ミオの長所
すみません、話を飛ばして投稿してしまいました。
ただしい順番はこちらです。
お手数をおかけしますがこちらからお願いします。
墓参りを済ませると、ゆっくりとした場所で話すためにミオとフリードを屋敷に招待することにした。
『お帰りなさいませ、ソフィア様、ルミナリエさん』
「ミオ、下がれ! レイスだ!」
「お客様ですか――ひいっ!?」
私とルーちゃんを出迎えてくれたエステルを見て、戦闘態勢に入るフリード。
アンデットの弱点である聖なる力の宿った剣を向けられて、エステルが悲鳴を上げる。
「大丈夫! レイスだけど、この子はうちのメイドだから!」
「メイドだと? 意味が分からん」
「……屋敷の中からアンデットの気配がするとは思ってたけど、メイドとして使役しているとは」
戸惑いの様子を隠せないフリードであるが、ミオの方はとっくに感知していたらしい。
エステルの存在よりもメイドであることに驚いているようだ。
『はじめまして、エステルと申します。レイスとしてこの屋敷に居ついていたところ、ソフィア様のご慈悲によって仕えさせていただけることになりました』
「……私はミオ。ソフィアの後輩で聖女をしてる」
「…………ミオの護衛のフリードだ」
エステルが丁寧に一礼をすると、ミオは平然とした様子で、フリードはやや警戒したまま自己紹介をした。
「……大丈夫、フリード。この子に邪気はない」
「しかしだな……」
「フリードは知ってるかな? エステルは、聖騎士のケビンネスさんに仕えていたメイドさんなんだよ」
「あー、あのむさ苦しいオッサンの……」
『むさ苦しいとはなんですか!』
フリードが思い出すように呟きに、エステルが憤慨したように反応する。
そういう一面があったことを否定できない。
「そうか。あのオッサンに仕えていたのなら安心だな」
『信用してくださるんですか?』
「あのオッサンは人を見る目は確かだった。悪い奴を傍においておくはずがない」
『そ、そうですか。ありがとうございます』
フリードの続く言葉を聞いて、嬉しそうにするエステル。
ケビンネスとは同じく聖騎士見習いであったフリードの方が関わりが深い。
『こんなところで立ち話をさせてはお客様に失礼ですね。どうぞ、中に入ってください』
「……お邪魔します」
エステルが念動力で扉を開けて、私たちを中に入れてくれる。
「……ここがソフィアの新しい家。とっても綺麗で広い」
「でしょ? 自分だけの広い家があるって中々に快適だよ」
まだ住み始めてそれほど時間は経過していないが、持ち家の魅力を理解するのは十分だった。私もルーちゃんも今ではすっかりと魅了されている。
『ソフィア様、そのスライムは?』
廊下を歩いていると、エステルが尋ねてくる。
ミオやフリードを連れてきただけでなく、シレッとスライムも抱えていた。
「帰り道に懐かれたから飼うことにしたんだ。よろしくね」
『かしこまりました』
スライムをペットとして飼うことはそこまで珍しいものではない。エステルはそのことを確認すると、しっかりと頷いてくれた。
リビングにやってくると、皆が席について、エステルが紅茶を差し出してくれる。
フリードやルーちゃんが紅茶に口をつける中、ミオはソワソワとしながら部屋を見渡していた。
「……こんな広いところに私も住んでみたい」
やはり、私やルーちゃんと同じ教会育ちだけあって、自分だけの広い家には憧れるようだ。
キラキラと輝く瞳には羨望の色が宿っていた。
「そういえば、ミオとフリードは教会本部で一度も見かけなかったけど、どこにいたの?」
王都には二か月ほど住んでいるが、ミオとフリードを見た覚えはない。
教会本部にいれば、今日のように私の聖魔力を察知して声をかけてきたはずだ。
「俺とミオは王国の東にあるオルドレッドを守護し、浄化を進めていたんだ」
なるほど。道理でアブレシアや王都で一度も見かけなかったわけだ。
やっぱり、生き残っている聖女のほとんどは各地の守護や浄化の任についているんだ。
