日常
「・・・・・ぅ・・・・んぅ・・・・・?」
まどろみから覚め、閉じていた瞳をゆっくり開く。
目に入ったのは、制服姿の男女たち。
友達と一緒にお昼を食べている女子や、昼休みを満喫している男子。
まぁつまり、もう見慣れた"いつも通り"の光景だ。
「またあの夢か・・・・・」
先程まで見ていた夢を思い出し、思わずそう呟いた。
普通の夢だったらこうはならないだろうけど、俺の場合はそうもいかない。
俺はあのファンタジーな夢を、何回も見たことがあるのだ。
最近よく見る程度のレベルではなく、小さい頃から今に至るまで、数え切れないほど。
三日に一回くらいのペースだったんじゃないだろうか。
さすがにここまで来ると所詮は夢、とバッサリ切り捨てることはできない。
これは何かしらの陰謀を感じるね!
もしかして俺、宇宙人の信号を受け取ってたりして・・・・・・・・・うん、冗談はここまでにしとこう。
それに毎回思うが、妙にリアルなんだよなぁ。
花の匂いやほおを撫でる風、少女の声など、まるで本当に現実のことかと思えるくらい鮮明だった。
その上、なぜか懐かしさを感じる。
あの丘も町も少女も、何一つ記憶にないのに懐かしいとはこれ如何に。
何が原因でこんな事になっているのか皆目見当もつかない。
ま、考えてわかる事じゃなさそうだし、とりあえずこの話は置いておこうかな。
一息して思考を頭の隅に追いやり、いつの間にか額から垂れてきた汗を手の甲で拭う。
それにしても、話はいっきにかわるけどあっついなぁ。
ムワッとした熱気が教室に溢れている。
あ〜〜〜、だめだ・・・・・。
「あっっつ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」
気の抜ける声を出しながら机に突っ伏す。
まだ五月だというのに、教室は蒸し返すような暑さだ。
なんでも今世紀最大の猛暑だとか。
春なのにこの暑さとは・・・・・地球温暖化恐るべし。
おっと、垂れてる場合じゃなかった、自己紹介がだいぶ遅れたね。
俺の名前は神月咲夜
彼女いない歴=年齢で、残念ながら身長もあまり高くなく、頭の良さはそこそこな生粋のオタクだ(ここ大事)。
言ってて悲しいがその他はだいたい平々凡々。
そんな俺だが、一つだけ普通じゃ無いところがある。
それは・・・・・・・。
「おっ、咲夜が垂れてるぞ」
「本当だ!かわいい〜」
「癒されるよねー」
近くにいた友達が俺の顔を覗き込み、歓声をあげている。
ほおを突かれたりしているが、それに抗う気力もなくされるがままに。
「わぁっ、めっちゃぷにぷにしてる!」
「柔らか〜」
・・・・・・・・・おわかり頂けただろうか。
最初に言っておくが、これは嫌味じゃないぞ。
小柄な体躯にシミひとつない肌、幼さが残っている顔立ちだが顔のパーツは完全にバランスが取れた位置にあり、少し長めの黒髪がよく似合う。
まさに儚げな少女のよう・・・・(友達曰く)。
・・・・・・・さて、一応言うが俺は男だ。
昔から可愛いと何度も言われたり、妹と歩いていたら姉妹と間違えられたりしたが、それでも男だ。
男の諸君よ、今問おう!
男って可愛いより、かっこいいって言われる方が嬉しくね!?と。
いやまあ、可愛いと言われて悪い気はしないし、オタク的な面でも喜ばしいことではあるんだけどね。
だけど"少女の様な見た目"を羨ましがる人もいるだろうが、一回なってみればわかる。
あんま良いとこない。
「あっ、咲夜くん!」
心の中で熱弁していた俺の元に、聞き慣れた柔らかい声とともに足音が近づいてくる。
顔を上げると、俺の席の前に一人の女子生徒が立っていた。
「桃花か。どうした?」
彼女の名前は天月桃花。
容姿端麗、成績優秀、おまけに部活であるテニスでも全国大会出場と、文武両道の化身かと思ってしまうような完璧さ。
校内では天女やら女神やらと称されていたり、実は密かにファンクラブまであるらしい。
あと、俺の幼馴染でもある。
「えっとね、今日お母さんに買い物を頼まれてるんだけど、重くなりそうだから・・・・・・その、一緒に来てくれると嬉しいな!」
少し恥ずかしそうにそう言った。
うーん、今日はバイトがあった気がするけど、六時からだったから大丈夫かな。
「ん、全然いいよー。任せなさいな」
ついていくこと自体はいつものことなので軽く引き受ける。
すると今度はパァッ、と花が咲くように眩しい笑顔になり。
「ありがとう!それじゃあ帰りに駅前のスーパー寄ってこうね!」
そう言って自分の席に戻っていった。
かわえぇの〜。
一緒に行くだけでこんなに喜んでくれるんだったら、おにーさんはいつでも着いてくよ!?
微笑ましい光景につい頬が緩む。
おっと、今のに変な意味はないからな。
あれだよ、なんて言うの?
親目線的なあれみたいな・・・・・・・まあいいや。
それを見送って再び机に突っ伏そうとすると、周囲から複数の視線を感じた。
「・・・・・・・何かね?凛、莉音、竜太」
視線の正体は先ほど俺のほおを突っついていた女子二人(ポニーテールがトレードマークの柴崎凛、ボブカットでゆるふわな雰囲気の渡辺莉音)と、最初にいた男子(最近若干チャラ男になりつつある、葉山涼介)だ。
三人とも呆れた様な顔をしている。
「あのなぁ咲夜、いい加減気づけよ。ただ手伝って欲しいだけじゃないだろあれは・・・・・・」
「相変わらず女心わかってないねー。可愛いのに」
「咲夜は学習すべきだと思うよ〜」
よく分からんが、三人にボコボコに言われた。
何故だ・・・・・。
よくこんなふうに言われたり、鈍感だと言われるのだが、何でだろ。
今のだって、ただ買い物の手伝いを頼まれただけなのに。
あと凛さん、可愛いは関係ないでしょ可愛いは。
「桃花の苦労がひしひしと伝わるわ・・・・・」
「「ねぇーー」」
・・・・・解せぬ・・・・・。




