告白
剣を【ストレージ】にしまい、背中の竜巻を消して地面に降り立つ。
・・・・・・よし、魔力反応なしっと。
探索魔法で辺りを探したけど、あのスライムの魔力は跡形もなく消滅していた。
どうやらちゃんと倒せたようだ。
にしても、やってくれたなぁ・・・・・・。
着ていた服はボロボロになってしまい、もう水着と言っても良いくらいの面積しか覆えていない。
ただでさえ持ってる服の数が少ないのに、その中でもさらに貴重なちょっとオシャレな服をこんなにするなんて。
しかも今、替えの服を持ってないってゆーね。
幻覚魔法で誤魔化すか・・・・・・・?
いやいやそれもう、ただの露出魔じゃん。
「マジでどおしよぉ・・・・・・・・・」
結界を解く前に何とかちゃんとした服を着て戻らないと。
万が一美雨さんにバレたら、ドン引きどころじゃ済まないぞこれ!
・・・・・・・・・あっ、そう言えば、皐月が難しいけど便利な魔法があるって言ってたような。
無属性最上級魔法の一つ、"再生魔法"。
壊れた武器や衣類、建物や怪我だってあらゆるものを元通りに再生できる魔法なのだが、消費魔力は多くないもののその分難易度も高く、ある一定の区分を境に使える者使えない者がはっきりと分かれてしまうらしい。
なんでも時に干渉する魔法のようで、本気で使えば過去や少し先の未来を見たりすることができる人もいるようだ。
聞いた限り最上級魔法に分類されるだけあってめちゃくちゃ難しそうなんだけど、これしか方法ないよねぇ・・・・・・・・・・・・。
まさかの初最上級魔法チャレンジが溶かされた服を直すためだなんて、異世界でもこの世界でも俺だけだろうさ。
魔力を集めた右手を服の上に乗せ、白く光る魔法陣を展開する。
淡く光るそれから漏れたいくつもの光の欠片が溶けた服の部分に付着して、時を巻き戻すかのようにほんの数秒で元通りにしてしまった。
念の為に触ったり動いたりしてみても、特に異常があったり素材が違ったりすることもなく、むしろ溶ける前に付いていた傷なんかもちゃんも復元されている。
すごっ・・・・・・・。
無属性魔法って全体的に便利なのが多くない?
"夜桜"の書斎に無属性魔法集みたいなのがあったし、いざと言う時のためにそれ読んでおこうかな。
「・・・・・・・って今はそうじゃなくて早く戻らないと。結界を張り続けてると、魔力消費量もバカにならないからなぁ」
何事も節約は大切ってことだね。
海に背を向けて走り出す。
「ん・・・・・・・?」
車道に出る直前、海の方から何者かの視線を感じた気がして振り向いたが、そこには穏やかな海面が広がっているだけだった。
気のせいかな?
不思議に思い首を傾げつつ、俺は足早にコスモワールド向けて走り出す。
咲夜が去った数分後、今も尚穏やかな海面に、地球上の生物ではありえない大きさの巨大な影が泳ぐ姿が目撃された。
それは蛇のような身体をしていて、胴体の太さだけでもかなりのものがあったにもかかわらず、動き回っても海流のひとつも発生せず、むしろ凪のような静けさが辺りを包んでいたという。
そしてまたこの数分後、この生物の姿は跡形もなくどこかへ消えてしまった。
つい先程までその生物がいた場所には、なんとも近寄り難い、禍々しい雰囲気が漂っているのであった────────。
◇◆◇◆◇◆
観覧車を登ってなんとか美雨さんがいるゴンドラに入り、元いた位置を思い出しながら座席に座る。
はいはい、結界解除っと。
指をパチンと鳴らすと色あせていた世界が色を取り戻し、騒がしい喧騒や生気が戻ってきた。
「さ、咲夜君、大丈夫?何だったんだろうね今の揺れ」
美雨さんが不安そうにキョロキョロ辺りを見回す。
近くのゴンドラやたぶん下でも、一瞬発生した揺れに驚いたり困惑したりする声が多数上がっているだろう。
