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隣国の王女

100話突破!


「リーナ様、お久しぶりです」


「相変わらず元気みたいね」


「おう、ルミナリエにサレンも久し振りだな!」


 私の頬をこねながらルーちゃんやサレンとも再会の挨拶をこなすリーナ。


「リーナ、久し振りに会えたのは嬉しいけど、重いからそろそろ退いてー」


「ああん? 二十年ぶりの再会なんだ。少しくらい我慢しろ」


 いや、もう十分に我慢したはずなんだけど。頬をこねられ過ぎて、餅みたいになっちゃいそう。


「ちょっとリーナ! 先に王城に向かう予定でしょ! なんで先に教会に入っちゃうの!?」


 再びされるがままになっていると、リーナの後ろから別の女性がやってきた。


 こちらはリーナと違って聖女服は着ていないが、格式高いドレスを見に纏っている。


 明らかにお偉い人だ。


「だってよ、教会本部から懐かしい匂いがしたんだから仕方ねえだろ」


「だからって使節団の一員のあなたが、予定をすっ飛ばして教会本部に飛び込んじゃダメじゃない」


「まあ、細けえことはいいだろ? それより、あたしの思った通りコイツがいたぜ!」


 リーナに乗っかられたまま紹介をされる私。


 頬をこねられたままなので、きっと顔は酷いことになっているだろう。


「……えっと、顔がすごいことになってて誰かわからないのだけど?」


「お、そうか?」


 ここでようやくリーナが手を離し、ようやく私の上から退いてくれる。


 立ち上がって佇まいを正すと、目の前の高貴な女性が驚きの表情を浮かべる。


「――ッ!! 大聖女ソフィア様! 本当にリーナの予想通り目覚めて……ッ!」


 動揺したが咄嗟に声を潜めて呟く女性。


 年齢は二十代の半ばだろうか。紫色の髪を編み込んでおり、とても綺麗な方だ。


 お相手は私のことを知っているようだが、残念ながら私は相手のことを知らない。


 なんとか思い出そうと記憶を探っているが、まったくもって思い出せない。


 申し訳なく思いながら新しくやってきた女性に尋ねる。


「えっと、すみません。どちら様でしょう?」


「申し遅れました。わたくし、クロイツ王国の第二王女のラスティアラ=クロイツといいます。この度はクロイツ王国の使節団の一員として、ドンドルマ王国にやって参りました」


 わー! やっちゃった! 隣国の王族の人だ!


「あ、えっとソフィアです。存じ上げなくて申し訳ありません」


「いえ、仕方のないことです。二十年前の式典で私がソフィア様を一方的に眺めて知っただけでご挨拶はしていなかったですから」


「そうでしたか」


 よかった。それならギリギリ失礼にはならないかもしれない。


 さすがに王族の方とはいえ、挨拶もしていない子供のことを把握しておけというのは無茶だ。


 エクレールにそんなことを言おうものなら、名前くらいは把握しておけと怒られるかもしれないけど。


「やっぱり、急な訪問の理由の一つは、ソフィアがいるかどうか確かめるのも目的だったのね?」


「おう! そうだ!」


 サレンの問いかけに、リーナが隠す様子もなく頷いた。


 それを見てラスティアラが頭が痛そうにした。


 一応は秘密だったみたい。


「急にウルガリンを奪還してみせたり、街をすっぽりと覆うような馬鹿デカい結界が張られていたり不可解なことが多過ぎるのよ。土地だって汚染されていたはずなのに、もう普通に作物だって育てて

