洗いっこ
ルーちゃんが着痩せするという衝撃的な事実が発覚したものの、私は気を取り直して浴場の扉を開ける。
浴室はとても広く中央には円形の大きな湯船があった。他に小さな湯船などはないが、たった一つの湯船がとても大きく、天井も高いために解放感があった。
「おおーっ!」
私の口から漏れた声が反響して響き渡る。
奥には女神セフィロト様の石像があり、抱えている壺からお湯が流れ出ている。
実に素晴らしい西洋風の湯屋だ。日本式も風情があっていいが、こういう感じもとてもいいと思う。
床は石材で造られており少しザラザラしている。恐らく滑り止めのためだろう。
「ソフィア様、身体を洗ってから湯船に浸かるのがルールです」
「わかった。すぐに洗っちゃおう!」
早く湯船に浸かりたくてしょうがない。
私とルーちゃんは速やかに奥にある洗い場へと移動する。
そこにシャワーはないがお湯を作り出す魔道具の管があり、そこから桶にお湯を入れて使う仕組みのようだ。
「あー、石鹸とかは置いてないんだ」
つい前世と同じようなイメージでいたために湯屋に石鹸はあるものだと思い込んでしまっていた。自分の石鹸なんて持ってきていない。
まさか湯屋にきて、満足に身体も洗えないというのだろうか。
「はい。ですが、きちんと持ってきていますのでご安心ください」
「さすがルーちゃん!」
ルーちゃんがタオルの下からひょっこりと乳白色の石鹸を取り出す。
一瞬絶望しかけていた私だが、ルーちゃんのナイスプレーで光を見出した。
せっかく湯屋にきたのに身体が洗えないとか悲しすぎるからね。
問題がないとわかった私は安心して椅子に腰かける。
「傍にあるボタンを押すと、管から桶へとお湯が注がれますよ」
「おー」
隣に腰かけたルーちゃんがお湯の使い方を説明してくれる。
出てくるお湯の量は決まっているようで、長押しすれば少し多めに出てくるみたい。
ひとまず、身体の汗や汚れを流すべく桶のお湯を身体にかける。
温かなお湯が身体を流れていく。ただそれだけで気持ちがいい。
一回では全身を流せるわけではないので、二回、三回、四回とお湯をかける。
あー、存分にお湯を使えるって最高だ。旅の最中ではまったくできなかった贅沢。
やっぱり、お湯で身体を拭ったり、水浴びするよりも断然いい。
「ソフィア様、髪を洗う時はこちらの石鹸をお使いください」
「石鹸で髪を洗うと傷んじゃうけど……あれ? さっき見せてくれた石鹸と違うね?」
ルーちゃんが差し出してきた石鹸は、さっきの乳白色のものとは違った緑色の固形石鹸だった。
「こちらは洗髪用の石鹸で通常の石鹸とは違い、髪を洗っても傷まないのです」
「へー! そんな便利なものができたんだ!」
どうやらこの石鹸なら髪を痛めることはないらしい。
二十年前にはそんな石鹸はなかった。便利なものが開発されたものだ。
「じゃあ、使ってみるね」
「どうぞ」
洗髪用の石鹸を手に取ると、柔らかいオリーブのような香りがした。
髪に優しいオイル成分なんかが含まれているのかもしれない。
スンスンと香りを堪能すると、お湯に少し溶かして手の中で泡立てる。
すると、手の中できめ細やかな泡が作成された。
この石鹸すごく泡立ちがいいや。ネットや丹念に水を混ぜる必要もなく、こんなにもフワフワの泡が作れるなんて楽でいいや。
十分に石鹸を泡立てることに成功すると、私はそのまま髪の毛を洗った。
フワフワの泡が髪や頭皮に浸透し、汚れが吸着しているような気がする。洗髪用だけあってか、自然に髪や頭皮に馴染んでいるようだ。
ちらりと横を見るとルーちゃんも同じように泡立てて髪の毛を洗っている。
括っていた髪を解いて丹念に洗っている様子が色っぽいや。
十分に髪を洗うことができると、私は一気にお湯で泡を洗い流す。
すると、頭がとてもスッキリとした。洗う前よりも髪の毛がサラッとしている。
前世であったシャンプーとなんら変わりない。本当に洗髪用の石鹸だ。
「すごい! キシキシした感じがまったくしないや。本当に髪に優しい石鹸なんだね」
「お気に召したようでなによりです」
私が喜ぶ様子を見届けると、ルーちゃんは嬉しそうに笑った。
私は髪の毛が短くなったので洗うのも早いが、髪の長いルーちゃんは少し時間がかかっている。
こういう時も髪を切って良かったなとしみじみと思えるものだ。
