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普通の男子高校生、色々あってハーレムの主になる~記憶を失くした神様が十二人の花嫁と幸せになるための話~  作者: 没
月面戦争編

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月面戦争(6)



お久しぶりです!

いやー、本当に久しぶりですね(笑)

今回は過去一と言っていいほど執筆が進みませんでした

その分頑張って仕上げたので、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!







「どうした、そんなへにゃへにゃした触手じゃアタシを傷つけられないぞ!」

「貴様こそ、私に打撃が効かんことぐらい覚えているだろう?」


放たれた拳がガードに使われた触手を二本引きちぎってアドレータに命中し、その流動体(りゅうどうたい)の体に思いっきりめり込み風穴を開ける。

普通ならこれが致命傷(ちめいしょう)となってしまうだろう。

だが、(かく)が本体であるアドレータからすればかすり傷でしかない・・・・・・・・強がってはいるが、リューネの拳から放たれる魔力波が結構痛いのは内緒(ないしょ)

爆発的な治癒力(ちゆりょく)で瞬時に触手と穴が塞がり、鋭利(えいり)に尖った十六本の触手がリューネに向かって襲いかかる。

避けても次々に降ってくる触手はまるで絶え間無い雨のようだ。


「無駄だ!たとえどこへ逃げようと、私の触手は追いかけ続けるぞ!」


全ての攻撃を紙一重(かみひとえ)で躱すリューネ。

しかし宣言通り、バックステップで避けるリューネを追って触手も伸び続けている。

どうやらあの触手は伸縮自在(しんしゅくじざい)らしい。

これでは離れれば離れるほど彼女が不利になってしまう。


「喰らえぇ!」

「む?」


ボッ!と土煙から飛び出したリューネの真上から、斜めの網目状(あみめじょう)に重ねられた触手が振り下ろされる。

先程とは違って上下左右に逃げ場のない広範囲攻撃だ。

叩きつけられたそれは本当に触手かと疑いたくなるような斬れ味で地面を細切りにし、細かいブロックとなった月の石が四方に飛び散った。

これをまともに喰らえば、さすがのリューネも多少の傷では済まなかったはず。

・・・・・・・・まぁまともに喰らえばの話だが。


「わざわざ一箇所に集めてくれるとは、楽で助かる!」

「何っ!?」

「はあぁぁぁっ!!」


触手を一箇所だけずらして難なく乗り越えた彼女は、すぐさま複数の触手を手に取って思いっきり引っ張る。

やはりと言うか、力勝負ではリューネの方に分があり、抵抗も(むな)しくアドレータは彼女の元まで引っ張り出された。


「粉・砕!」


アドレータが張った障壁を軽く突破し、リューネの拳が彼の頭を粉砕する。


(ちっ、逃げられたか)


核を破壊したつもりが、どうやら体内を自由に動かせるらしく外してしまった。

気配は終えるものの、あまりにも小さすぎるのと動きが速すぎるので、目で追っていると逆にリューネの方が疲れてしまう。

やはり完全に全身を消滅させた後、残る核を見つけ出して破壊するのが一番楽なようだ。

しかし打撃系の彼女では、際限(さいげん)なく伸びる触手を含めて全て破壊しきるのは難しいと言わざるを得ない。

かと言って全く手が無い訳では無いが。

あれはものすごく疲れる・・・・・・と言うか数日間動けなくなるのでなるべく使いたくはない。


「おのれぇ・・・・・!」

「お、遂に貴様の本領発揮(ほんりょうはっき)という訳か」


今までの触手攻撃はあくまで前座(ぜんざ)

