王都に到着
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翌朝。久し振りに布団で眠り、英気を養った私とルーちゃんはクルトン村を出ることにした。
「では、教会の者が到着しましたら、こちらの報告書を渡してください」
ルーちゃんが教会の紋章が入った手紙を村長に渡す。
そこにはクルトン村で発生した瘴気についてのことがまとめられている。アッシュウルフが五体瘴気持ちになっていたこと。私たちが腐敗した場所を浄化したことなど。
後からやってきた教会の者がしっかりと引き継げるようになっている。
私はそんなことすっかりと忘れて先に眠っていたけど、さすができる聖騎士は一味違う。
「かしこまりました。それと見習い聖女様がおっしゃったように温かくお出迎えさせていただきます」
「よろしくお願いしますね」
村長は手紙を受け取ると、うやうやしく頭を下げてくれた。
後ろにはリュートをはじめとするクルトン村の村人たちがたくさん並んでいる。
私たちが出立すると聞いて見送りにきてくれたようだ。
「ありがとうございました! このご恩は忘れません!」
その中にはリュートの友人や、瘴気に侵されていた怪我人、その家族もおり深く礼をしていた。
病み上がりなので少し心配だったが、すっかりと歩けるようになっているみたいだ。
本当は見送りなんてしないで安静にしていてほしい気持ちもあるが、彼らの感謝の気持ちに応えるために笑顔で手を振ることにした。
「それでは王都に向かいましょうか」
「うん」
キュロス馬車に乗り込むとルーちゃんが縄を操作して、キューとロスカを歩かせる。
馬車には村長たちのご厚意で多くの物資が積み込まれており、アブレシアを出た時よりも荷物が多くなっている。
それでもキューとロスカは軽やかに足を進めた。
キューとロスカが速度を上げると、クルトン村がドンドンと小さくなっていく。
村長やリュートたちは私たちの馬車が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
たった一日しか滞在していない村だったが、出立する時は寂しいものだ。
「それにしても瘴気が発生した原因はわからなかったね」
「はい、それだけが心残りですね」
脅威となるものを排除することに成功したが、根本的な解決には至っていない。
状況が状況だったがために最後まで関われなかったのが少しだけ残念だ。
とはいえ、私たちが気にしても仕方がないし、だからといってクルトン村に滞在しても教会の人の邪魔になるだけだ。
私たちには私たちの目的があるわけだし、クルトン村を出発したのは正しいのだろう。
これ以上考えたら胸の中のモヤモヤが大きくなりそうだ。この事はあまり考えないようにしよう。
私は気晴らしに空を見上げながら、隣に座っているルーちゃんに話しかける。
「ここから王都まであとどれくらい?」
「順調にいけば三日といったところです」
「三日かぁ。それまでなにしていよっかな……」
前世のようにネットやスマフォがあれば、時間を潰せるのであるがこの世界にそんな便利な物はない。
景色を見るのもいい加減に飽きてきた。街や村ならともかく、風景はそんなに変わりがないしね。
「では、聖魔法の訓練をしてはどうでしょうか?」
そんな風にぼやいているとルーちゃんからマジレスが返ってきてしまった。
さすがは真面目なだけあって提案することも真面目だ。
「……あー、うーん。それもそうだね」
聖力や魔力が強くなり、私の聖魔法が制御できていないのは事実だ。
それでルーちゃんや周りの人に迷惑をかけていたので、きちんと制御できるようにならないといけないな。
「わかった。それじゃあ制御訓練としてキューとロスカに付与をしてみるよ。『瞬足の願い』」
「「クエエエエエエエエッ!!」」
訓練として付与をしてみると、キューとロスカが興奮したように羽を広げて爆走し出した。
「うわわっ!」
慣性で身体が前に吹っ飛びそうになったが、ルーちゃんが片手で私の身体を支えてくれた。
なにこの聖騎士、頼もしすぎるんだけど。
「ルーちゃん、ありがとう!」
「ソフィア様、呑気に礼を言っていないで付与を弱めてください! 速度が出過ぎてこのままでは車輪が壊れてしまいます!」
「わわ、それヤバイじゃん! 頑張って緩める!」
◆
「あ! 王都が見えた!」
クルトン村を出発した二日後。私とルーちゃんはドンドルマ王国の首都である王都ドグラスの傍にやってきた。
