デート
「やべ、早く来すぎちゃったかな・・・・・・・・」
待ち合わせ場所である藤沢のサンパール広場に着いた俺がスマホの時計を見ると、時刻は十時十分と約束した時間より二十分ほど早かった。
『咲夜君、今度の土曜日にデート行かない?』
結局あの後、美海さんに押し切られる形でデートに行くことが決定してしまった。
特に嫌な訳でもない・・・・・・・と言うかむしろめっちゃ嬉しいんだけど、なんで美海さんは俺をデートに誘ったんだろう。
一人じゃ行きにくい場所があったとか?
だとしても、わざわざデートとは言わないよなぁ・・・・・・・。
・・・・・・・・まさか、ほんとに俺のことが好きだったり?
んなわけないか。
「でもそうするとナゾなんだよねぇ」
「何がナゾなの?」
「えっと、美海さんはどんな理由で俺を・・・・・・ってあれ?」
聞き覚えのある声がして振り返ると、嬉しそうにニコニコした美海さんがそこにいた。
白いTシャツと桜色のデニムスカートに、ブラウンの薄手コートを羽織ったカジュアルな服装だ。
「えへへ、待った?」
「いえ、俺もさっき来たばっかりですよ。それにしても俺が言うのもなんですけど、美海さん来るの早くないですか?」
「うんっ、咲夜君とのデートが楽しみすぎて、じっとしてられなかったんだ!」
「そ、そうですか・・・・・・・・」
思いがけないストレートな言葉に赤面し、嬉しさのあまりニヤけそうになる口元をなんとか抑える。
い、いつものからかいだよね・・・・・・・・!?
ともかく変な期待はすんなよ、俺!
「ねぇねぇ咲夜君。君は私を見て何か言うことは無いのかい?」
「ふぇ・・・・・・・?えっと、その・・・・・・お、大人っぽくて良いと思います・・・・・・・」
「ん〜〜〜!ありがと!今日のためにオシャレしてきた甲斐があったよー。ぎゅーーっ!」
「うわっぷ!?」
心底嬉しそうにはしゃいでいた美海さんが、不意に俺の後頭部に手を回して自身の谷間に抱き抱えてきた。
ちょぉ、なんかデジャブ!?
周りの人が見てますって、美海さんは恥ずかしくないのかなぁ!?
いや、よしよししてる場合じゃないですよ。
この感触を満喫したくないと言えば嘘になるけど、それよりも羞恥心が勝ってそれどころじゃない。
「ぷはぁっ・・・・・そ、そう言えば、今日ってどこに行くんですか?結局教えてくれませんでしたけど・・・・・・・・」
「ふっふっふっ、それは着いてからのお楽しみだよ。それじゃあ行こっか」
ご機嫌な美海さんとともにJR線のホームに降りて、東京方面の電車を待つ。
うーん、こっち側で美海さんが行きたそうな場所かぁ・・・・・・・・・ダメだ、全然分かんない。
『まもなく、三番線に電車が参ります』
あれこれ考えている間にホームに電車が入ってくる。
それに乗って揺られること約二十分、到着した横浜駅で京浜東北線に乗り換えて一駅隣の桜木町で降り、さらに十五分ちょい歩くと、今日の目的地に着いた。
「横浜コスモワールド・・・・・でしたっけ」
「うん、そうだよ〜。やっぱりデートの定番と言えば遊園地だよね!」
たしか入園自体は無料で、アトラクションごとにチケット購入制になってるんだっけ。
ここに来たのも久しぶりな気がするなぁ。
小二で来た時以来じゃないかな。
「よーし、今日は遊び尽くすぞー!咲夜君、どこに行きたいとかあるかな」
「そうですね・・・・・・一番最初なんで、あのジェットコースターとかどうですか?」
指さした先には速度は余りでないものの、れんぞくするこーなーとライド自体が回転する珍しいジェットコースターが走っている。
まだ開園して間もないので、あまり混んでいないから直ぐに乗れるはずだ。
「うん、良いねぇ!早速乗りに行こー!」
テンション高めな美海さんに連れられ件のジェットコースターに乗った。
感想、思った以上にクルクル回ってたわ・・・・・・。
「よし咲夜君、次行くよ、次!」
「美海さん回復すんの早くないですか・・・・・・ってちょ美海さん何して!?」
「え?いや、はぐれちゃうといけないかなぁー、って思ったからさ」
あの、だからと言って恋人みたいに腕を組むのはどうなんでしょうか・・・・・・。
「咲夜君が嫌ならしないけど」
「嫌・・・・・では、ないです・・・・・・」
「じゃあ問題なしだね!」
満面の笑顔の美海さんが次に選んだアトラクションは、ゆっくり動く乗り物に乗って、次から次へと湧いて出てくる3Dモンスターを銃で倒していくシューティングゲーム。
得点によってオリジナルキャラクターカードが貰えるとかなんとか。
これがまた意外と難しくて、二人ともそれほど高得点を出せなかったんだよねぇ。
まあそれでも結構楽しかった。
「んー、次はどこ行こうかなっと・・・・・・あっ、このお化け屋敷なんでどう?」
「お化け屋敷はやめましょう、そうしましょう」
反射的にそう即答した。
何でかって、そりゃ言わなくてもわかるだろう。
「もしかして咲夜君、怖い系無理なの?」
「そうですほんと無理なんですよ・・・・・。なのによくお化け屋敷行こうって友達に誘われるんです、何ででしょうね」
いじめらてるわけじゃないんだけど、一緒に入った友達は出た時にみんなほわほわした顔してるんだよ、お化け屋敷行ったのに。
ほんと何でだろうね。
「ふーん・・・・・・まあとりあえず行ってみよっか」
「うぅ、やっぱり行くんですね・・・・・・・」
渋々ながら着いたお化け屋敷は、洋風のやつでロウソクを持って中に入り、そのロウソクが本人の怖がり度的なのを測ってくれるらしい。
中に入ると早速雰囲気が出ていてもう既に帰りたい。
「美海さん責任取って前行ってくださいよ?」
「いいけど、たぶん前後関係ないと・・・・・・・」
『ア゛ア゛ア゛ア゛・・・・・・・』
「ひぅっ!?」
突然現れたゾンビにびっくりして、涙目で思わず前を歩く美海さんの腕に掴まる。
「ふにゃっ!?さ、咲夜君!?」
「みっ、みみ美海さん!早く、早く進みましょう!?」
無意識に繰り出した不意打ちがクリーンヒットして美海さんがあわあわしていたけど、俺自身も激しく動揺していてその事にまったく気がついていなかった。




