"海辺祭り"(2)
今回は"海辺祭り"一日目の午後の部と、二日目午前の部のお話です!
皆のおかげで大繁盛となったメイド喫茶は、お昼休憩を挟んで午後の部になってもその人気は衰えること無く、未だに長蛇の列を作っていた。
その混み具合は当初の俺達の予想を遥かに上回っており、急遽材料を買い足しに行かなければならないほど。
まだ一日目なので断言は出来ないが、この調子で行けば後夜祭で発表される、ナンバーワン店舗になれるのではないだろうか。
まぁ二、三日目も今日くらい盛り上がるか分かんないし、いくら何でも早とちりしすぎか・・・・・・・・。
「安全点検です〜。三組さん、調子はどうですか?」
「もちろんバッチリ!」
「売れ行きも良いし、好調な滑り出しだよ!」
そして約束通り午前中フルに働いた俺は、役目を午後メンバーにバトンタッチして、文化祭実行委員としての仕事に励んでいた。
もちろんメイド服姿で。
・・・・・・・何でって、花恋とか桃花達が宣伝になるからそのまま行けって言うんだもん・・・・・。
言わずもがな、この格好で点検に回るのものすごく恥ずかしいのですが?
下敷きボードの上に乗せたプリントに要項を記入しながら、俺は周囲からの視線に肩を縮こませる。
うぅ、やっぱりこれは目立つよね・・・・・。
さっきも他のクラスの点検中に外部から来た大学生らしき男達に話しかけられたり、小学生くらいの女の子がキラキラした目で俺のこと見てたし。
ごめんね、実は男なんだ・・・・・。
と、この話は一旦置いておいて。
"海辺祭り"では数あるクラスの中で学校の敷地内に出店を構えるクラスもあり、そこを点検して回るのが実行委員の仕事の一つだ。
もし火事なんかが起きちゃったら、そのクラスは出店禁止になっちゃうからね。
それに危ないし。
そういうのを事前に防ぐために、俺達が危ない物がないか定期的に点検している。
今は校門近くで出店している一年三組、焼きそばのお店の点検中だ。
やはりお祭りの定番と言えば焼きそばなだけあって、うちのメイド喫茶とも負けず劣らずな人気ぶり。
「鉄板の近くの紙片は危ないから、ちゃんと捨てておいてください。何か困ったことがあったら言ってくださいね!」
「ありがとうございます!」
「神月君も時間があったら食べに来てね〜」
これで一年のお店は終わりっと。
元気よく手を振る友達に手を振り返してからお店を離れ、続いて二年生が中心に出店をしている北校舎側に向かう。
よしよし、結構順調に進んでるな。
予定してたよりスムーズだし、もしかしたら時間前終わって少し遊ぶことも出来るかもしれない。
歩きながらちらっとスマホを見ると、現在時刻は十四時半。
終了が十六時だから、まだまだ時間はたっぷりある。
さすがに一時間もあれば残りの点検も間に合うでしょ。
「さーて、お次は二年三組の────────わっ!?」
「きゃっ!?」
ごふっ、後ろから腰辺りにものすごい衝撃が!
なにごと!?
ズキズキ痛む腰を擦りながら振り向くと、そこには今にも泣き出しそうな女の子が尻もちを着いてへたり込んでいた。
はっ!まずい、今ので泣かせちゃった!?