アドレータの真の実力は超能力を使用した時に初めて発揮される。

そのまま連打しようとしていたリューネの拳をゴツイ岩石がガードし、粉々(こなごな)になった破片の隙間から大量の小石が弾丸のように打ち出される。

一発一発の破壊力は触手攻撃より上と見て間違いない。


「ぐっ!」


着弾した腕がギシギシと(きし)み、踏ん張りきれず弾き飛ばされる。

彼女の体が宙に浮き、気がついた時には目の前に次の弾丸が。

この間わずか0.1秒。

これでは反応できないのも仕方がない。

容赦(ようしゃ)なく降り注いだ小石の弾丸がリューネを(とら)え、地響きと共にその周辺を飲み込むように土煙が巻き上がる。

おそらく月面戦争上最大級の衝撃が星を丸ごと揺るがした。

四散する瓦礫(がれき)の欠片を前に、アドレータは薄暗い笑みを浮かべる。

長年の屈辱(くつじょく)を晴らせたと喜んでいるのだろうか。

だが───────────

土煙の中でパッ!と閃光が走り、かの場所を覆い隠していたそれを跡形もなく消し去った。

当然これの発生源はリューネだ。


「ぺっ・・・・・・今のは中々効いたぞ?」


服がボロボロになっている以外は大した傷はないが、口の中が切れてしまったのか血の混じった唾を横に吐き捨てて(くちびる)(ぬぐ)う。

その体からはゆらゆらと巨大な橙色(だいだいいろ)闘気(とうき)がなびいていた。

弾丸が当たる直前に闘気を解放して直撃を防いだらしい。

押し寄せる土煙に目を細めながら、アドレータは憎たらしそうに口を(ゆが)める。

この程度で殺せるとは思っていなかったものの、やはりそれを目の前にすると苛立(いらだ)ちが募っているようだ。


「それにしても・・・・・・」


肩の土埃を払いながら辺りを物色(ぶっしょく)し、リューネは数個の小石を拾い上げる。

それを片手で(もてあそ)びながら不機嫌そうにアドレータを睨みつけ。


「無駄にアタシ達の星を破壊しおって・・・・・これを治すのはアタシ達なんだぞ?」

「いや、貴様らは治す必要など無い。何故なら我々がこの星を占領するのだからな!」

「・・・・・・はぁ、そういうのは勝ってから言って欲しいな・・・・・」

「本気では無いとはいえ、あれを喰らってまだそんな口が聞けるか。ならば今度こそ仕留めて───────────」

「また小石を飛ばすつもりか。そんなもの、超能力の無駄遣いとしか言えないな。それくらいの事はアタシも出来る」


またもや多くの小石が宙に浮かんだかと思うと、リューネが投擲(とうてき)した石によって(ことごと)く撃ち落とされる。

たしかにこれは超能力の無駄遣いと言わざるを得ないだろう。

何せ素手で真似できているのだから。


「ふ、ふざけおって・・・・・!ならば我が超能力の真骨頂(しんこっちょう)、見せてくれよう!」


馬鹿にされそう叫ぶアドレータの目が不気味に光り、彼の周りに埃っぽい荒野の風が集まっていく。

砂利(じゃり)の混じる砂地に転々(てんてん)と突き出す岩や崩れかけた岩壁を巻き込みながら巨大化した竜巻(たつまき)は、高エネルギーの雷を帯びてさらに勢いを増す。

わずか数秒で地球では有り得ないレベルの竜巻にまで成長した。

辺りに転がる小石は竜巻に触れただけで、まるで風に吹かれた灰のように呆気(あっけ)なく消滅してしまう。


「む?」


さらにダメ押しで金縛(かなしば)りが掛かり、リューネはその場に固定されてしまった。

体を動かそうとするが、言うことを聞かない。

ならばと闘気を放って金縛りをとこうとした瞬間、彼女の視界を不気味な光が染め上げる。

頭と体を穿(うが)つ強烈な衝撃。

どろりと生暖かい液体がほおを伝って落ちる。

超能力によって放たれた超エネルギー砲だ。

頭に防御力を極振りしたおかげで何とか助かったが、防御がおざなりになった左足は三箇所も貫通された。

激痛のおかげで闘気が霧散(むさん)してしまい、闘気で金縛りを抜ける作戦は失敗。

しかも竜巻は既に動き出していて、もう回避するのは困難だ。

直後、竜巻のエネルギーの本流がぶつかり、彼女の体をズタズタに斬り刻む。

有無(うむ)を言わせぬ圧倒的な破壊力だ。

もはや脱出は叶わず、ただ()ち果てるのを待つだけ・・・・・・・・そんな事を考えるのはアドレータだけだった。


「ふっ、百余年前から変わらんなお前は!」


ゾクッ!とアドレータの背筋を悪寒(おかん)が襲う。

危険だ。ここに居ては・・・・・離れなくては!

