思い出
美海さんと咲夜くんの思い出話です。
美海さん(当時八歳)、咲夜くん(当時六歳)
「あははっ、すごーい!ザブーンってしたよ!速かった!」
ママに抱き抱えられていた私は、丸太みたいなライドから降りて大はしゃぎする。
最初は高いとこから落ちるふわっとした感じにびっくりしたけど、慣れてくるうちにそれが楽しくなってきちゃった。
「あらあら、すごいわねぇ美海は。ママはああ言うのどうしても苦手なのよねぇ」
「ふむ、美海も絶叫の良さが分かるクチか。こりゃあ大きくなって一緒に絶叫ジェットコースター巡りするのが楽しみだな」
「もう、パパったら・・・・・・・」
やれやれ、みたいな顔でママが首を振る。
学校の一学期が終わって夏休みに入り、私は家族と一緒に"横浜コスモワールド"と言うところに遊びに来ていた。
園内は夏の日差しと集まった大勢の人のおかげでありえないくらい暑いけど、初めて乗るアトラクションはその暑さを吹き飛ばしてしまうくらい楽しいものばかり。
次は何に乗ろーかな・・・・・・・。
キョロキョロ当たりを見回してると、川の向こう側にも色々なアトラクションがあるのを見つけた。
あっ、あの斜めにぐるぐる回ってるのおもしろそう!
あの橋を渡ればあっち側に行けそうだね。
「ありゃ、そろそろお昼時だな。ここってフードコートみたいなのあったっけ」
「たしかこのエリアにあった気がするわ」
出入り口を橋の近くに見つけたから、階段を昇ってそこから外に出て橋を渡り始める。
んー、人が多くて中々進めない・・・・・・・・。
「じゃあそこで食べるか。よし美海・・・・・・・・・美海?っ、しまった!」
「ちょっと目を離した隙に・・・・・!どこ行っちゃったのかしら・・・・・・・」
結構、橋長いなぁ。
ようやく渡りきって、人混みに揉まれながら入口だと思われるピンクのアーチに行く。
・・・・・・・ここが入口であってるよね?
みんなここから入ってるけど、階段を降りた先は裏道みたいになってる。
あそこの角を曲がったら分かるかな。
階段をとてとて降りて突き当たりの角を右に曲がってみると、やっぱり予想はあってたみたいで沢山の人で賑わっていた。
ぐるぐる回るやつはここの奥にあるみたい。
うきうきした気持ちで人の波をかき分けて進み、やっとの思いでぐるぐる回るやつのところまでたどり着いた。
でも、いざ乗ろうとすると。
「ごめんね、これを乗るには先に券を買ってもらわなきゃいけないんだ。ママかパパにお願いして、券を買ってからもう一度来てもらえるかな?」
スタッフさんに優しくそう言われた。
そっか、券が必要なんだ。
そう言えばさっきのアトラクション乗る時も、ママが何か券みたいなのをスタッフさんに渡してたなぁ。
「ママぁ、これの券・・・・・・・あれ、ママ?」
さっきまでそばに居たパパとママが居ない。
もしかして、はぐれちゃった?
・・・・・・・ど、どうしようどうしよう、あっちに戻った方がいいかな!?
