VSビックスライム
やっと旅をしていたファンタジー要素が戻ってきましたぁ!
「君に助けてもらったあの日から、私は咲夜君のことが・・・・・・・きゃっ!?」
しかし美海さんが一番言いたいと思われた言葉は、声になることはなかった。
ドンッと強い波動が空間を揺らす。
俺は反射的に花恋に教えてもらっていた結界魔法を発動させて、コスモワールド周辺の空間を閉じる。
・・・・・・・・ちゃんと出来てるかな?
この魔法は初めて使ったから少し不安なんだよね。
ゴンドラの窓からざっと外を見渡し、世界の時間が止まったかのように微動だにしない人たちを見て、まずは魔法が無事発動したことに安堵した。
『プルルルルルルルルッッ!!』
静寂の中、ただ一つだけ動く巨大な影が、水の中で叫んだ時のような少しズレた音で咆哮する。
海を進むそれはプルンとした水色の滑らかボディーに無数の触手をうねらせ、顔と思われる場所の奥に赤く光る球体を閉じ込めた、いわゆるスライムだった。
にしてもでかいなぁ・・・・・・・・。
今見えてる部分だけでも十メートルはありそうなのに、それに加えて海に沈んでる部分も合わせたらとんでもない大きさになりそうだ。
あれが上陸して暴れだしたら大変なことになってしまう。
今のうちに仕留めないと・・・・・・・お?なんか電話がかかってきたぞっと。
『もしもし、咲夜?』
「あはい俺です俺です。どしたの?」
『そっちも魔物出てるよね。一人で勝てる?』
「んー、たぶん。"そっちも"ってことは花恋のとこにも?」
『まあねー。二体同時なんて珍しいねぇ。私は皐月と一緒に居るからすぐ終わると思うんだけど、ちょっとその後も色々立て込んでて無理そうだから、頑張ってもらっても良いかな』
「りょーかい。花恋と皐月も気をつけてな」
『咲夜も災難だねぇ、デート中に魔物が現れるなんて』
「ほんとだよぉ・・・・・・・・・ってちょい待ち、なんでそれ知ってんの!?」
さらっと言っているけど、花恋に今日のことは教えていなかったはずなんですが。
花恋がちょくちょく知らないはずのことを知ってるのは何でだろうね!?
『じゃ、のんびり話してる暇も無さそうだしぃ、また後でねぇ』
「あっ・・・・・・・・」
切れた。
・・・・・・・・・ま、まあ今はとりあえず、目の前の魔物を倒すのが第一だよね!
スライムらしくズルズルゆっくり進んでいるが、体が大きいだけに一歩(?)がかなり広くて、このままではそれほど時間が経たないうちに陸上に到達してしまいそうだ。
魔法でゴンドラのドアの鍵を開けて外を覗く。
うぇぇ、高い・・・・・・・・・・。
腰が引けるけれど、思い切って飛び降りて海岸を目指す。
飛行魔法とか使えるようにしとけば良かったなぁ。
そしたらわざわざ怖い思いして飛び降りないでそのまま飛んでけたのに。
コスモワールドを出て真っ直ぐ行き、突き当たりの海を一望できる開けた場所でスライ厶を待ち構える。
全身に強化魔法を施して両拳に魔力を纏わせ構えをとると、その魔力に反応したのかスライムが『 プルルルルンッ!』と触手を伸ばし攻撃してきた。
うおぅ、攻撃は結構速いのね!?
立て続けに迫る触手を避けて空ぶったその上に乗り、スライムへと繋がるその道を駆けていく。
「っせい!」
ぶよぶよに守られた明らかに核だと思われる赤い球体目掛けて拳を繰り出すが、突き刺さった拳はみょーんっ、とどこまでも深く沈んでいって、ついには弾き返されてしまった。
「えっちょ、そんなのあり!?」
空中で無防備な俺に狙い済ましたかのように触手が殺到し、手足を拘束されて宙ぶらりんな状態になってしまう。
やばっ!
がっちり固定されて中々動けない間に、先端がバランスボールのように丸く膨張した触手が振り下ろされる。
「【サンダースピア】!」
雷でできた槍がいくつも生成され、繰り出される触手に向けて撃たれるが、当たった瞬間に触手に飲み込まれて消えてしまった。
んなにぃ・・・・・・・・!?
「なんのこれしきぃ!」
根性で右足の触手だけブチブチ引きちぎり、動けるようになったその足で目の前まで迫っていたバランスボール触手を蹴りあげる。
あれ、今度はちょっとぶよんってしただけで、さっきみたいに弾き返されなかったな。
「ふっ、どうよ俺の蹴りの味がぼぼぼぼっ!?」
突然蹴りあげた触手が破裂して、中に含まれていたらしい液体がドバっと真下の俺に降ってきた。
『プルルルルルルルルッッ!!』
「けほっ、けほっ、ちょ、回さないで・・・・・・・」
両手に巻き付いていた触手が離れて左足に集中し、勢いよくグルングルン振り回されて陸の方へ放り投げられる。
ドンッ!と言う衝撃でアスファルトの道路が砕け砂塵が舞う。
「あたた・・・・・・まったく、乱暴だなぁ」
おしりについた砂をパンパンと叩きながら立ち上がり、体にまとわりつくヌルヌルした粘着性のある液体の感触に顔をしかめる。
うえぇ、気持ち悪い・・・・・・・・って!
「うにゃぁっ!?」
両手で自分の身体を隠すように抱きしめてしゃがみこむ。
なっ、なな、なんで服溶けてんの!?
完全には溶けきっていないもののかなりの面積がボロボロになり、ヌルヌルな液体で艶めかしく輝く肌があちらこちらから大きく見えてしまっている。
これ俺だったから良いものを、女子だったら規制かかるよ!十八禁ものだよ!
「おにょれスライム許さん!」
ほとんど剥がれ落ちそうなシャツの下半分と袖を切って広がらないように端で結んで止め、ダメージジーンズの成れの果てみたいな半ズボンも超短いショートパンツ並の長さに揃えて、最初に切ったシャツの下半分を腰に巻いてパレオのようにする。
だいぶ穴だらけだけど、無いよりは安心できるはず!
さて、あとはどう攻撃するかだな。
打撃は弾き返されるorヌルヌル液を含む触手が破裂するから無し、魔法も吸収されちゃうみたい・・・・・・・。
「てことは斬撃だね。ゲームでもスライムって打撃が効かなくて斬撃に弱いし」
となると使うのは無属性中級魔法の一つ、"錬成魔法"。
自分の周囲にある物質を変形、再構築などその他もろもろして色々なものを作れる便利な魔法だ。
異世界では主に鍛冶屋さんなんかが使ってるらしい。
この魔法は特にイメージが大切で、自分が想像した通りに出来上がるためイメージが薄すぎると完成度が低く、性能もそれほど高くないものが出来て、明確なイメージがあればあるほどより良いものが生成できる。
つまり、イメージ、想像、妄想が得意な俺にうってつけの魔法ってわけよ!
材料はそこら辺の破片をちょっと拝借して、っと。
集めた破片の上に手をかざして錬成魔法を発動させる。
うーん、こういう時のために俺用の剣とか用意しとけばよかったかなぁ。
自分のイメージ通り錬成されていく剣を見つめながら、そんなことを考えていた。