「ご、ごめんね!不注意だったよ!」
「ん・・・・・・・」
慌てて起き上がらせた少女のほおをハンカチで拭い、土埃を払って怪我がないか確認する。
見たところとりあえず目立った傷は無く、幸いなことに浮かべていた涙も徐々に引っ込めてくれた。
ふぅ、よかったよかった。
「お姉ちゃん、わたしのお母さんどこにいるかしってる・・・・・・?」
「ぐふっ、ナチュラルに女の子だと思われてる・・・・・・っと、そうじゃなくて。もしかして迷子だったの?」
「うん・・・・・。最初はいっしょにいたけど、わたしがかってにはなれたせいで、はぐれちゃったの」
そう言って再び涙を流す少女。
どうやら先程俺にぶつかったのは、走りながらお母さんを探していて、周りをあまり見れていなかったかららしい。
あー、お母さんとはぐれてパニックになっちゃったんだね・・・・・。
この人混みだったら、少し離れただけで迷子になるのも無理はない。
「わわっ!ほ、ほら、泣かないで!お姉ちゃんも一緒にお母さん探してあげるから!」
「ほんと・・・・・?」
「うん!本当本当!」
しゃがみこんで少女の目線に合わせて頷くと、今まで泣いていた少女はやっと笑顔を見せてくれた。
邪魔にならない道端に移動してから少女の気持ちが落ち着くのを待ち、それからはぐれないよう手を繋ぎながら二人で少女のお母さん探しを始めた。
ちなみに今回あえて"実は男の子なんだ〜"、と訂正しなかったのは、女の子だと思われていたほうが少女にとって接しやすいと思ったから。
まさかこの外見が役に立つ日が来るとは・・・・・・・。
「夢衣ちゃんのお母さーん!夢衣ちゃんのお母さん居ませんかぁーーー!」
肩掛けカバンに薄手の長シャツを着た少女改め、夢衣ちゃんの親を探すべく大声で呼びかけながらあちこち歩いてみるが、それらしき人は一向に見当たらない。
うーむ、もしかして校舎内に居るのかな・・・・・・。
でもはぐれたのは外なんだし、まだ外で探してる可能性もある。
あかん、声出しすぎて喉痛くなってきた。
こんなにずっと声を出てたのは、中学生の時に友達とカラオケ行った時以来じゃないかな。
「しかもこの炎天下の中だと、汗かきまくって化粧落ちるし・・・・・・夢衣ちゃん、具合悪くなったらすぐ教えてね?」
「うん!」
元気よく頷く夢衣ちゃんは、まだまだ体力が有り余っているご様子。
とは言っても熱中症になったら元も子もないから、こまめに水分補給させなきゃね。
もやしな俺もだけど、もっと体力の無い幼女をいつまでも連れ回す訳にも行かないし、早く見つけなきゃな。
一旦校舎に入って休憩するか?
いや、夢衣ちゃん的には早くお母さんと合流したいか。
「う〜ん、やっぱりここら辺にはもう居ないのかな・・・・・・・」
「・・・・・っ!」
「あ」
やばいと思って振り返った時にはもう遅い。
俺の言葉を聞いた夢衣ちゃんが、またもや瞳にいっぱい涙を溜めて鼻を啜っていた。
おおぅ、完全に余計なこと言っちゃったなこれ。
不安な子の前で、さらに不安にさせるようなこと言っちゃダメでしょうが・・・・・・。
こういう所だよなぁ、と自分のダメダメさに呆れた後、泣きじゃくる夢衣ちゃんの前でしゃがみ、視線を合わせる。
「そうだ、こういう時は楽しい事を考えよう!夢衣ちゃんは今日、お母さんと二人で来たの?」
「・・・・・・・うん」
「そっか。じゃあお母さんと会えたら何がしたい?例えば・・・・・あそこで売ってるパンケーキ食べたいとか」
「・・・・んと、わたあめ食べたい」
「ほうほう。他には?」
「クッキーもいいし、お姉ちゃんの言ってたパンケーキも・・・・・・あ、あとお姉ちゃんのお店も行きたい!」
「おー、いいね!うちのお店来てくれたらサービスするよ?」
「あははっ!そのかお、お母さんが"わるいおとなのかお"って言ってた!」
俺の浮かべたあからさまな表情を見て、夢衣ちゃんの顔にも笑顔が戻って来た。
うむ、やっぱり小さい子は笑顔でいるのが一番だね!
泣かせた張本人が言うことじゃないけども。
頭を撫でながら夢衣ちゃんが思い描くしたいことに耳を傾ける。
「あとねあとね!わたし、お化けやしき行きたいの!」
「・・・・・・へ、へー、そうなんだぁ。夢衣ちゃん大人だねぇ、お姉ちゃんは怖がりだから無理だよー」
なんてこったい、今どきの子供はこんなノリノリにお化け屋敷行けるのか・・・・・。
見た事ある人なら分かると思うけど、お化け屋敷での俺のビビり様はハンパないからね?
