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1話『最初の朝』

目が覚めると、そこはかつて自分が暮らしていた家の自分の部屋の中だった。

布団から出ると、枕の近くに置いていたスマホに手を伸ばした。

画面を確認すると、着信が十二件来ていた。

少々驚いたが、この頃の自分にとっては、これが日常だったことを思い出した。


「そういや、こんな感じだったな…本当に、俺は過去に戻ったんだな…」


このあと起こることの全てを知っている人間からしたら、少し気が重くなるのだが、そうは言ってられない。


「とりあえず、支度して学校に行くとするか」


スマホの画面を見るとそこには、10月3日月曜日午前6時45分と出ていた。


「なるほどね、文化祭が終わった頃か、あの天使も分かってるな」


彼が、高校二年生の文化祭がきっかけで、ある少女との仲がかなり良くなったのだ。

そのせいで、ある頼み事をされてしまっており、現在少し頭を抱えていた。

しかも、その頼み事のせいで後々面倒なことになることを未来から来た彼は知っていた。


「本当にめんどくさい…」


朝から頭が痛くなった。

頭痛止めを鞄に入れたの確認すると、彼は部屋を後にした。




10月3日午前8時10分

中村敦は学校へと向かっていた。

彼の自宅から、学校までの距離は徒歩で5分程の距離だったので、自転車は使わず、歩いて学校に向かっていた。

学校に向かって歩いていると、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聴こえた。


「おはよう、中村!」


挨拶と同時に背中を軽く押された。

車が通っていなかったから良かったものの最悪の場合死んでいた。


「おはよう藤崎、お前、俺のこと殺すつもりかよ」


そう言って振り向くと、殺人未遂の現行犯、藤崎和馬は笑っていた。

相変わらずの天然パーマで少し安心したが、それとこれとは別ものだ。


「殺すつもりなんてねぇよ。ただ、車が通ってたらいいのになって思ってただけだ!」


「殺すつもり満々じゃねぇか!」


と朝から下らない会話を交わしているともう一人現れた。


「おはよう中村、藤崎」


「おはよう宮野」


声の方に視線を向けると、声の主の宮野翔平は少し不機嫌そうな顔をしていた。

宮野は、藤崎と違い、天然パーマではなく落ち着いた髪型をしていたが、所々残念な奴だった。


「聞いてくれよ、俺さ、前のテスト赤点取ったせいで、親に小遣い減らされたんだよ!」


そう、この男ははっきり言って馬鹿だったのだ。

俺たちのグループの男子の中で一番の馬鹿だった。

それだけなら、まだいいのだが、この男は学年の中でもかなり酷い点数を取っていた。

よく進級出来たものだ。


「当たり前だろ、むしろ赤点を取ったお前よりお前の親の方がかわいそうだろ」


「中村の意見が正しいこともあるもんだな」


横で藤崎が茶化してきたが、無視することにした。

こうして俺たちの朝の下らない会話は終わった。




10月3日午前8時24分

予鈴がなる一分前に、俺と藤崎は席に座っていた。

俺と藤崎はクラスが一緒だが、宮野は違っていた。

最初に言っておこう、この二人は俺の物語に深く関わることになる。


「なぁ、中村、クラスのグループトーク見たか?」


「見たよ、転校生が来るとかで騒いでるんだろ」


朝、起きてスマホを開くとラインの通知がかなりたまっていたことに少し驚いた。

内容は、今日クラスに転校生がやってくる。

それだけで、クラス中が大盛り上がりだった。


「どんな子かな、かわいい女子かな」


「もしかしたら、イケメン男子か、ブサイク女子かもな」


「それは、断る!」


藤崎は転校生が美少女であることを祈っていた。

俺は、この事に少し違和感を覚えていた。

こんな展開、五十年前にはなかったのだ。

天使が言っていた通り、展開は変わっているが、それにしては変わりすぎだ。

俺は、まだ何もしていないのに、ここまで変わるものなのか。

そんな風に考えていると、教室の扉が開き担任の先生が入ってきた。


「みんな、おはよう。今日は、内のクラスに転校生がやって来る。しかも、美少女だ。喜べ男子!」


「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


クラスの男子一同そう叫んでいた。

その中でも、藤崎の声が一番大きかったような気がしたが、考えるのは面倒なので、聞かなかったことにした。


「それじゃあ、入ってきてくれ」


「はい!」


そして、ゆっくりとゆっくりと転校生は教室の中へ入ってきた。


「初めまして!、私の名前は天海雫です!、これから宜しくお願いします」


そう言って天海は、深くお辞儀した。

そして、顔をあげると男子一同のテンションの高さは限界を突破していた。

騒ぐのもしょうがない、それほどまで、彼女は可愛かった。

艶やかな長い黒髪、桜色の綺麗な唇、雪のような白い肌、高校生とは思えない胸の大きさ等々。

男が喜ぶような要素を全て詰め込んでいたのだ。

これでは、騒ぐのもしょうがない。


「お前ら、騒ぐなよ。今から授業するんだから」


そう言って、担任の先生は、男子一同を鎮め、授業を開始した。





10月3日午後1時8分

授業も幾つか終わり、今は昼休みの最中だった。

昼休みになると、噂の転校生を見に来る他クラスの奴らがかなり押し寄せてきた。

