デート(3)
ほんとは昨日投稿しようと思ってたんですけど、爆睡かましてました。
すんません
「やー、惜しかったねぇ」
「・・・・・・・あとちょっと足りませんでしたね」
ライドから軽やかに降りた美海さんが少し悔しそうに後頭部をかく。
たしかに俺も悔しいっちゃ悔しいのだけれど、正直それどころじゃないんだが。
落ちる間際に美海さんが言った言葉が頭の中でグルグルと回り続けて止まらない。
"好きな人以外にこんなことするわけない"?
俺なんか全然釣り合わないのに?
なんで美海さんは・・・・・・・・・。
「咲夜君、咲夜君。そろそろいい時間だしお昼にしよっか」
「あ、ほんとですね。どうします?やっぱ行くならフードコートですか?」
しかも美海さんが何事も無かったかのようにしているから、余計にあれが幻聴なんじゃないかって思ってしまう。
フードコートに行くことが決まり、移動してる途中にもあれこれ考えて、でも分かんなくて、頭がオーバーヒートしそうになってる。
我ながらものすごい混乱っぷりだよ・・・・・・・・・。
ほ、ほんとに美海さんが俺のことを、そういう風に思ってくれているんだったら素直に嬉しいんだけど、冷静になって考えてみてふと思った。
"俺を好きになる要素なんて無くない?"、と。
言うなれば俺はただのバイトの後輩。
何か恋愛に発展するようなイベントが起こったわけでもなく、そんなオタ活に人生を捧げた陰キャ非リア野郎を好きになるなんてことがあるのか、と!
・・・・・・・・・まあ熱弁しといてあれだけど、結局は美海さんがどう思ってるかだしね。
一番手っ取り早い方法は美海さんに直接聞くことなんだけど、そんなの恥ずかしくて出来るわけないじゃないっすか。
「あれ、ちょ、咲夜君!?そのままどこ行くのさ」
「あっ・・・・・・・すいません、ぼーっとしてました」
いつの間にかフードコートに着いていたらしく、立ち止まった美海さんに対して俺は考え事をしていて、気付かぬまま普通に通り過ぎようとしていた。
いかんいかん、この調子じゃいつか周りに迷惑をかけかねないな。
「んー・・・・・・やっぱり持ち歩けるようなやつがいいよねぇ。咲夜君は何か食べたいのある?」
「そうですね・・・・・・焼きそばとか、ポテトとかどうですか?容器に入ってますし、ベンチで食べるならああ言うのが良さそうな気がします」
「そうだね、じゃあそれに決定!早速買ってこよー」
購入した焼きそばとポテトを片手に適当な場所を探していると、ちょうど良さそうな日陰のベンチを見つけたのでそこに座る。
あー、めっちゃ涼しい。
日向にいると日光が眩しいし暑いしで凄いんだよね。
まだ梅雨入りさえしてないのに夏みたいな暑さだよ・・・・・・・・・・。
日陰に入るだけでこうもガラリと変わるとはねぇ。
時々吹く風が気持ちいい。
涼みつつ袋から焼きそばとポテトを取り出して容器の蓋を開け、一緒に買ったジュースにストローをさす。
「「いただきます」」
ポテトをハムスターのようにちょびちょび食べる。
汗かいたから塩っけが美味しいなぁ・・・・・・・。
「ねぇねぇ咲夜君」
ポテトが止められない止まらない状態になっていた俺に、お箸でつままれた焼きそばが近づけられる。
「はい、あ〜ん♡」
あまりの出来事に思考が追いつかず、数秒間たっぷりキョトンとして目をぱちくりさせてしまった。
えっとぉ・・・・・・?
一時の沈黙が場を支配する。
ズイっと焼きそばが近づけられた。
「あ〜ん♡」
「・・・・・・・・割り箸はちゃんと二つあるんですから、わざわざ・・・・・・・・・」
「あ〜ん♡」
・・・・・・・・・どうやら食べるまでこれは続けられるらしい。
ま、まあパクってするだけだし?
美海さんがそれで満足してくれるなら・・・・・・。
差し出された焼きそばをパクリと食べる。
むぅ、美味しい。
視線を逸らしながらもぐもぐする俺を微笑ましそうに眺めていた美海さんが、自分も焼きそばを食べようとして、ふと何かに気づいたような素振りを見せた。
「どうしました?」
傍らに置いてあったジュースを飲みながら聞く。
「いやー、これって間接キスだなぁって」
「ふぐむっ!?」
思わずむせて危うく含んだジュースを吹き出しそうになる。
若干ストローを逆流した気がしないでもないが、気にしたら負けだ。
そうですね、たしかにそれで食べると間接キスになっちゃいますね!
でもご安心くださいな、ちゃんともう一つ割り箸が・・・・・・・・。
「・・・・・・ん、おいしぃ」
袋からもう一つの割り箸を取り出そうとしたが、その隙になんの躊躇いもなく同じお箸で焼きそばを食べていた。
なぁんでこの人はこう言うこと平然とやれんのかなぁ!?
え、なに、恥ずかしがってんの俺だけなの?
美海さんには羞恥心なんて無いのか・・・・・・・・あ、いやこれ普通に恥ずかしがってるっぽいな。
よくよく見たら耳まで真っ赤になってるし。
「美海さん」
「な、何かな咲夜君!?別に私はなんともないよ!?」
「その割には顔真っ赤ですけど」
「うぅ・・・・・・その、なんて言うかね、まだこういうのは慣れてなくて」
「まあ慣れてる方がすごいと思うんですけどね・・・・・・・。そんな恥ずかしいんだったら、無理してやらなきゃ良いじゃないですか」
「むー、それでもやりたかったんだもん!」
反省も後悔もしてないよ!と言っているので、美海さんが後悔してないなら良いんだけどさ。
お互いの顔を見れないような雰囲気を紛らわすため、少し早めにお箸を動かして焼きそばとポテトを完食する。
「・・・・・・・・次行きましょうか」
「・・・・・・・・そうだね」
まだ行ってなかったミニゲームコーナーや数個のアトラクションを回る内に、この雰囲気も何とかなるかもしれない。
結果的にはこの作戦は成功したのだが、逆にはしゃぎすぎて色々大変だった。
あとワンダーアミューズゾーンで乗ってないのは目の前の観覧車だけだ。
日も傾いてきたので上に行けばさぞ綺麗な景色が見れるだろう。
この観覧車は全面がスケルトンになっているゴンドラがあるらしいのだが、ちょうど俺と美海さんが乗ったのがそうだった。
・・・・・・・・・これ、かなり怖いね。
高いとこ行ったら絶対下を見たくないな。
ちらりと視線を向けると、正面に座る美海さんはゴンドラから見える景色を懐かしそうに眺めていた。
なんとなく昔の記憶を思い返しているような感じがする。
「ねえ、咲夜君」
ゴンドラがてっぺんに近づいてきた頃、美海さんが静かに口を開いた。
「今日、なんでここにデートに来たか分かる?」
突然の質問に戸惑いながら。
「・・・・・・・近くて楽しそうなところだから・・・・・・・?」
「うぅん、ここを選んだのはね、君と初めて会った場所だからなんだ」
「・・・・・・・ぇ・・・・・・??」
「君は忘れちゃったかもしれないけど、私にとってはまさに運命の出会いだった」
夕陽に照らされた美海さんの頬は薄く朱に染まり、満開の笑顔はキラキラ輝いて見える。
「君に助けてもらったあの日から、私は咲夜君のことが ───────────」