「へんなのー!お姉ちゃんこーこーせいなのに、お化けやしきこわいんだー!」
「ふっ、怖いものに年齢は関係ないと自負しております」
ドヤ顔でそう断言すると、これまた夢衣ちゃんにウケたらしく、先程の涙なんてどこへ行ったのかクスクス笑い始めた。
「よし!それじゃあお化け屋敷に行くためにも、早くお母さん見つけちゃおっか!」
「うん!」
「・・・・・・あれ、夢衣!?」
二人で気合いを入れ直してからもう一度探し出そうとしていると、突然背後から驚いたような聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはスマホ片手に唖然と俺と夢衣ちゃんを見つめる音夢の姿があった。
「なんだ音夢か、ちょうど良かった。実はこの子迷子らしくて・・・・・って、今"夢衣"って──────────」
「あ、お姉ちゃん」
「あーなるほど、お姉ちゃん・・・・・・オネエチャン!?」
「ちょ、ひどない咲夜!そのありえないものを見たみたいな目!」
ジト目で睨んでくる音夢から目を逸らして、ははっ・・・・・と乾いた笑みを浮かべる。
だってどう考えてもこんな可愛い清楚系の女の子のお姉ちゃんが、ギャルい音夢だなんて思わないじゃん。
て言うか音夢、彼氏はどうしたよ。
「彗は厨房で仕事中。あたしは休憩時間貰ったから、来てるはずのお母さんと夢衣探してたんだけど・・・・・・咲夜まさか、ついに幼女誘拐とかやっちゃった系?」
「ちがわい。さっきも言ったけど、夢衣ちゃんが迷子になっちゃったらしくて、一緒にお母さんを探してたんだよ。ね?」
「(コクコク・・・)!」
勢いよく頷く妹を見て、はぁ、とため息をついた音夢は持っていたスマホを操作して、どこかへ電話をかけた。
数回のコール音のあとに相手側が出たらしく、スマホから何か声が聞こえてきた。
「あ、すみません警察ですか?」
「なんで!?」
「冗談だって。もしもしお母さん?・・・・・・そ、夢衣はあたしのとこ居るから・・・・・場所?んと、時計台前。・・・・・・・分かった、じゃあここで待ってるから」
その後もいくつか話して電話を切ると、おもむろにこちらを向いてやれやれと肩をすくめる。
「やっぱりお母さん、あたしに迷惑かけないように言わないようにしてたんだって。早く言えっての。・・・・・・咲夜、ありがとね」
「どういたしまして。夢衣ちゃん、もうすぐお母さん来てくれるってよ」
「ほんと!?やったぁ!」
「・・・・・・なんか少し見ないうちに、夢衣が咲夜に懐いてるんですけど。夢衣、お姉ちゃんにもそんな風にくっついて良いんだよ?」
「えへへ、じゃあどっちもくっつく!」
嬉しそうに俺と音夢の手を取ってはしゃぐ夢衣の相手をすること数分、とうとう探していた二人のお母さんが向こうから走ってきた。
やれやれ、これで一件落着だね。
一時はどうなることかと思ったけど、無事に再会できたようで何よりだ。
この後、夢衣ちゃんから話を聞いたお母さんに凄くお礼を言われ、それから仕事の残っていた俺は再び点検作業に戻り、仕事に勤しむのであった。
◇◆◇◆◇◆
"海辺祭り"二日目、午前の部
今日も今日とて絶賛大人気営業中の我らがメイド喫茶は、朝からものすごい行列を作り上げていた。
やはりお客さんは男性が多いものの、体感的に六対四くらいの割合で女性のお客さんも来店している気がする。
可愛いメイドさんは男女問わず目の保養になるらしい。
「おかえりなさいませ〜」
昨日のメンバーと入れ替わりで入った音夢も、普段の様子からは考えられないほど綺麗な姿勢や口調で接客していて、最初見た時は随分驚かされた。
バルスは"どうようちの自慢の彼女は"、とドヤ顔をしていたけど、俺達からすればあの音夢が真面目に接客してる姿とか、全然想像できなかったんだが。
・・・・・っと、そんな事考えてる暇無いんだった!
