アクセサリーショップと謎の揺れ
次はどこに行こうかと考えていると、朱華から買った服に合うヘアゴムかピンが欲しいとリクエストが入った。
ならばと買い物を終えた俺たちはアパレルショップを出てエスカレーターに乗り、三階に上がって映画館の近くにあるアクセサリーショップに向かう。
ここはピアスやリング、ヘアゴムやバレッタなどのヘアアクセなど、かわいい系から大人系まで様々なアクセサリーを取り扱っていて、広い客層に人気を誇る有名なお店らしい。
たしか藤沢駅近くにも支店があったような。
「お、これなんか花恋に似合うんじゃないの?」
棚においてあったサンプルのアクセサリーを手に取る。
値札によると、"ワンポイントストーンネックレス"という商品らしい。
その名の通りチェーンの先に雫型の石が付いていて、シンプルながら美しさを醸し出している。
俺が選んだのはその紫色のやつで、花恋が着ているピンクのロングコートに合うかなー、と思いまして。
と言ってもあんまり俺ってこういうのを選ぶセンスが無いから、本当に合っているかは付けてみてからじゃないと分からないけどね。
そう思い念のため試しに花恋に付けてもらおうとすると。
「咲夜につけて欲しーなー・・・・・・・」
上目遣いにそう頼んできた。
・・・・・・・そんな風に頼まれたら絶対にやらざるを得ないじゃないっすか、いやマジで。
こらそこ、チョロいとか言わない!
「じゃ、失礼して・・・・・・・」
ネックレスの留め具を外して花恋の首に手を回す。
・・・・・・・うぅ、近い・・・・・・!
自分でオッケーしといてあれだがめっちゃ恥ずかしい。
抱きつくような体勢で至近距離の花恋と目が合い、自分の顔が赤くなるのを感じながら、手探りで髪を避けて留め具をパチリとはめる。
「どうかな」
「うん、いいと思うよ。大人っぽい雰囲気になるね」
「ふふっ、ありがとー。じゃあ私はこれを買おうかな」
うむ、どうやら俺のセンスは間違ってなかったらしい。
喜んでもらえてなによりだ。
嬉しそうに笑った花恋は首につけていたサンプルを外して元の場所に戻し、そのまま横に置いてあった正規品の入った箱を手に取った。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、これどう?」
「どうでしょうか、咲夜さん!」
服の裾をクイクイッと引かれて振り返ると、朱華と皐月が自分の髪につけたヘアアクセを見せてくれた。
朱華の方は、"リーフヘアピン"と呼ばれる、ヘアピンの一部が葉の形をしているやつ。
皐月の方は、"サテンBIGリボンヘアゴム"と言う、大きめのリボンの両端が垂れ下がったデザインのヘアゴム。
「へー、こんなのもあるんだ。二人とも良く似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうお兄ちゃん!」
「嬉しいです!」
ぱぁっと笑顔を咲かせた二人はいそいそとアクセサリーをカゴに入れる。
どうやら俺の感想が決め手となったようだ。
三人とも買うものが決まったらしいので、レジの行列の一番後ろに並ぶことにする。
俺たちの前にもそこそこの人数が並んでいるので、少し時間がかかりそうだ。
列が進むのをボーッと待っていると、不意にポケットに入っているスマホが震えた。
取り出して画面を見ると、着信"父さん"の文字。
あれ、なんだろ。
花恋たちに断ってから列を離れて店を出て、近くに手頃なベンチを見つけたのでそこに座る。
「もしもし、父さん?」
『おう、咲夜か。実は今仕事が終わって家に帰ったんだが、誰もいなくてな。どこか出掛けてるのか?』
「あ、ごめん、言うの忘れてた。昨日さ、新しいバイト先の見学に行くって言ったじゃん?その前に・・・・・・・・・」
『・・・・・・ああ、なるほど。ってことは今デート中か?邪魔しちゃって悪かったな』
え、何その察する早さ。
予知能力でもあるんですかね・・・・・・・。
どうやったら"バイトの見学の前に・・・・・・・"だけでデートしてるって分かるんだか。
「ううん、大丈夫。あ、朱華はお昼食べたら帰るだろうからよろしく」
