大聖女服の完成
「ふぬぬぬぬぬ……」
結晶を自分の聖力と魔力で変形させる。
聖力と魔力を均等に少しずつ注ぎ込むことで結晶に負荷をかけることなく変形させられる。
そこから繊維状になるくらい細く切り出して、それを聖女服に編み込んでいく。
口で言うのは簡単だけど、それが本当に難しい。
少しでも気を抜けば弾け、切り出した繊維が解けそうになる。
時間をかけすぎても切り出した繊維が弾け、力を注ぎすぎると破裂する。
だけど、このためにここ二週間は毎日聖力と魔力の制御をしていた。
目覚めたばかりで鈍っていた以前の私とは違う。
本当はもう少し早くとりかかれると思っていたが、聖力と魔力が予想以上に増えていたので手間取ってしまった。
聖力と魔力を均等に込めて、結晶から服に編み込むための繊維を切り出す。
そのままの状態を維持しながらセルビスの作ってくれた聖女服の空いているところに通す。
常に針穴に糸を通すような感じだ。
焦らず、だけど、スピーディーに。結晶から切り出した繊維を聖女服にしっかりと編み込んでいく。
そんな作業をひたすら繰り返すことしばらく。
「やった! できた!」
「おめでとうございます、ソフィア様!」
ようやく私はセルビスに作ってもらった聖女服を完成させることができた。
「やった! ようやくできた! セルビスが結晶を繊維にして編み込めとかわからないこと言うから、すっごくしんどかった! でも、私頑張ったよルーちゃん!」
しんどい作業を終えた解放感のせいか喜びやらセルビスへの恨みやら、色々な感情がごちゃまぜになって爆発する。
とにかく、この苦労を共感してほしくて私はルーちゃんに抱き着いた。
「よく頑張りましたね、ソフィア様」
私の身体をしっかりと抱きしめて、ついでに頭まで撫でてくれるルーちゃん。
通常であれば立場が逆なのだが、聖女服を編み込む作業の疲れで今はどうでもよかった。
ルーちゃんの柔らかい胸の中に包まれて幸せだ。いい匂いもするし。
ああ、ルーちゃんの母性で溺れてしまう。
「ソフィア様、完成したのですから服を着てみてはいかがでしょうか?」
「うん、そうだね! 早速、着てみるよ!」
ルーちゃんの胸に埋まっているのも素晴らしいが、完成したのだから着てみたい。
少し名残惜しい気持ちがあったが私はルーちゃんから離れて聖女服を着てみることにした。
聖女服を着るに従って、今着ている見習い聖女服は脱いでしまう。
「……君たちとも長い付き合いだった」
思えば目覚めたからずっと共にしていた衣服だ。
こうやって服を改めることになると、なんだか寂しいものがある。
「大聖女なのに見習い聖女服が板についてきていましたからね」
「うん、昔に戻ったみたいで楽しかったよ」
たとえるなら、昔の学生服をもう一度着れていたような感覚だろうか。
コスプレイヤーでもない限り、いい年をした大人がやると大変痛い行為であるが、今のアタシは二十年前から年をとっていないのでセーブだろう……セーフだよね?
「とはいえ、今後も目立たないように活動するには持っておいて損はないでしょう」
「それもそうか! なら、今後も着れるね!」
確かにルーちゃんの言う通りだ。
聖女服は一着しか持っていないし、これが汚れたり破損してしまったらどうするのだ。
聖女服があるとはいえ、しっかりと見習い服も持っていた方がいいだろう。
てっきりもう見習い服は卒業とばかりに思っていたので、とてもホッとした。
安心した私は見習い服をササッと脱いで、新しい聖女服に袖を通す。
すると、ルーちゃんがとても感激したような表情で。
「ああ、ようやく昔のソフィア様が帰ってきました」
「ちょっと待ってルーちゃん。私は少し前から戻ってきていたよ?」
「偽装のためとはいえ、やっぱり見習い聖女服を着ている大聖女なんておかしいですよ」
えー? さっきは見習い服も持っていてもいいとか言いながら、本心ではそんなことを思っていたというのか。
……まあ、確かに大聖女が見習い聖女服を纏っているっておかしいんだけどね。
ルーちゃんの呆れた視線から逃れるように私は姿鏡の前に移動する。
すると、そこには一端の聖女と言われても問題ない聖女が写っていた。
以前と違うところといえば、結晶を編み込んだせいで生地が若干キラキラとして見えるくらいだろうか。銀の鱗粉をまぶしたかのようだ。
とはいっても、近くで見ないとわからない程度で派手に輝くことはないので安心だ。
「うんうん、服のサイズもピッタリ……ピッタリ?」
「ピッタリなのがいけないのですか?」
「いや、ここ最近は生活を引き締めたから、痩せて余裕ができると思ったから」
聖女服がピチピチになるといけないので、ここ最近はルーちゃんのトレーニングメニューに従い、不摂生を断って生活習慣を改善してきたつもりだ。
私としてはもう少し痩せていると思ったのだが。
「トレーニングをすればそれなりに筋肉もつきますから」
「それもそうだね」
脂肪がいくつか筋肉に変わっているのか。そのお陰で劇的に痩せたりはしなかったけど、身体は引き締まった。
まあ、急激な減量はリバウンドの元だと聞くし、少しずつ健康的に痩せていくのが一番だろう。
なんにせよ、醜態をさらすことなくきちんと聖女服が着られたので満足だ。
それにしてもやはり新しい聖女服はいい。自分だけのオーダーメイドでもあるので、その嬉しさときたら一際だ。
さすがに数多の聖女がいれど、聖力と魔力の結晶を編み込んだ聖女服などオンリーワンに違いない。
「服も完成したことだし、セルビスに連絡しようかな」
セルビスに感想など求めてはいないが、あんな男でもこの服の製作者だ。
結晶を編み込む技術にも興味があると言っていたし、製作者として完成形を見るのも権利の内だろう。
「かしこまりました。では、セルビス様にご連絡を――」
頷いて行動に移そうしたルーちゃんであるが、言葉が途中で止まる。
それは部屋の外から駆け寄ってくるような足音が聞こえてきたからだ。
教会の中は静粛にがモットーだ。厳しくそれを躾けられている教会関係者がそのようなことをすることはない。
例外とすれば、よほどの緊急事態なのだが何かあったのだろうか?
「ソフィア! いるか?」
怪訝に思っていると扉の外から響いてきた声は、こちらから連絡をしようとしたセルビス本人だ。あまりにもちょうどいいタイミングに私は驚く。
「入るぞ?」
「うん、いいよ」
なにやら急いでいるようなので、とりあえずセルビスは中に入れてあげる。
「どうしたのセルビス? まさかそんなに私の聖女服姿が見たかったの?」
「ん? ああ、完成したのだな。だが、今はそれはどうでもいい」
茶化して問いかけてみるも、セルビスはバッサリと切り捨てた。
女性が新しい服を着て、お披露目してるのにこの言葉ってどうよ?
別にセルビスだからいいんだけど。
「急いでいるみたいだけど何かあったの?」
本当は結晶を服に編み込むことの苦労を語ったり、衣服を作ってくれた礼をしっかいと言いたいのだが、セルビスの様子を見る限りそんな暇はなさそう。
研究棟に籠ってばかりのセルビスが自ら足を運んでくる用事というのが気になる。
「北方に遠征に出たランダンから救援要請が出た」
「えっ? それって?」
「ランダンの部隊が危険だ」
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