己の直感に従い、すぐさまその流動体の体を活かして立っていた岩場から這い下りる。

次の瞬間。

竜巻からとび出た恐ろしく太い純白(じゅんぱく)の輝きが、アドレータの居た場所を飲み込んで遥か彼方(かなた)へ消えていく。

岩場のてっぺん付近はゴッソリと丸型にくり抜かれていた。


「有り得ん・・・・・何だそれは・・・・!」


アドレータの視線の先では、なんとあの巨大な竜巻が霧散していたのだ。

行き場を失った風が乾いた空気を運んでくる。

もうもうと立ち込める土煙の奥にうっすらと、竜巻に飲まれたはずの彼女のシルエットが浮かび上がった。

同時に、燃えるような輝く闘気がアドレータに襲いかかる。

バシッ!と軽い衝撃が彼の触手を叩く。

呆然とした目で自身の腕を見つめると、なんと全ての触手の途中から先が無くなっていた。


「これがアタシの本当の力だ。そう言えばお前には見せていなかったな」


いつの間に背後を取られていたのか。

土煙の晴れた向こうに彼女の姿は無く、既にアドレータの背後に立っていた。

しかし、容姿(ようし)が先程の彼女とは全く違う。

(あざ)やかな黒髪やウサミミとシッポが真っ白に染まり、瞳は冷ややかさを帯びた真紅(しんく)に変化。

異様に発達したシッポは地面に着くほどの長さだ。


(全身の毛穴から汗が吹きでるような威圧感・・・・・・・・有り得ない、こんな莫大なエネルギーを秘めていたとは!)


先程とは入れ替わるように微笑(びしょう)を浮べるリューネ。

獰猛(どうもう)冷酷(れいこく)な笑み。

次の瞬間、風が()いだ。


「!?」


アドレータの視界がぐらりと傾き、逆さまになる。

支えを失ったように項垂(うなだ)れて取り残された自身の体の後ろに見えたのは、背後に向かって腕を振り上げたリューネの姿。

そして、その(てのひら)には己の核が。

彼女はそれを一瞥(いちべつ)すると、何の感慨(かんがい)を浮かべることなく握りつぶす。


(く、首を落とされた・・・・!?それに核まで!?一体何が起きた!何が!?何も理解出来んまま殺されただと!?)


あまりに呆気ない。

アドレータの首が音を立てて地面に転がる。

(いま)だに自分の見に起きたことが信じられないようだ。

形を保てずドロドロと崩れていく体を前に、彼は得も言えぬ驚きと怒りに目を染め上げていた。

これがリューネの本気、"白兎(はくと)"の力だ。

"白兎"自体は月の(たみ)なら全員使えるが、ここまで練度(れんど)の高い"白兎"を使えるのはリューネ級の戦士だけ。

白兎化することで生物の限界を超えた身体能力、パワー、速度を手に入れるリューネの奥の手。

当然そんなチートのような技には代償もあって、無呼吸運動並に負荷のかかるこの技を使うと、先数日間は体中を激痛が襲うのだ。

本人は筋肉痛のようなものと言っているが・・・・・・・・普通の月の民が使えばこの程度で済むはずがない。

やはり彼女の体は特殊(とくしゅ)なのだろう。

まぁその"白兎"を常時使用できる化け物をいたりする。

どこぞの青い星で先輩にご執心(しゅうしん)な後輩ちゃん本人は、あまりそれが凄いことだとは思っていないようだが。


「き・・さま・・・・殺す!・・・必ず・・・・殺す!!」

「はいはい、威勢だけはまだ良いようだな」


(おかしい、何故まだ消滅しない?確かに核は破壊したはず・・・・・)


いつまでも何かを(わめ)き散らしているアドレータは一目瞭然(いちもくりょうぜん)に力を失っているが、それなのに消滅する気配がない。

核が本体というのはブラフだったのか。

いや、それこそ有り得ない。

現にこうして原型を保てず体が崩壊しているし、何より本人が相当焦っている。

では何故・・・・・・・・・。


「許さん・・・・・許さん、許さん・・・・!許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん・・・・・!!」

