二人の正体は……
最近昼寝の時間が多くて全く書くのが進みません………。
少々邪魔が入ったものの花火大会は無事に終了し、駅でバカップルと桃花と別れた俺達は我が家に戻ってきていた。
ちなみに因幡と杏奈も一緒だ。
主な理由は二つ。
例の危ないらしい機械の宇宙人が何なのか、そして彼女達の正体について知るためだ。
父さんと母さんが居ないことを確認した俺達は、早速家に滑り込んで着替えを終え、リビングの机周りに集まった。
えー、それではこれから証人尋問を始めます。
因幡さんどうぞ。
真っ暗だった部屋に俺と因幡、杏奈の場所だけスポットライトが灯る。
「いやー、まさか咲夜くん先輩も魔法が使えるとは思いませんでしたよ〜・・・・・・・やっぱり私達って運命の赤い糸で結ばれてます?」
「イナバ、それを言うなら同じ神族である私の方が優先順位が先のはずだよ」
「三人とも何やってんの・・・・・・・」
秘密の会議風にやっていたら花恋に呆れられてしまった。
パチンと部屋の電気を付けた花恋が、ジト目で机に両肘をついて指を絡ませている俺を見る。
いやね、少し場の空気を和らげようと思ってしたことなのですよ。
見てよこれ。
魔法で良い感じにライトを演出してたんだよ?
すごくない?
「何でそう無駄なとこに力を入れてるのよ・・・・・・・て言うかそもそも、場の空気は悪くないどころか変に盛り上がってるし」
「話が進まないからお兄ちゃんはちょっと黙ってようね〜」
「ぐえっ」
ドヤ顔で解説してたら妹にチョークスリーパーされた。
なぜだ・・・・・・。
いくらなんでも問答無用のチョークスリーパーは酷くないでしょうか。
そして朱華よ、いつの間にこんな力強さを身につけたのかな?
もう少し続けられると、お兄ちゃん軽く泡吹いて白目を剥きそうなんですけど。
こういうのはぜひ痴漢とかセクハラしてきた人に使って欲しいなぁ!
俺が強制的に黙らされた後、改めて座り直した花恋が再びちゃんとした話を始めた。
「さてと。帰りに大雑把に伝えたけど、改めて確認ね?私と咲夜は神族で皐月は"ユグドラシル"幹部、朱華ちゃんと美雨は普通の人間だよー」
「改めて住人を考えると、中々カオスな家ですね・・・・・・」
たしかにあと神が二人と大精霊が六人も居るしね。
地球なのに普通の人間よりファンタジー出身の方が多いって。
・・・・・・・・・あれ、よく考えたら、こんなに人数居るのに男が俺と父さんしか居ない・・・・・・?
十五分の十三が女性という、まさに花園と言うにふさわしい場所だ。
まぁ何が一番カオスかっていうと、そんな場所で現在進行形で妹にチョークスリーパーされてる俺なんだけどね!
気のせいでなければ視界がぼやけてきたよ?
「でも朱華ちゃんと美雨も修行して魔法を会得したから、人間を卒業するのも時間の問題だけどねー」
え、ちょっと待ってそれ初耳なんですけど。
だからこんなに力強いのか・・・・・・。
最近出かけるのが多いと思ったら、原因は"夜桜"で魔法の練習をしてたせいかい!
知らぬ間に妹とお姉さんが人外の力を手に入れていたとか怖すぎる。
「咲夜と同じように無理矢理引き出したんだけど、その時の朱華ちゃんの反応が咲夜そっくりだったんだよー。やっぱり兄妹って似るものなんだね」
「か、花恋さん、恥ずかしいからそれ言わないでって言ったじゃないですか!」
「ごふっ!?」
花恋のニヤニヤした発言に照れた朱華が、俺の首を絞めていた腕に無意識に力を入れてしまい、さらに苦しくなってしまった。
ちょ、これはマジでやばいって、誰か助けてぇ!?
段々意識が朦朧となってきたんですけど・・・・・・・え?そんだけ元気なら大丈夫?
馬鹿言え、これはただの空元気だっての!
