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街を覆う結界

ニコニコ静画にてコミカライズ連載中です。


 防衛都市ウルガリンを奪還した。


 首魁であるオーガキングを退治して冷静になると、随分と激しい戦いだったと自分でも思う。


 ルーちゃんから敵が多いと聞いていたけど、想像の三倍くらい多くてちょっぴり引き返そうかなーなどとへたれそうになったのは秘密だ。


 ルーちゃんを信じて涼しい顔で聖魔法の詠唱をしていたけど、何度か傍に攻撃が飛来してきた内心ではビビりまくりだったよ。


「ルーちゃん、身体の方は大丈夫?」


 戦いが終わるとルーちゃんの鎧が酷く傷ついていることに気が付いた。


「鎧に傷こそついていますが、怪我の方はほとんどありませんよ。数か所の擦り傷や打ち身がある程度です」


「擦り傷と打ち身は怪我だよ!」


 なんてことがない風に言うルーちゃんの言葉に私は詰め寄りながら突っ込んだ。


 絶対に入る。擦り傷も打ち身もとっても痛い。私なら早く治してと泣きべそをかいてしまう。


「そんな大袈裟な。こんなものは怪我のうちには入りませんよ」


「入るから! すぐに治癒するよ!」


 ルーちゃんの綺麗な肌が傷ついているというのに放置なんてできない。ルーちゃんは我慢できても私が我慢ならなかった。


「こんなことのためにソフィア様の貴重な魔力を使うわけには……」


「小さな治癒で枯渇するほど私の魔力は少なくない! はい、そういうわけで早く鎧を脱いで!」


 私が憤慨した様子で言うと、ルーちゃんは諦めたように息を吐いて素直に鎧を脱いだ。


 別に触れなくても治癒はできるが、直接怪我を確認して素肌にかけるのがもっとも効率がいい。


 目にみえる擦り傷はヒールですぐに治癒し、目に見えにくい打ち身などは申告してもらって治していく。


 こうやって看ていくと色々なところに怪我をしているのがわかった。


「ごめんね。私のわがままに付き合ってもらっちゃって。ルーちゃんの負担が大きかったよね?」


「なにをおっしゃいますか。ソフィア様をお守りするのが聖騎士である私の役目です。負担だなんて思ったりはしません」


 怪我を見て申し訳なくなった私だが、ルーちゃんは晴れ晴れとした表情でそんなことを言った。私の聖騎士がマジで最高過ぎる。


「ルーちゃん、ありがとう!」


「痛っ! ソフィア様、そこ打ち身のところです!」


「わわっ! ごめん!」


 感極まって抱き着くと、怪我をしているところ だったようだ。


 私は慌てて抱き着くのを止めて、打ち身を治してあげた。


「もう痛いところはない?」


「はい、 ありません」


「本当に? やせ我慢とかしてない?」


「本当にしていませんから」


 念のために重ねて聞いてみたが、本当に痛いところはないようだ。


 ルーちゃんは無理をしてしまうところがあるから、こうやって私がしつこく聞くくらいがちょうどいい。


 歩いている姿におかしなところはないし、本当に痛いところはないのだろう。


「キューとロスカもありがとうね」


「「クエエエエエッ!」」


 ルーちゃんの治癒が終わったところで、私は離れたところにいるキューとロスカに近づく。


 ウルガリンでの戦いではさすがに力不足であったが、ここにたどり着くまでの間に多くの敵を倒してくれた。


 まさかキュロスが瘴気持ちの魔物と渡り合うとは思わなくて色々と驚いたけど、結果的にとても助かったのは確かだ。帰ったら存分に労ってあげないと。


「ソフィア様、残党の退治を進めながら浄化をいたしましょう」


「そうだね。キューとロスカに乗って移動しようか」


 首魁であるオーガキングを退治して瘴気はかなり薄くなったが、それでも私が浄化した範囲外はまだ瘴気に満ちている。


 隣国のクロイツの方まで浄化するのはさすがに手間だが、せめてウルガリンだけは浄化しておきたい。


 私とルーちゃんはキューとロスカの背中にまたがって移動した。




 ●




 ロスカの背中に乗った私はウルガリンの中をてくてくと歩く。


 隣にはキューと背中に乗ったルーちゃんも歩いていた。


「……やっぱり、もう都市の原型はないね」


「陥落し、長年瘴気に侵されていましたから」


 瘴気の無くなった防衛都市の中を歩くが、道らしい道というのはほとんど存在しない。


 元は石畳で整備された綺麗な街並みであったが、瘴気持ちの魔物の侵攻や、長年瘴気に侵されて腐食したためほぼ原形はとどめていなかった。


 かろうじて残っている民家の残骸や石畳の破片らしきものから、記憶にあるウルガリンの風景と照合してこの辺りが大通りであっただろうと推測できる程度だ。


 かつての堅牢さを誇った防衛都市の光景は欠片もなく、ただ街らしきものがあったとわかる程度の姿しかなかった。


 防壁や建物の残骸が微かに残っているだけで、荒廃した大地といってしまった方が正しく見えるだろう。


「しかし、この土地もソフィア様の聖魔法によって息を吹き返しました。大地に土があり、草花が芽吹いています。以前のような繁栄を取り戻すには時間がかかるでしょうが、きっとすぐに人が生活できるようになります」