「!?これは・・・・・!」


壊れたように許さんと連呼(れんこ)するアドレータの体が漆黒(しっこく)に染まり、怒りに燃えていた目がどろりと溶けだす。

明らかに様子がおかしい、異常事態だ。


「お前、今更何を────────なっ!?」


何が起きる前に完全に消滅させようと腕を振り上げた瞬間、急に背後の胴体(どうたい)が動き出し、その触手をまきつけてリューネの動きを止めた。

その拘束力はずば抜けて高まっていて、"白兎"状態の彼女を容易(ようい)に捕まえる事ができるほどだ。

ヌメヌメした嫌な感触が全身を(うごめ)いているため気持ち悪さしかない。


「人の体を、好き勝手にまさぐるなっ!!」


腕を振り抜いて数本の触手を引きちぎり、何とか脱出する。

一体何が何だか・・・・・・。


『オボ・・・・・オボボ・・・・・オボボホボボボォォォォ!!!」』


引きちぎった触手を含めて頭も胴体もドロドロと溶け出し、辺りに広がっていく。

彼の液体が満ちた場所は、まるでブラックホールのように岩石などが吸い込まれて無くなっている。

枯れた荒野にはかけ離れた光景だ。

ある程度広がると、今度は勢いよく宇宙へ飛び出して自身の宇宙船に飛び乗り、そこさえもジワジワと侵食し始めた。

おそらくもはや知性などないのだろう。

ただリューネに逆転できる力を求めてさまよっている。

消滅前の最後の抵抗、言わば暴走のようなものか。


「っ、不味いぞ、あの宇宙船には()()()()()()()()()が・・・・・・・!」


あれを吸収されてはひとたまりもない。

もう既に六割方侵食が進んでいるが・・・・・・間に合うだろうか。

ダンッ!と地を砕き、音を置き去る速度で宇宙船の上空に飛んで両手に闘気を集中させる。

この位置ならば地球も月も巻き込まずに宇宙船ごとやつを消すことが出来るはずだ。


「"月白燐(げっぱくりん)"!!」


拳を振り下ろすと共に青白い閃光が爆ぜ、まるで隕石が落ちたかのような衝撃と轟音が響き渡る。

"月白燐"は己の闘気を集束させて打ち出す技なのだが、白兎化したリューネが使うともはやただの天災(てんさい)でしかない。

星が一個が半壊する威力と言えば分かりやすいだろうか。

極光(きょっこう)に飲まれたら最後、生きて帰ることは叶わない────────・・・・・はずだった。


『オボボボッ、オボボホボボボォォォォ!!』

「こいつ・・・・"月白燐"のエネルギーまで吸収する気か!」


ロウソクの火を消すかのごとく、(しぼ)んだ光が漆黒の海に飲み込まれる。

瓦礫も宇宙船も闘気も、全てやつからすればエネルギー補給のための道具に過ぎないのだろう。

悪食(あくじき)とはまさにこの事。

蠢く闇が侵食の勢いを早める。

辺りを飛ぶ無人兵器も伸びた触手によって捕まり、微量とはいえやつの(かて)に。

そうして成長を繰り返していたやつの体に、ついに変化が始まった。


『オッ・・・・オ゛オ゛オ゛ォォォォ・・・・・?』

「なるほど、それを新たな核にすると・・・・・・まったく、死に際に面倒くさい事をしてくれたじゃないか」

『オオ、オ゛オ゛・・・・・オオオオオォォォォオォオォォォッッ!!』


質素な宇宙空間に浮かび上がった輝く丸い物体。

接続されていた機器から切り離されたコードがバチバチとスパークを上げているが、問題はそこではない。

真の問題はあれが()()()()()()()()()だと言うことだ。

少量のエネルギーによってその五倍ものエネルギーを作り出す装置で、宇宙船など長期期間乗り回す乗り物系で凄く人気が出ているらしい。

つまりは()()()()()()()()()()()()

そんなものが核になってしまえば・・・・・・・・!