そして、転校生の可愛さを確認すると、主に男子が騒いでいた。

噂の転校生は、今、クラスの男女数人と食事していた。


「天海さんと、食事出来るって羨ましいな、俺も行こうかな」


先程から、藤崎はこんな風に悩んでいた、

俺からしたら、行きたきゃ行けよと思っていたが、言うのが面倒だったので、放っておくことにした。


「天海雫か…」


どこかで見たことあるような気がしてならない。

一つの考えが浮かんだが、それはないのではと切り捨てようにも切り捨てるには勿体ない考えが彼の中で浮かんでいた。


「どうした中村?、何か様子が変だぞ」


「朝から変なお前には言われたくない」


「痛いところを突きやがって」


「いいから早く飯を食え」


そのまま昼食を済ませ、次の授業の準備をした。

その時の天海雫の視線の先には中村敦がいた。


「さて、どうなることやら」


天海雫の呟きは、誰も聞いてはいなかった。





10月3日午後5時35分

授業も全て終わり、部活も活動時間を終え、残すところは帰宅するだけとなった。


「この帰宅が一番疲れるんだよな…」


ため息をついていると、一人の少女が小走りでこちらに向かってきた。

待っていた人の内の一人だ。


「ごめん!、待った?」


「全然待ってない、他の二人は?」


「二人ともまだ、部活だってさ、そっちは?」


「宮野と藤崎、両方とも部活だな」


「先に二人で帰ろっか」


「そうだな」


そうして、俺は神代優奈と一緒に帰ることにした。

この少女が、俺の人生の消せない後悔の原因でもあり、忘れられない女の子でもあるのだ。

至って普通の少女だ。

黒髪のセミロングで、眼鏡をかけており、顔立ちは普通の女子よりかは整っている。

ただ、それだけの少女だった。

それだけなのに、俺はいまだにコイツのことを忘れられないのだ。

忘れないといけないのに。

そんなことを思っていることを露知らず、神代は俺に話しかけてきた。


「ねぇねぇ、何で昨日の電話出てくれなかったの?」


「寝てたからに決まってるだろ!、ってかあんな時間にかけてくる馬鹿がどこにいるんだよ!」


着信履歴を見たら、午前1時頃だった。

そんな時間、寝ているに決まっている。


「しょうがないじゃん!、聞きたいなって思ったことがあったんだから!」


「ラインしろよ!」


「どうせ、寝てたんだから一緒でしょ!、本当に中村はアホだねぇ~」


少し苛ついたので、神代が一番気にしている所を突くことにした。


「そんなんだから、まな板のままなんだよ。早く寝ないから栄養がいかずに育たないんだよ!」


「胸のことを言うな!」


「誰も、胸のことだって、言ってねぇよ馬鹿!」


そんなこんなで、不毛な言い争いをして、今日は帰路についた。

別れ際、「今日は起きといてよ」と言われてしまい、少し頭が痛くなった。




10月3日午後8時34分

風呂から上がり、部屋に戻ると、自分の勉強机に妙な箱が置いてあった。

小さめの箱を開けると、中には一つの時計が入っていた。


「何だこれ?」


見たところ、一度も使われていない新品だった。

だが、メーカーは分からず、親からのプレゼントかどうかも分からなかった。

後日、親に聞いてみた所、親のプレゼントではなかった。

気味が悪くなったが、それを差し引いても使ってみたいと思った。

時計のデザインは悪くはなく、むしろ自分の好みドンピシャだった。

それが、理由で時計を腕にはめた。

内の高校の校則を思い出していると、それは目に留まった。


「12って何の数字だ?」


その数字は、時計の中に刻まれており、針が触れる所とは別のとこにあった。


「まぁ、いいや」


神代からの電話に備えるべく、少しだけ眠った。






10月4日午前8時3分

今日は、普段より少し早めに家を出ることにした。

今日は、母が体調を崩してしまい、朝と昼は用意してもらえなかったので、渋々コンビニに向かっていた。

コンビニから出て、学校に向かっていると、神代が声をかけてきた。


「おはよう中村!、珍しいね、こんな時間に会うなんて」


「おはよう神代、確かに珍しいな」


「昨日は、夜遅くまでありがとう。おかげで少しスッキリしたよ」


「なら、良かったよ」


朝から、穏やかな会話をしていると、それは急に襲いかかってきた。


「あ、危ない!」


誰かからの声が聞こえ、振り返ってみると、そこには、トラックの姿があった。

車道ではなく、歩道にトラックが乗り上げていた。

急いで避けた。

間一髪、俺は避けることが出来た。

だが、俺が考えた可能性の中でも、最悪のものがそこにはあった。

神代優奈は、避けることが出来ず、トラックに直撃していた。

急いで、神代の所へ向かった。


「おい!、神代!、無事か!?」


こんなことは聞かなくても分かる。

神代の身体に目立った損傷はないが、後頭部を強く打っており、そこから大量の血が流れていた。


「う、嘘だろ…お、俺はこんなこと…望んでない…」


二度目の人生、天使はこう言っていた。

俺が動いたことによって、生じる結果は全ていいものである訳ではないということを。


「だ、だからってこれは…あ、あんまりだろ…」


そして、俺は知ることになる。

この二度目の人生は、一度目の人生より、遥かに難しくなっていることを。


「やっぱり、こうなったか」


後ろでこの光景を見ていた人影は静かに笑っていた。

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