いるし」


「こんなことできるのソフィア以外に思いつかねえしな!」


 ため息を吐きながらのラスティアラと何故か誇らしげなリーナ。


 メアリーゼが私のことは伏せて報告してくれたが、やはり限度というものがあったらしい。


 瘴気で汚染された土地は、浄化したからといってすぐに活用できるわけじゃない。


 普通は時間と労力をかけて少しずつ復活させるものだけど、私の聖魔法なら一瞬で復活する上に、普通の土地よりも生命力が溢れているらしい。


 私が浄化した土地を念入りに調べたサレンやアークか同じような報告が上がっていた。


「なあ、ソフィア。お前が目覚めてるってことは、魔王の瘴気は浄化されたんだよな?」


「本当はメアリーゼ大司教に状況を尋ねるつもりだったけど、先にそれだけでも教えてくれるかしら?」


「うん、無事に浄化できたよ」


 真剣な表情で尋ねてくるリーナとラスティアラに、私はハッキリと答えた。


「ははっ、さすがはソフィアだな! でも、二十年は時間かけ過ぎだバーカ」


「あはは、ごめんねー」


 腕を回してウリウリと頭を小突いてくるリーナ。


 言葉とは裏腹に優しい表情と声音から、彼女なりに心配してくれたのがよくわかり照れ臭い。


「それを聞けて安心したわ」


 ホッと安心したように胸を撫でおろすラスティアラ。


 その代わり魔神が出現したという凶報があるのだけど、それはここで言うべき話ではないだろう。きっと王様やメアリーゼがいるような公式の場で話し合われるだろうし。


「少し話し過ぎたわね。リーナ、急いで王城に向かうわよ」


「あたしはいいや。このままソフィアと一緒にいる。二十年ぶりに会えたんだし」


「はい? あなたは使節団の護衛でしょ!?」


「護衛ならあたし以外にもたくさんいるだろ。もうドンドルマに入ってんだし、あたしがいても意味ねえだろ。それに王城とかって退屈で嫌いだ」


 色々と言っているが、リーナの言いたいことは最後の一言に集約されている気がする。


「はぁ、もうしょうがないわね。好きにしなさい」


「ありがとな、ラスティ!」


 諦めたように許可するラスティアラ。


 王族が相手でも自由を貫き通す胆力。勿論、二人の間に信頼があってこそだろうけど、二十年が経過しようとリーナの自由さは変わっていないみたいだ。


「立ち話もなんですし、どこか移動しましょうか」


「そうだね。随分と注目されているようだし」


 リーナは有名なことは勿論、使節団の人が入ってきたことでこちらを注視している人たちがいる。


 人気のいない端っこだったけど、あれだけ騒げば目立つのは当然だよね。


「屋敷に戻りますか」


「そうだね」


 ルーちゃんの提案に私は頷く。


 そこが一番ゆっくりできて色々な話ができるし。


「おっ、屋敷持ってるのか! そっちに案内してくれよ!」


 リーナにも不満はないみたいなので私たちは速やかに移動することにした。




 ●




 リーナを連れて屋敷にやってくるとリーナが感嘆の声を漏らした。


「へえ、中々いいところに住んでるな」


「サレンに良い物件を紹介してもらったんだ」


 王都の富裕層が多く住んでいる区画の屋敷だけあって、うちの屋敷はとても綺麗で立派だ。


 中庭はとても広く綺麗な芝が生えている。


 エステルが頻繁にお手入れをしてくれているからか、外から見ても美しい――って、ああ。エステルのことを先に言っておかないと。


 間違えてリーナが攻撃でもしてしまったらエステルが大変なことになってしまう。


「あのリーナ。うちで雇っているメイドさんはレイスだけど、とってもいいアンデッドで……」


「わかった。攻撃したりしないぜ」


「へ? あ、そう?」


 あまりにも物分かりがいいリーナに、打ち明けたこちらが拍子抜けしてしまう。


「ソフィアとルミナリエが傍に置いているんだ。悪い奴じゃないんだろ?」


「うん!」


「なら、あたしは気にしない」


 さっぱりした様子のリーナの言葉に安心し、私たちは屋敷に入る。


「お帰りなさいませ。随分とお早い帰りですね? なにかございました――あっ、お客様っ!」


 ふわふわと漂いながらやって来たエステルだが、見慣れないリーナを見てハッと驚く。


「おー、本当にレイスがメイドしてるな。ソフィアの同僚のリーナだ。よろしくな!」


「は、はい。ソフィア様とルミナリエさんの身の回りのお世話をさせて頂いております、エステルと申します。よろしくお願いします」


 気持ちのいい挨拶をするリーナにつられて、ぺこりと返礼をするエステル。


「上がらせてもらうぜい」


「はい、どうぞ」


「おお、便利だな!」


 エステルがサイキックで手繰り寄せたスリッパに足を入れて喜ぶリーナ。


 エステルはそんなリーナをジーッと見つめている。


「どうかした?」


「いえ、私を見てもまったく恐れないので……」


 リーナの戸惑う気持ちもわかる。


 教会関係者はアンデッドに対する警戒心が比較的高い。


 それなのにリーナはエステルを見ても、まったく恐れた様子は見せないのだ。


 アークやランダン、セルビスは色々なアンデッドを見てきた経験があるし、いざとなれば討伐できるという余裕がある。


 しかし、リーナはそんな様子とは違った余裕というか、自然体のような姿だった。


「悪い奴なら倒す。良い奴なら浄化しない。それだけだ」


 そう、リーナはいつだってシンプルなのだ。


 彼女のこういうところはとても気持ちがいい。


「こういう友達だから気にせず接してね」


「はい! すぐにお茶のご用意をしますね!」


 リーナの気持ちはエステルにも伝わったらしく、清々しい笑みを浮かべた。







新作はじめました。


【魔物喰らいの冒険者】

https://ncode.syosetu.com/n7036id/


冒険者のルードが【状態異常無効化】スキルを駆使して、魔物を喰らって、スキルを手に入れて、強くなる物語です。


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[一言] 100話突破おめでとうございます。次は200話でしょうか。1000話でしょうか。楽しみがつきません。
[一言] エステルの命に関わるから、お客さんを呼ぶときについうっかりと事前に伝えるのを忘れそうになるのはやめてあげて! 必ず伝えてあげて。
[一言] 連投ありがとうございます!
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