約束
「・・・・・・・・・ってことがあったんですよ。明日絶対みんなと気まずいですって。夏樹先輩、どうしたらいいと思います?」
バイトの休憩時間中、控え室の机で同じく休憩に入っていた野村夏樹先輩に、放課後あった出来事について相談していた。
夏樹先輩は白崎高校二年生の、ちょいくせ毛で眼鏡をかけた先輩。
この見た目の上に生徒会に所属しているから真面目そうに見えるけど、実際はそんなことは無くて結構はっちゃけた人なんだよね。
でもいつもの言動はともかく、根は良い人でとっても頼りになる先輩だ。
最初にここで会った時はなんか見た事ある人だなぁ、って思ってたんだけど、次の日に学校で会ってやっと生徒会にいた先輩だと分かった。
どうりで見た事あるはずだよ。
「うーむ、とりあえず俺の結論だけど、咲夜は爆ぜればいいと思う」
あれちょっと、頼りになる先輩どこいった。
目が座ってて怖いんですけど。
「まったく、俺だったから良いものを、結城さんに聞いてたら目も当てられないぞ」
「え?なんで美海さんに聞いたらいけないんあたっ!?」
「おいおい、結城さんがあんだけ頑張ってんのに、まだ気づいてないとか相変わらずだな咲夜は」
「いたっ・・・・あたっ・・・・・・あぶぅっ!?ちょ、夏樹先輩痛いじゃないですか」
さっきからずっと一定間隔置きに脳天にチョップ喰らってるんだが。
しかもそれがだんだん強くなってる気がするし。
「そりゃ強くしてるからな。美少女三人?羨ましいぞ自慢かこんにゃろ」
「うべぶぅっ!?・・・・・・・・で、でも夏樹先輩にも可愛い彼女さんいるじゃないですか」
「まあな。あいつが可愛いのは当たり前よ、何せ俺の自慢の彼女だからな」
夏樹先輩が自慢するだけあって、彼女さんはかなりの美少女な上にハイスペック持ちで、現生徒会長を務めている誰にでも優しい人間の鏡のような人だ。
二人は幼馴染で、幼稚園くらいの時に将来は結婚しようって約束をして、その時に書いた玩具の婚姻届をお守りとして今も持っているらしい。
ちなみに何でこんなことを知っているのかと言うと、夏樹先輩に散々惚気られたから。
胃もたれしそうなくらい何回も聞かされたんだよね・・・・・・・・・。
まあそれだけ好きってことなんだろうさ。
「んで、どおすっかなぁ。どうせなら結城さんには選ばれて欲しいけど、あと一歩踏み込めてないみたいだし、ここは一発これをネタに煽っとくか・・・・・・・・?」
「何する気ですか夏樹先輩。さっき自分で美海さんに言うのは不味いって言ってたじゃないてすか」
「あれは咲夜が言うと不味いのであって、俺がちょい変えて扇動する分には問題ナッシング。というか咲夜にはプラスしかないから安心しろよ」
「あ、それなら安心だぁー・・・・・・・とはなりませんからね?今扇動って言いました?ほんとに何する気ですか!?」
「まーまー、そう慌てんなって。もうすぐ結城さんも休憩入るだろうし、その時にでも・・・・・・・・・・」
「呼ばれてとび出てじゃ〜じゃじゃーん!ナイスタイミングで来た美海さんだよ〜。夏樹君、私に言いたい話ってなんだい?」
扉をスパーンッと勢いよく開いて仁王立ちする美海さん。
ほんっとにタイミング良いなぁ絶対外で聞いてたでしょ!
「実は咲夜がですね、ごにょごにょごにょょ・・・・・・・・・・・」
「ふむふむ・・・・・・・・ほぉ・・・・・?」
夏樹先輩の内緒話を聞くにつれて美海さんの目が座り始める。
一体どんなことを言ってるんだろうなぁ!?
「グッジョブ夏樹君。教えてくれてありがと」
「いえいえ。じゃあ俺は仕事に戻るんで、あとはごゆっくり〜」
ヒラヒラ手を振りながら、夏樹先輩は速攻部屋から出ていった。
残されたのは俺と笑顔だけどどこか迫力のある美海さん。
あ、あの、もしかして怒ってます・・・・・・?
「さ・く・や・くぅ〜ん?」
「いふぁい、いふぁいれふぅ・・・・・・・」
笑顔のままの美海さんに両頬をみょんみょん引っ張られる。
なんか結構力が入ってませんかね!?
ほっぺたがちぎれそうな気がするんですけども。
「ねぇ咲夜君」
「ふぁい!なんれひょうふぁ!」
「私ね、ちょっと怖かったんだと思う。咲夜君に嫌われちゃうんじゃないかって、そう考えると怖くてさ。でも、いつまでも立ち止まってる訳にもいかないよね!」
「えっほぉ・・・・・・?」
そう何かを決意した美海さんはいつもの調子でケラケラと笑うと、つねっていた俺の頬をそっと離して優しく撫でる。
「咲夜君、今度の土曜日にデート行かない?」
「・・・・・・・・・ふぇ・・・・・・・?」




