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クルトン村


「あっ、村が見えてきた!」


 アブレシアの街を出てキュロス馬車で進むこと四日目の昼過ぎ。


 私たちの前方には小さな村が見えていた。


「クルトン村ですね。物資の補充をしたいので今日はあそこに寄って泊めていただきましょうか」


「賛成!」


 旅も三日目。新鮮な食材は既に使い切っており、野宿で疲労も溜まってきた頃合いだ。


 まだ時刻は昼過ぎで時間はたくさんあるのだが、無理に進んで体調を崩しては元も子もない。


 ルーちゃんによると、ここを逃すと次の村や街まではかなり距離があるそうなので、ここで補給することは絶対だ。


 私もゆっくりと家で眠って英気を養いたかったので、ルーちゃんの意見には即座に賛成した。


「そのお姿はもしかすると、教会の聖女見習い様と聖騎士様ですか!?」


 キューとロスカにそのまま進んでもらい村の入り口にやってくると、見張りに立っていた村人が慌てて駆け寄ってきた。


 その表情はかなり必死だ。もしかすると、村に怪我人がいたりするのだろうか。


「そうです。私たちアブレシアの教会に所属する聖騎士ルミナリエ。こちらにいらっしゃるのが大聖女――」


「見習い聖女のソフィアです!」


 ルーちゃんがいきなりとんでもないことを言おうとしたので被せる。


「ルーちゃん! 大聖女なんて言ったら村の人も困るよ! 今後も私のことは見習い聖女でいいから!」


「す、すみません」


 私が小声でそのように注意すると、ルーちゃんはしょんぼりとしながら謝る。


 まあ、私だって公式の場でルーちゃん呼びしちゃっているしお相子だ。


 二十年前に比べて私の名前は予想以上に大きくなっている。


 大聖女が目覚めたなどと知れ渡れば色々と騒ぎになるだろうし、必要に迫られない限り大聖女などと名乗る必要はない。


 大体、まだ目覚めたなどと公表されていないし、実に纏っているのは見習い聖女服だ。大聖女などといっても、身分を偽っているようにしか思えないだろうな。


 名前は特に偽っていないが私が大聖女になってからは、子供にソフィアと名付ける親が急増したそうで、今ではソフィアという名前の子供はたくさんいるようだ。


 偽名を使う必要がなくてラッキーではあるが、私のせいでソフィアと名付けられた子供たちが少しだけ不憫であると思う。


 でも、よく考えると聖女見習いのソフィアって一番痛い子なのかもしれない。どう考えても大聖女に憧れて聖女を目指してますって感じだ。


 深く考えると沼にハマるような気がしたのでこれ以上考えるのはやめておこう。


「と、とにかく、聖女見習い様と聖騎士様で合っているんですよね?」


「はい、そうです。何やら尋常ではない表情をしていますが、この村で何かあったのですか?」


「妙な魔物に襲われた怪我人がいるんです! 聖女見習い様の魔法で怪我を治してくれないでしょうか?」


 妙な魔物というキーワードが気になるが、この村に怪我人がいて村人が助けを求めることは確かなようだ。


 隣に座っているルーちゃんに視線をやると、肯定するように頷いた。


 元々、物資の補充と休憩のために立ち寄ると決めていた村だ。面倒ごとがあるからといって回れ右をできるはずもないし、それができる性格をしていない。


 困っている人や怪我人がいたら助けたい。


「ひとまず、怪我人のところに行きましょう。こちらに乗って案内してください」


「ありがとうございます!」


 見張りの村人を御者席に乗せて、怪我人のいるところに案内してもらう。


 村人に案内に従って馬車を走らせると、村の中央部にある大きな民家にたどり着いた。


「ここです! この中にいます!」


 村人に付いていって中に入ると、奥の部屋にはベッドで横になっている怪我人がいた。


 傍には怪我人の家族だろうか。何人かの村人が看護をしていた。


 私たちがやってくると村人たちの視線が集まる。


「リュート? そのお方たちは?」


 その中で少しぽっちゃりとした体形のおじさんが尋ねてきた。


 どうやら私たちを案内してくれた村人はリュートというらしい。


「村長! アブレシアの街からやってきてくださった教会の見習い聖女様と聖騎士様です!」


「むむ? 嬉しいことだが救援の手紙を出したのは昨日だ。いくらなんでも早すぎるような?」


 怪我の治療というのは、聖女や聖女見習いによる治癒魔法を施すのが基本的だ。


 だが、聖女や聖女見習いの数は限られており、どこにでもいるわけではない。