昨日来てくれた人の口コミのおかげもあって、一日目よりさらにお客さんの増した店内は、落ち着く間もなくメイドさんが右往左往している。
あまりにも忙しなく動いてるせいで、そろそろ目が回ってきそうだ。
「ふっふっふっ、お疲れですか咲夜くん先輩!そんな時は抱くと癒し効果のある可愛い後輩なんていかがですか───────────ってええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?先輩が可愛いメイドになってるぅ!?」
「因幡・・・・・・今は他のお客さんも居るから静かにね」
「そうだぞ、杏奈の言う通り大人しくな」
この忙しい中、騒がしい後輩の相手をするのが億劫になったとか、決してそんな事はない。
ないったらない。
"海辺祭り"二日目の今日は昨日と違って休日なため、二人のような学生も来れるようになっている。
「それではお嬢様、こちらの席にどうぞ」
「はわわっ、お嬢様・・・・・・」
「むぅ、ただ一言でここまでドキドキさせられるなんて・・・・・・」
若干顔を赤らめた後輩二人・・・・・・月夜因幡と友利杏奈を連れて教室の左端にある席に行き、そこに二人を座らせる。
「ご注文はどうなさいますか?」
「目の前の激カワメイドさんをお持ち帰りで!」
「頭のお薬一人前ですね?かしこまりました」
「じょ、冗談ですぅ!ちゃんと注文するから待ってくださいぃー!」
「ったく、しおらしい態度になったと思った次の瞬間にはこれかい・・・・・・」
「まぁ因幡は年中発情うさぎだから。可愛い先輩を見て、歯止めが効かなくなりかけたんだよ」
「なるほど、今の因幡を見てると説得力しかないね」
何かを我慢するように自分のほおを引っ張ったり、太ももをつまんだりしている。
が、時々抑えきれなくて野生のライオンみたいな肉食獣の目になってるんだけど。
あれ、たしか因幡ってうさぎだったよね?
「ちなみに私もそろそろ限界。咲夜先輩、襲っていい?」
「ダメに決まってるわ!二人とも正気に戻って!」
肩を揺さぶったりして何とか二人を正気に戻し、注文をとって厨房にメモした紙を出す。
うぅ、やっぱりあの二人の相手をするのは疲れる。
もちろん嫌な意味じゃないんだけど、出来れば時と場合を考えて欲しくはある。
「大変そうだね」
「まあね。しかもそれにもう慣れてしまった自分が怖い」
苦笑いする颯馬からクッキーとオレンジジュース二つを受け取り、再び二人の席に戻って机の上にこれを並べる。
「・・・・・・・これ、手作りって書いてありましたけど、咲夜くん先輩も作ったんですか?」
「そりゃね。でも色んな人が作ったのが混じってるから、どれが俺・・・・・・じゃなくて私のかはきっと分かんないよ?」
「ふっ、任せてください。私達なら数あるクッキーの中から先輩のを見つけるなんて、造作もありません!」
「ん、咲夜先輩見てて?私達の愛の偉大さを証明する」
「そんな事出来たらもはやそれは超人では?」
俺のツッコミは聞かなかったことにして黙々とクッキー一つ一つに視線を向ける因幡と杏奈の目は真剣で、迂闊に声をかけるとものすごい剣幕で怒られそうな雰囲気さえある。
何でこの二人はこう・・・・・・・毎回毎回こんな風なんだろうか。
「これです!これが咲夜くん先輩の作ったクッキーですぅ!」
「私も同意見!先輩、合ってる!?」
「いや、私に聞かれても分かんないよ?」
「むぅ、自分の作ったやつなのに分からないんですか!?」
「仮にこの数のクッキーの中で自分の作ったやつだけ完璧に覚えてたとしたら、それ相当やばくない・・・・・?」
俺的には因幡と杏奈が選んだのも他のやつも、見た目がほとんど変わらないので、どこがどう違うのかさえ分からない。
二人に聞いても愛の力としか教えてくれないしね・・・・・・・。
「はぁ、そんな事言ってないで普通に食べてくれよ・・・・・二人が欲しいなら今度作ってあげるから───────────」
「ほっほっほっ、まるで"シュレディンガーの猫"じゃな」
「「「っ!?」」」
