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ソフィアへの褒賞

『転生大聖女の目覚め』のコミックが本日発売です!

アニメイト、とらのあな、メロンブックスなどではイラストカードの特典があります。アニメイトではショートストーリーが付いております。


 山岳地帯の頂上には、その主たる竜が眠っていた。


 周囲には数多の大柄な魔物らしき残骸が散らばっており、竜がこの山の生態系の頂点に位置するこ

とを示していた。


 そこに強い風が吹き、何者かの気配を感じ取った竜は眼を開く。


 気が付けば目の前には黒のローブに身を包んだ男が立っていた。


 快適な眠りを邪魔され、自らの住処に踏み入ってきた無粋な侵入者に対し、竜は怒りのこもった咆

哮を上げる。


 大気を響かせる衝撃で男の鈍色の髪やローブの裾がバタバタとはためいた。


 竜の咆哮にローブの男は怯えることなく、顎に手を挙げながら冷静に見上げた。


 竜の住処にやってきたというのに、まるで軽い散歩でもしにきたような気楽さだ。


 自分よりもちっぽけな存在にも関わらず、まるで動じた様子のない侵入者に対して竜は戸惑う。


「ふむ、小手調べにはこれくらいがちょうどいいか」


 しばらく冷静に観察していると、ローブの男はゆっくりと右手を差し出してきた。


 その瞬間、男を中心に濃密な瘴気が漂い始めた。


 暗い、黒い、闇よりも深い漆黒だ。


 危険を察知した竜は急いで翼をはためかせて空へ舞い上がる。


 得体の知れない存在から距離を取るように。


「逃がさん」


 急上昇していく竜にローブの男は手をかざす。


 漂っていた瘴気が意思を宿したかのように動き出し、昇っていく。


 瘴気から距離をとるように竜は全力で翼をはためかせるが、ローブの男が放った瘴気の方が速い。


 あっという間に瘴気に呑みこまれ、地面へと落下する。


 ローブの男の目の前で竜が苦しみの声を上げる。


 強い瘴気の影響で竜の煌々とした赤い鱗は爛れ、肉が腐敗していく。


 やがて竜の瞳から理知的な光はなくなり、代わりに狂気を示すような赤い瞳が灯った。


 ルビーのような美しく艶やかな鱗は見る影もない。


 鱗の大半が剥げて、皮膚は深い火傷を負ったように爛れ、体表は漆黒に染まっていた。


 竜はローブの男を見据えると、主にかしづくかのように身体を小さくした。


「……いけ。瘴気をまき散らせ」


 ローブの男が命ずると、狂気にとらわれた竜は雄叫びを上げて、どこへともなく飛び去った。


「……大聖女ソフィアの力を見せてもらおう」




 ●




 国王からの呼び出しということで、またしても私は王城にやってきていた。


 以前と同じように内密にということなので限られた者しか入れない裏口からだ。


 しかし、馬車から降りたのは私とルーちゃんと文官のセレナーデのみ。一緒に付いてきてくれたア

ークが降りる様子を見せなかった。


「あれ? アークはこないの?」


「僕が一緒だとどうしても目立っちゃうからね。それに国王様もソフィアからの報告を聞きたいみた

いだし」


「そんなぁ……」


 面倒な話し合いは全部アークに丸投げしようと思っていたのに。


 どうやら国王様は私と話し合いをご所望のようだ。


 残念だけどアークは付いてこないみたいだ。諦めて私は王城内へ足を踏み入れた。


「まあ、今回は褒美を頂けるとのことなので、それほど複雑ではないと思いますよ」


「そ、そうだね」


 大聖女ソフィアはアブレシアの教会の地下で眠っているというのが世間見解だ。


 ただの聖女ソフィアとして生きている今、派手な褒美を与えられることもないだろう。


 それなりに額のお金がもらえたり、便宜を図ってくれるのかもしれない。


 ルーちゃんに励まされて足取りを軽くした私は、セレナーデに付いて歩いていく。


 謁見室にたどり着くと、扉の前でセレナードとはお別れ。


 近衛騎士によって扉が開かれ、私とルーちゃんだけが謁見室に入る。


 足が埋もれそうなほどフカフカなカーペットを進むと、前方の玉座にはドンドルマ王国の国王であ

るオスト=ドンドルマが座っており、その隣には王太子であるルードヴィッヒがいた。


 ――なんでルードヴィッヒまでいるの? 


