決着
『グルルルアァァァァァァァッッ!!!』
巨大な咆哮とともに、ヴラフォスドラゴンの周りに尖った岩の塊がいくつも作り出される。
再びの咆哮によってその岩石達はものすごい勢いで四方八方に飛んでいく。
皐月単体を狙うのを諦めたのか、周囲を巻き込んだ無差別攻撃だ。
「ふっ・・・・・・!」
皐月の右腕が閃いたかと思うと、迫っていた岩の塊が一瞬で粉々に斬り刻まれた。
さらに迫り来る岩と足による踏みつけ攻撃を素早く避けながらヴラフォスドラゴンに接近し、股の下をくぐり抜けシッポを切断。
血を吹き出しながらのたうつシッポを退かして背を駆け上がり、頭付近でジャンプして空中に踊りでた。
剣を肩に担ぐようにして半身の姿勢をとる。
すると、剣は今までよりもっと勢いを増して蒼く輝き、周囲を太陽のごとく照らした。
ちょ、なんか大技撃とうとしてない!?
明らかにさっきまでのとは毛色が違うし、ヴラフォスドラゴンさえも"え、聞いてないんですけど"見たいな顔をしてる気がする。
心做しか腰が引けてるような・・・・・・・。
それもそのはず、皐月から発せられる魔力の圧が比べ物にならないくらいに増えていて、この技が見掛け倒しではない事を物語っている。
「"蒼天・霖雨流聖!"」
体をひねって振り下ろされた蒼剣は、それを防ぐために盾にされた腕ごと、いとも簡単にヴラフォスドラゴンを真っ二つに斬った。
溢れ出した蒼い閃光で視界が染まる。
うっ、これ絶対にオーバーキルなんじゃ・・・・・・・・。
光が落ち着いて目を開けると、目の前には大きなクレーターができていて、そこの中心には真っ二つになったヴラフォスドラゴンと、蒼剣を鞘に収める皐月がいた。
どうやら、ヴラフォスドラゴンを斬った後もその威力は衰えず、地面にクレーターと深い溝を作り周囲にも大きな爪痕を残したらしい。
予想通りオーバーキルな一撃だったようだ。
ここが異空間でほんとによかったよ・・・・・・・元の空間でこんな事やったら一体どんな事になるか。
きっとバカ高い修理費を払うだけじゃ済まないだろう。
花恋はサラッと、俺は慎重にクレーターに入って皐月の元に行く。
「まったく、最後のはやりすぎだよ?」
「あはは、やっぱりそうですよねぇ・・・・・。ちょっと張り切りすぎちゃいました」
普通、ちょっと張り切りすぎてあんな技が出るのだろうか。
花恋も大概だが、皐月もとんでもなく強いみたいだな。
「まぁ、そりゃねー。一応"ユグドラシル"の三幹部の一人でもあるし」
「あ、なるほど。だからこんだけ・・・・・・・・・今なんて言った?」
うーんと、俺の聞き間違いかな。
今、皐月が"ユグドラシル"の幹部の一人だって聞こえたんだけど・・・・・・・・・。
「そうだよ?世界を見守る組織"ユグドラシル"を支える三本の柱。その内の一人が皐月なんだー。たしか、司ってるのは『人類』だっけ」
「はいです!ユグドラシル所属、序列第三位にして『人類』を司る、白川皐月てすっ!以後お見知り置きを!」
可愛いい敬礼をしながら、わざとらしくウインクをする皐月。
いやもうほんと、どこからツッコめばいいのやら・・・・・・・・。
たまにユグドラシルから依頼を受けることもあるって言ってたけど、まさかその幹部が仕事を手伝ってるだなんて。
しかも俺より年下でそんな重要な役職に就いてるって凄くない?
もし俺が皐月の立場だったら責任感とかで胃に穴きそうだもん。
「ごめんねー。ちょっと言うタイミング逃しちゃって」
「皐月もすっかり忘れちゃってました!」
カラカラと皐月が笑う。
心臓に悪いからなるべくそういう話は早くしてもしかったかも・・・・・・・。
まぁ俺はそこら辺の話をよく知らないし、それを含めて今日、花恋から詳しく話しを聞く予定だったんだけど、予想外なところで知ることになったな。
「・・・・・・っと、そうだ。この魔力結界はずっと張っておく訳にもいかないから、この話は裏始末をしてからにしよっか」
「ですね!」
「それはいいんだけど、後始末って何すんの?」
建物の被害は空間が違うから大丈夫らしいし、とりあえずこのヴラフォスドラゴンの死体を何とかしなきゃいけないって言うのは分かる。
でもこれって、人間が何とか出来るようなものじゃなくない?
少なくともここにいる人数で運べる代物ではないと思う。
ダンプカーでも呼んでくる?
あ、それはもっと無理か。
「ふっふっふーっ、ここで私の出番なのだよー!」
花恋が自慢げに腰に手を当てて胸をそらせる。
え、今度は花恋が一人でやるの?
まさか片手で持ち上げたり・・・・・・・・・・いや、さすがに花恋でもそれは無理でしょ!
・・・・・・・・無理だよね?
一体どうやってこんな馬鹿でかい死体を、一人で何とかするんだろうか。
「咲夜さん。今はまだいいですけど、合図をしたらしっかり目をつぶってくださいね?じゃないと失明しますから」
「ちょっと待って、本当に何するの!?」
「じゃあいくよー」
花恋がヴラフォスドラゴンの頭に手をかざすと、そこから淡光が漏れ出していく。
その光はだんだんと輝きを増し、やがて直視するのが難しくなるくらいになった。
おぉ、これはあれですか、いわゆる神聖魔法的なやつですか!
「咲夜さん、そろそろ・・・・・・」
「ほーい」
言われた通りしっかりと目をつぶってさらに手で覆い隠すと、少し遅れて目を閉じていても眩しく感じるほどの光が辺り一面を染める。
あ、これはたしかに目をつぶってないとやばいわ。
絶対"目が・・・・目がぁ・・・・!"ってなるやつだ。
バ〇ス並の威力がある光が収まってから目を開けると、ヴラフォスドラゴンの死体は淡く発光し、光の粒子となって少しずつ消滅していた。
「やっぱりこれも魔法なの?」
「うん。光属性の浄化魔法の一種だよー」
光の粒子の量は徐々に増えていって、数分でヴラフォスドラゴンの死体は完全に消滅した。
すごいな・・・・・・あれだけ巨大だったドラゴンがほんの少しの間に跡形もなくなってしまった。
今更ではあるが、敵だとしても殺してしまったのは少し心が痛む。
せめて安らかに眠ってね・・・・・・。
俺たちは天に昇る光の粒子に黙祷をしてから、そろって最初にいたフードコートに戻る。
結界を解除した時に元と違う場所にいると、周りの人からは瞬間移動したように見えるらしいので、多少の誤差はともかく大雑把にでも戻らないといけないのだ。
動かない朱華の横を通り抜けて元の位置に戻ると、花恋が結界を消す。
途端に周囲はザワザワと騒がしさを取り戻し、突然揺れが収まったことに戸惑う声が飛び交っている。
「・・・・・あ・・・・れ・・・・・?お兄ちゃん、今なんか変な感じがしたんだけど・・・・・・・」
朱華は俺たちが一瞬の間に若干動いたのを何となく感じたらしく、頭の上に"?"を大量に浮かべている。
首をかしげる朱華に気のせいだと誤魔化しながら、騒然とする店内が落ち着くのを待つのであった。