ドプンッ!と高エネルギー出力機が漆黒に沈む。

その瞬間、圧倒的な光が溢れ出した。


「くっ!?」


その場に留まるのも困難なほど莫大なエネルギーの激流。

やむなく月に戻り、遮蔽物(しゃへいぶつ)の無い宙を見渡せる一番高い山の上へと急ぐ。

富士山の半分ほどの標高があるため、普段は登るのにそれなりに時間のかかる山道を数秒で駆け抜け、平たくなったてっぺんに上り詰める。

ここならあいつの変化がよく見えるはず。

そう思いながら視線を向けると、虹色の光の本流は既にドクンドクンと心臓のように脈打ちながら変化を・・・・・いや、進化を始めていた。

おそらくもう誰にも止めることが出来ない。

途端、(まゆ)のように丸まっていた光が爆ぜて視界を染める。

終わった。

ついに進化が終わってしまった。


『オオオオオォォォォォォォ・・・・・・・・・』


姿を現したのは、虹色の光とは相反(あいはん)する(いびつ)な漆黒の生物。

月の倍はある流動体の体に触手が何百本も蠢き、目の位置には二つの穴が空いている。

口は無い。

見た目は完全にスライムの化け物バージョンだ。

何故こんなものから虹色の光が溢れていたのか疑問でしかないが、今はそんな事を言っている場合ではないだろう。

知性のない化け物だが、その内包している力は"白兎"状態のリューネを超えている。

化け物が侵攻を始めた。


「っ、こいつ里の方に・・・・・!」


たぶん無意識だが、より多くの生命体が集まる里を標的にしたようだ。

地面の無いはずの宇宙をズリズリと体を引きずりながらゆっくり進み出す。

動きがゆっくりとは言え、体が巨大すぎるので一歩が洒落(しゃれ)にならないほど大きい。

瞬時に白い閃光となったリューネが化け物に成り果てたアドレータの前に回り込み。


往生際(おうじょうぎわ)が悪いぞ、アドレータ!"瑀兎匆匆(うとそうそう)白天(びゃくてん)"!!」


触れた両の拳から純白の稲妻(いなずま)(ほとばし)り、彼の体を内部から破壊し尽くす。


『オ゛オ゛オ゛オオォォオォォオォォォッッ・・・・・・・・!!?』


あまりの威力に思わず後退してしまったアドレータだったが、できた傷はあっという間に完治し、また何事も無かったかのように歩き始める。

今のでは内部の核を破壊しきるまでには至らなかったらしい。

回復力も異常なほど高い。

手加減なしの"瑀兎匆匆"で倒しきれないとなると、相当のタフネスの持ち主だ。


『オオオオオォォォォッ・・・・・・・・』


右側の触手がゾワゾワと一つに(まと)まり、一本の巨大な触手を作り出した。

それがしなって斜め上に振り上げられる。

ギリギリの所で空中で体を捻って、背面跳(はいめんと)びの要領で全身を反らせて回避。

背中のすぐ側で漆黒が大気を切り裂くのを感じる。

そのまま一回転して触手に着地。

同時に里の方を見ると、月の表面が里だけ残して斜め一線に(えぐ)り取られていた。

まるでレーザーでも通ったかのような半円型に削られた荒野や、元からボロボロだった廃墟実験(はいきょじっけん)施設(しせつ)