 思わずそんな無礼な言葉が飛び出しそうになった。


「ソフィア、お主は目立ちたくないのではなかったのか?」


 堅苦しい挨拶の言葉を述べようかと思っていたが、それよりも先に国王がため息を吐いているかの

ような言葉を漏らした。


 ルーちゃんの嘘つき! いきなり国王に事件について追及されたよ!


「そ、そう心がけているつもりなのですが……」


「たった二名でのウルガリンの奪還、王都に巣食っていた魔王の眷属の討伐。これのどこが心がけて

いるというのだ?」


「えー、いや、その、それは何というか。ウルガリンについては、つい二十年前と同じノリで奪還し

てしまいまして。魔王の眷属については聖女ミオと捜索している内に見つけてしまったと言います

か……」


 ルードヴィッヒに突っ込まれてしまい、しどろもどろになりながら答える。


「ああ、別にそれらの行いを責めているわけではない。ウルガリンを奪還してくれたお陰でクロイツ

王国との国交回復が見え、王都の地下水道に潜んでいた眷属を討ち、そのたくらみを阻止してくれ

た。これらはとても大きな貢献であり、国王としても礼を言いたいくらいだ」


「お褒めの言葉を頂き恐縮です」


「だが、これらの行いのは以前お主が申した言葉とあまりに逸脱していないか? これでは大聖女ソ

フィアが目覚めて、世界平和の狼煙を上げたといっても違和感がないぞ?」


 つまり、国王様の言いたいことは、前に宣言した言葉とその後の行動が合っていないんじゃね? 

