結晶を使ったポーション
『転生大聖女の目覚め』書籍2巻が9月29日頃発売。
コミックは10月7日発売です。
「詳しい話をしてくれるかな? メアリーゼから手紙は届いたのだけど、かなり忙しいみたいで要領を得なかったからね」
リビングのソファーに腰を据えるなり、アークから質問された。
どうやらメアリーゼから聞いたけど、詳細までは聞いていないらしい。それで細かいところは本人に聞けと言われてやってきたようだ。
プレッシャーのある表情を向けられながら、私はウルガリン奪還についての詳細を話した。
聞き終わるなりセルビスが大きくため息を吐いた。
「まったく、魔神について調査中だというのに……今ではそっちの事件のせいで大混乱だぞ」
「ご、ごめんなさい」
それについてはメアリーゼやエクレールにも怒られた。
他人が必死に調査しているのに、このような出来事を起こされれば混乱する。
セルビスが憤慨するのも当然だった。もう少し考えて行動するべきだったね。
「まあ、メアリーゼやエクレールにも怒られて反省しているようだし、ソフィアを責めるのはやめよう。魔神の脅威が迫っている中、僕たち人類の領土が増えるのはいいことだしね」
アークがそのように宥めると、セルビスが眼鏡を持ち上げて口を結んだ。
とりあえず、詳細な経緯を知れて納得はしたらしい。
「それよりも、ウルガリンを浄化した際に何か異変はなかったかい?」
「ううん、これといっては何もなかったかな? 仮にあったとしても、私は二十年前としか比較できないから」
私も細かな 異変を感じ取れないかと思って外に出てみたが、これといった変化 はないように思えた。
「そうか。わかった。後で ルミナリエにも聞いてみるよ」
ルーちゃんも大きな反応はしていなかったが、彼女の話を聞いていて何かが見えてくることがあるかもしれない。多角的に情報を仕入れるのはいいことだ。
「くっ、くそ! 相変わらずの馬鹿力め」
「まだ一太刀も浴びせることができませんか……」
「ハハハ! お前たちは剣筋が綺麗過ぎる。もっと、型にはまらねえ戦い方をしねえとな!」
ウルガリンについての話がひと段落すると、フリード、ルーちゃん、ランダン、ミオが戻ってきた。
フリードとミオは何度も転がされて稽古服が汚れているが、ランダンの身体には土ひとつついていない様子だった。
二人がかりでかかっていたのを横目で見たけど、まるで相手にならなかったらしい。
私の聖騎士であるルーちゃんでも、一太刀も当てられないとは。
まだまだ自力や実戦経験で大きな差があるようだ。
「ソフィア! 朝食はもう食ったか?」
「いんや、まだだよー。ランダンも食べる?」
「おう! 今日も 飯を食ってなくてな! 食わせてくれ!」
お腹を擦りながら何故か誇らしげに言うランダン。
別にいいんだけど普通に家で食べてきなよ。
「アークとセルビスは?」
「僕たちは食べてきたからおかまいなく 」
『かしこまりました。では、お飲み物をお出しいたしますね』
エステルが厨房へと移動し、朝食の準備を進めていく。
「一気に騒がしくなったな」
そんな様子を眺めてセルビスが呟いたが、その表情は柔らかいものだった。
●
朝食を食べ終わると、ランダン、フリード、ルーちゃんは再び中庭での稽古に戻り、ミオもそれを見学するために移動した。
どうやらランダンにリベンジするつもりらしい。
この間は朝食を食べてすぐに仕事に戻ってしまったのだが、今日は時間に余裕があるようだ。
それはアークやセルビスも同じらしく、帰る素振りを見せずにリビングに居座っていた。
今日はこのまま屋敷でまったりかな。などと思って、床を這いずっていたスライムを抱えあげる。
プルッとした柔らかな体がとても気持ちがいい。ギューッとすると弾力のようなものがあって、僅かに反発してくるのも素晴らしい。
手触りもすべすべでずっと触っていたくなる心地良さだ。
「そのスライムはペットかい?」
私が膝の上でスライムを抱いていると、紅茶を口にしていたアークが尋ねてくる。
「うん、ウルガリンを奪還した帰り道で懐かれてね。可愛いから飼うことにしたんだ」
「……昔からソフィアは何でも拾ってきていたな」
「そうだね。困っている人だけでなく、高位の魔物やら動物まで拾ってきていたよね」
「ちょっと、私は犬じゃないんだけど……」
二人の物言いに抗議する と、アークは笑った。
「そういえば、今日はソフィアに見せたいものがあるんだけどいいかな?」
なんだか露骨に話題を逸らされた感じがするが、そのように言われれば頷かざる得ない。
アークがセルビスに視線を送ると、彼は懐から一本の瓶を取り出してテーブルに置いた。
中には翡翠色の液体が入っている。
「治癒ポーション?」
治癒ポーションとは聖魔法と錬金術師が協力することによってできる、薬効効果のある回復アイテムである。
聖魔法以外で唯一怪我を治癒させることができる道具だが、作り上げるコストが非常に高いので安価に入手できるものではないのが難点だ。
聖女や見習いの数を合わせても大量生産することはできず、未だに高価なままだと聞いている。
「だけど、色が違うね?」
聖力や魔力を温存するために治癒ポーションのお世話になったことはあったが、私の知っているものとは色が違った。
通常の治癒ポーションは翡翠色をしているのであるが、目の前のものは琥珀色をしている。
「そうだ。これは見ての通り、これはただの治癒ポーションではない」
「じゃあ、どんなポーションなの?」
私がそのように尋ねると、セルビスが待ってましたと言わんばかりの顔だ。
自分の成果を語りたくて仕方がないって様子。普段はクールっぽい振る舞いだけど、こういうところが微笑ましい。
「これは元来の治癒ポーションを大幅に上回るだけでなく、浄化効果もあるポーションなのだ」
「ええっ!? なにそれ! すごい! どうやってそんなもの作ったの!?」
治癒はまだしも、浄化までできるポーションだなんて聞いたことがない。
「ソフィアの結晶を材料にして作った」
「私の結晶?」
ごとりとアブレシアの地下で見た水晶を置くセルビス。
詳しく聞いてみると、研究用に採取してくれた私の結晶を混ぜて試行錯誤してみたところ、このような代物ができたらしい。
「怪我が治癒されるってことは誰かに使ったんだよね?」
「ああ、実験にな。俺も実際に飲んだ」
「ええ!? なんか嫌だ!」
「どういう意味だ?」
「だって、それ私の結晶からできたものでしょ?」
その結晶は私の聖力と魔力が合わさってできたものだ。つまり、私の身体から排出されたものなのだ。それを他人が口にするって、なんか気持ち悪いし、恥ずかしい。
「俺は気にしない」
「私は気にするよ!」
「変な奴だな。大体、その杖や聖女服も結晶を使っているだろうに」
「それを自分で身に纏うのと他人に飲ませるのとでは大分違うって!」
私がそのように主張をするもセルビスは、まったく理解できないというような表情。
彼は探究心以外のことはどうでもいいらしい。
「まあまあ、これは実験品だし、注目するべきは浄化の方だから」
「う、うん。それもそうだね」
アークに宥められて私はひとまず落ち着きを取り戻す。
そのポーションをどのように運用するかはしらないが、まだ試験品だ。
最後まで説明は聞くべきだろう。