里だけは結界に守られて無事なようだが、あれを何発もくらっていたらいずれ破壊されてしまうだろう。

ただ腕を横薙(よこな)ぎにしただけでこれほどの威力。


「アタシに目もくれず里を襲うとは・・・・・なら、無理矢理にでもこっちを向いてもらおう!」


先程から触手を避けつつ攻撃を繰り返しているが、一向にこちらを気にする様子がない。

リューネなんぞ相手にする必要は無いとでも思っているのだろうか。

宙に仁王立(におうだ)ちしたリューネは、己の拳に全力の純白の闘気を纏わせその時を待つ。


「月に写るは白兎(しろうさぎ)瞬神(しゅんしん)(まご)(せん)を従え、天上天下、(おの)が拳に宿るは破壊のみ────────────」


彼女の周辺の空気がゆらりと揺れ、爆発的な闘気が溢れ出す。

ビリビリ肌を刺すような気配に流石のアドレータもピクリと反応し、歩みを止めてこちらに目を向ける。

その表情は(わず)かに驚いているようにも見えた。

右の大きな触手を振り被ると、月ごと両断する勢いで思いっきり振り下ろされる。

里に居る住人達からは、きっと巨大な隕石が落ちてくるのと同じような光景が見えているのだろう。

決して抗えない絶望感は半端じゃない。

触手が月の大気圏(たいきけん)を突破して、乾いた空気を切り裂きながら表面に近づいていく。

リューネから見てももう目の前だ。

しかし(おく)することなくどっしり構えたリューネは、右拳を引き絞って迫る触手を見つめる。


「─────────(はかな)く散らせ、夜もすがら!"月閃(げっせん)白桜爛(はくおうらん)"!!」


純白の拳と漆黒の触手が衝突し、暴走したエネルギーの激流が稲妻のように辺りを駆け回る。

普通ならリューネが勝てると思う人などいるはずが無い。

何せ相手は星を超える大きさの怪物で。

そんな奴に通常サイズの生物が勝てるはずが無い、と。

確かにそれはまともな意見だ。



しかし、実際にこの衝突に打ち勝ったのはリューネだった。



一瞬の膠着(こうちゃく)の後、アドレータの触手にビキビキと白い亀裂(きれつ)が広がっていき、やがて右半身が崩れ落ちた。

彼女の最終奥義、"月閃・白桜爛"。

ただ己の闘気と身体能力を極限まで高めて相手を粉砕する、至ってシンプル()つ強力な技だ。

つまりパワーでのゴリ押し。


『オ・・・オオオォォォ・・・・・?』


砕けた右半身が火で焼けて(ただ)れたように溶け、再生が遅れているのに戸惑(とまど)っている様子。

リューネの膨大な闘気が流れ込んできて、それに耐えきれなかった肉体が溶解(ようかい)してしまっているのだ。

これで幾分(いくぶん)か再生を遅れさせることが出来る。

とは言っても、相手は回復力も化け物級なので、再生自体は止められず、時間さえあれば完治も難しくないはず。

だから、その前に核を見つけ出して破壊する。


「まだまだ行くぞ!」


フッ!とその姿が消えたかと思うと、いつの間にか(ふところ)に潜り込んで拳を引いていた。

もはや光速の(いき)に達したリューネを目で追える者はここには居ない。

右半身の再生をしつつ左側の触手を纏めたアドレータが、苦し紛れにそれを振り下ろす。

一筋の白い閃光。

ゴパッ!とおおよそ拳で殴られたとは思えない音がして、アドレータの左半身も抉り取られる。

残るは真ん中部分のみ。

まだ核が露出していないことを考えると、この中のどこかに潜んでいるはず。

顔面の目の前に移動し、引いた拳を眉間(みけん)に狙いを定める。


『オオオ・・・オ゛オ゛オ゛オ゛オォォォォオオォォォォオォォォッッ!!!!』

「くっ、最後の苦し紛れの咆哮(ほうこう)か──────────・・・・・ぁ・・・?」


メキメキ、ブチブチッ!

左足から嫌な音がして、ガクンッと力が入らなくなる。

激痛に顔が歪み、全身から吹き出る脂汗(あぶらあせ)

恐る恐る目を移すと、アドレータにレーザーで貫通された傷が有り得ないほど開き、おびただしい量の血が流れ落ちていた。

おかしい、傷は塞いだはずなのに・・・・・・・・。


「与えた傷の、促進(そくしん)・・・・つまり、傷の悪化と言う訳か・・・・!」


左足がほとんど動かない。

さらに追い打ちをかけるように、彼女の周りだけフッと大きな影に飲まれた。


「がっ・・・・・・!?」


再生した触手の容赦ないフルスイング。

人間で言えばダンプカー三台分くらいのパワーで吹っ飛ばされ、その勢いは連なる岩壁を六個もぶち抜いて(なお)止まることを知らない。

最終的に彼女が瓦礫の山の上に落ちたのは、里からそう離れていない場所だった。

荒地の乾いた空気に混じって、鉄臭い血の匂いが漂ってくる。

視界を真っ赤に染めるこれは、自分の頭から流れてきている血なのだとすぐに気づいた。

体が動かない。

自分の体の上に乗る瓦礫を鬱陶(うっとう)しそうにしながらも、全身の激痛で動くことが出来ないらしく、静かに血を吐き出す。

全身の骨がボロボロだ。

それでも尚"白兎"が解けていないのは、一重(ひとえ)にリューネの鍛錬(たんれん)(すえ)だろう。

遠くで左半身の触手を再生し、こちらに向けて大きく振りかぶっているアドレータが見える。

当然避ける気力は無い。

(かす)む視界の向こうで、無慈悲(むじひ)に振り下ろされる漆黒の触手。


(万事休(ばんじきゅう)すとは、まさにこの事だろうな・・・・・・・・・)


血を流しすぎて頭がボーッとする。

諦めたい訳じゃない。

なのに、どんどん意識が薄れていく。

今ここでアタシが倒れてしまえば、里は星ごと滅ぼされてしまうのに────────────。



「"月晶斬華(げっしょうざんか)"!」

「"瑀兎匆匆(うとそうそう)"!」



一帯を黒く染めていた影の(ぬし)が、二つの衝撃によって狙いをそらされて近くの岩山に落下する。


「「族長、ご無事ですか!?」」


血だらけで倒れるリューネの元に降りてきたのは、これまた傷だらけのルカとルナだった。

・・・・・・・いや、我らが族長のピンチに駆けつけたのは彼らだけではない。

攻撃が失敗したアドレータが反対の触手も振り下ろす。

が、途中で(くれない)の光に包まれてピタッ!と動きを止めてしまう。


「バ、バルク、これはそう長く持たないよ〜?」

「あぁ、十分だ!"マッスルウゥゥゥゥ☆クラッシャァァァァァーーー"!!」


リナの超能力で金縛りを喰らう触手の下にバルクが回り込み、筋肉を誇張(こちょう)した渾身(こんしん)の一撃で大きく触手を仰け反らせる。

・・・・・・・・何故か殴った場所が上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)の形をしていたのは見なかったことにしよう。