「そうだね。魔神の情報収集については大して得られるものがなかったし、力になれないけど、これならそれなりの貢献にもなったよね」


「それなりなんかではありませんよ。これは人類にとって大きな一歩です」


「そ、そんなに?」


 大袈裟な評価をしてくれるルーちゃんに思わず尋ねるが、彼女は笑うだけで明確な返事をくれない。


 答えてくれないのが一番怖いんだけど。


 街道の浄化しか頼まれてなかったけど、防衛都市を奪還するのはマズかっただろうか。


 ともあれ、やってしまったものは仕方がない。ビビッて中途半端なところで投げ出すのが一番ダメなのでやりきるしかないだろう。


 ロスカの背に乗って歩き回り、瘴気を見つけては浄化して回る。


 オーガキングを退治したことによってほとんどの魔物は逃げ去ってしまったが、中には残党らしいハイオーガやゴブリンが襲ってくる。


 しかし、私たちには敵うことなく、ルーちゃんにバッサリと斬り捨て、私が一気に浄化した。


 そういった作業を繰り返して進んでいると、再び防壁らしきものが見えてきた。


「恐らくここでウルガリンは終わりかと」


「ということはウルガリンは全て綺麗に浄化できたってわけだね」


 ウルガリンからクロイツに繋がる街道はまだ瘴気に包まれているが、王都からウルガリンまでは綺麗に浄化することができた。


 これで正真正銘、ウルガリンを奪還できたと言っていいだろう。


「それじゃあ、瘴気持ちの魔物が入ってこれないように結界を張っておくね」


 このまま帰ってしまっては、再び瘴気持ちの魔物に侵入されて、瘴気に侵されてしまう。


 そうならないように聖なる力の宿った結界で、それを防がなければならない。


 私は杖を掲げて、少し多めの魔力と聖力を込める。


「『サンクチュアリ』」


 そして、ウルガリンすべてを覆う聖なる結界をドーム状に展開した。


 薄っすらと翡翠色の光に包まれており、ウルガリンが清浄な空気で満たされる。


 魔力と聖力が各段に増えているお陰で、防衛都市一つをすっぽりと覆うことができた。


「よし、これで瘴気持ちの魔物も近づいてこないね!」


「まさか街一つを覆ってしまうほどの結界を作成してしまうとは……結界まで最上級レベルとはさすがはソフィア様です」


「私の場合は魔力と聖力のごり押しだから……」


 こんな結界をサレンが見たら無駄が多いと呆れるに違いない。


 本当に浄化以外は得意ではないので、そんな風に褒められると恥ずかしい。


「さて、王都に戻りましょうか」


「うん!」


 ウルガリンを結界で包み終えた私たちは、置いてきた馬車のところへと戻る。


 そして、御者席に乗って王都へと引き返す。


 すると、その道のりの最中で進路を塞ぐように何かが飛び出してきた。


 瘴気持ちの魔物の残党? そう思って速やかに降りた私とルーちゃんであるが、進路を塞いだのはただのスライムだった。


「ただのスライムですか?」


「そうみたい。瘴気は宿してないね」


 残党でも瘴気持ちの魔物でもないただのスライム。


 淡い水色の体表にぷにぷにとしたゼリーみたいな体。触るととても気持ちよく、とっても無害な魔物だ。


 なんでも溶かして食べてしまうことから、王都でもゴミ掃除や下水処理の役割を担ってくれている。私たちの生活に欠かせない魔物だ。


「街道が浄化されたことで餌を求めてやってきたのかもしれませんね」


 周囲を見渡すと、街道が浄化されたことでおそるおそる草食動物や鳥などがやってきている様子だった。


 このスライムもそんな子たちの一種なのだろう。


「ここは綺麗になったからのびのびと生活してもいいよ」


 スライムをぷにぷにと突いて満足した私は、進路の邪魔にならないように端に寄せてから御者席に乗った。


「クエエエエ?」


 ルーちゃんが手綱を鳴らして走らせようとするも、キューとロスカから戸惑った声が上がる。


「どうしたの?」


「さっきのスライムがまたしても進路を塞いでいるようです」


 ルーちゃんに言われて前方を見てみれば、先ほど退かしたスライムがのっそのそと近寄ってきていた。


 思わず降りて再び端に退かしてみる。


 すると、スライムはまたしてもこちらに近づいてくる。


 まるで母親に懸命についてくる雛鳥のような懸命さに私は胸を打たれた。


「可愛い! この子を連れて帰ろう!」


 こちらに這いずってくるスライムを抱えあげて私は御者席に戻る。


「スライムをですか? 連れ帰ってどうするのです?」


「ペットにして愛でる」


 困惑した様子のルーちゃんの膝元にスライムを乗せてあげる。


 スライムは私たちの傍こそが自分の居場所だと主張するかのように居座った。


 ルーちゃんはおずおずと手を伸ばしてスライムを撫でた。


「……まあ、スライムは無害ですし、あり触れたペットですので飼うことに問題はないですね」


「だね!」


 どうやらルーちゃんも気に入ってくれたらしい。


 こうして私たちは新しく仲間になったスライムを愛でながら王都に戻った。









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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[良い点] すごく…人間をダメにするクッションにされそうな気がします… ねえアルさん
[気になる点] この話では悪いスライムじゃないよとぷるぷる震えるタイプなんだろうなとは思いますが紹介がおどろおどろしすぎます なんでも溶かして食べるという強酸の塊みたいなものには触りたくも近寄りたくも…
[気になる点] >ニコニコ静画にてコミカライズ連載中です。 ランキングにすら載っていないのにどう見ろと?
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