懐かしの料理
『転生大聖女の目覚め』の書籍2巻が10月2日発売です。
そして、コミック第1巻が10月7日に発売です。
夕食のメニューが決まると、私たちは手分けして動き出す。
エステルとルーちゃんとフリードがクリームシチューやサラダを担当し、私とミオがシイタケの肉詰めを作る。
「鶏肉の下ごしらえ終わりました。ニンジンとブロッコリーも切っておきますね」
『ありがとうございます!』
「タマネギも切っておいた。使いさしのアスパラと白菜もあるが使ってもいいか?」
『構いません!』
エステルだけでなく、他の面子も料理ができるのでそれぞれの動きはよどみなく非常にスムーズだ。
ジャガイモの下処理を終えたエステルが、テキパキと具材を入れて炒めている。
昔っぽく、フリードは特にこだわることなくたくさんの具材を入れようとしているようだ。
ルー無しのクリームシチューを作るのは少し手間であるが、三人がいればすぐに完成しそうだ。ゆっくりとしていると私たちの方が遅くなりかねない勢い。
私たちも速やかに料理を進めることにする。
包丁を使って豚肉をひき肉にし、ミオにはシイタケの軸を落としてもらう。
「……ソフィア、シイタケのジクを落としたよ」
「落としたジクはどうしたの?」
「……ここに置いてあるけど?」
「硬いけど一応そこも食べられるんだ。細かく刻んでくれる?」
「……わかった」
シイタケのジクは基本的に硬くて捨てガチであるが、別に食べられないわけでもない。
教会での貧乏生活が板についていた私は、それさえもみじん切りにして混ぜていた。
「……ん、できた」
「ここに入れて」
ミオがみじん切りを終える頃に私もひき肉を完成させたので、ボウルの中にタネを作る。
みじん切りにしたタマネギ、そして刻んでもらったジクを投入。
そこに塩と胡椒を適量入れて卵を投入。それを手で揉んでいく。
「混ざってきたら片栗粉を少し入れて、また混ぜるんだ」
「……なるほど」
私が混ぜている様子をジッと眺めるミオ。
作るのは簡単なので、ミオの腕前なら自宅でもすぐに再現できるだろう。
「シイタケにも片栗粉をつけておいてくれる?」
「……裏側だけでいい」
「ううん、全部。そうした方がタレと絡みやすくなるから」
タネが完成し、シイタケに片栗粉をつけ終わると肉詰めだ。
出来上がったタネをスプーンですくって、シイタケの裏側に盛っていく。
二人でシイタケにタネを詰めていく作業はとても楽しい。
「……懐かしい」
「いつも私の傍で作るのを見ていたもんね」
あの頃のミオは小さかったから、食器を運ぶことくらいしかできなかったけど今は違う。こうやって一緒に肩を並べて料理することができる。それが嬉しい。
タネを詰め終わると、魚醤、砂糖、お酒、みりんを混ぜ合わせてタレを作る。
「後はフライパンで焼いていくだけ」
温めたフライパンの上にシイタケの肉詰めを並べていく。
肉の方を下にして、蓋をすると弱火でじっくりと焼く。
ほどなくして火が通ると、ヘラでひっくり返す。
ちょっと肉の部分を突っついて弾力があったら火が通っている証だ。
そして、先ほど作ったタレを投入し、アルコールがある程度飛ぶまで焼く。
お皿に盛り付け、フライパンに残っているタレをかける。
「仕上げにネギやゴマを散らせば完成!」
「……ん、できた」
「こっちも後少し煮込めば完成だ」
視線をやると、エプロンをつけたフリードがシチューを煮込んでいる。
聖騎士の鎧姿とは一転して、家庭的になっておりなんだかおかしい。
『配膳は私がしますので席についてください』
「はーい」
食器の配膳に関してはエステルに並ぶ者はいない。
彼女は食器棚を開けると、念同力を使って次々と皿や食器を移動させてテーブルへと並べていった。
それぞれの者が席に座る頃には、すっかりと食べる準備が万端だ。