「ラビちゃん、ルナちゃん、後は任せたぞぉぉぉぉぉ・・・・・・!!」


そう叫びながら落っこちていく筋肉の塊(バルク)

入れ替わりに触手の上空に移動したルナの横には、いつの間に現れたのか黒装束姿(くろしょうぞくすがた)のラビが。


「"妖糸(ようし)"」


(まばた)きした瞬間に四人に分身したラビの片割れ達が自由に宙を駆け回って、触手に何重にも妖糸を巻き付けていく。

妖糸は視認(しにん)することが難しい程細く、術者の意思によって魔力の持つ限りいくらでも伸びる便利な糸だ。

しかも耐久性もお墨付(すみつ)き。

ちょっとやそっとじゃ切れないどころか、逆に相手を切り刻んでしまうくらいだ。


「"飛脚(ひきゃく)・・・・・乱月(らんげつ)"!!」


ルナ渾身の踵蹴(かかとげ)りがブヨブヨした触手にめり込み、思いっきり地面に叩きつける。

ただでさえ瓦礫まみれだった荒野がさらに酷いことに。

さらに荒れた足場にも関わらず華麗(かれい)にスタッ!と着地したラビが、右手に(くく)りつけていた妖糸を力強く引く。

するとあら不思議、あれだけの強度を誇っていた触手がいとも簡単に切断されるじゃありませんか。

切り離された触手は最初はビチビチと跳ねていたが、やがて元気をなくして動かなくなったかと思うと、サラサラと灰のように消滅した。


『オオオォオオォォォォオォオォォッッ!!!』


邪魔が入ったことに怒りを(あらわ)にしたアドレータが、口ら辺の位置に巨大な光を集束させている。

次の瞬間放たれたのは、辺り一帯を飲み込む極光のビーム。

空気を焼き焦がしながら月を照らすそれは、まさに終焉(しゅうえん)の光だ。


「「【血みどろの(ブラッティ)紅月(スカーレット)】!!」」


丘の上からビームを迎え撃つは血色の魔法。

この魔法は古代魔法のなかでも最上位に名を(つら)ねる魔法の一種である。

放ったのはリナとアニ。

極光と血色は拮抗(きっこう)し、やがて勝敗が決する前に互いに打ち消しあって消滅してしまった。


(くっ、何とか防いだは良いけど、僕達の体力もそろそろ限界だ・・・・・・)


