ルードヴィッヒのお誘い
『転生大聖女の目覚め』コミック発売中です!
そして、コミカライズ最新話公開されました。
ルミナリエの視点の過去のストーリー。とてもオススメです。
セレナーデが扉に触れて魔力を流す。
すると、扉の窪みに魔力が行き渡り、私たちを迎え入れるように扉が勝手に開いた。
「すごい、ルーちゃん。自動ドアだよ!」
「これは便利ですね。手が塞がっていても楽に入れます。屋敷にも採用したいです」
「この仕組みを作られたのはセルビス様なので頼めばやってくれるかもしれませんね」
「よし、今度きた時に作らせよう!」
防犯対策にもなるからね。
そんなことを考えながら宝物庫に足を踏み入れる。
室内は想像以上に広く、いくつものショーケースが並んでおり、その中には希少な魔物の素材や武具、魔道具、酒器や壺、皿などの食器と多種多様なものが並んでいた。
まるで博物館のようでとにかく色々なものが並んでいる。
その中で私とルーちゃんが目を惹かれたのは、眩い金の光を放つものである。
「ルーちゃん、金塊だよ! 金塊の山だよ!」
「これが金ですか。これほどの量は初めて目にしました」
私たちの目の前には金塊があった。
まるでチョコレートを積んでいますよと言わんばかりの気安さで大量に積まれてある。
金塊なんて初めて見た。普通に生きていたら、こんなものお目にかかれないからね。
「ルーちゃんの聖剣に金が必要ってことで、少し貰わない?」
これ以上、望むものなんてない。なんてカッコよく言ったけど、これだけたくさんの金塊があると少しだけ欲しいなんて気持ちも少しだけある。
「……ソフィア様?」
「冗談だよ! 冗談だから!」
何を言っているんですか? みたいなルーちゃんの反応を見て、私は慌てて撤回した。
うん、聖剣に必要なものだけを貰う。そういう約束だからね。
「鉱石類はこちらです」
セレナーデの案内を受けて奥へ。
そこにはアダマンタイト、ゴルドニウム、シルバニウム、ミスリル、魔物の魔石、オリハルコン、数多の水晶や宝石などなど。たくさんの希少価値の高い鉱石類が並んでいる。
「ソフィア様が聖剣に必要だと思う素材を持っていってください。国王様と王太子様から多めに持っていっても問題ないとの言伝を貰っていますので」
「わかりました。では、アダマンタイトとミスリル、オリハルコンとこちらの聖水晶と聖石をお願いします」
二人からのお墨付きを頂いているので遠慮なく注文する。
「ソフィア様!? さすがにそれはやり過ぎでは!?」
「ルーちゃんのためだもん! 最高の聖剣を作ってあげたいから!」
見習いの頃に何度か聖剣を作ったことがある。
しかし、その頃は今よりもとても聖魔法が下手で納得のいく聖剣を作ることができなかった。
でも、聖女となって修練を積んだ今ならもっといい聖剣が作れるはずだ。
可愛い後輩が使う聖剣なんだ。自重はしない。
とはいっても、私がやるのは結晶の加工と聖力の折り込みだけで、それ以外は鍛冶師に頑張ってもらうんだけどね。
「かしこまりました」
私の注文に頷いたセレナーデが手袋をつけて、ショーケースの鍵を空けて取り出していく。
「念のためそれぞれ十個くらい貰おうかな」
「最早、国家予算並の予算ですね」
セレナーデの乾いた笑みを浮かべながらの言葉にルーちゃんがビクリと反応する。
「ソフィア様!? さすがにやり過ぎです!」
「聖力の付与に失敗したら剣は壊れちゃうんだよ? 余裕は持たせておかないと」
「ソフィア様であれば、心配する確率は限りなく低いはずです! せめて、その半分五個ずつくらいにしておきませんか?」
「えー? ルーちゃんの聖剣なのに?」
「ソフィア様を信じているからこそです!」
