プロローグ
新章突入!
正面に青い星が見える、とある無名の丘の上。
そこに、うさ耳の生えた一人の妖艶な女性が、盃とお酒の入ったひょうたん片手に腰掛けていた。
「ふふっ・・・・・やはりこの時期は、地球を見ながら酒を飲むに限るねぇ」
アタシは盃になみなみと注いだ酒をグイッと呷りながら一人そう呟いた。
ちょうどここ数日は"地球見"と呼ばれる日で、一年の中で一位二位を争うほど地球を綺麗に眺めることが出来る日なのだ。
空に青々と輝く地球は酒の肴に持ってこい。
いつもの数倍は酒が進む。
そう言えば、向こう側ではこの時期は"月見"と呼ばれる物をしているらしく、親しい者と月を見ながら団子を食べたりするそうだ。
団子か・・・・・・地球の団子はここの酒に合うかねぇ。
少なくともアタシ達が作る団子は合わないから、もし酒の肴になるようならぜひ食べてみたい。
向こうから月がどう見えてるのかも気になるしな。
いつか地球の連中と酒を酌み交わしてみたいものだ。
ニカッと笑いながら、またひょうたんの酒を注いだ盃を軽く傾ける。
「あっ、こんな所にいたんすか、族長ぅ〜・・・・・・・って!またお酒をこんなに飲んでたんすか!?あれだけ控えてと言ったっすのに!」
「げ」
坂道を登ってきたうさ耳少女がはぁ、とため息をつきながら頭痛がするかのように額を抑える。
しまった、面倒なやつに見つかった。
何を隠そう、アタシの副官である彼女は割と真面目で健康にうるさく、浴びるように酒を飲んでいるアタシをしょっちゅう叱ってくる。
それはもう耳にタコができるほど。
べつにアタシ達は地球人ほど体が弱いわけじゃないんだし、大して問題ないだろうに・・・・・・・。
アタシは自分の好きな時に好きなだけ飲みたいんだ!
せっかく誰にも邪魔されず酒を楽しめると思ったのに、こいつと来たら思いの外に探すのが早かったな。
「さては今、人のこと面倒臭いやつって思ったすね!?」
「さぁ、何の事だか」
ふいっと目を逸らして残りの酒を飲みほす。
あからさまな行動にぷくぅっ、とほおを膨らませる彼女だったが、少しして溜まった息をまとめて吐き出すと、呆れた目を私の胸に向けながら近寄ってきた。
「ほら、前をそんなに開けてたらだらしないっすよ?まったく・・・・・このだらしないおっぱいは何すか!」
そう言って、前が盛大にはだけたアタシの着物を直そうとする。
えー、酒を飲むにはこのくらいが楽でちょうど良いんだよ。
どうせ誰も見てないんだし。
どうやら酒についての言及は諦めて、他の所を注意することにしたらしい。
「ちょ、こら揉むな!」
「これは無防備な族長が悪いんっすよ〜・・・・・あ〜、やっぱり族長のおっぱいは最高っすね〜」
谷間に顔を埋めた彼女はそのままぷにぷにとアタシの胸を揉んでいる。
くすぐったい、酒がこぼれるだろう!?
「・・・・・里の男どもがさっきの無防備な族長見つけたら、こんな事をしてたかもしれないっすよ?」
「やつらにこんな事する度胸がある訳なかろう・・・・・・・」
一応これでもアタシは族長だからな?
こんな事するのお前くらいだからな?
それに里の男がアタシを見てどう思おうと問題ない、気になるやつなんて居らんし。
「アタシの生き甲斐は酒を飲むことだけさ」
「・・・・・・そうっすね、だって族長もう婚期逃しちゃいましたもんね」
「おい、あまりにもトゲがあり過ぎないか!?」
たしかにもう婚期は逃してしまったけれども!
決してさっきのはその負け惜しみとかじゃないからな!?
実際に里には興味があるやつは居ないわけだし!
「いつか後悔するっすよ?」
「ふん、むしろ後悔させて欲しいものだ。アタシが後悔した時はつまり、アタシの気に入る男が現れた時だろう?」
「ぐぬぬ・・・・・そんな事を言ってられるのも今の内っすからね!」
カラカラ笑いながら余裕の笑みを見せると、悔しそうにムスッとしていっそう胸に顔を埋めてしまう。
ふふっ、やっぱりこの子の反応は見てて面白いねぇ。
強いて言えば胸に顔を埋めながらは辞めて欲しいけど。
いい加減、鼻息がくすぐったくなってきた・・・・・・・。
「あっ!そうっすよ!大事なことを忘れてたっす!」
何を思い出したのか、彼女がガバッ!と勢いよく起き上がった。
本人曰く本来の目的を忘れてしまっていたらしい。
出来ればそっちを先に言って欲しかったんだが。
この子が慌ててるってことはそれなりに重大な事なんだろう?
「実は、ツクヨミ様から連絡があったんっす!」
「──────────なに?」
アタシは酒を飲むために傾けていた腕をピタリと止める。
ほう、あのロリ神から連絡とは珍しいな。
たしかあいつは今、数十年の休暇中だったはずだが・・・・・・地球で何かあったか?
あいつから連絡がある時は大抵ロクな事にならないのだが。
「っす。地球でヤツの偵察型ロボを見つけたそうっす」
「それでか・・・・・・・・」
なるほど、既にヤツらの行動域は地球にまで到達していたということか。
どうやら無事に仕留めることは出来たようだが、既に情報は向こうに届いているだろう。
ヤツらがここに来るまでは時間の問題だ。
こうなると、あの良からぬ予言が現実味を帯びてきたな。
これは面倒な事になりそうだ・・・・・・・まさか宇宙の帝王に目をつけられるとは。
「至急、星に散らばる隊長達を集めろ。戦いはきっと総力戦になる」
「っす!」
はぁ、これではのんびり酒を飲んでいる訳にもいかんな。
月どころか地球までもが存亡の危機に瀕することになった。
アタシはひょうたんに残っていた酒を全て盃に注ぎ、一気に呷る。
「ラビ」
「何すか?」
名前を呼ばれた少女が?顔でこちらを見る。
空になった盃とひょうたんを宙に投げ指を軽く弾くと、それらは秋の夜空に溶けてなくなってしまった。
余韻を残すようにゆっくり立ち上がる。
「久々に血が滾ってきたな」
「相変わらずっすね・・・・・・」
慣れたような呆れたような彼女の物言いに、思わず愉快な笑いが込み上げてくる。
片手を腰に当ててニヤリと笑みを浮かべたアタシは、地球から目を離して、遥か宇宙の彼方にいるであろう敵を見据える。
「さぁ、宇宙の帝王と我らの総力戦・・・・・・"月面戦争"を始めようか」