剣を構えながらルカは内心でそんな事を思う。

出来てもあと一回ほど。

対して相手は無限に等しいエネルギーを保持している。

これほど明確に有利不利がハッキリすることは中々無いだろう。

そもそもあの怪物は一体何なのか。

族長に助けられた後、里で傷の回復に専念していたら、ものすごい轟音と共に光が視界を染めた。

驚いて外に出てみるとあの怪物が宇宙に居て、"白兎"状態の族長が戦っていたので、何かあったのだと思いここまで来たのだ。

アニは寝ていた実験施設のそばで。

バルクは筋肉を分かちあった友のそばで。

リナとルナは少なくなってきた雑魚(ざこ)を狩っている時に。

それぞれ場所は違えど、族長のピンチを感じ取ってやってきた。

だが、現実は非情。

彼らが助けに入ったところでどうにもならないのは、本人たちが一番よく分かっていた。

しかし、それが族長を助けない理由になるだろうか。

あれだけお世話になった族長が死にかけている。

例え勝ち目が無くとも、助けに行く理由としては彼らにとって十分だった。

それを言葉にせずとも分かっているからこそ、リューネは自分の口の端が僅かに動くのを感じていた。

先程アドレータに見せた冷酷な笑みでは無い。

温かくて、優しくて。

そしてとても嬉しそうな笑顔。

痛みに悲鳴を上げる体を叱咤(しった)して立ち上がり、ズルズル足を引きずりながら引き留めようとする隊長達の前に出る。

彼女が見上げるアドレータは、既に触手も再生して万全の状態だ。

ここから追い込んで核を破壊するのは不可能と言っても過言ではない。

それでも彼女は歩みを止めず、一歩一歩前に進む。


「いてて・・・・・・よくもやってくれたなアドレータ。だが、これで終わりにしようじゃないか」


ヴッ!とリューネの纏う覇気が変わった。

それを見た瞬間、各隊長達の顔色が一変する。


「ぞっ、族長!それは──────────」

『オ゛オ゛オオオオオォォォォオォォォォ!!』

「「「「「「なっ!?」」」」」」


ルカが何か言いかけた途端、突如(とつじょ)大きな咆哮を上げたアドレータが自身の左半身の触手を切り落とした。

突然の奇行に動きを止めるルカ達。

しかし、この行動の目的はすぐに分かった。

地に落ちた触手がモゾモゾと蠢き、四等分に分かれて里の方に飛んで行ったのだ。

おそらくアドレータが分身のようなものを生み出したのだろう。

実力もかなりの物のはず。


「・・・・・・・お前達、行け」

「っ、ですが!」

「アタシは大丈夫だ。それより、ここで勝っても里が壊滅(かいめつ)したら意味が無いだろう?」

「それは・・・・そうですが・・・・・」

「ほれ、分かったらとっとと行け!相手は待ってくれないぞ!」

「っ!!」


一瞬の重巡を見せた後、四グループに分かれて全員がこの場から離れていった。

これで何とか里は助かるはずだ。

いくらやつの分身と言えど、隊長格が複数人で討伐(とうばつ)に当たれば負けはしないだろう。


(さて、後はアタシが体を張るだけだ・・・・・・・)


うるさい鼓動は無視して全身の闘気を奮い立たせ、()()()()()()を使う体勢になる。

彼女を見下ろすアドレータの目には何の感情も映っていない。

これからあんなのと一緒に心中しなきゃいけないと思うと、どうしても嫌な気持ちしか湧いてこない。


「婚期を逃しただけじゃなく、未婚のまま生涯を終えるとは中々堪えるものがあるな・・・・・・・」


まぁ今更こんな事を愚痴(ぐち)ってもしょうがあるまい。

やれる事を最後までやるだけだ。


「さぁ・・・・・アタシの命と引き換えにお前を殺すぞ、アドレータ!」


ボボウッ!と圧倒的な闘気がリューネから溢れ出す。

本来はこんな巨大な闘気を出せるはずないのに。

炎のように揺らめく闘気は、まるで命の灯火(ともしび)のよう。

それもそのはず、今彼女は自身の残る全てを燃やし尽くして、闘気の解放制限をぶち破っているのだから。

当然、そんな事をしたら誰しもが例外なく死亡する。

例えどれだけ強靭(きょうじん)な肉体を持とうとも。

アドレータが再び隕石と見間違うほど巨大な触手を振り下ろす。

接触の瞬間が勝負だ。

拳が触手に触れた瞬間、全ての闘気をアドレータに流し込んで消滅させる。

これがリューネの最後の作戦。



瑀兎(うと)(そう)そ───────────────」



彼女の生命の輝きを乗せた拳がアドレータの触手に触れる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことはなかった。

何故なら、彼女が完全に拳を突き出す前に触手を止めた人物が居たからだ。

リューネは目の前で起きている現象が信じられず、呆然とその人の小さな背中を見つめていた。

その背中が、実際よりも大きく見えたような気がして。


「ギリギリ間に合っ・・・・・・てはないね!遅れちゃってごめん、ちょっと転移に手間取っちゃって」

「えっ、あ、いや・・・・・大丈夫・・・・・」


振り返って申し訳なさそうに謝る少年(?)に、思わずしどろもどろにそう答える。

実は彼女がそんな風になるのは数百年ぶりだったりする。

まぁ数百年前のやつは今とは違った理由だが。

とにかく、彼がここに来たからにはもう大丈夫だろう。

何せ彼は、海の神と精霊神、そしてその配下を(したが)える最高神の息子なのだから。

そして今上空から落ちた様々な色の流星群(りゅうせいぐん)達も。







最後のちょびっとだけ、久しぶりに主人公出てきましたね!

次回からは咲夜君と仲間達が活躍するのでお見逃し無く!



ちなみに分かった人もいると思うんですけど、"白兎"のモデルというか参考にしたのは、ワンピースの"スーロン化"です


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