「……だけど、つい最近召集がかかって教会本部にやってきた」
「なんでも異変が迫っているとのことらしいが、一体なんなのだろうな。理由を聞こうにもウルガリンが奪還されたとかでてんやわんやだった」
ああー、それはなんか申し訳ないことをしてしまった。
「……ソフィアとルミナリエはなにか知ってる?」
気まずいような反応をしてしまったからだろうか、ミオが尋ねてくる。
「え、えっと、事件は少し前に起こりまして……」
その純粋な眼差しに誤魔化すことができず、私は魔神なる存在のことや、二人でウルガリンを奪還したことについて話す。
「なるほど。魔王よりも強大な敵がいるのだとしたら、それは警戒するのも当然だな。それはさておいて、こんな時期になにをやってるんだ? ウルガリンの奪還自体は悪いことではないが、もう少し歩調を合わせて行うべきだろ?」
「ごめんなさい!」
フリードのド正論の言葉に反論もできない私は素直に謝った。
きっと、私がウルガリンを奪還したせいで王都に集まってきた人たちも混乱しているに違いない。
「……でも、たった二人でウルガリンを奪還するなんてすごい」
「ミオは優しい!」
ミオの優しさに私は感激した。
正面じゃなく隣に座っていたら抱き着いている顎を撫でているところだ。
「……私にはあんな濃密な瘴気を浄化するなんてできないから」
ミオの表情に落ちた陰りを見て、そんなことはないなどと無責任なことは言えなかった。
聖女といえど、なんでもこなせるわけでもない。
治癒、浄化、付与、結界、降臨、刻印……他にも種類は多岐に渡るが、それぞれが適性 を伸ばして進む。
「誰にだって得意や不得意はあるんだよ?」
「……でも、ソフィアは浄化だけでなく、治癒も付与も結界もなんでもできる」
浄化以外は苦手なのだけど、周りの人からなんでもできるように見えてしまうらしい。
「たとえ、そうでもミオには私や他の誰にもできない感知能力があるじゃん!」
「……敵の位置がわかっても私には何もすることが」
ミオは私のようにある程度マルチに聖魔法を使いこなせるタイプではない。
勿論、聖女である以上、最低限のことは一通りできるが、一番の強みは感知だ。
なんでもできる聖女も素晴らしいとは思うが、このような才能は稀有だ。他の聖女の代わりはたくさんいてもミオの代わりが務まる聖女はいないだろう。
だけど、本人はそれを理解できていないらしい。
そのことに驚いてフリードに視線をやると、彼は 悩ましそうな顔をしていた。
「初めから敵の位置がわかっていれば、私たちは作戦を立てて準備ができます。そうすれば、有利な戦闘状況を作り出すことができる。それは戦う者にとって、とても心強いことです」
呆然としている私よりも先に口を開いたのはルーちゃんだ。
「ウルガリンを奪還する時も、あまりにも魔物の数が多くて乱戦気味になることがあったね」
「はい、ソフィア様だったからこそ何とかなったものの、並の聖女では瞬く間 に魔物に呑まれていたでしょう」
汚染区域での戦闘は基本的に人間が不利だ。そんな状況で情報を的確に伝達することのできる、ミオの感知能力はとても頼もしい。
「他にも瘴気が濃いエリアに入ると、瘴気持ちの魔物の反応が混濁して、正確な数がわからなかったり、来る方向がわからなかったりする。でも、ミオはそれさえも見分けられるでしょ?」
「……う、うん」
「ミオは汚染区域にいようとも、瘴気持ちの魔物の数や方角、距離を事前に伝えてくれる。俺をはじめとするオルドレッドの者が安定して戦えているのもそのお陰だ」
「……みんな、ありがとう。でも、それ以上はやめて。恥ずかしい」
どうやら私たちの励ましの子言葉をストレートに受けて限界になったらしい。
ミオは顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏した。
そんな可愛らしいミオの様子を見て、私たちはくすくすと笑った。




