VS大嶽丸(3)
大嶽丸視点のお話です。
火炎を纏う拳をいなし、カウンターの掌底を繰り出すがギリギリで避けられてしまった。
・・・・・・・ふむ、ならばこれはどうする?
突き出した腕から旋風が巻き起こり、近くにいた小僧と蒼剣を持つ娘・・・・・たしか咲夜と皐月だったか、がそれに引き寄せられる。
このままでは風刃にみじん切りされるぞ。
「うぬぬ、【グラビティ】!」
ほう、皐月の方は重力魔法まで使えるのか。
無属性魔法にうち分けされる重力魔法の一種【グラビティ】は、対象にかかる重力の大きさを操作したり、力場を作ってそこに引き寄せたりする(ブラックホールのようなもの)高等魔法。
他の魔法に比べ使用時の消費魔力が若干多いのだが、皐月にとってはそこまで問題ではないだろう。
さて、あとは咲夜だが・・・・・・・。
「【アブソーブ】」
む、これまた厄介な魔法を使いよるな。
腕に纏っていた旋風が霧散し、そこに内包していた魔力だけが咲夜に吸われていく。
無属性魔法【アブソーブ】。
自分から一定距離にある魔法を魔力に還元し、その一部を吸収する(既に魔力に戻っていても、数分以内なら吸収できる)。
通常自分が持たぬ属性の魔力を取り込むと気持ち悪くなる、いわゆる魔力酔いをするため【アブソーブ】の使用者はあまり多くないのだが、咲夜は全属性の適性を持っているからこの上なく厄介だ。
しかし、"超魔十芒暴風星"のように、【アブソーブ】の有効範囲を超える規模の魔法や、間接的にダメージを与える魔法ならばその限りではないがな。
『咲夜よ、戦いは肉体戦のようであって、頭脳戦でもあるのだ。何故相手がこのような行動をとったのか、それをする意味は何か、常に考えを巡らせ、自らの勝ち筋を組み立てなければならない。無論、相手も同じことをするだろう。そうなると今度は読み合いだ。どれだけ正確に先を読み不測の事態にも対処できるか、それが勝敗を分ける。当たり前のことではあるが、これを実戦の中でできるものは少ないのだ。圧倒的強者が相手でも、戦略に長けた弱者が勝つことはそれなりにある』
迫る火炎の拳を受け流して繰り出した裏拳が咲夜の胴を捉え、波紋のような衝撃波が突き抜ける。
「うぇっぷ・・・・・これ、気持ち悪い・・・・・・」
青い顔で口元を抑える咲夜を横目に、いつの間にか懐に入ってきていた皐月を腕が霞む速度で投げ飛ばす。
「えっ、あれ!?」
あまりの速度に投げられた本人でさえ、何が起きたのか瞬時に理解することが出来なかったようだ。
不意に上に掲げた金棒に白いレイピアがぶつかり、激しい火花を散らす。
・・・・・・・・・むぅ、我が押し負けるか。
宙に浮かんだままの花恋が力を加えると、さらに金棒が我の方へ押し込まれた。
しかも飛翔魔法以外、一切魔力を使っておらぬな、花恋よ。
純粋な腕力と技術だけでここまで我を圧倒するとは。
「君が言ってたみたいな人は、たしかにいっぱいいたねー。中途半端に強いもんだから、自分の力を過信しちゃって相手を下に見がちなんだー」
『うむ。本当の強者になりたくば、驕りを捨てるのだ。たとえ弱くとも、万人が強者を砕く矛を隠し持っているのだからな。・・・・・・まぁ、だが』
金棒を回転させてレイピアの軌道をそらし、バランスを崩した花恋の襟を掴み、まだ酔っていた咲夜向けて投げつける。
「「ちょっ!?」」
『極論を言うと、それら諸共圧倒的な力で粉砕すれば良いのだがな。【ロックキャノン】!】
「いや、今までの良い話の意味ーーーーーっ!!?」
何やら叫びながらもしっかりと花恋をキャッチした咲夜に、ほんの一瞬だけ遅れて背丈の二倍はある丸い大岩が迫る。
しかし、当たる直前に一筋の閃光が走り大岩が瞬く間に十六に切り裂かれ、それが三十二になり、次の瞬間には六十四に分かれた。
ふむ、そう簡単には行かないか。
それにしても、速すぎて剣閃が一つにしか見えないとは恐ろしいものだな。
「おー、さすが花恋さん。これは私も負けてられませんねー!」
周囲に冷気が漂い、魔力の雪が降り出す。
「咲き誇る氷花、"雪魄氷姿"!」
地面に突き立てた蒼剣から氷が広がり、そこから生えた根が我を捕え少しずつ凍りつかせていく。
そこらかしこから氷でできた梅の花が芽吹き、幻想的な花畑を作り出した。
梅の花とはたしか、木に咲くものではなかったか?
地面から直接咲いているのだが。
いや、そんなことはどうでもいい、それよりも・・・・・・・・・。
『まさか・・・・・これすらも使いよるとはな・・・・・・!』
完全にあの蒼剣を掌握していると言うことか。
おもしろい!
「さて、今度は俺の番だね!」
光と闇の魔力が混ざり合い、複雑な輝きを見せる。
む、これはやばいな。
持っていた金棒を捨てて拳にありったけの魔力を集め、山吹色のオーラが立ち上るそれを咲夜に向けた。
さあこい!
「"黒聖一閃"!」
『"妖獄岩・轟"!』
・・・・・・ぬ・・・・・ぅ・・・・・なんと重い一撃よ。
纏う闇で威力を激増し、それで発生する魔力の浪費を光による微細な調節で省くことによって、最効率に近い形の魔力運用が実現している。
相反する属性をここまで使いこなすとは。
しかも驚くべき点はもう一つ、これを勘でやってのけていることだ。
咲夜の戦闘経験は皆無だろうから、おそらく失った記憶の中にカギがあるのだろう。
そしてそれには、我を封印した六百年前の少女が関係しているはずだ。
咲夜の魔力波長やふとした時の仕草、深淵にある我の魔眼ですら見通せぬ謎の力など、瓜二つと言えるほど似ている。
血縁関係、しかもかなり近しい存在・・・・・・あの少女の息子だとしたらおもしろいな。
「何か考え事かな?」
『くっ!』
左腕を横に薙ぎ払うと、ガギィンと音がして光るレイピアと衝突し、足が地面に沈むほどの圧力が二箇所からのしかかってくる。
・・・・・・・・やはり、花恋もそうか。
咲夜ほどではないが、花恋からも似た気配を感じるな。
人間で言うと親戚のような感じか。
そして皐月も、薄くではあるが確実に混じっている。
直系ではなく、眷属の眷属くらいだろう。
まさか封印が解け最初に戦うのが、あの少女に縁のある者たちだとはな。
本人と再戦したかったが、それは無理のようだ。
なにせ六百年前の話だ、もう生きてはいないだろう・・・・・・・・・・・が、それは彼女が本当に人間ならだが。
まぁ間違いなく生きているはずだ。
我を封印する直前まで名すら明かさなかったようなやつだ、何か特別な事情があるのだろう。
我を完膚なきまでに叩き潰した少女。
たしか彼女の名は・・・・・・・・・・・・・。