「まっ、もう大丈夫なんじゃないですか?あんな不思議現象、そうそう起こる事じゃないでしょうし」
わざと明るい声でそう言うと、キョトンとした美雨さんが徐々に笑顔を取り戻し始め、ゴンドラを降りる頃にはすっかり元気になっていた。
地上でもスタッフによる説明があったらしく、落ち着きが戻っている。
「あはは、咲夜君ありがとー」
「どういたしまして。それで、この後どうします?このままデート続けますか?」
「うん、そだね。まだ乗ってないやつもあるし、もうちょっとデートしよっか」
たしかに、川の向こう側にあるアトラクションは乗っていないものばかりだ。
あっ、あの斜めにグルグル回ってるやつ面白そう。
「あれ、そう言えば美雨さん」
「はいはい、なにかな?」
「さっき観覧車乗ってる時、一番上らへんで何か言おうとしてませんでした?直後に揺れが来てよく聞こえなかったんですけど・・・・・・・・」
「ふぇっ!?えっと、その・・・・・・・な、何でもないよぉ!ほらっ、早く行こう、時間無くなっちゃうよ!」
「あっちょっ、危ないですよ美雨さぁん!」
顔を赤く染めた美雨さんが俺の腕を引っ張りながら、早足で人ごみを掻き分けてズンズン前へ進んでいく。
そうやって引っ張られながら橋を渡っている途中、俺は観覧車の中で美雨さんに言われたことを思い出していた。
・・・・・・・・うーん、美雨さんが"君と初めて会った場所"がここだって言ってたけど、一体いつ俺は美雨さんと出会ったのだろうか。
そもそも最後にここに来たのは五歳前後の頃の一度きりだけだから、会っているとしたらその時のはず。
うろ覚えだけど、あの時俺は迷子になっていて・・・・・・・・あっ、お父さんとお母さんを探してる最中に、女の子に会った気が・・・・・・・・。
「咲夜君、着いたよ!まずこれ乗ろう!」
テンション高めの美雨さんに連れていかれたのは、さっき俺が見ていた斜めにグルグル回る、一シート二人乗りのアトラクション。
近くで見るとすごい角度で回っているのが良く分かる。
一旦思考を打ち切って、今はデートに専念しよう。
考えるのは後でもできるからね。
そして時は過ぎて辺りが暗くなり、夜と言っても差し支えない時間帯になるまで遊び続けた俺と美雨さんは、遂にアトラクション全制覇を成し遂げたのだった。
再び観覧車があるエリアに戻ってきた俺と美雨さんは、最初の方に乗った水の中に飛び込む形で落ちるアトラクションの近くにあるベンチに座り、ライトアップされた観覧車を眺めている。
「ん~、今日は楽しかったねぇ!」
「ですねぇ。こんなに一日中楽しく遊んだのは久しぶりです」
つい最近までは受験で全然遊ぶ機会がなかったし、終わったあとでもそもそも友達が少ないから、遊びに行く機会さえなかったもんな。
「もうこんな時間ですし、美雨さんがしたいこと無いならそろそろ帰りますか?」
「そうだねぇ〜・・・・・・・・・一つだけやりたいことがあるんだけど、付き合ってくれる?」
「良いですよ?」
目の前でジェットコースターが水面に潜り、ライトアップされた水しぶきが立ち上がる。
「咲夜君・・・・・・」
「はい、何です・・・・・・・かぁっ!?」
名前を呼ばれ、隣に座っていた美雨さんの方に顔を向けると、頬にちゅっと柔らかいものが押し付けられた。
「っ!?・・・・・・・!!?、っ!?」
至近距離から離れて悪戯っぽく笑う美雨さんが、まだ熱の残る頬を呆然と触れる俺を見つめながら口を開く。
「さっきは言いそびれちゃったから、今言うね?私は初めて会った時からずっと、ずぅ〜〜と君のことが、だぁ〜〜〜〜〜い好きなんだぁ!」
ライトアップされた観覧車や水しぶきが景色を彩る中で美雨さんが見せた笑顔は、俺史上一位二位を争うほど可愛らしいものだった。




