ミニファッションショー開幕
最近投稿時間が遅くてごめんなさい!
「あっ!花恋さーーーーん!」
どこからともなく、そんなバカでかい声が聞こえてきた。
おおっ、なんだ!?
声のした方を見ると、階段を降りた先にあるベンチの前で、こちらに向かって大きく手を振っている少女がいた。
歳の頃は俺と同じか少し下くらいで、意志の強そうな瞳と肩ほどまで伸びた茶髪を持ち、全身から謎の元気パワーを溢れさせている少女。
あんな大声を出してたせいで周りからかなり注目されているのだが、そんなこと全く気にしていなさそうな・・・・・・・・・あれ、そもそも気づいてすらない?
あぁほら、そんなにジャンプするとスカートめくれちゃうぞ。
自分の存在を主張するかのようにぴょんぴょん跳ねて手を振る少女のスカートは、先程から何度も際どいところまで舞い上がってしまっている。
その度に周りからチラチラ見られてることを少女は気づいていないのだろうか。
・・・・・・・・・あと、そのね・・・・・・なんと言いますか。
女性特有の膨らみがね、跳ねる度にふよんふよん揺れてるんですわ。
特別大きいわけではないんだけど、ニット生地の上着を押し上げる、形の良い二つの膨らみが揺れてるせいで男たちの目が釘付けなんですよ・・・・・・・・。
しかも腕に抱き付いている花恋が"またか・・・・・・"と呟いているから、彼女は何か以前にも同じようなやらかしをしてしまったようだ。
階段を降り切った俺たちの元に、少女が満面の笑顔で駆け寄ってくる。
「ごめんねー、待たせちゃった?」
「いえいえ、皐月もさっき着いたばかりなので。・・・・・・っと、こちらが噂の神月咲夜さんですか?」
「あ、はい。俺が噂の神月咲夜さんです」
「白川皐月てす!咲夜さんより年下なので、タメ口で皐月って呼んでください。これからよろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
可愛く敬礼のようなポーズで自己紹介する皐月の周りだけ、ペかーっと輝いているのかと勘違いしてしまうほど眩しい笑顔。
あ、やっぱり年下だったんだ。
この若々しさ溢れるオーラは高校生って言うより、中学生くらいの時の方が出てる気がするのって俺だけかな。
もちろん高校生も若いんだけど・・・・・・・・なんか高校生のイメージって若くて青春楽しんでるってのがあるじゃん?
でも実際青春を謳歌してるのは少数だし、基本みんな忙しすぎては寝不足で悲鳴上げてるだけなんだよね。
全国の中学生諸君、進学したらマンガやアニメみたいな青春高校ライフがあると思ったら大間違いだからな!
俺も"高校入ってからが青春の本番だ!"とか期待してたけど、まったくそんなこと無かったね、うん。
哀れな被害者のうちの一名ですよ・・・・・・・・・・はぁ、一人称が名前ってなんかいいよね。
バッチリ自己紹介がキマッて満足したのかご満悦な表情の皐月が、ふと俺の横にいた朱華に視線を移す。
「あれ、こちらの方は?」
「妹の朱華です。今日はちょっと色々あって、一緒に来させてもらうことになりました」
「そうなんですか!せっかく来たんですから、精一杯楽しみましょうね!」
胸の前で握り拳を作って、やる気満々なポーズをとる皐月。
かわいいわー、癒される。
「じゃあ、早速だけどデートを始めよー。三人は行きたい場所とかあるかな?」
「俺は特になし」
「皐月はお洋服屋さん行きたいです!」
「あ、それいいですね!」
皐月の意見に朱華が賛成し、俺たちも異論はなかったため、最初に洋服屋に行くことになった。
このショッピングモールには何店かあるのだが、今日行くのは二階にあるオシャレなアパレルショップ。
シンプルなものから奇抜なものまで数多くを揃えていて、最近女子高校生を中心に人気らしい。
ショッピングモールの入り口を通って一番近くにあったエスカレータに乗り、二階に上がってから少し歩くと件のお店に着いた。
お、おおぅ、これはまたすごいな。
陰キャとしても男としても入りにくい。
さすが女子高校生に人気と言うべきか、女子向けの商品がかなり充実している。
男物も結構あるのだが、女子のものとは比べ物にならない。
そう言うコンセプトのお店なのだろう。
よく分かんないけど。
「あ、お兄ちゃん、これなんかどう?」
商品を物色していた朱華が、一つのワンピースを手に取って俺に見せる。
白と黒のシンプルな色で、裾と胸元にフリフリが付いているワンピースなのだが・・・・・・その、胸元がね、結構大胆に開いてるんです。
う〜ん、ちょっとお兄ちゃんには刺激が強すぎるかな!?
