔法極めてたんですか・・・・・・・・・?」
「ふっ、私は叔母さんに仕込まれてほぼ全部の魔法を極めてるんだよー。叔母さんはググッてしてドーンッてするとか、感覚で教えてきたから理解するのに結構時間かかったんだぁ・・・・・・・・・・」
「目が死んでますぅ。よほど大変だったんですね・・・・・・っと」
皐月が苦笑いしていると、私たちの攻撃から逃れたゴーレムが大きく振りかぶって薙ぎ払うように腕を振るう。
おっと、仲良くお話してる場合じゃなかったね。
ゴーレムはだいぶ頑丈なようで、大ダメージは受けているものの一体も欠けることなく突っ込んできていた。
「 "蒼天・霖雨流聖"!」
魔力によって巨大化した蒼剣が振り下ろされると、正面にいたゴーレムどころかその背後の魔物たちまで一刀両断する。
・・・・・・・・皐月は怒らせない方が良いかもしれない。
全然大丈夫そうだし、ゴーレムは皐月に任せて私は上級魔物を相手しようかな。
サーベルタイガーのように発達した鋭い二本の牙を持つライオンの魔物、トゲのある硬そうな甲羅に籠る亀の魔物など、バリエーション豊富な魔物たちが私に襲いかかってくる。
「ふっ!」
突進突きで亀の魔物を仕留め、引き抜いた勢いのまま後ろの魔物たちも斬る。
ライオンの魔物が牙から電気をまとった真空波を、サイの魔物の角から衝撃波が放たれるが、閃光のように動く私には当たらず虚しく空を切った。
「"神光閃舞"」
残像すら残さない勢いで魔物の間を駆け抜けて斬撃を喰らわせ、立ち止まった私がレイピアについた血を払うと、斬られたことに気づいていなかった魔物たちが一斉に断末魔を上げて血の海に沈んだ。
背後から気配を感じとり急いでしゃがむと、さっきまで私の首があった位置に鋭い手刀が突き刺さる。
「あらぁ〜、てっきり油断してるんだと思ったのにぃ〜・・・・・・・・」
「私は常に相手を侮らないようにしてるからね。もう油断して大切な人を奪われるのはごめんだよ」
胴体への蹴りは避けられたけど、気にせずレイピアでの攻撃に蹴りや拳のフェイントを入れながら追い打ちをかけた。
リリスってば、意外とこう言うのもいけるのね。
私の攻撃をちゃんと受け流して反撃の体術まで身についてる。
もう一つか二つギアを上げないとチャンスは作れなさそう・・・・・・・・・。
攻撃の速度を上げると、リリスから抗議の悲鳴が漏れた。
「ちょ、ちょっとぉ〜!魔法使い相手にそれは酷くないかしらぁ〜!?」
「情けないこと言わないの。そもそも障壁あるんだから大丈夫でしょ。ほら皐月、今のうちにやっちゃって!」
「分かりました!皐月が破壊し終わるまで背中はお任せしますよ」
少し前にゴーレムを倒しきっていた皐月が、弾かれたように上空の【ゲート】向けて飛んでいく。
それを阻止しようとリリスが動こうとするが、私に抑えられて思うように動けないようだ。
「も〜〜!させないわよぉ!」
リリスが羽ばたくと突風が発生し、無理やり開いた距離に魔法陣が展開されていく。
・・・・・・あれをやるにしては距離が近すぎるかな。
魔法陣から距離をとって皐月を守るようにレイピアを構える。
「・・・・・・・まあ、次回の参考にでもさせてもらうわぁ〜」
完成した魔法陣からは最初の魔力弾や槍だけでなく、真空波や風の刃など色々な魔法が飛び出してきた。
「【集中】」
レイピアと目が紅い光のようなものをまとって細い軌跡を描く。
「"神紅の閃光"!」
腕が霞む速度で連続突きを繰り出すと、まず最前列の魔法が両断され、それに続いてどんどんと魔法を斬っていく。
【集中】のおかげで技の精度を極限まで上げているため、斬り損ないは一つもない。
やがて全ての攻撃を斬り終えると、これにはさすがのリリスも苦笑いしか浮かばないようだった。
「はあぁっ!」
ちょうど同じタイミングで、皐月も【ゲート】を両断して消滅させていた。
これでやっと魔力の供給がストップしたはず。
「あららぁ〜、ここまでみたいねぇ〜」
首を振ってため息をつくリリス。
戦意喪失した訳ではなさそうだけど、どういう事だろう。
降り立った私と皐月は疑問に思いながらも、油断なくレイピアと蒼剣を構えてじりじりとリリスに近づいていく。
「あなた達と戦えるのはここまでってことよ〜。私は本来の目的を果たさせてもらうわぁ〜」
突如、リリスが掲げた掌から、魔力で創られた何羽もの紫色の蝶たちが現れて宙を舞踊り、私たちの視界を覆った。
「続きはまた今度ねぇ〜」
そう声だけが聞こえ、直後に蝶が消え去った時には、先程までリリスがいたところにはもう誰もいなかった。
辺りを見回すと、"簡易領域"も解除されていつもの景色が戻って来ている。
普通に人が歩いているのを見た私たちは慌ててレイピアと蒼剣を【ストレージ】にしまう。
誰かに見られたら、銃刀法違反で警察のお世話になっちゃうからね・・・・・・・・・・。
それにしても、リリスは何がしたかったんだろうか。
"本来の目的を果たさせてもらうわぁ〜"って、言ってたけど、一体何をするつもり?
そもそもまだこっちの世界にいるのかな。
気配を探ってみたが、リリスらしきものは発見できなかった。
私たちは何とも言えないものを感じながら、約束をした人が来るのを待つのであった。
◇◆◇◆◇◆
そんな花恋と皐月を見つめる人影が一つ。
艶やかな黒髪ロングで、黒いニットのノンスリーブに蝶のシルエットが描かれているロングスカートを着た、麦わら帽子の大人お姉さん。
「うふふっ、上手く行ったみたいねぇ〜」
楽しそうに笑った彼女は、スカートの端からピョコっと覗くハート型のしっぽをピコピコさせながら、目的の人物を探し始めた。




