ソフィアの決意
「ソフィア、お主が目覚めたことは世界に公表するつもりはないのか?」
国王たちから礼を言われ、ちょっとした雑談をしている最中。
国王が急に本題ともいえるような言葉を投げかけてきた。
これには雑談をしてほんわかしていたルードヴィッヒやエリーゼの顔も真剣なものになる。
皆、私が大聖女として名乗りを上げるかどうか気になっていたのだろう。
私の中での評価はともかく、世間的な評価では私は世界を救った伝説の大聖女というのが評価だ。
私が大聖女として名乗りを上げるか、そうでないかで大きく動きが変わるのだろう。
傍に控えるルーちゃんからごくりと唾を呑み込むような音が聞こえた。
「今のところはありません。大聖女ソフィアは未だに瘴気を浄化中ということで私は見習い聖女、あるいは普通の聖女として自由に活動させていただければ幸いです」
「普通の聖女って、聖女はその辺に転がっているような存在ではないのだが。まあ、いい。公表するつもりはないということか」
セルビスにも似たようなことを突っ込まれたや。
ひとまず、それについては気にせず国王の言葉に私は同意するように頷いた。
「ソフィアからすれば、魔王との戦いを終えた目覚めたばかりの感覚だ。また縛り付けては可哀想であろう」
「そうですわね。なに世界を救ってくださったのですから」
旦那さんが私に求婚することを懸念しているのか、エリーゼが若干嬉しそうにルードヴィッヒの援護する。
そうそう。私は王族の奥さんになるつもりはないので援護して。
「命を賭して世界を守ってくれた相手にこれ以上を望むのは図々しいというものじゃな……わかった。ソフィアの意を汲んで公表はしないことにしよう」
「ありがとうございます」
ふう、ひとまずこれで大聖女ソフィアの目覚めは埋もれたといっていいだろう。私の平和な日常がこれからも送れるというわけだ。
「して、これからソフィアはどうするのじゃ?」
私がホッとしていると、国王様がまたもや問いかけてくる。
何やら嫌な気配。この返答によって私の今後の選択肢が大きく変わるような気がする。
それでも関係ない。この二十年後の世界に目覚めて、見て、感じたことを語るだけだ。
「魔王は討伐されたといっても世界は平和になったわけではありません。魔王の眷属は未だに残っており、魔王たちに汚染された土地はたくさん残っています。それらの浄化活動をしようかと思っています」
魔王がいなくなって確かに世界は平和になった。
しかし、クルトン村のように各地で瘴気持ちの魔物が出没することはあるし、まだまだ人が住むことのできない汚染区域がある。
私はそんな場所をなくして、本当の平和になった世界で暮らしたい。というか、一度は命を懸けてまで世界を救ったのだ。中途半端なところで止めるよりかは最後までやりきりたい。
目覚めてどうしてらいいかわからなかった私だけど、今日まで生きてきて色々な人と会話し、再会してそうしたいと思った。
それが私の第二の人生の目標だ。そこにはかつての仲間だけでなく新しい仲間もいる。
ルーちゃんに視線をやると、彼女は微笑みながらも頷いてくれた。
「世界を救うために身を捧げたというのに、まだ世界のために活動してくれるというのか……」
「まさか俺たちが讃えた大聖女に相応しき心だ」
私の意気込みを聞いて涙ぐむ国王とルードヴィッヒ。
大聖女とかいう大仰な名前をつけたのはあんたたちかい。
「いや、私はそんな献身的な心を持っているわけでは……あれ? 俯瞰的にみると国王様たちの言葉が正しい?」
一度は身を犠牲にして世界を救って、二十年越しに奇跡の生還を果たしても、まだ懲りずに活動すると言っているのだから。
「はい。そして、そんなソフィア様だからこそ、私は傍にいて支えたいんです」
「あ、ありがとう」
な、なんだかルーちゃんの私への評価がまた一段と上がったような気がする。
私はそんな立派な心を持った人じゃないんだけど……などとは言いづらい。
「しかし、一度は世界を救ってくれたのだ。休んでもいいのだぞ?」
ここでフェードアウトしてスローライフをおくるという選択肢も非常に魅力的であるが、それをやるわけにはいかない。
「いえ、仲間が世界の平和に向かって頑張っている以上、私だけ休んでいるわけにはいきませんから」
かつての仲間であるアーク、ランダン、セルビスだってやり方は違えど、世界の平和のために貢献している。
勇者パーティーの聖女だけ何もしないというのも嫌だしね。
「……そうか。お前は二十年前と本当に変わりないのだな」
毅然とした私の言葉を受けて、ルードヴィッヒはどこか眩しそうに微笑んだ。
私のこれからを聞いた国王やルードヴィッヒは満足したように頷き、非公式な対談はお開きとなった。
てっきりまたルードヴィッヒに求婚されると思ったけどされなかったや。
さすがに三十歳を過ぎて、エリーゼという綺麗な女性を筆頭に三人も奥さんがいるのだ、二十年前と変わらない子供のような私に求婚なんてしないよね。
◆
ソフィアが謁見室から去った後。
国王であるオストはため息を吐いて、呆れるような表情を浮かべた。
「……ルードヴィッヒ、お主ソフィアに見惚れ過ぎであろう。なんじゃ、最初のあの呆けた顔は」
「ちょっ、父上!?」
国王の言葉に息子であるルードヴィッヒは大いに慌てる。
なにせすぐ隣には王太子妃であるエリーゼがいるのだから。
しかし、オストとしても文句を言いたくもある。
速やかに会話を進めたかったというのに、息子であるルードヴィッヒが序盤使い物にならなかったせいで一人だけで会話を回すことになっていたのだから。
「確かに彼女は伝説の大聖女に相応しき容姿や品格を備えていました。ですが、謁見する前に言いましたよね? 今の俺はエリーゼたちのことしか見ていないと!」
「くっ、仕方ないだろう。まさか、想いを寄せていた当時の姿でいるとは思わなかったんだ!」
「へえ、若ければいいんですね。これだから男って人は……っ!」
「待ってくれ、エリーゼ!」
謁見室から飛び出していったエリーゼと、それを追いかけるルードヴィッヒ。
「ソフィアのような妃がいてくれれば、あいつももう少し落ち着いたのじゃろうか」
妃をコントロールできない不甲斐ない息子を見て、国王はため息をついた。
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