私としては可愛いルーちゃんのために万全の態勢で臨みたいのだが、肝心の本人がこんなことを言って泣きついている。
国家予算並の費用という言葉にプレッシャーを感じてしまったらしい。
私はそれでも構わないと思うけど、本人が困ってしまうならば仕方がない。
「うーん、じゃあ五個ずつくらいで」
「そうしましょう。なんなら三個ずつでも十分です」
ルーちゃんがあまりに必死に懇願してくるので、私は少し自重して五つずつ貰うことにした。
●
「では、鉱石については明朝にお屋敷の方へお送りいたします」
「はい、お願いします」
聖剣に必要な材料を選んで宝物庫から階段を上がる。
そのまま裏口の廊下へ進もうとすると、何故かルードヴィッヒが出待ちしていた。
思わず「げっ」という言葉が漏れそうになったが、何とか呑み込むことができた。
「必要な鉱石の選定は終わったか?」
「はい、滞りなく終わりました。引き渡しとなる鉱石はこちらとなります」
セレナーデが見せてリストを見せて、ルードヴィッヒがちょっと引き攣った顔をする。
しかし、動揺をすぐに収め、ルーちゃんへと向き直った。
「聖騎士ルミナリエと言ったか」
「はっ」
「随分と大切にされているな」
「はい、心優しい主に仕えることができて幸せです」
ふふん、ルーちゃんのためならいくらでも国に貢献して、宝物庫の素材をすっぱ抜いてみせるもんね。
「ところで、ソフィア。この後の予定はあるか?」
ルードヴィッヒからの突然の言葉。
ペーちゃん食堂、あるいは入ったことのないレストランにでも入ってランチなどという目論見はあったけど、王太子直々のお誘い。
言うならば、予定はあるだろうが俺のために開けろということだ。
「いえ、特にございません」
「であれば、少しお茶でもどうだ? 久し振りにお前とゆっくり話してみたい。勿論、聖騎士も付いてきて構わない」
通常であれば、男性の誘いだ。警戒して何とか煙に撒くが、ルードヴィッヒは既に私よりも年上であり、さらに複数もの奥さんがいると言う。
今さら年下の私に興味を示すことはないだろう。
「はい、喜んで」
それにたくさんの鉱石を頂いて、はいさよなら。というのも失礼だしね。
私は素直に頷くことにした。
すると、ルードヴィッヒが満足げな笑みを浮かべて歩く。
付いてこいと言う意味だろう。
私とルーちゃんが歩いていくと、セレナーデは深く頭を下げてフェードアウトした。
宝物庫とは反対に今度は王城の階段を上っていく。
意外と長い。どこまで上っていくんだろう。
目覚めたばかりで足腰が弱っていた頃であれば、間違いなく息を荒げていただろう。
ルーちゃんに言われて体力をつけておいて良かった。そうでなかったら無様を晒していたに違いない。
いくつもの階段を越えていくと、やがて王城の上階層と思われる場所にやってきた。
廊下から見える外の景色を見ると、空が見えており真っ青だ。
綺麗な空の景色を眺めていると、やがてお城のテラスのような場所にたどり着いた。
そこには何人ものメイドが待機しており、テーブルやイス、お茶菓子などを用意していた。
私が頷くより前に用意していたんだね。
メイドにイスを引かれ、私は素直に腰を下ろす。
対面ではルードヴィッヒが優雅に腰を下ろした。
それなりに暖かくなってきた季節であるが、屋根があるお陰で日陰となっており、風通しが良かった。涼しい。
ルーちゃんは同席するつもりはないらしく、離れたところで立っている。
王太子であるルードヴィッヒに気を遣っているのか、いつもより若干遠い気がする。
個人的にはルーちゃんにも同席してもらってルードヴィッヒの相手をしてもらいたいのだが、ゆっくりと話したいと言われているので難しいだろうな。