「いやぁ、ちょっとそれは・・・・・・・・」
「じゃ、着てみるから感想よろしく、お兄ちゃん!」
「え!?」
そう言うや否や、朱華はワンピースを持って試着室に入ってしまう。
・・・・・・・・どうしよう、めっちゃ逃げたい。
しかもこのお店の中で男一人だと気まずい。
いや、いくら見た目が女の子だからと言ってもね、中身は完全に男の子ですから。
「お兄ちゃんいくよー」
「お、おう」
カーテンの向こうから聞こえた声に、ビクリと身体が跳ね上がる。
て、何びっくりしてんだ。
べつに今更・・・・・・・・・。
「ジャジャーン!・・・・・ど、どうかな、お兄ちゃん」
「・・・・・・・・・・!」
心の中での言葉は、それ以上続かなかった。
いつもとは違う雰囲気の服を着た朱華に、思わず見惚れてしまったのだ。
短めの裾から覗くまっさらな肌は眩しく、少し顔を赤くして視線を逸らしているのが実に愛らしい。
・・・・・・・・・強調された胸に関してはノーコメントで。
「お、お兄ちゃん?」
「っぁ、えっと、・・・・・よ、よく似合ってるよ、朱華。可愛いぞー」
「っ!あ、ありがと、お兄ちゃん・・・・・・・」
目を逸らしていた朱華が俺の方を向いて、屈託のない笑顔を見せる。
その姿にもまた、思わずドキリとしてしまった。
うぅむ、まずいぞこれは。
朱華のこと、思いっきり女の子として意識しちゃってるじゃん。
いやまあ、意識するなって方が無理な話だけどさ・・・・・・・。
でも朱華は俺のことを実の兄だと思って普通の兄妹として接してくれてる訳だし、俺のせいで今の関係が壊れるのは申し訳ない。
だから、朱華に対してそう言った感情を持つわけにはいかないのだ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「・・・・・・いや、なんでもないよ」
俯き気味だった俺を心配そうに覗く朱華にそう答えて、笑いかける。
それでもまだ、心配そうな顔をしている朱華をどうしたものかと考えていると。
「咲夜さん咲夜さん、皐月も服を選んだので感想お願いします!」
「ん、りょーかい」
絶妙なタイミングで話しかけてくれた皐月に内心で感謝しつつ、俺は朱華とともに試着室の前をあける。
鼻歌まじりに中へ入った皐月を待っていると、やがてカーテンが開かれた。
「どうですか?」
「おー・・・・・・!」
皐月が選んだのはボーイッシュな服で、ショートパンツとダボッとした大きめのスウェット、そしてつばの広い帽子をかぶっている。
すごい、皐月がこれ着るとなぜかめちゃくちゃ似合う。
迷うことなくサムズアップ。
「やったです!」
「よーし、次は私だね」
喜ぶ皐月と意気込む花恋が場所をチェンジ。
また少し待っていると、カーテンが開いた。
「・・・・・・・どうかな?」
「っ!?」
俺は朱華の時とは別の意味で言葉を失った。
花恋が選んだのは朱華と同じでワンピースで、特に飾り気もないまっしろなもの。
でもそれを見た途端、一瞬だけ俺は激しい頭痛に襲われた。
頭の奥から何かが呼び起こされるような感じ。
これは・・・・・・・・!
「咲夜、何か思い出した?」
やっぱりこれ、俺の失った記憶に関係あるのか・・・・・・。
なぜかは分からないが、花恋の今の服装は失った俺の記憶を刺激するものだったらしい。
・・・・・・・・・・って、なぜかじゃないわ。
あれじゃん、夢に出てきた女の子の服装に似てる。
だが残念ながら、激しい頭痛の他に何か起こることはなかった。
「そうだよね。ごめんね、咲夜。痛かったでしょ?」
「いや、大丈夫・・・・・。痛かったの一瞬だけだし。それ、よく似合ってるよ」
「ふふっ、こんな状況でも律儀に褒めてくれるんだねー」
「まあ、約束したからね」
「そっか・・・・・・。うん、じゃあ突然やっちゃったお詫びに、咲夜がもっと喜びそうな服を探してくるよー。具体的には朱華ちゃんが着てるのみたいなのを」
「ちょ!?」
それっぽい雰囲気が一瞬で粉々に砕け散った。
話題の切り替えが早くない?
しかも、なんてこと言ってくれちゃってんの!?
「あはは、冗談だよー。二人とも、次の服選びに行こっか」
「あ、はい!」
「了解です!」
どうやら最後の方の言葉は小声だったせいで、朱華と皐月には聞こえなかったみたいだが、本当に心臓に悪い。
上機嫌に服を選んでいる三人を見て、俺は密かにため息をつく。
その後も三人の美少女によるミニファッションショーは続き、最終的にはそれぞれ俺が一番似合っていると思ったものを購入して、ここでの買い物は終わり。
花恋によると、次はアクセサリーショップに行くらしい。




