大聖女服を作るために
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アークの屋敷に泊まった私は、窓からの日差しで目を覚ました。
「ソフィア様、入ってもよろしいでしょうか?」
ふかふかのベッドから身体を起こすと、ちょうどルーちゃんが寝室の扉をノックしてきた。
まさか、私が起きるまで扉の前で待機していたとか? さすがにそれはないよね? 思わずそう疑ってしまうほどのタイミングの良さだった。
「あ、うん。いいよー」
起きたばかりで若干ロレツが回っていない声で返事すると、ルーちゃんが部屋に入ってくる。
「おはようございます、ソフィア様」
「おはよう、ルーちゃん」
「既に朝食の準備は整っているようで、いつでも召し上がれる状態だそうです」
「あ、そうなの? だったら、急がないとだね」
どうやら朝食の準備は整っているようだ。
何となく私が一番お寝坊さんな気がするので、私はモゾモゾとベッドから抜け出す。
寝間着をササッと脱いで、見習い聖女服を身に纏うと着替えは終了。
「よし、後は顔を洗うだけ」
「お待ちください、寝癖がついてますよ」
ルーちゃんにそう言われて、寝室にある三面鏡を見てみると僅かに髪が跳ねている。
「……うん、これくらいなら問題ないよ」
「問題あります。整えますのでちょっとそこに座ってください」
「はーい」
ルーちゃんが整えてくれると言ったので、とりあえず素直に従っておく。
三面鏡の前にある椅子に腰かけると、ルーちゃんが丁寧に櫛で髪を梳き始めた。
「うーん、長い時に比べると寝癖も小さい気がするんだけどなぁ」
「髪を短くしたからこそ、小さな寝癖が目立つようになったんですよ」
むむ、そうなると髪をバッサリと切ってしまったのは失敗だったか? 髪が長い頃であれば、この程度の寝癖は誤魔化すことができた。
しかし、今はそれが許されない。でも、切らないと前みたいに大聖女だとか騒がれる可能性もあったので仕方がないか。
そんなことよりも今は髪を梳いてもらうのが気持ちいい。
昔は教会にいた孤児や見習い聖女の子たちにやってあげる側だったけど、やってもらうとこんなにもいいんだ。
子供たちがせがんできた気持ちが今になってわかった気がする。
「ソフィア様は大聖女なのですから、見た目にはしっかりと気を遣っていただかないと」
「うえー、ルーちゃんが教会のお偉いさんみたいなこと言うー。大体、見習い聖女服を着てるのに大聖女だからって言われても」
「……それもそうですね。いつまでも見習い服では格好がつきませんし、これから王都に行きましょうか」
「え? もう?」
「いつまでも見習い聖女服のままでは、私と一緒の時に違和感を抱かれますから」
「ああ、それもそうだね」
通常、見習い聖女一人に聖騎士の護衛がつくことはない。
聖魔法を使いこなし、武の才能まで持ち合わせている者はほんの一握りだからだ。
聖女の護衛としても不足している状態なのに、見習いにまで付くような余裕はさすがにない。
見習い聖女という身分になっている私に聖騎士であるルーちゃんが護衛についているのはおかしなことなのだ。
現在はアークやエクレール、ルーちゃんが便宜を図ってくれているので問題にはなっていないが、いずれは疑問に思う者も出てくるだろう。
何も知らない者にとって、私は見習い聖女の分際で聖騎士を護衛につけさせている鼻持ちならない奴ということになってしまう。
余計な軋轢や騒ぎを起こさないためにも、早めに聖女服を作っておく必要がある。
「それにソフィア様の大聖女服を見たいです」
ズルい。そんな風に言われると、私もこれ以上面倒くさがることなんてできないじゃないか。
「……わかった。それじゃあ、王都に行こうか。というか、シレッと大聖女服に格上げされていない?」
少し前まで普通に聖女服って言ってくれていた気がする。
「ソフィア様が名乗るつもりはなくても、私たちにとっては大聖女ですから」
私のそんな突っ込みに対してルーちゃんは自慢げな笑みで答えるのであった。
◆
「もう王都に行くのかい!?」
「「ソフィア様、もう行ってしまわれるのですか!?」」
朝食を食べ終わって、王都に向かうことを告げるとアークとアメリアとグレアムがすごく残念そうな声を上げた。
子供たちのその言葉は予想していたけど、まさかアークまでそのように取り乱すとは想定外だ。
「うん、いつまでも見習い聖女服のままじゃ不便だからね。アークたちにも迷惑をかけることになるし」
「別に僕は迷惑だなんて!」
「あなた、落ち着いてください。ソフィアさんがおっしゃっているのは、そういう意味じゃありませんよ」
「あ、ああ。そうだな、取り乱してすまない」
感情的になったアークを妻であるリアスが宥める。
すると、すぐにアークは落ち着きを取り戻すことができた。
そんなやり取りだけで夫婦の絆を感じられるようで少し羨ましい。
「いつどんな危険がやってくるかわからないし、ソフィアの装備を整えるのも重要だからね」
「うん、それに王都の教会やセルビスやランダンのことも気になるんだ。久し振りに会えたのにごめんね」
「いや、気にしないさ。もうこれからはいつでも会えるんだから」
「うん!」
そうだ。もう私たちはいつでも会って話すことができる。
前のように私が結晶の中で浄化し続けることはないのだから。
「王都に行くなら僕が馬車を手配してあげよう」
「ええ? 忙しいのにそこまでしてもらう訳には……」
「こっちは命と世界を救ってもらっているんだ。これくらい世話を焼かせてくれ」
なんかそんな風に真正面から言われると照れる。
リアスもアメリアもグレアムもその言葉が当然のように頷いて、遠慮はしないでとばかりの視線。
「それじゃあ、アークの厚意に甘えるよ」
「そうしてくれ。それとスムーズにセルビスに会えるように書状を書いておく」
「ありがとう」
これ以上、遠慮することはかえって失礼になるので、私は素直に厚意を受け取ることにした。アークは満足そうに頷く。
「護衛に関しては――」
「私がしっかりと付いていきますので問題ありません」
「そうだね。君たち二人なら万が一もないだろう」
張り切って述べたルーちゃんの言葉にアークは苦笑い。
ヒーラーとはいえ、私は勇者パーティーに所属するくらいだ。護身術の心得はある。
それに聖騎士であるルーちゃんもいるのだ。
そこら辺の魔物や野盗が群れようとも問題ない。
予定が決まるとアークは早速馬車を手配して、書状をしたためてくれた。
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