でもまださっきの場所に居るか分かんないし・・・・・・。
こういう時ってどうしたらいいんだろう。
気持ちがはやって頭の中がぐちゃぐちゃになるばかりで何も出来ない。
なのに時間が経つにつれてどんどん不安だけが大きくなっていって、ついには我慢できなくて涙がぽたりと落ちる。
「うえぇん・・・・・ぱぱぁ・・・・・ままぁ・・・・・どこ行っちゃったのぉ・・・・・・?」
私は溢れる涙を拭いながら一人でとぼとぼ歩く。
探しても全然会えなくて、そしたらだんだん寂しくなってきて・・・・・・・・。
私、もうこのままパパとママに会えないのかなぁ。
悪いことばっかり考えちゃってぼろぼろ大粒の涙が溢れだしてくる。
「あぅっ!?」
「わあっ!?」
そのせいで視界が滲んで、前から近づいてくる子に気づけなくて思いっきりぶつかっちゃった。
勢いに負けて尻もちをついてしまう。
「ご、ごめん、大丈夫!?」
慌てたように私の手を引いて立ち上がらせてくれたのは、黒く短いデニムパンツと明るい空色の半袖シャツを着た私より少し年下だと思う可愛らしい子だった。
「ぼく、さくやって言うんだ。そのぉ・・・・・君は何で泣いてるんだい?」
さくやちゃんは私が泣いているのを見ると、近くにあったベンチに座るように誘ってそう聞いてきた。
私は少し迷ったあと、ついさっきの出来事までを順を追って話した。
なんでさくやちゃんを頼ったのか自分でも分からないけど、なんとなくこの子なら私を助けてくれるんじゃないかなって思ったんだ。
「そっか、みうちゃんは迷子になっちゃったのかぁ・・・・・・・・」
「うん・・・・・・・・・」
「ぼくと同じだね」
「そうなの?」
どうやらさくやちゃんも迷子だったみたい。
どうりで一人な訳だよ。
パパとママの話をしていたらまた悲しくなってきちゃって、引っ込みかけた涙がもう一度溢れだしてくる。
「あわわわ・・・・・・・!そ、そうだ、みうちゃん!ぼくも手伝うよ、みうちゃんのママとパパを捜すの」
「え・・・・・・・・・?」
「二人で捜せばすぐ見つかるさ!だ、だからさ、泣かないで!みうちゃんのママとパパを見つけた時、君が泣いてたら二人が心配しちゃうよ?笑顔で、笑っとこうよ!ほら、ニコって」
君はほおに指を当てて可愛らしく笑う。
最初はキョトンとしてしまった私だけど、やがて釣られるように笑うと、君は嬉しそうに微笑んだ。
「あっ、そうだ!ちょっと待ってね・・・・・・・・」
何かを思いついたらしい君は、肩に提げていたポーチをゴソゴソして小さいものを取りだすと。
「はい、これあげる!」
「ふぇっ・・・・・・・・・!?」
そう言って近づいてくると私の前髪をかきあげて空色のピンでとめた。
よし、良い感じ!と一人で納得している君をよそに、私は自分の顔が赤くなっていくのをひしひしと感じている。
「どうしたの?」
「っ・・・・・な、なんでもないよ!?」
ち、近いよぉ・・・・・・・・!
可愛らしいさくやちゃんが間近に来ると、とくんとくんと鼓動が速くなる。
なんで私ドキドキしてるんだろ。
この子は女の子なはずなのに・・・・・・・・。
「じゃあ行こっか」
「あっ・・・・・・・」
君は考え込んでいた私の手を優しく取り、ママとパパとはぐれた川の向こう側に向けて歩き出す。
っ〜〜〜〜〜〜〜!?
ぅ、あ、えっと・・・・・・そうだ!
私は沸き起こる気持ちを誤魔化すように。
「ね、ねぇ、君はいいの?さくやちゃんも迷子なんだよね?」
「んー、まあぼくは大丈夫だよ。ママとパパが居そうな場所に心当たりあるし」
一瞬キョトンとしたさくやちゃんは苦笑いしてそう言った。
詳しく聞くと、一応はぐれた時はここに集合、と決めていた場所があるそう。
そんなことを話しているうちに橋を渡りきって、私が出た出入口のところまで戻ってきた。
中に入ってパパとママとはぐれたアトラクションの乗り場に向かっていると、そこの前で二人が必死にキョロキョロ捜しているのが目に入る。
「パパ!ママ!」
「見つかった?」
「うんっ!ありがとう、さくやちゃん!」
「どういたしまして。じゃあぼくはあっちだから、もうはぐれないようにね?」
さくやちゃんが踵を返してその場から立ち去っていく。
「さくやちゃん、またねーー!!」
私が離れていく君に大きく手を振ると、振り返った君は微笑みながら手を振り返してくれた。
さくやちゃんが見えなくなるまで手を振り続けた私は、急いでママとパパの元に走っていく。
「ママ!パパ!」
「「っ、美海!」」
ジャンプして二人に抱きつく。
「もう、心配したのよ?」
「ごめんなさい、あっちにあったのが気になって・・・・・・・」
「パパとママもごめんな、うっかり目を離しちゃって。・・・・・・・ん?これ、どうしたんだ?」
ママが涙を浮かべながら頭を撫でてくれて、パパは私のつけているヘアピンに気がついたようだ。
「えへへ〜、これはね?さっきまで一緒に居てくれた子に貰ったんだぁ!」