 大きな街や村などであれば教会があり、聖女か聖女見習いが常駐しているところもあるが、クルトン村のような小さな村では常駐することはまずない。


 治癒魔法を施してもらうために最寄りに街にある教会に救援要請を出し、治癒魔法を施しにきてもらうのが常だ。


 しかし、聖女や聖女見習いを呼び寄せて治癒魔法を施しをもらうには結構な金額が必要になる。それ故に、薬草などの薬で様子見をすることが多い。


 クルトン村の人たちもそうやっていたが、自分たちの手には負えないと思ったのだろう。


 その迷いの時間で助からない命も多いので、私たちが通りかかったのは本当に幸運だ。


「私たちは王都への道のりの途中でしたので、偶然立ち寄っただけですよ」


 誤解してもらっては困るのでしっかりと事情を説明しておく。


「なんという幸運! こうして見習い聖女様と聖騎士様がきてくださったのも女神セフィロト様のお導きなのでしょう。ああ、感謝を!」


 確かに幸運だけど、今はそういったことよりも患者を診てあげたい。


「あ、あの! 怪我人の治癒はできますか?」


「少々お待ちを。今、診察させていただきますね」


 リュートが急かしてくれたので、私はこれ幸いと会話を切り上げて診察に移る。


 私は近くで横になっている村人の傍に寄って、怪我の状態を診る。


「いくら薬を塗っても傷が塞がらず、ずっと苦しそうなんです」


「これは……」


 リュートがそのように傍で言い、私が包帯を取ってみると怪我人は瘴気に蝕まれていた。


 それに気付いた私とルーちゃんは思わず息を呑む。


 右腕を鋭い爪で引っかかれたのか切り傷が走っている。


 そこから瘴気が入り込み、怪我人の身体を蝕んでいるよう。


 怪我のレベルこそ大したことはないが瘴気に蝕まれているせいか苦しそうだ。


「どうですか?」


 診察している私にリュートが必死になって尋ねてくる。


「瘴気に蝕まれています」


「瘴気って、あの……」


「邪神の眷属がばら撒く負の力です。聖魔法による浄化と治癒を施さなければ傷は癒えません」


 そう、これが瘴気の厄介なところだ。


 たとえ、怪我が小さくとも瘴気を払わなければ身体を蝕み続ける。薬や治癒を施そうとも、根本的な原因となる瘴気を浄化しないと傷口は塞がらず意味がない。


 そこらの魔物が宿している力じゃないけど、今はそれを考えるよりも目の前の怪我人と向き合うことだけを考えよう。


「仲のいい友人なんです! お願いします見習い聖女様! コイツを助けてやってください! お金なら何とかして払います!」


 友人のためとはいえ、中々このような台詞を言えるものではない。


 必死になっているのも納得だ。それと同時に友人にここまで必死になれるリュートに好感を持てた。


「安心してください。リュートさんのご友人は私が治癒してみせます」


「ほ、本当ですか!?」


 私がそのように言いきると、リュートが表情を明るくする。


 この程度の瘴気なら二十年前に何度も治癒してきた。


 魔王の瘴気に比べれば可愛いものだよ。


「『キュアオール』『ヒール』」


 リュートには少し離れてもらい、私は精神を統一して聖魔法の浄化を発動。先に瘴気を浄化してから治癒を発動してあげると、傷口は綺麗さっぱりなくなる。


 瘴気のせいで苦しんでいた怪我人の表情も柔らかいものになった。


「これで怪我は治りましたよ」


「ありがとうございます! あ、あの、できれば他の村の人も……」


「任せてください。他の人たちも治癒します」


 私がそう言うと、周りで窺うように見ていた村人たちがホッとした表情を浮かべた。






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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[気になる点] >しかし、聖女や聖女見習いを呼び寄せて治癒魔法を施しをもらうには結構な金額が必要になる その金額の支払先はどこになるのだろう? そして通りがかりの主人公がその辺のことをろくに確認せずに…
[気になる点] もうちょっと神様に感謝したほうがよいかな。聖女の上位が神様なんだから。 ってまぁ、変な事書いてすみません。
[一言] 身分を隠してあくまで『見習い聖女』として活動するのであれば正規の金額をキチンと請求しないと問題になりますよ〜 なんとなく無料で終わらせる気がしたので書きましたが『見習い』ごときが無料で行った…
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