『おう。じゃ、デート楽しんでこいよー』
「へーい。バイバーイ、っと」
スマホを耳から離して通話を切る。
やー、親に報告するのすっかり忘れてたわ。
ラインか何かしとけばよかったな。
「電話終わった?」
「うん、ありがとう」
三人は俺が電話している間にお会計が終わったらしく、それぞれ小さな紙袋を持っていた。
「はいこれ、お兄ちゃんの!」
「お、ありがと・・・・・ちょっと待って、俺のって?」
反射的に紙袋を受け取ってからふと気づく。
このアクセサリーショップは色々な種類が売っていて、男子が付けるようなピアスなどもあるので、お土産として買うのは何ら変ではない。
駄菓子菓子、なんだろうこの嫌な予感は。
「まあまあ、とりあえず開けてみてください!」
・・・・・・・もう嫌な予感しかしないんだけど。
おそるおそるテープを剥がして包み紙を開けると、中からは二つのヘアピンが出てきた。
ピンク色のハート型のと普通の黒いヘアピン。
・・・・・・・・・やっぱりね。
「これを俺につけろと?」
「うん。あ、もしかして付け方分からない?」
「ちがわい。それくらいわかるけど、そういう事じゃなくてね・・・・・・?」
「ほら、じっとしててねー」
「いやなにナチュラルにつけようと・・・・・って。朱華、皐月、なぜ俺の腕を抑えてるのかな?」
「花恋さんやってください」
「咲夜さん、諦めて可愛くなってください!」
諦めて可愛くなるって何!?
ハート型のヘアピンを持った花恋が俺の前髪を右側に寄せる。
どうしようどうしよう、逃げたくても動けん!
くっ、ここで都合良く特殊能力とかに覚醒したりしないかなぁ!?
パチリ。
あっ・・・・・・・・・・・・。
もちろんそんなミラクルが起こることはなく、ヘアピンをつけた花恋は俺の髪から手を離す。
「うん、やっぱり可愛いねー」
「はわ〜っ、すごいです!咲夜さんが女の子です!」
「さすがお兄ちゃん!」
「・・・・・・・・ぁぅ・・・・・・!」
顔がかつて無いほど真っ赤に染まり、羞恥のあまり顔を伏せてしまう。
当然ながら周囲の人からも注目されてる訳で、チラチラ見られてるのが分かるから死ぬほど恥ずかしい。
「おい、あそこの子超可愛くね?」
「それに見ろよ、周りの子もすごいぞ」
「俺、あの座ってる子どストライクなんだけど。話しかけてみようかな」
「止めとけって。お前なんて相手にされるわけないだろ?」
「悲しいこと言うなよ・・・・・・・・」
・・・・・・・・・俺は何も聞いてない何も聞いてない何も聞いてない。
そうだ、そろそろお昼食べに行こう。
もういい時間だしね。
現実逃避気味にそんなことを考える。
「そうだねー。そろそろご飯食べに行こっか」
「どこ行きます?」
「この下にあるフードコートはどうですか?」
「いいですね!じゃあそこに行きましょう!」
俺の心情を察してか(原因は彼女たち)満場一致で決定したので、そろって下の階にあるフードコートに向かう。
もちろんヘアピンは取りましたよ?
フードコートはさすがにお昼時だったのでかなり混んでいて、席を見つけるのにかなり時間がかかっただけでなく、席に着いてからもお店の行列がすごすぎて注文するだけでえらく時間がかかった。
「こりゃ、呼ばれるまでも時間かかりそうだな・・・・・・」
「ですね・・・・・・」
思わず苦笑いしながら手元のアラームを見る。
これがなると注文した料理を受け取りに行けるのだが、この混み具合からしてまだまだみたいだ。
暇つぶしとして、みんなで協力プレイが出来るパズルゲームをすることになった。
六色のパズルを動かして、各色三つ以上のパズルを揃えて消すやつね。
花恋と皐月はわざわざ入れてくれた。
そして、ちょうど六個目のステージをクリアしたタイミングで朱華のアラームがなった。
「私が一番最初だったかぁ。じゃ、受け取ってくる─────────────」
そう言って朱華が立ち上がった瞬間。
ズズッ・・・・・・・ズドドドッッ!!!
とてつもない揺れが起こり、辺りから悲鳴が上がる。
くっ、これは・・・・・・・!?
近くで、ズドンッと巨大な何かが落ちる音がした。