必死に朱華の腕をパンパン叩いてギブと伝えるが、非情にも誰も反応してくれない。
あれぇ、なんだか目の前に綺麗なお花畑が見えるよぉ?
川の向こうで死んだじいちゃんが手招きしてる気が・・・・・・・・。
「じゃあ次はそっちに関して説明よろしく」
「了解です!」
ビシッと手を挙げた因幡がコホンと一つ咳払いすると、自身のささやかな胸に手を当てて高らかに口を開いた。
「簡単に言うと、天翔るうさ耳少女と月の神様ですぅ!」
むふ〜、となぜかドヤ顔で胸を張っている因幡。
言わずもがな聞いていた皆の反応は一致していた。
そう・・・・・・"なるほど、分からん"、だ。
いや大体の二人の種族とかは予想できるんだけど、あまりにもはしょりすぎじゃない?
隣の杏奈まで呆れ顔じゃん・・・・・・。
皆もそうそうに理解するのを諦めたようで、杏奈に視線を移すと本人はため息をついて補足で詳しい説明を始めた。
「私達の本当の名前はツクヨミとイナバ。さっきイナバが言ってた通り私は月の神で、イナバは月の民なんだ」
「ですです」
彼女達はなんと空に浮かぶ月から来た"月の民"であり、今は変装して普通の人間に見せているが、本来のイナバの姿はうさ耳少女らしい。
杏奈ことツクヨミの本来の姿は人型たらしいけど、体が一回りほど小さいのだとか。
ツクヨミかぁ・・・・・・日本神話の有名な神様だね。
あんまり神話に詳しくない俺でも知ってるんだから、相当有名なんだろうな。
(俺が神様の名前だけ詳しいのは全てパ〇ドラとモン〇トのおかげ。)
それにしてもなんてこったい、まさかこんなに身近に宇宙人が居たとは・・・・・・・全然気が付かなかった。
気配も容姿も普通の人間だったし、特におかしな所もなかったし。
おまけに魔力が微塵も感じられなかった。
てっきりただのウザ可愛い後輩だと思ってたよ・・・・・・。
でもツクヨミに至っては俺と花恋のように神族だしね!
因幡はともかく、こんだけ近くにいて神族の存在に気が付かないって結構やばいのでは!?
二人とも完全に人間に溶け込んでた。
「私もあの時力を使ってるのを見て初めて気がついたしね。さすが神族一隠密が得意な神」
なるほど、そんなツクヨミの力を借りて因幡も正体を隠してたってわけね。
そりゃ気づけないわ・・・・・・・。
「で、そんな神が地球にお供を連れて何しに来たのかな?」
「やっぱりあのロボ宇宙人と関係があるんですよね」
例の宇宙人のことを知っているらしい花恋と皐月の間に緊張が走る。
あれだけこの二人が敏感に反応していたのだから、かなりやばい宇宙人なんだと思う。
そんなのが地球に来てたら、そりゃあ何か嫌な事が起こってしまうかもと心配になるのは当たり前だ。
もしくはどこぞのかぐや姫みたいに月を追放された?
天翔るってまさか、天ノ川を渡ってきたとかそういう事?
俺も遠ざかって行く意識を手繰り寄せて何とか聞き耳を立てる。
てか朱華さんや、そろそろ離して欲しいんですが・・・・・・・・。
俺達の緊張感が伝わったのか、事情を知らない朱華と美雨まで神妙な面持ちで杏奈と因幡に視線を集める。
それを受けた二人は─────────────。
「え、ただの休暇だけど?」
「休暇ですね」
キョトンとした顔であっけらかんとそう答えた。
付け加えて短期休暇で数十年ほど地球に遊びに来ているのだとも。
いや、ただの休暇かいな。
あんだけ気を張っていた俺達は何だったんだ。
て言うか神様って寿命があるのか知らないけど、短期休暇が数十年単位であるってすごいな・・・・・・・・。
あれか、神様もジャネーの法則とやらで歳をとるほど時間が過ぎるのを早く感じるのかな?
