デート(2)
「ふえぇ・・・・・怖かったよぉ・・・・・」
やっとの思いでお化け屋敷から出てきた俺と美海さんは、近くにあったベンチに座り休憩をしていた。
ちなみに俺は今もなお、美海さんの腕を決して離さないようにぎゅっと抱きしめているのだが、そんな俺をほっとかないで、ずっとなでなでして慰めてくれてる美海さんの優しさが身にしみる。
「なんか幼児退行してる・・・・・・?咲夜君の友達がほわほわする気持ちが、ちょっと分かったかもしれないなぁ」
美海さんは美海さんで嫌な顔どころかニマニマした顔をしてたんだけど、あれは何でだろうね。
それから気持ちが落ち着くまで十分ほどかかった。
いつの間にか膝枕までされていた俺は、ふと我に返り咄嗟に起き上がる。
「あれ、咲夜君もういいの?」
「・・・・・ぅぁ・・・・・み、美海さんすいません・・・・・・」
さっきまでの自分を振り返ると、恥ずかしさで死ねる。
俺は小学生かな!?
「いやいや、謝ることないよ〜。咲夜君が積極的にくっついたりしてくれることなんて、ほとんど無いからさ。良い写真も撮れたし、私は満足だよ」
「そう言って貰えると助かるんですけど、今良い写真が取れたって言いましたよね?まさか・・・・・・・」
「うん、ほら見てこれ。可愛くない?」
美海さんがスマホを取り出してさっき撮ったと思われる写真を幾つか見せてくれた。
一枚目は俺が涙目で美海さんの腕に抱きついている写真で、二枚目が膝枕をされなでなでされている写真。
その他にも五枚ほど、俺の黒歴史になりうる写真が撮られていた。
「あの・・・・・・美海さんこれ、消してもらうっていうのは・・・・・・・・・」
「最初に見せた二枚はもうロック画面とホーム画面に設定しちゃった♡」︎
「ちょっと待ってください、何してんですか!?せめて保存するだけにしてくださいよ!」
「だってぇ・・・・・咲夜君とデートした証だから、いつも見れるとこに置きたかったんだもん」
「でも恥ずかしいですって、主に俺が」
「だーめ、絶対変えないからね!」
「そんなぁ・・・・・・・」
なんてこったい。
「ほら、しょげてないで次のアトラクション行こーよ!私あれがいい!」
「まぁせっかくのデートですから、楽しんでこそですもんね・・・・・・」
数枚の写真(それでも俺にとっては大ダメージだが)のせいでデートが楽しめませんでした、じゃもったいないもんな。
しかも絶対に見られたくない痛いやつじゃなくて、ただ単純に恥ずかしいだけだから大丈夫ですし?
べ、別に強がりじゃないもん!
「美海さんが次乗りたいのってこれなんですか?」
レーンが観覧車をぐるりと囲むように設置された二十四人乗りのジェットコースターで、特徴的なのが目の前にある水面にできた穴に潜り込む形で落ちるところだ。
お、ちょうど来たみたい。
ジェットコースターが穴に入るとともに、周りから水が吹き出る演出がされる。
結構角度ついてるなぁ。
穴の中がどうなってるか分かんないけど、あのまま落ちていくんだったら怖そう。
「入口は・・・・・・あ、あった。そんな並んでないからすぐ乗れそうだね」
「ですね」
列の最後尾に並んで待っていると、あっという間に俺たちの番が来た。
五分くらいしか待ってないんじゃないだろうか。
俺と美海さんはちょうど真ん中辺りに座り、準備が出来たジェットコースターが走り始めて、恒例の急な坂をカタカタとゆっくり登っていく。
おおぅ、結構高いね・・・・・・・・・。
坂を登り終え、段々とスピードを上げながらカーブを曲がる。
チラッと横を見たことを軽く後悔していると、シートに置いていた右手がギュッと掴まれた。
「ほぇ・・・・・?」
驚いて横を見ると、したり顔の美海さんが微笑みながら。
「やっぱ"デート"、"ジェットコースター"とくればこれだよね〜!」
「いやまあ定番ですけど、なんで俺とぉおわあぁぁぁ!?」
「わぁーーーーーーっ!!」
急加速して走り出してカーブを曲がり、例の水面の穴にダイブする。
んーーー、中は綺麗だけどそれを楽しむ余裕が無い!
穴をぬけたと思ったら今度はグルグル渦を巻くようコースを走り、スタート地点に戻ってきた。
い、意外と怖かったな・・・・・・・・。
「最後のぐるぐるすごかったね!」
美海さんが笑顔でそう感想を漏らす。
たしかに、斜めに落ちながらグルグルしたのはびっくりしたなぁ。
興奮冷めやらぬ内に感想を言い合いながら、ささっと次のアトラクションに移動する。
お次は丸太をイメージしたライドに乗って、急流を滑るアトラクション。
落ちた時に大声を出すことで絶叫度を測ることができるらしい。
「美海さんは前と後ろどっちがいいですか?」
丸太は前に一人後ろに一人乗るタイプのやつだったので、先に美海さんの乗りたい方を聞いた。
少し悩んだ後、美海さんは良いことを思いついたかのような表情をする。
「んー、咲夜君が先に乗っていいよ」
「そうですか?じゃあ俺は前に乗りますね」
あれ、また何かするのかと思ってたけど、今回は何もしないんだ。
・・・・・・・・・いや、あの顔は絶対何か企んでるはず!
一体何を・・・・・・。
「次の方、どうぞー」
「あ、はい」
順番が回ってきたのでとりあえず前の席に座る・・・・・・って美海さん何してんすか。
座った俺の足の間に、すっぽりハマるように腰を下ろした美海さんが振り返ってにひひっ、と笑う。
「これ乗るカップルはだいたいこういう風に乗るらしいよ?ね、スタッフさん」
「ええ、デートでこちらに来る方々は、ほとんどそうやって乗ってますね」
スタッフのお姉さんはテキパキと準備をしながら律儀にそう答えてくれた。
ふむふむ、たしかに密着度はすごいから、カップルにはうってつけの乗り方かも。
あくまでも"カップルには"だけどね?
「 では、いってらっしゃーい」
スタッフさんに見送られながらスタートし、最初の坂を登り始めた。
「咲夜君、落ちる時はしっかり私をぎゅってするんだよ?」
「・・・・・・・・えっと、それはちょっと・・・・・・・」
「えー、なんでダメなのさ」
「だって掴まるとこなら横にありますし、そういうのは俺なんかとしなくていいと思うんですけど・・・・・・・」
「もう、咲夜君は乙女心が分かってないなぁ。好きな人以外にこんなことするわけないじゃん」
「ぇ・・・・・・・今なんて・・・・・・・・・・」
スピードにのったライドが水しぶきを上げて落下する。
突然の言葉に呆然としているうちに、一つ目の下り坂を落ちてしまったようだ。
「あっ、落ちちゃった。咲夜君、次逃さないように今のうちにぎゅってしておいて!」
「・・・・・・あぇ・・・・はい・・・・・・・・」
混乱したまま言われたので微塵も抵抗することなく、素直に美海さんの身体に手を回してしがみついた。
今の坂は絶叫の練習のために設置されていたらしいので、次のが本番のようだ。
ライドが急加速し、勢いよく滑り落ちる。
「ぬーーーーーーーーーっ!?」
「ひゃっふぅーーーーーーーーっ!!」
盛大な水しぶきを上げてライドがスピードを落とし、ゆっくりと流れていく。
途中にある得点板を見ると、俺と美海さんの点数は惜しくも表示される限界の五位に届いていなかった。