突然真横から背筋のゾッとするような気配とともにおじいさんの声が聞こえてきて、俺は思わず後ずさりして横を見る。
そこに居たのは少し背の低い、どこぞの名探偵が使う探偵道具を作っている博士のような見た目の、白衣を着た老人が一人。
若干マッドサイエンティスト的な雰囲気があるものの、至って普通のおじいさんだ。
しかし、何だったんだろう今の気配は。
そりゃあ急に話しかけられたらビクッ!となる。
けれど、ゾッ!とはしないだろう。
因幡と杏奈も同じように感じたらしく、討論を辞めてじっとおじいさんのことを見つめていた。
額から嫌な汗がほおを伝って落ちる。
まさか・・・・・・・こいつ、魔王軍の関係者だったり───────────。
「もう一度言うぞい。"シュレディンガーの猫"じゃよ」
「へ・・・・・・・?えっと、"シュレディンガーの猫"って、あの?」
「うむ。君達はそれがメイドちゃんの手作りか否かで話し合っていたが、それは見た目だけでは分からんよ。いくら愛の力があろうとね。"シュレディンガーの猫"とは簡単に言うと、箱を開けて見ないと中に居る猫が生きているか分からん状態の事じゃ。そりゃあ見てみないと、確実に生きているなんて断言出来ないからの。それと同じじゃ。そのクッキーを食べ、その味に愛を感じてこそ、本当の意味で見分けられるのではないかと、ワシは思うぞい?」
「なるほど・・・・・・。根本的に、私達は間違っていたという訳ですか・・・・・」
「そう落ち込まずとも良い。君達はまだ若いから、これからその愛をゆっくり育んで行けば良いのじゃよ」
「おぉ・・・・ありがとうございます、おじいさん!」
「ごめん、これ何の話?」
いきなり"シュレディンガーの猫"の話が始まったかと思えば、終わりは愛の力の話って、どゆこと?
二人はキラキラした目でおじいさんのこと見てるし、どうしてこうなった・・・・・・。
「えっと〜、旦那様もこちらの席にお座りになりますか?」
「あぁいや、邪魔して済まないね。ワシはお客さんじゃあないんじゃよ」
「え?なら何でここに・・・・・?」
肩を揺らしながら大仰に笑ったおじいさんは、スッと俺との距離を詰め、じっくり観察するように俺を様々な角度から眺めまくる。
時折顎に手を当てては何やらブツブツ呟いているが、声が小さくて聞き取れなかった。
なんだろう、こんな科学者みたいな見た目の人が興味津々な瞳でメイドを眺めてると、もう違和感しかないんだけど。
「ふむ、やはり素晴らしい・・・・・・」
「・・・・・ご満足なさいましたか?」
「ああ。お礼に、今日ワシが何故ここに来たのか教えてあげよう」
一歩引いたおじいさんは、ポケットからある物を取り出して俺達の前に差し出す。
「っ、こんな物持ってるなんて、おじいさん何者?」
「ほっほっほっ、ただのしがない科学者じゃよ。今日はの、これを討伐した君に会いに来たんじゃ、神月咲夜君」
おじいさんの手に乗せられた漆黒の物体。
それは紛れもなく月面戦争の最中、俺が跡形もなく消滅させたはずのアドレータの死体の一部だった。
もしかして、あの時破壊し損ねた死体が隕石みたいに地球に落っこちたのか?
それをこのおじいさんが拾ったと?
死体の欠片が小さすぎてまだ他のお客さんにはバレていないが、これを見られたらパニックになることは確実だ。
それに、負の力に汚染されたこの死体を持ってなんの害も無いってことは、このおじいさんも魔力を使える可能性が非常に高い。
それも、相当強力な。
科学者なんだから化学の力を使えと言いたいところだが、そんな事を言ってる暇もないだろう。
「待ちたまえ。君達と戦う気は無いよ、今の所はね」
そう言うとおじいさんはさっさと漆黒の死体をポケットにしまい、のんびり教室を去って行ってしまった。
呆然としていたせいですぐ動けず、俺はその後ろ姿を眺めることしか出来なかった。
シュレディンガーの猫について詳しく知りたい人は、グーグル先生で調べてみてください
自分的には、こういうのちょっと好きなんですよね〜




