今後の方針
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「いやー、美味かった!」
「うん、美味しかったね!」
ペーちゃん食堂でたくさんの料理を食べた私たちは、満足げな表情で店を出た。
新作のオムバーグだけでなく、昔食べていた料理をいくつも食べてしまった。
お陰でお腹はパンパンだ。これだけたくさん食べたのは久しぶりなような気がする。
「ランダンはともかく、どうしてソフィアがあれほど食べられる? お前の胃袋には軽量化がかかっているのか?」
「かかってないよ。失礼だね!」
セルビスがまじまじとお腹を凝視しながら酷いことを言ってくる。
相変わらずこの子はデリカシーのない発言をするものだ。魔神とやらの出現より、セルビスが結婚できたことの方が不思議かもしれない。
「皆様、お迎えに参りました」
などと言い合っていると、店の前には教会のキュロス馬車が停まっており、そこには慇懃な態度で腰を折ったルーちゃんがいた。
「わーい! ルーちゃんのお迎えだ!」
離れていた時間はごく僅かであったが、それでもまた会えて嬉しい。
「そういう態度をしていると、増々あっちが保護者に見えるぞ」
駆け出してルーちゃんに抱き着こうとしたが、セルビスからそんな声が聞こえたので私はピタリと足を止め、振る舞いを優雅なものにした。
「……出迎えご苦労様です、聖騎士ルミナリエ」
「今さら上品な聖女ぶっても遅い」
「別にいいもん! ここには私たちしかいないし!」
この面子で今さら何を気にすることがあろうか。
甘えたい時には甘える。それが私の信条だ。
そんな開き直った私の様子を見て、皆は処置なしといったような顔をして馬車に入っていく。
ルーちゃんは御者としてやってきたようなので、私も皆と同じように乗り込んだ。
馬車がゆっくりと進みだすと、アークが真面目な顔をして口を開いた。
「さて、このまま昔話なんかに花を咲かせるのもいいけど、魔神に関する話もしておこうか」
「そうだね」
魔王の眷属が言っていた魔神。
魔王よりも遥かに強い存在とのことらしいが、それが本当だとしたら一大事だ。
魔王の時のように世界が再び瘴気で満たされる可能性がある。そうならないうちに、速やかに相手の情報を掴むべきだ。
二十年かけて魔王の瘴気を浄化したっていうのに、それよりも手強い存在が生まれただなんて本当に災難だ。できれば、その情報が嘘であって欲しいというのが心の願い。
どちらにせよ、現状のまま放置しておくわけにはいかない。
「ランダンが入院している間に、僕は王族の方々に魔神についての報告や調査を頼んでいるよ。問題が問題だから、他の国とも協力して情報を集めてくれるはずさ」
「俺は魔法関係の知り合いや、貴族たちの情報網を探っているところだ。前者はともかく、後者に関しては利害も絡んでくるからあまり期待はできんだろう」
「こっちは冒険者やギルドを中心に異変がないか探ってもらっている。魔王よりも凶悪だという魔神だからな。きっと、どこかで瘴気の影響が出ているはずだ」
アーク、セルビス、ランダンが順番に情報収集について語っていく。
勇者、宮廷魔導士、Sランク冒険者にできる見事な人脈と行動力。
それぞれがしっかりと魔神についての情報を集め出そうと動いている。
「えっと、ごめん。私は皆ほどあまり動けていなくって……」
メアリーゼへの詳細な報告もルーちゃんがやったことだし、私は三人のように強い人脈があるわけでもなかった。
大聖女であること、目覚めたことを公表していない今では大した力もない。
「気にすんな! 俺たちと違ってソフィアは二十年も魔王の瘴気と戦っていたんだ。その間、自由にやっていた俺たちがこれくらいできなくてどうする」
「元よりお前はこういった分野が苦手だっただろう。人には得手不得手というものがある。できる奴に任せていればいい」
「そういうことさ。だから、そんな風に落ち込まずに胸を張ってくれ」
「うん。ありがとう」
申し訳なく思う私を励ましてくれる三人。
二十年も教会の地下にいた私が、彼らと同じフィールドで人脈を持っているべきという考えが傲慢だったのかもしれない。
私にできることは瘴気の浄化や、人々の治療。私もその時にできることを尽くせばいい。
「教会の動きとかもあったら私からも教えるね」
「ああ、頼むよ」
そういったわけでしばらくは情報取集に尽力することが決まった。
何もわからない状態で闇雲に動くことは危険だし、相手が動き出した時に対処できないことがあるからね。小さな異変や違和感を見逃さないとうにしよう。
「そういえば、ソフィアは今も教会に住んでいるのか?」
真面目な話に一区切りがつくと、ランダンが気楽に尋ねてくる。
「うん、そうだよ」
「思ったんだが、今のソフィアが教会に住む必要ってあるのか?」
「家賃が無料なのと、三食無料で食べられること?」
後、付け加えるなら広い浴場があり、気楽に聖堂で祈りを捧げられることだろうか。
「……一生食うに困らない金を持っているのに、そんな理由で住み続けるのか?」
「え? 私の報酬って、全部教会に寄付されたんじゃないの?」
生きて目覚めるかもわからない私に支払う代わり、に教会に寄付されたのではなかっただろうか? だから、完全に貯金がない状態だと思っていたんだけど。
「さすがに世界を救った英雄にそれはないよ。それとは別にしっかりと報酬は支払われているさ。ソフィアが受け取れなかった代わりにソラルさんの口座に入っている」
「そうだったの!?」
「伝えたのは葬儀の終わった後だったから、あんまり頭に入ってなかったのかもしれないね。ごめん、僕の伝えるタイミングが悪かったよ」
「あ、いや。それは私が悪かっただけだから気にしないで」
あの時は目覚めたばかりで色々なことが起きていて、いまいち情報を整理しきれていなかった。母さんのことでショックを受けていて、右から左に聞き流していたのだろう。
「今さら聖女に混じって稽古する必要もなかろう。下手に教会にいると返って悪目立ちするのではないか?」
「それもそうだねー。教会に戻ったら、ちょっとルーちゃんと相談してみるよ」
「もしわからないことがあったらいつでも相談してくれ」
「うん、ありがとうアーク」
別に今すぐ教会を出ていく必要はない。今はルーちゃんと一緒に行動しているので、ルーちゃんの意見も聞いてゆっくりと決めよう。