そういえば、昔は水浴びの時に身体を洗ってあげていたなぁ。
不意にルーちゃんとのそんな思い出が蘇った。
ルーちゃんはようやく髪を洗い終えたのか、桶に手を伸ばそうといていた。
「はーい、お湯をかけてあげるから目を瞑っていてねー」
「え? ソフィア様?」
「ザブーン」
戸惑っていたルーちゃんであるが、とりあえず覚悟を決めたのか目を瞑ってくれたのでお湯をかけてあげる。
ルーちゃんの青い髪がお湯で滴る。いつもより髪色が強く見え、それ肌に張り付いて蠱惑的だ。
「はい、もう一回―」
楽しくなった私はそのままバシャバシャとお湯を入れてはルーちゃんの髪を洗ってあげた。
「ちゃんと泡はとれた?」
「はい、お陰様で。ですが、ソフィア様。私はもう昔のような子供ではないのですが……」
「ごめんごめん。つい昔を思い出しちゃって。ねえ、せっかくだから背中の洗いっこしない? これなら子供っぽくないしいいよね?」
「……それならいいでしょう」
そのように言うと、ルーちゃんは少し考えてから頷いた。
どうやらルーちゃん的には子供扱いしていない理由なら付き合ってくれるみたいだ。攻略法を一つ見つけた気分。
「では、私が先に洗ってさしあげます」
「お願いします!」
椅子を移動させて私の後ろに陣取るルーちゃん。
ボディ用石鹸でタオルを泡立てて、私の背中を丁寧に洗い始めた。
「痛かったら言ってくださいね」
「大丈夫ちょうどいいよ。あ、ああ……いい……」
背中を洗ってもらえるのがとても心地よく、私の口から吐息が漏れる。
洗髪用石鹸とはまた違った甘い香りだ。
「ソフィア様、ちょっと声がおじさん臭いですよ」
吐息と思っているのは私だけで、どうやら第三者からはおじさん臭い呻きに聞こえているようだった。乙女として大変よろしくないけど、抗えない心地良さに晒されている。
「仕方がないよ。ルーちゃんのテクニックがすごいから」
「妙な言い方はやめてください」
えー? 妙な言い方ってなにー? って突っ込みたいところであったが、さすがにそれはセクハラっぽいのでやめておいた。
そういう言葉を牽制するように背中がゴシゴシと強く擦られている。
セクハラのような発言をしたら背中が削れるかもしれないから。
「痒いところなどありませんか?」
「うん、大丈夫。次は私がやってあげるね」
私の背中が洗い終わったので交代だ。
今度は私が後ろに回って、ルーちゃんのタオルを泡立てて背中を洗う……前にスッと指で背中をなぞってみる。
「ひゃっ!?」
おー、いつもは凛々しいルーちゃんから可愛らしい悲鳴が出た。
「なっ、なにするんですか!?」
「いや、ルーちゃんの背中が綺麗でつい……」
「ついじゃありません! きちんと洗ってください!」
「はーい」
ルーちゃんに怒られてしまったので私は素直に背中を洗ってあげる。
私と違って身長が高いルーちゃんの背中はとても大きい。それなのに身体のラインはしっかりと丸みがあって、引っ込むところは引っ込んでいる。無駄な脂肪はついていない。
後ろから見ただけでもルーちゃんのスタイルの良さがわかる。
背中が大きいとこちらも洗い甲斐もあるものだ。
「ソフィア様、もう少し力を込めてもらえますか?」
「あ、うん。わかった。このくらいでいい?」
「はい、ちょうどいいです」
力を込めると、ルーちゃんは気持ち良さそうに瞳を細めた。
割と力を入れないとルーちゃんとしては物足りないようだ。ちょっと力が必要で疲れるけど、日ごろお世話になっているルーちゃんを労うためにも頑張ることにした。
「ありがとうございます。もう十分ですよ」
「はーい」
しばらくゴシゴシと洗っていると十分だと判断されて終了となる。
タオルを渡してホッと息をつくと、ルーちゃんは自分のタオルを使って背中以外の身体を洗い出す。
後ろからでもルーちゃんのふくよかな果実が見えている。ルーちゃんの動きに合わせて揺れる果実に触れてみたい。
自分にもあるけど悲しいことに私の膨らみは小さなものだから。
あの柔らかさに触れたい。
「あー、手が滑っ――いたたたたたっ!?」
「滑らないように脇で抑えてあげますね」
後ろから膨らみに触れようと手を伸ばすと、ルーちゃんにガッチリと脇でホールドされた。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。




