VSビックスライム(2)
ズズッと剣が柄から剣身へと錬成されていく。
むむっ、意外と難しいぞ?
イメージは良いとしても、それを実物として作り出すのがちょっとムズい。
やはり本場の鍛冶師や錬成師がやってるとこを見て、錬成の過程もきちんと理解した方が良さそうだ。
知ってるのと知らないのじゃ大違いだもんね!
苦戦しながらも着実に剣は出来上がっていくが、そんなのを敵が待ってくれる訳もなく、絶好のチャンスと捉えたのかスライムが全ての触手を俺に向けて放ち、
後ろ以外の全方位から縦横無尽にバランスボール型触手が迫ってくる。
『プルルルルルアァァッッ!!』
「うわったっ、ちょ、タンマ!もう少しだから!」
容赦の無い攻撃に涙目になりながら必死のラストスパートをかける。
もうあのヌルヌルは味わいたくない!
込める魔力と一連のイメーシ力を上げると、急激に錬成が速まり、すごい勢いで剣が形作られてく。
うんむ、やっぱ火事場の馬鹿力ってすごいねぇ、でも間に合うかこれ!?
あとちょっと・・・・・・・・!
ズドンッ!ズドドンッ!と三つのバランスボール型触手が折り重なって俺の上にのしかかり、畳み掛けるように横なぎされたいくつもの触手が地を砕いて追い打ちをかける。
『プルルンッ、プルルンッ!』
人間ならばひとたまりもないだろうそれに、自分の勝利を確信したのか、触手をうねうねさせながら喜びの雄叫び(?)をあげるスライム。
けど残念でした、実際そんなことはないんだよねぇ。
重なる触手の内側から無数の斬撃が閃くと、次の瞬間ズパッと切れ目が走り、中の液体をぶちまけながら崩れ去っていく。
「【アーク・トルネード】」
降ってくる液体を自分の周りに風魔法を張ることで吹き飛ばしながら、右手の剣を引いて構えをとる。
うん、よく馴染んでるね。
柄頭から切先まで全て漆黒で、濃い紺色の縁どりがされた剣身と鍔には細かい光沢のある素材が散りばめられていて、まさに夜を照らす星空のような剣だ。
剣を作ろうと思った時に、咄嗟に黒い剣と白い剣の二つが頭に浮かんだのだが、よりイメージの鮮明だったこれを選んだ。
不思議なことに浮かんだ二つの剣はどちらも見覚えがないもので、アニメとかゲームでもこんな武器は見たことがなかったはず。
それなのに、一瞬でこれ程細かくイメージできている。
今の俺に心当たりが無いということは、おそらく記憶を失う前の俺が何らかの機会に見ていたのではないだろうか。
でも花恋の話を聞くには俺が記憶を失ったのは五歳前後らしいんだけど、そんなちっさい子がこういう剣、見るタイミングとかあるのかなぁ・・・・・・・・・・・。
てか今更だけど、着色もされてるってどんな原理なんですかね。
『プルルルルルルルルプルルルルルルルルッッ!!!』
怒りを露にしたスライムは、次々と再生する触手の先端付近を鎌のような刃物に変化させ、体の一部を核にして水滴を集めた水の塊を四つ宙に浮かせた。
おおぅ、随分とまあ攻撃的な見た目してるじゃん。
スライムってもっとこう・・・・・・最初の方に出てくる弱いキャラなイメージがあるんだけど。
もちろん、どっかのナイスガイ(自称)なサラリーマンが転生した最強のスライムさん、みたいな例外もいるけどさ。
なんの前触れもなく剣を斜め上に振り上げる。
すると、チュインッ!と何かが斬れる音がして、俺の後ろの地面が左右二箇所ガリガリと真っ直ぐ削られていく。
どうやらあの水の塊から放たれたピンボールサイズの水弾のようだ。
速いし威力高くねっ!?
続けて撃たれてくる水弾を斬りながら、さらに鎌の攻撃も捌いていく。
驚いたことにこの鎌も鎌でめちゃめちゃ鋭く、魔力を纏わせていなかったらこの剣なんて当に真っ二つになっていただろう。
鎌型触手を受け流して根元から斬り落とす。
まあ一番驚きなのは、俺が普通に剣を扱えてるとこなんですが。
学校でやった剣道程度しか経験がないはずなのに。
なんて言うか・・・・・どう動いたら良いか何となく分かるんだよね。
さっきの剣のイメージの話もそうだけど、俺ってもしかして記憶を失う前、剣聖の弟子とかそんな感じだったりする?
もしくは前世が剣の達人とか。
頭の片隅でこんなことを考えつつ触手の上を走り、核へ近づいていく。
『ププルルルルルルルルンッ!!』
スライムがそうはさせまいと触手と水の塊で分厚い壁を作り核を隠した。
ふっふっふっ、甘いぞぉ!
剣に魔力を流すと、剣身が蒼く輝いてバリバリと同色の電気を纏う。
「スキル【魔法剣】。"蒼電清霜"!」
いくつもの蒼い軌跡が稲妻のように奔り、いとも簡単に触手と水の塊の壁を打ち砕く。
『プルルンッ!?』
スライムはあっさり壁が破られたことに驚いているけど、まだ終わりじゃないんだなぁこれが。
斬った場所に電気がまとわりつき、それが身体の大半を液体で占めるスライムに感電する。
『プリュアァァァァァァッッ!!?』
今までにない大きな悲鳴がスライムから発せられた。
どうやら今のは相当効いたらしい。
身体中に電気が流れ動きが鈍っているうちに、核へ接近し剣を横なぎするが、あと少し長さが足りず剣身が核に届かなかった。
「おっしい!」
ならばともう一度斬ろうとしていると、核が赤黒く光り足元周りに魔力が集まりだした。
っ、魔法の気配!
すぐさまスライムの身体を蹴って空中へ逃げると、次の瞬間、先程まで俺がいた核を中心に大量の鋭い触手が飛び出してくる。
あのままあそこにいたら全身串刺しになっていただろう。
十分危ない技だが、おそらくこれは準備に過ぎないはずだ。
さっき俺が感じた魔法の気配は・・・・・・・!
飛び出した触手が核の四方に分かれて四つの太い触手を作り、核とその四つの触手の中心に魔力が収縮されていく。
うわぁ、絶対やばいやつじゃんあれ。
空中じゃちゃんと動けないし、どうしよ。
『プ、ル、ル、ルルルルルルッッ!!!』
「おお・・・・・りゃあぁぁっ!!」
凝縮された魔力砲が轟音と共に放たれ、魔力を纏い漆黒のオーラを立ち昇らせる俺の剣と衝突した。
風魔法で背中に翼のような二対の竜巻を作り、勢いを上乗せする。
「んぅぅ・・・・・・・・!」
何とか対抗しているように見えるが、ググッと若干押され気味になってきている。
いずれ押し切られてしまいそうだ。
だが俺はふっ、と口元を緩ませる。
「もう俺はあの時とは違うんでね!こんぐらいやってやるもん!」
気合いとともに漆黒のオーラが増幅し、背中の竜巻の勢いも強くなる。
剣を振り下ろすと魔力砲は真っ二つに斬れ、エネルギーの暴発で爆散した。
「やあぁぁぁぁっ!」
爆風の影響を受けた竜巻の翼をはためかせ、超スピードでスライムに迫った俺が放つ渾身の突き技は、核を優に貫き眩い光で辺りを染めあげた。