メインであるクリームシチューも完成し、それぞれの目の前に差し出された。
「じゃあ、いただ――」
「「女神セフィロト様、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます」」
すっかりお腹がぺこぺこだった私は食器に手を伸ばすが、ミオやフリードは食前の祈りを唱えだした。
家でもしっかりと祈りをやるとは敬虔だ。
「ま、真面目だ」
「……食前の祈りは大事」
「は、はい」
後輩がやっているのにも関わらず、先輩の私がやらないのも格好がつかない。
ミオに窘められた私とルーちゃんも慌てて祈りの言葉を口にする。
「じゃあ、いただこうか」
祈りの言葉が終わると文句はなく、私の言葉を合図に食器へと手を伸ばした。
まずはメインであるクリームシチューから。
たくさんの具材がゴロゴロと入って、とろみのついているシチュー。
匙ですくうと大きなジャガイモ、ニンジン、タマネギなんかが入ってくる。
口にすると、ほくほくとしたジャガイモやシャキシャキとしたタマネギ、甘いニンジンとそれぞれの食感や味が渾然となってやってくる。
それらには甘みとコクのあるスープがしっかりと染み込んでおり、噛めば噛むほど美味しかった。
「……クリームシチュー、美味しい」
「久しぶりの温かい料理だ」
派手な美味しさはないかもしれないが、思い出深い味わいだった。
オルドレッドから王都という長い旅路を終えたばかりの二人の身体には一段と染み渡るようだ。
旅になるとどうしても食べものは硬パンやチーズ、干し葡萄やワインといった保存食になりがちだ。
街や村を通ることができれば、温かい料理にありつけるが毎度寄れるわけではない。
ミオもフリードも噛みしめるように食べている。
匙をすくっていくと白菜やブロッコリー、アスパラガスと様々な具材が出てくる。具材が多すぎて何が入っているのか把握できないほど。
何が出てくるかはすくうまでわからない。そんな不思議な感じが楽しい。
「次はシイタケの肉詰めだ」
しばらく、シチューやパンに舌鼓を打っていたフリードであるが、メインディッシュとばかりに視線をやって食べる。
「シイタケの旨みと肉の旨みが出てきてジューシーだ」
シイタケの肉詰めを食べたフリードが、感極まったかのような表情をした。
私も食べてみる。噛みしめると柔らかいシイタケの旨みと練り込んだ肉の旨みが弾けた。
どちらが肉なのかわからないほどのジューシーさだ。
「シイタケの甘みと少しの苦味。それが甘いタレで味付けされた肉と非常に合いますね」
「……これも懐かしい味で美味しい」
ルーちゃんとミオも美味しそうに食べてくれて嬉しい。
使っている肉の量はそれほどではない。むしろ、少ない方であろう。
しかし、肉厚なシイタケのお陰で高い満足感を得ることができていた。
「……美味しい? フリード?」
「ああ、美味い」
「……ソフィアに教えてもらったから、これからはいつでも作れる」
「それは有難いな」
はにかむように笑って言うミオの言葉に、フリードも嬉しそうに頷く。
そんな二人の様子を見て、私はクスリと笑った。
「……どうしたの? ソフィア?」
「なんだか夫婦みたいな会話だなって」
「……ふ、夫婦? そ、そんな、私とフリードが……そんな……」
なんて私が言うと、ミオは顔だけでなく耳まで真っ赤にしてもごもごと呟く。
隣に座っているフリードも同じような感じだ。
あ、あれ? 想像しているよりも初心な反応だな。
さすがにこれだけ仲良しなのに付き合っていないなんてことはないよね?
なんて疑問が湧いたけど不躾に尋ねられるような空気ではないので、ひとまず私は胸の中に仕舞っておくことにした。
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』コミック7巻もよろしくです〜




