表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第一話 その想いは、届かない

誰だって、誰にも言えない秘密を1つは持っているものです。

何でも話せると思っている仲が良い相手を目の前にしても、

人はいつしか自分の心に鍵をかける瞬間が来るものです。

でも、その理由は「拒否」だけではありません。

言いたくないのではなく、ある理由から「言えないこと」もあるのです。

 私には、大切な人がいる。私の身体にある無数の怪我を見てはいつも悲しそうにする早苗だ。小学生から中学生になった今でも大切に想っているのに、それでも、私は怪我の理由を彼女に伝えられずにいる。

「早苗、いつも心配してくれてありがとう」

 彼女がその傷に触れながら大丈夫かと口にする度私は精一杯微笑んで、話題を変えつつ彼女から一歩身を引く。最初は理由を尋ねていた彼女も、もう聞いてくることはなくなった。

――この傷は仕方がないの……、私、魔法少女だから

 そのたった一言を伝えられたら、どれほど心が楽になるだろう。でもきっと、今までの関係は崩れてしまう。彼女の心配そうな顔を見る度に胸が痛む。すべてを打ち明けたとき、彼女はどんな反応をするのだろう。考えると怖くなって、魔法なしでは何もできない私はいつも言葉をぐっと押し込むのだった。

 魔法少女への連絡は、決まって望んでいないときにくる。マナーモードの概念がない腕輪型の端末は、連絡が入ると授業中であっても電子音を鳴らす。体調不良以外の理由を考える時間すら惜しまれる緊迫感に、私の心臓が揺らされる。

「先生すみません! ……体調が悪くて」

 もはや定番になったセリフを口にしながら、笑いの中を一人抜け出して、生徒として教室の扉を開ける。開けてすぐ視界の端に捉えた仲間の姿を見て、私の心臓はいつも一段と強く鼓動を打つ。

――行こう。きっと生きて帰ろう

 私たちはいつもそう目配せしながら、魔法少女の矜持を持って、扉を閉める。扉を閉めるときに一瞬見える彼女はいつもどこか不機嫌そうで、嫌われるようなことをしてしまったのではと不安にかられることもしばしばあった。それでも次の日にはいつものように私の身体にある傷をそっと撫でてくれる彼女がいて、私はまた安心して彼女の隣を独占できた。

 いつぞやかに彼女がくれたミサンガのプレゼントを、私は授業中に横目で見た。左腕にあったミサンガの結び目を私は一人そっと解き、通学鞄へと結んだのだった。彼女がこれを私の左腕へと結んだとき、ひどく胸が痛んだのを覚えている。優しい彼女のことだから、きっと私がもう傷付かないようにと願いを込めてくれたんだろう。その優しさを、私は友だちとして受け取ってはいなかったのに。

 「次のニュースです。昨日起きた爆発事故について、いつも私たちの世界を救ってくれている魔法少女たちの活躍により、事故現場で暴れていた怪人を確保しました。現場は……」

 教師に隠れてイヤホンで聴くニュースで、私の傷がどくんと波打つ。

「……良くないよね、こんな気持ち」

 呟きながら、今朝彼女に撫でてもらった傷を一人でそっとなぞる。

――私、早苗に……

 その一言さえ、きっとずっと言えない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