ということだろう。


 うん、こうして積み上がった功績を見ると、確かに私でもそう思う。


「すみません、そんなつもりはないんです。たまたま見逃せない事態が目の前にあっただけで……」


「うむ、アークの報告からもそれは理解している。ただ、どうしても我らにはお主がどう考えている

のかわからなくてな。こうして直接話をしたいと思った」


「お手数をおかけしてすみません」


 忙しい国王様のお手間をとらせて申し訳ない思いだ。


「まあ、ソフィアが問題児なのは、今に始まったことではないか」


「それもそうじゃな」


 ……なんか、酷く不名誉な烙印を押されている気がするが、今の私に反論する余地など皆無なので

ここは受け入れる。


「今後もソフィアが目覚めだことは公表しない方針でいいんじゃな?」


「はい、そのようにして頂けると大変助かります」


「わかった。ウルガリンの奪還、魔王の眷属の討伐、大儀であった。大聖女ソフィアの目覚めを公開

しない以上、お主の活躍も伏せられることになる。しかし、それではあまりにも申し訳が立たん。な

にかしらの褒美で報いたいと思っているのだが、何か希望はあるか?」


「えっと、私はそういうのは――」


「こちらの顔を立てると思って受け入れてくれ」


 やんわりと辞退しようとしたが、ルードヴィッヒがそう言った。


 国王と王太子にここまで言われては、いりませんなんて言えない。


 でも、どうしよう。本当に私に欲しいものなんてない。


 私が望むものがないなら、ルーちゃんの欲しがりそうなものでもと考えると、ふと思いついた。


「では、聖剣を作るのに必要な稀少な鉱石をください」


「鉱石? それは構わぬが一体どうしてだ?」


「ルーちゃ――じゃなかった、聖騎士ルミナリエの聖剣が折れてしまったので、新しく作り直してあ

げたいと思いまして」


 私が言うと、後ろにいるルーちゃんが驚くような気配が伝わった。


 ザガンが最後に呼び寄せようとした魔神。召喚は完全なるものではなかったものの、魔神の右腕ら

しきものが私を襲い、ルーちゃんが守ってくれた。


 しかし、その際にルーちゃんの聖剣は破砕してしまったのである。


「聖剣が欲しいのであれば、城の武具庫にあるものを持っていっていいし、なんなら作らせても良い

のだぞ?」


「お言葉はありがたいですが、私自身で作ってあげたいので」


 その方が手っ取り早くて確実かもしれないが、私の力で作ってあげたかった。


 私を守ってくれたルーちゃんのために。


「そうか。であれば、作るのに必要なものを持っていくといい。製作に必要な費用もこちらが持と

う」


「いえ、そこまでお世話になるわけには……」


「ウルガリンを奪還し、王都の危機を救ってくれたんだ。本来なら、これでも足りないくらいだ。素

直に受け取ってくれ」


「はい、ありがとうございます」


 ルードヴィッヒにまでそう言われては断るわけにもいかない。


 過度な遠慮は失礼にもなるしね。


 押しの強い二人の言葉に私は素直に頷くことにした。




 ●




「ソフィア様、私なんかのために良いのですか?」


 謁見室を出ると、ルーちゃんがおずおずと話しかけてきた。


「いいんだよ。ルーちゃんのために聖剣を作るって約束したからね」


「しかし、国王様直々の褒美となれば、ソフィア様が望んだものはなんでも……」


「王都にも新しい家も手に入ったし、家事をやってくれるエステルもいる。頼りなる可愛い聖騎士も

いるし、これ以上望むものなんてないよ」


 口座には、母さんから引き継いだ遺産もある。私たちが生きていくのに困ることはない。


 教会が二十年前のように不便であったなら寄付も考えたけど、既に十分な寄付を貰って生活レベル

も向上しているようだしね。


「だから、今必要としていることに全力を尽くしたいと思ったんだ」


「ソフィア様、ありがとうございます」


 そう語るとルーちゃんは感極まったような顔で礼を言ってくれた。


 うん、やっぱりこういう時には素直に感謝してもらえると嬉しいものだ。


「それでは宝物庫にご案内します」


 タイミングを伺っていたのか廊下で待機していたセレナーデが声をかけてきた。


 今のやり取りを見られていたと思うと、少し恥ずかしいけど動揺は表に出さずについていくこと

に。


 城の廊下を突き進み、何度も曲がり、階段を下っていくとドンドンと薄暗くなる。


 どうやら宝物庫とやらは王城の地下にあるようだ。初めて知った。


 魔道具で照らされた薄暗い廊下を進むと大きな二枚扉があり、騎士が二人立っていた。


 既に話は通っているのか、私たちがやってくると騎士たちは通してくれる。


「さすがは宝物庫の扉。綺麗だね」


「触ってはいけません。魔力認証を行っていない者が触れると、迎撃される仕組みですから」


「ひっ!」


 美しい金の装飾に見惚れて触ろうとしたが、すぐに手を引っ込めた。


 危ない。セレナーデが注意してくれなければ触るところだった。


「宝物庫の中には禁書と言われる魔導書や、高位魔物の素材などもありますので、不用意に触れない

ようにお願いします。お二人は問題ないかもしれないですけど、私は死んでしまうので……」


「わ、わかりました」


 セレナーデに釘を刺された私はしっかりと頷いた。





ニコニコ静画にてコミカライズ6話更新されました。

ルミナリエ視点の心情が漫画ならではの表現がされており、個人的にかなり好きです。

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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[気になる点] 改行が酷すぎます。
[気になる点] 今後もソフィアが目覚めだことは公表しない方針でいいんじゃな? →目覚めた事は?
[気になる点] 聖女さまが気づいて討伐するまで、誰も気づかなかった無能どもが なんでこう上から目線なんですかね
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