前方には大きな城壁が王都をぐるりと囲むように並んでいる。
アブレシアも中々に防備の整った街であるが、やはり王都の城壁には敵わない。
全体的な大きさが桁違いだ。
高くそびえ立つ城壁には王国が積み上げてきた歴史と誇りのようなものを感じる。
「予想よりも半日早く着きましたね」
「私の付与のお陰かな?」
本来ならクルトン村から三日はかかる道のりだ。それなのに二日と半日で着くことができたのは私の付与のお陰に違いない。
「ソフィア様が御者席から吹っ飛ばないか、車輪が壊れやしないかヒヤヒヤしましたけど……」
「大丈夫。少しずつ調節に慣れてきたはずだから!」
私だってバカではない。この三日間、キューとロスカに付与をし続けて少しずつ加減というものを学んできたのだ。
きっと次にルーちゃんに付与をする時も上手くやれる気がする。
「車輪に歪みが見つかったらどうします?」
「そ、その時は素直に謝る」
付与によって普段よりも速く走れることが嬉しかったのか、キューとロスカが随分と爆走してしまった。その被害を一番に受けたのはアークが手配してくれた馬車だ。
かなり無茶をしてしまったので車輪に歪みやヒビがあるかもしれない。
王都についたら専門の人にチェックしてもらおう。
もし、壊れていたらお金を払って丈夫な車輪に取り換えてもらう。
アークから貰った支度金を早速浪費しそうな気がするが、アブレシアに戻る時にも馬車は使うので仕方がない出費だよね。
「にしても、二十年前よりも城壁が綺麗になってるよね?」
「少し前に城壁に綻びが見つかり修繕作業を行いましたから」
違和感があるなと思ったけど、そういうことだったのか。
城壁は私が生まれるよりも遥か前に造られたものだ。そりゃ、年月が経過すればどこかしらに綻びが出るものだよね。
などと納得していると城門にたどり着いた。
全体像が見えていた城壁は既に見上げても頂上が見えないくらいになっている。
城門の前には騎士が立っており、王都に入ろうとしている馬車やキュロス馬車、旅人を順番に検問をしているようだ。
私たちはアークの紹介状を持っているために、そこに並ぶことなくスイスイと横を通っていく。
進んでいくと私たちの馬車に騎士が寄ってきた。
「セルティネスタ家の紹介状です」
「確認する」
どこの家? と一瞬思ったがアークの紹介状を受け取ったのはルーちゃんだ。
多分、セルティネスタというのがアークの家名を示すものなのだろう。
自己紹介の時は名前しか名乗られていなかったので気付かなかった。
ルーちゃんが書状を見せると、騎士はそれに軽く目を通して、積み荷を軽くチェックする。
「通っていただいて結構です」
「ご苦労様です」
本来であれば、どこからやってきたのか、王都にやってきた目的などの細かい質問と入念な検査をされるのであるが紹介状を持っていれば免除される。
それにはしっかりと身分を保証してくれる後ろ盾がいるからだ。
その代わり、それを利用して悪さをしようものなら当事者だけでなく、後ろ盾になった者も含めて厳しい罰が与えられる。
まあ、そんなことをするつもりもないしアークに迷惑はかけたくないので絶対しないけどね。
城門くぐると、視線の先にはいくつもの建物と石畳が敷き詰められた綺麗な道が見える。
そこには多くの人々が歩いており、人間、エルフ、獣人と入り乱れている。
アブレシアとは比較にならない建物の大きさと人の賑わい。
視線の遥か先に王ある小高い丘には王族の住まうドンドルマ城が見えている。
立ち並ぶ店は若干記憶にあるものと違うが、概ね私が過ごしていた時のものと変わらない。
「なんだか懐かしいようなそうでないような不思議な気分」
世間的には二十年経っているが、私としてはちょっと前程度。
自分の抱く感覚としてはそれほど懐かしいとは感じないはずだが、不思議と懐かしく感じた。
「我々としては、こちらの方が思い出深いですからね」
そう、私とルーちゃんは王都にある教会で時間を共にした。
私はそこで聖女見習いとして修業を積んで、聖女になった。
アブレシアよりも断然こちらで過ごした時間の方が長く、こちらの方が故郷といえるだろう。
最後に王都にいたのは魔王討伐の旅に赴く前。
瘴気を抑える覚悟を決めた時、もう二度と戻れない場所と思っていた。
しかし、私はこうして戻ってきている。それがすごく嬉しい。
戻ってきたいと思っていた場所に戻ることができたのだから。
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