「あの宇宙人と会ったのは完全に予想外の出来事だったんですよ。私達の予想よりも遥かに早くここまで到達したんです」
「里に伝わる予言では、あと五十年後に起こる"月面戦争"の火種こそあの宇宙人とされてたみたい」
二人の説明によると、あのロボ宇宙人は全宇宙を支配する帝王の傘下である、三大幹部の内の一人の部下らしい。
今は宇宙の彼方にいるため、帝王が攻めてくるのはもう少し先と予言されていたのだが、何らかの方法で五十年もの年月を短縮できるだけの技術なり技を身につけたようだ、との事。
「このままじゃ月どころか地球まで危ないです。そこで、一つ私達から提案があります」
先程までとは違い、真剣な表情になった因幡がすっと人差し指を立てる。
「私達と一緒に月に来て、共に戦ってくれませんか?」
「良いよ?」
「あ、はいじゃあこの話はこれで終わりですね」
あれ、なんか両方とも軽くね!?
思ってたよりものすごく早く解決したんですが。
いや、もちろん花恋が断るとは思ってなかったけど、もうちょっとこう・・・・・・何かあると思ってたわけですよ。
宇宙の帝王とかいう強キャラと戦うのに、二人ともノリが軽すぎる。
"明日買い物行かない?"、"良いよー"みたいな感じだった。
「月は特殊な結界が張られていて、月の民である私とツクヨミの術でしか里には入れないのですが、その術を発動するのには時間がかかるので出発は数日後になると思います」
「何せ私の力作なので」
杏奈が自慢げに腰に手を当ててふんす!と胸を張る。
「了解、それまでに準備を整えとくね」
硬っ苦しい話はこれで終わり!と皆は背筋を伸ばしたり背もたれにもたれかかったりする。
かく言う俺も気が抜けてしまって、手繰り寄せていた意識を手放してしまった。
朱華、いつまでチョークスリーパーしてるねん・・・・・・・。
そんなツッコミを残して俺の意識は途絶えた。
「あれ、なんか咲夜先輩の顔色悪い?」
最初に彼の異変に気がついたのは杏奈だった。
「あっ!?ほんとだ、お兄ちゃん大丈夫!?」
「これ確実に意識を失ってるやつですよ!」
「朱華ちゃん、いくらなんでもこれはやり過ぎじゃ・・・・・・・」
「もうすでに人間離れしてるねぇ〜」
言われて気がついた皆が続々と慌てだしている。
彼が起きていたら"今更過ぎる・・・・・"、とツッコんでいただろう。
「待って、倒れた人を揺さぶっちゃダメよ!まずは気道確保・・・・・服を脱がせて!」
「おぉ、さすが年上お姉さん!頼りになります!」
皆が慌てふためく中、年長者である美雨が率先して倒れた咲夜の介抱を指示し始めた。
さすが美雨さん・・・・・・・ここまでならそう思える。
駄菓子菓子、そんな美雨さんには別の目的が!
「まず上着のボタンを全部開けてズボンを脱がして・・・・・あ、パンツもいらないわね!」
「み、美雨さん、大胆です・・・・・」
「|役得《やくとく役得》〜♪」
「結果オーライって事で・・・・・お兄ちゃん、ごめんね!」
さすがに恥ずかしいのか皐月は手で顔を覆い隠しているが、隙間からチラチラ見ているのはバレバレだ。
花恋は結構ノリノリだし、こうなった原因である朱華も兄に謝ってからバッチリ見ていた。
皆違う意味で"さすが美雨さん!"、と思うのだった。
ちなみに本人は目を覚ましたあとも、こんな事があったとは知る由もない。
まさか自分が気絶している間に、自宅のリビングで服を脱がされていようとは・・・・・・。
これだけ聞くと色々とやばい気配しかしないが。
さてさて、月の民のお二人はと言うと。
「目の前で犯罪が行われようとしてる・・・・・・・」
「まぁ良いじゃん、咲夜くん先輩の咲夜くんを確認するチャンス!」
年中発情うさぎは当然のように咲夜を囲む輪に紛れ込み、残されたツクヨミもなんやかんや言って結局覗き込むのであった。




